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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第二章 デスゲーム開始
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92話 名誉の負傷?

 「あいたたた」


 最後にとんでもない伏兵がいやがった。


 転がった時にプスプスと腕や足にも刺さってしまったまきびしを抜くと、ソーンを使って回復させる。

 せっかく無傷の勝利だったのに服も血まみれになってしまった。


 まったく誰だよ?

 こんな所にまきびしを蒔いたのは? 

 俺だよ。

 しくしく。


 1人ボケ1人突っ込みをして落ち込んだ気持ちをリフレッシュさせる。

 そんな事をしているとチップが大部屋に飛び込んできた。


 「お師匠様! なっ!? これは一体……」


 あれ? なんでチップがここに戻ってくるんだ?


 「どうしてチップがここにいるんだ? デール達はどうした?」


 「あ、あの2人組みの冒険者が……わ、沸いていた魔物を倒してくれたんです。なので、すぐに辿り着きました。ですから、私だけ急いで戻ってきたんですが……」


 チップがばらばらになっている魔物達に視線を彷徨わせながら、しどろもどろに答えていた。


 「はっ!? お師匠様血まみれではありませんか? 早く傷の手当を!」


 「え? ああ、もうソーンは使ったから大丈夫だ」


 「そうですか……激戦だったのですね」


 血まみれの俺の姿を見てチップが勘違いをしたようだ。


 これは違うんだけどね。

 ははは。


 「それよりお師匠様、この状況の説明をして下さい。いったい何があったんですか?」


 「あ~いや、え~と……ほら、あれだ。他の冒険者の人が来て助けてくれたんだよ」


 今度は俺がしどろもどろしながら適当に答える。


 「その冒険者の人は何処に行ったのですか? 一本道なのに私は遭いませんでしたけど?」


 「へ? ああ、こっちに来て助けてくれた後に、また戻って行ったんだよ」


 「わざわざ助けに来てくれたうえに、戦利品の回収もせずにですか?」


 俺の苦しい言い訳にチップが疑わしい目をして追求してくる。

 チップに誤魔化しは通用しないみたいだ。


 どうしよう? さすがに銃器の事を説明するわけにもいかない。

 はっきりいって、困ったぞ。


 「こんな短時間に殲滅して、その冒険者達の影も形も見えないのはおかしいですよね?」


 息がかかりそうな距離まで顔を近づけてくると、じっと俺の目を見つめてきた。


 どうやら理由を話してくれるのを待っているようなのだが、俺は頭を搔いて笑って誤魔化す事しかできない。


 「そうですか、何か話せない理由があるのですね。わかりました、これ以上は聞きません」


 笑って誤魔化していると、チップが察してくれたのか追求を止めてくれた。

 ただ、何か、がっかりしたような寂しそうな顔をしていた。


 「まあ、あれだ。デール達も待ってるだろうから、矢とまきびしを回収して戻ろう」


 「はい、お師匠様」


 お互いに黙ったままチップと装備の回収をする。

 装備を回収している間、チップがこちらをちらちらと寂しそうな顔で見ていた。


 そんな顔するなよ。

 すまん、チップの事を信頼していないわけじゃないんだ。

 話せないんだ。


 いたたまれない気持ちを抱きながら装備を回収した。



 装備の回収を終えると待っていたデール達と合流する。


 「おじじょうざま~」


 俺の姿を見つけるとキールが泣きながら抱きついてきた。


 止めろ! 野郎に抱きつかれる趣味は無い!

 て言うか苦じい~死ぬ!


 しばらくすると、やっと解放してくれる。


 「おで! おで! たすげにいごうと思った。でも、おで足遅い。足でまどいになるがら、だがら」


 キールが必死な顔で訴えてくる。

 その真摯な表情と必死な様子から本当に心配していた事が伝わってきた。


 今では完全に情が移ってしまっている。

 こいつらを助けるためなら命を懸けても惜しくは無いだろう。


 「わかっている。秘氷のダンジョンでデールとチップを助けに突っ込んで行った事を知っているからな。お前が仲間想いだと言う事は知っているさ」


 そうさとして、まだ泣きじゃくっているキールの頭を撫でる。


 「おじじょうざまあ! うあぁああああ」


 頭を撫でられたキールはさらに大きな声を出して泣き始めた。


 体格はいいがキールはまだ12歳の子供だからな。


 「師匠! 体中血まみれになって……激戦だったのですね?」


 キールの頭を撫でていると、今まで静かだったデールが目をキラキラとさせて話し掛けてきた。

 そう、それは、まるで英雄を見るかのような眼差しだ。


 「え? あ、いや……そうでもないかな、と言うか何と言うか」


 デールの勘違いにしどろもどろしてしまう。


 「謙遜しないで下さい! 名誉の負傷なのですから」


 「う~ん、どちらかと言うと不名誉?」


 デールがキラキラとした目で見つめてくる。


 「いや、そうだな激戦だった」


 俺はキリッ! とした鋭い目をすると渋い声で答えた。


 デールの夢は壊さないでおこう。

 そう心に決める俺だった。

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