96話 レギオンのダンジョン2階層
「デール避けろ!」
「え? ごぉほぉ!」
警告が間に合わず、上空から急降下してきたジャイアントバットにデールが吹っ飛ばされて転がる。
「キール下がれ! 無理をするな」
「おでやれる。がはっ、げぇ」
アースウォームの体を振ったなぎ払いが重量級のキールをぶっ飛ばす。
キールは盾で防いでいたみたいだったが、攻撃を完全に受け止める事ができなったようでHPがガッツリ減っていた。
もし、あれを俺が食らったら?
キールの減ったHPの量を確認すると額から冷たい汗が出る。
魔物が強い。
ここはレギオンのダンジョンの2階層である。
現在は入り口付近で戦闘中だ。
ここはレベル40までの魔物まで出現する。
入り口付近のため、出現した魔物のレベルの高さはそれ程ではなかったのだが……
それなのに、いきなり強くなった。
ジャイアントバッド
レベル20
HP180
MP0
力80
魔力0
体力150
速さ120
命中120
スリースネークヘッド
レベル21
HP120
MP0
力80
魔力0
体力100
速さ180
命中150
アースウォーム
レベル23
HP250
MP0
力220
魔力0
体力200
速さ50
命中80
魔物は人間とは違い限界がない。
人間は才能のある特殊な人達を除けば、ステータスが200~300前後で頭打ちになるそうだが、魔物はレベルの上昇と比例してそのままステータスは高くなる。
だから、戦う魔物のレベルが高くなればその差は顕著になって行くのだ。
アースウォームのパワーにキールが盾ごと吹き飛ばされた。
ジャイアントバッドとスリースネイクヘッドの速さにデールがついていけてない。
かなり厳しい戦いだ。
激戦のためぜえぜえと荒い呼吸をしていると、セレナがおろおろとしながらこちらを見ていた。
「たっつん、助けた方がいいのぅ?」
俺と目が合うと心配そうな顔で聞いてくる。
だが、ここは助けて貰ってはいけない所だ。
自分達の力だけで乗り越えていかないといけない壁なんだ。
はは、本当は1人で戦えるようにしないといけないんだけどな。
顔を歪めて唇を噛むと黙って首を横に振る。
負んぶに抱っこではいつまでも強くなれない。
自分でできそうな事くらいはやれるようにしておくんだ。
「デール! キール! 踏ん張れ」
「はい! 師匠」
「うがー! おで、まげない」
デールとキールを叱咤するとチップをちらりと見る。
デールとキールの苦戦を他所に、チップだけはパリングダガーで華麗にスリースネークヘッドの攻撃を受け流して飄々(ひょうひょう)と戦っていた。
チップにはデールやキールのような爆発的な力は無いが速さがある。
受けによる防御と回避に特化したスタイルだから攻撃を受けないんだ。
作戦変更だな。
力に対して力で対抗するのではなく、速さで対抗する。
そして、速さには技で対抗して速さを奪った後、力で制圧する。
デールをぶっ飛ばした後、縦横無尽に上空を飛び回っていたジャイアントバッドをタイミングを見計らって羽を撃ち抜いて落とす。
キールが相手をしていたアースウォームに接近すると、胸元から取り出した投げナイフを力いっぱい投げつける。
そして、アースウォームとの速さの差を活かしてすぐに後方へ距離を取る。
デールとキールの穴を必死に埋める。
「チップ、そいつは俺がなんとかする。チップはキールと交代してアースウォームの相手をしてくれ」
「わかりました、お師匠様」
チップに攻撃していたスリースネークヘッドにボウガンを向ける。
スリースネークヘッドは機敏に動き回るが俺はなんとかその動きを捉えていた。
3つの頭をすべて矢で射抜いてやると動かなくなる。
スリースネークヘッドを倒すと、チップがキールと入れ代わるようにアースウォームの注意をひき始めた。
「キール! ジャイアントバットを頼む」
「わがっだ」
「デールもキールとタッグを組んで戦え」
「はい、師匠」
キールにはパワー負けしないジャイアントバットの相手をして貰う。
羽をもがれて地面に落ちているから速度負けはしないだろう。
キールが力任せにジャイアントバッドを盾で押さえつけると、そこにデールがすぐに加勢する。
デールは動きの止まったジャイアントバッドを何度も斬りつけていた。
それを横目にして、チップが相手をしていたアースウォームに火炎瓶を投げつける。
1匹相手に使っていたらすぐに無くなってしまうが仕方が無い。
アースウォームは火達磨になって暴れまわっていた。
その間にすばやく接近する。
盾を構えると、手首を曲げて手裏剣を取り出しやすくする。
「いくぞ! オラオラオラオラおらあ!」
5mほど離れて反撃されない距離を保つと、次々と手裏剣を取り出しては連続して投げつける。
ドス! ドス! ドス! ドス! ドス!
大きい的に面白いように手裏剣が突き刺さると、紫色の血飛沫を撒き散らしながらアースウォームはどんどんと弱って行く。
アウトレンジから一方的に攻撃される恐怖を味わうがいい!
アースウォームが瀕死の状態になるとすかさずチップが接近して斬りつける。
チップが2~3回斬るとアースウォームが静かになった。
よし、デールとキールは?
デールとキールのコンビを確認すると最後の一撃を加える所だった。
デールに斬られたジャイアントバットが動かなくなる。
これで全部か?
HPが残った魔物がいないか確認をすると、すべての魔物のHPは0になっていた。
何とかなったかと、激戦を制してほっと安堵した。
「師匠! あのスリースネイクヘッドの動きが見えるんですか?」
「うん? ああ」
戦闘が終わるとデールが大きな声で聞いてきた。
「私も速すぎてあまり見えませんでした。矢で頭を射抜くなんて、凄すぎですよ」
チップが尊敬するような眼差しを向けて言ってきた。
敬ってくれるのはいいのだがあんまり過大評価をしないでね。
俺も限界ぎりぎりなんだから。
ソーンを使い傷の回復をする。
HPの減りが大きかったキールには特効薬を使った。
チップは無傷だと思っていたのだが、どうやらスリースネークヘッドの攻撃を受けていたらしい。
命中と速度が高いやつの攻撃は避けるのが困難だからな。
スリースネークヘッドはキールに盾になってもらった方がいいかもしれん。
無傷とはいかないだろうがその間に俺が矢を射って仕留めればいいからな。
そして、その間のアースウォームはチップが注意を引くといった感じか?
だけど、それだとアースウォームは攻撃力が高いから、1発でも攻撃を受けるとチップの防御では危険だ。
あっちを立たせばこっちが立たずか。
とは言え、強い魔物を倒さないとレベルは上がらないからしょうがない。
ソーンの消費も激しいんだよな。
あと1~2戦はできるか?
こんな事なら、もっとソーンを持ってくれば良かった。
甘えてきたセレナの頭を撫でながら、地べたに座り込んで体を休めている3人の弟子の顔を見る。
気丈に振舞ってはいるがかなり辛そうだ。
ソーンの消費量からわかるように、それだけの戦いをしているのだからな。
すまねえ。
俺だって普通ならこんな強引なレべリングはしないんだ。
だが、もう時間が無いんだよ。
今日はセレナがいるから許してくれ。
最悪の時は……たとえこの身と銃が失われても俺が何とかするから。
目を閉じて心に誓う。
HPが回復したら戦闘を再開しよう。




