94話 セレナ先生
レギオンのダンジョンに着くと、早速弟子達にセレナを紹介する。
セレナは疾風のセレナと呼ばれて有名らしいからな。
きっと驚くだろう。
ニマニマしながら弟子達3人の顔を見ると、みんな緊張しているのかお互いの顔を見ておろおろしていた。
チップなどは目を白黒とさせている。
「あの、僕はデールと言います。セレナ先生よろしくお願いします」
まずはリーダーのデールが先頭をきってセレナに挨拶をしていた。
「デールぅ? じゃあ、デールンだね。良い子、良い子」
「え? その名前の呼び方は、あの、何とかならないのでしょうか?」
デールはデールンと呼ばれるのが嫌なようだ。
しかし、セレナはニコニコした笑顔で無言のままデールの頭を撫で続けている。
「あの……はい、わかりました」
どうやら、デールはセレナの無言の圧力に屈したようだ。
すまんなデール。
セレナは子供なんだよ。
「おで、キール。ゼレナぜんぜいよろじぐ」
「キールぅ? じゃあ、きっくんだね。良い子、良い子」
「おで、うれじい」
キールはきっくんと呼ばれて嬉しいみたいだ。
セレナの方はキールの頭を嬉しそうに撫でている。
きっとお姉さんぶりたいんだろうな。
まったく、可愛いもんだよ。
「あの、わ、私はチップと言います。疾風のセレナさんのファ、ファンなんです。戦場を疾風のごとくかけ、駆け抜ける戦闘スタイルに憧れて、その、尊敬しています」
チップはガチガチに緊張しているようで、言葉をつっかえながら必死な顔でセレナに話しかけていた。
いつも沈着冷静なチップが珍しい。
「チップぅ? じゃあ、ちーちゃんだね。良い子、良い子」
「あ、あのその、あわわ」
ファンだと言われたセレナは、いつもと変わらずニコニコしながらチップの頭を撫でていた。
だがあれは、ただチップの言っていたことを理解できていないだけだろう。
チップの方はセレナに頭を撫でられて目がきょろきょろとせわしなく動いている。
そうとう緊張しているみたいだけどセレナは気さくな性格だから大丈夫だぞ。
「オホン、弟子集合! 今日はセレナ先生が来てくれたので、予定を変更して高レベルの魔物と効率良く戦闘しようと思います」
「わかりました!」
うむ、いい返事だ。
3人とも気合が入っているようだな。
そういえばレベルが上がったんだ。
日坂部達也 年齢18
冒険者レベル14→15
HP75→80
MP0
力65→70
魔力0
体力65→70
速さ70→75
命中140→150
装備
ベレッタMODEL92(攻撃力100)9mm×19mmブラックタロン(ホローポイント弾)×15発
2連装ボウガン(攻撃力60×2)
矢筒 鉄の矢×50(攻撃力20)
ロングソード(攻撃力10)
ナイフ(解体用)
革のラウンドシールド改(防御力30+10)手裏剣(攻撃力20×10)
革の鎧改(防御力40+15)投げナイフ(攻撃力50×3)
ポシェット 火炎瓶×3 ソーン(最高品質)×10 特効薬(最高品質)×5 毒消し×5
ジッポライター
まきびし
リュック
お金
1058220エル
アイテム
皮のマント 弦(予備) コッキング紐 水筒大(お茶) 調味料(塩 ポン酢 バター ニンニク 昆布)
素材(白菜 ニンジン しらたき 椎茸) レジャーシート 食器類×5 火炎瓶×7 小型ハンマー(採取用) なめし皮の風呂敷
在庫
真珠×20 革のヘルメットランプ(防御力10) ナイフ(採取用) 矢筒(木の矢×3 鉄の矢尻の矢×40)
POINT 0
GUNBOX
BENELLI MODEL 3(攻撃力50×15)12GAUGE(00バックショット)×7
HK417D(攻撃力600)7.62mm×51mm(フルメタルジャケット弾)×20
ダネルMGL(攻撃力500)40mm×46mm(HE弾)×6
9mm×19mmブラックタロン(ホローポイント弾)×20発
12GAUGE(ライフルドスラグ)×7
12GAUGE(BBバードショット)×4
12GAUGE(00バックショット)×4
7.62mm×51mm(フルメタルジャケット弾)×14
40mm×46mm(HEDP弾)×6
M67 FRAGMENTATION GRENADE(攻撃力1000)×3
M84 STUN GRENADE×2
VICTORINOX SOLDIER(アーミーナイフ)
NIGHT VISION ATN PS15-3I FOM 1400(暗視ゴーグル)
NEW EQUIP
ダネルMGL
40mm×46mm(HE弾)
40mm×46mm(HEDP弾)
ついに新装備のグレネードランチャーが手に入った。
初期に貰える弾は6発でポイントによる交換は3発だった。
グレネードランチャーについてだが、要は弾の中に手榴弾が入っていると考えてくれればいい。
任意の場所にピンポイントで撃ち込む事ができて着弾と同時に爆発する。
使い勝手の良さは手榴弾とは比較にならないだろう。
ただ、火薬が32g程とM67手榴弾の半分くらいのため威力は低い。
まあ、40mmだから仕方がない。
ポイントでスラグ弾を6発、さらにHEDP弾という40mmの成型炸薬弾を2ポイント使って6発交換した。
HEDP弾とはRPG7などに使われる弾頭の超小型版と考えればいい。
弾頭の威力は50mmの鉄板を打ち抜く事ができるくらいだ。
ちなみに、ベレッタだと2mm程度なので硬い魔物が出てきた時に役に立つだろう。
それにしてもポイントがぎりぎりだ。
少しは温存しておきたいんだが、ありとあらゆる状況に対応できるようにしておきたいんだよね。
戦っている最中にポイントで弾を交換するなんて状況は御免だからな。
次は道具の方だ。
調味料やら食材などのピクニック用品を持ってきた。
持ってきた食材から何をしに来たのかと頭を疑うレベルだろう。
ふへへへ。
今日はセレナがいるので2階層でも戦ってみようと思っている。
レベル40まで出現するらしいからちょっと危険かもしれないけどな。
まあ、入り口付近なら問題ないだろう。
冒険者達の話しでは、下の階層にいる魔物はなぜか上の階層に上がってこないそうなんだよね。
でも、モンスターパニックなどの例外もあるそうなので過信は禁物なんだが。
いきなり2階層に行くのは危険なので1階層である程度レベルを上げてからにする。
セレナがいるのでリスクに対してかなりのマージンが取れるのでがんがん行きたい。
今日は一気にレベルが上がるだろう。
そして、現在は大部屋に向かって移動している最中だ。
今まではロブスタークラブが2匹以上いると、キールしか倒せないから戦闘は避けていたんだよね。
だけど、今日はセレナがいるから間引いてもらうのだ。
「セレナ、ロブスタークラブって魔物が居るんだけど、あれを倒せるか?」
「ろぶすたーくらぶぅ? 斬れるよぉ」
念のために倒せるか聞いてみたが問題ないとの事だった。
あの硬い甲羅を剣で斬れる?
相変わらずとんでもねえな。
ダンジョンをずんずん進んでいく。
すれ違った冒険者達はセレナの姿を見ると驚いていたようだった。
う~ん、やっぱり人気者なんだな。
まあ、可愛いからな。
セレナの様子を確認すると俺達と一緒で楽しいみたいだ。
道中はずっとニコニコした笑顔のままで、きっくん、きっくんと、笑いながらキールの頭をバシバシ叩いていた。
まあ、叩かれてるキールも嬉しそうだからいいか。
途中に雑魚の魔物が出現する。
こいつらと戦っても経験値は貰えないんだよね。
しかも、消耗までするので踏んだり蹴ったりだ。
さてと。
任侠映画を思い出して目を細める。
ここは、センセイにお願いしやしょう。
「センセイ、お願いしやす」
30度の角度で頭を下げてセレナに魔物の処理を頼む。
「うむ、セレナにまかせるの」
セレナはコクリと頷く。
どうやら、セレナの方ものりのりである。
セレナが疾風の如く飛び出すと、何でも無い事のようにばっさばっさと斬り伏せていた。
セレナの戦い方は真っ直ぐ行って斬るだけだ。
だが、これがどれだけ凄い事かわかるだろうか?
避けるという動作が間に無いのだ。
自分が攻撃するタイミングで移動して斬るだけ。
圧倒的な速度差があると、こんな間の抜けたような戦いになってしまうんだ。
「お師匠様! セレナ先生がすごいです! ほんとにすごい!」
チップが絶叫するように叫んでいた。
興奮しているのか何度も俺の服をひっぱってくる。
「わかった。わかったから、落ち着け」
普段のチップは年齢の割りに大人びていて無口でクールだ。
デールとキールが歳相応の子供なため、自分がしっかりしないといけないと無理をしているんじゃないかと心配していたんだ。
だから、歳相応にはしゃいでいる姿を見るとなんだか安心する。
これが素のチップなんだろうな。
大部屋までの道程はエンカウントした魔物はセレナがすべて殲滅していた。
何も言わないと、このままセレナがすべて倒してしまいそうだ。
これでは俺達のレベル上げができない。
ロブスタークラブとレベルが14以下の魔物だけ処理をお願いする。
ただ、キールのレベル上げ用に1匹だけはロブスタークラブを残してもらった。
大部屋に到着すると本格的に戦闘を始める。
俺とチップのレベルが15と低かったのでフライングスネークを集中して2人で倒す。
レベルの高いデールはライジングホース、キールにはロブスタークラブといった割り振りだ。
今日はセレナが居るから無茶をするぞ。
限界ぎりぎりまで攻める。
「ぜえぜえ。よし、次に行くぞ」
「お師匠様、少し休憩しては?」
「駄目だ。今日はセレナが居るから無茶ができる。レベルを一気に上げるぞ」
いざとなればセレナが何とかしてくれるため、今日は普段なら絶対に踏み込まない領域の戦い方を試していた。
攻撃のサイクルに時間の掛かるボウガンの使用は控えて、前衛として積極的に前に出て投げナイフ主体で戦う戦術。
ゆうなればフロントミッションだな。
おかげで投げナイフと手裏剣はフル稼働でボロボロだ。
レベルは異常な速度で上昇していた。
親父やナタリアさんに聞いていたレベルアップのペースを考慮すれば、あきらかにおかしかっただろう。
当然ながら、戦闘ペースも回数もあきらかに狂っていた。
あまりの激戦の連続のためか、弟子達はどうしてここまでするのかと言わんばかりの顔で俺のことを何度も見ていた。
しかし、口にはせず最後まで黙って指示に従ってくれる。
ありがとうな……だが、すまん。
俺には時間が無いんだよ。
セレナが雑魚を間引いてくれて、かなりの効率で戦う事ができたのは大きかった。
しかし、自分の戦う魔物だけは自分の力で倒した。
これだけは譲れないからな。
さらにレベルが上がると、俺とチップの攻撃対象がライジングホースに変わる。
デールとキールはこれ以上のレベルアップはここでは見込めないため、セレナと一緒にサポートに回ってもらった。
高レベルになる程レベル上昇に必要な経験値の割合が増えるので、倒す必要のある魔物の数が増えて行くので辛い。
それでも根気強くライジングホースを倒し続けると、ついに俺のレベルが18になる。
キール以外はロブスタークラブは倒せないので1階層での探索はこれにて終了だ。
腹時計の具合から、どうやらお昼を大分すぎてしまっているようである。
セレナもお腹すいたと、ぶーぶー文句を言い始めていた。
まあ、きりもいいしそろそろお昼にしよう。
食器も食材の準備も万端である。
これは料理をするしかないよね?




