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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第二章 デスゲーム開始
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89話 手間は惜しむな

 あれから、何戦もして魔物を倒した。


 火炎瓶を効率的に運用したおかげか、俺達のレベルは順調に上がっていた。

 これなら、もう少し魔物が強くても対応できるだろう。


 俺達はダンジョンの奥へと挑戦する事にした。



 体感で1~2kmは歩いただろうか?

 長い直線の1本道の通路をひたすら歩いて行くと、100m四方はあるだろう小さい部屋の入り口が見えて来る。

 その小部屋は大部屋と呼ばれる危険な場所へと続いていた。

 

 当初はそこから大量の魔物が溢れ出てきて、何人もの冒険者が命を落としたのである。


 もしも、小部屋で戦っている最中に大部屋から増援で大量の魔物が来たら恐らくは対処できない。

 背後は1~2kmは続いている長い直線の一本道なので、逃げる事すら困難を極めるだろう。


 ゴクリと咽を鳴らす。


 討伐が始まってからかなり時間が経っているんだ。

 たぶん、大丈夫だろうけど。


 意を決すると、大部屋への中継ポイントである小部屋へと進んで行った。


 そこには、数は多くないがそこそこの強さの魔物達が待っていた。

 いつものように、身軽なチップが偵察してその数を教えてくれる。


 クレイジーラットが16匹、フライングスネイクが4匹、ライジングホースが1匹だ。


 クレイジーラット

 レベル10

 HP40

 MP0

 力30

 魔力0

 体力50

 速さ50

 命中80


 フライングスネイク

 レベル15

 HP60

 MP0

 力40

 魔力0

 体力40

 速さ100

 命中120


 ライジングホース

 レベル17

 HP120

 MP0

 力100

 魔力0

 体力150

 速さ120

 命中50


 恐らくは、少し前に誰かが通った後だったのだろう。

 魔物の戦力は予想していたよりも少なかった。


 この程度の戦力ならまきびしは使わなくていい。

 あれは、ばらまいた後に拾うのが面倒なんだよね。


 それに、ライジングホースの足は鉄で出来ているらしいから、まきびしは効果が見込めないだろうからな。


 「お師匠様、火炎瓶は使いますか?」


 チップがいつものように聞いてくる。

 火炎瓶を使う時はチップが魔物を上手く誘導してまとめてくれるのだ。


 う~んと考えながらデールとキールのコンディションを確認する。


 デールとキールの2人は、入り口の壁に身を隠して興味深そうに魔物の姿を確認しているようだった。


 あの様子なら問題無さそうだな。


 「あと1本しかないから使わずに倒したい。この後には大部屋が控えているからな」


 「了解しました」


 チップは答えると、戦闘準備のため身を隠して配置に着いていた。


 入り口の壁から魔物を覗いてみる。


 フライングスネイクかあ。

 こいつは毒を持っているんだよな。


 フライングスネイクは太さは5cmくらいで長さが1mくらいの小さい蛇だ。

 力と体力は低いが速度の数値と命中が高い嫌な敵で、とぐろを巻いてバネ仕掛けの人形のように飛んでくるらしいので注意が必要だ。


 毒を持っているから遠距離武器のある俺が倒した方が安全だろう。

 速度の低いデールやキールは下がらせた方が無難かな?


 ライジングホースの方も見る。


 ライジングホースは全長3mくらいある少し大きな馬だ。

 その大きな体格の所為で小回りはあまり利かないらしい。


 しかし、力、体力、速度、すべてそろっている手堅い魔物だから少々怖い。

 最初にレッグスナイプで足を潰してしまうのが得策だろう。


 作戦が決まると戦闘を開始した。



 まずはライジングホースに先制攻撃を仕掛ける。

 先制攻撃のレッグスナイプが見事に決まると、ライジングホースは大きな嘶きと同時に前足を振り上げて派手に横転していた。


 ライジングホースも運が悪い。

 俺が新しい力に目覚めてしまった時に出会ってしまったのだからな。

 出落ちで悪いがあきらめてもらおう。


 「くっくっく」


 俺は悪の腹心のような邪悪な含み笑いをして悦に浸る。


 ふと視線を感じてちらりと横目で盗み見ると、チップが訝しげな視線を俺に向けていた。

 咳払いをして誤魔化すとフライングスネークに攻撃する。


 ただでさえ小さいのに、にょろにょろと素早く動き回っているため遠距離で当てるのは難しい。

 当然のように矢はまったく当たる気配を見せなかった。


 こいつは無理だ。

 作戦を変更して近距離まで引きつけてから確実に仕留めよう。


 フライングスネイクは毒をもっているため、いつものようにキールに攻撃が集中するのは危険である。

 3人には少し間隔を開けて隊列を組ませて、1人に攻撃が集中しないように誘導、分散させて各個撃破する戦術をとる。


 フライングスネークが近くまで来ると1匹はチップに向かった。

 そして、なぜか残りの3匹は一斉にキールに向かって行った。


 「しまった。キール! 下がれ」


 慌ててキールに指示を出す。


 キールがドスドスと下がるが足の遅いキールでは退避が間に合わない。

 デールが走ってキールの援護に向かっていた。


 判断を誤った……

 3人に分散すると思ったのに。


 くっ、責務から逃げるな。

 すべて指示を出した俺の所為だ。

 現状を受け入れろ。


 リーダーは戦況を鑑みて適切な指示を出さなけばいけない。

 だけど、何度も指示を出していれば、どうしても判断ミスによる失敗が発生してしまう。

 そして、その自分の判断ミスで大切な仲間が窮地に陥ってしまうと、申し訳なさで居た堪れない気持ちになってしまう。

 だが、それでも逃げ出さずに踏み止まって指示を出さなければいけないんだ。


 ええい、反省は後だ。

 今は現状を何とかする。


 フライングスネークは、攻撃する瞬間にジャンプしてキールに飛びつくだろう。

 回避不能な空中で射落としてみせる。


 次の矢を装填している時間は無い。

 確実に当てる。


 精神を集中させると、キールに飛び掛かったフライングスネークを射る。

 フライングスネーク2匹を空中で矢継ぎ早に串刺しにすることに成功した。


 だが、飛び掛ったフライングスネークは3匹で矢は2本しかない。

 2匹は落とすが3の矢は無かった。


 残り1匹がキールに飛びかかった。


 隣に居たデールはまったく反応できず、キールは必死に盾で防ごうとしていたが顔を噛まれていた。


 「うがあああ」


 キールの悲鳴が上がる。


 キールが悲鳴を上げてその場に倒れると、顔を青白くして悶えていた。

 どうやら、毒状態になってしまったようだ。


 「キール!」


 俺は叫ぶと、キールを襲ったフライングスネークを睨みつける。


 俺の判断ミスの所為で……


 込み上げてくる怒りを込めて力いっぱいナイフを投げつける。

 ナイフはフライングスネークを見事に両断したが、まだ瀕死状態でにょろにょろとしぶとくうごめいていた。

 デールがすかさず斬りつけて止めを刺す。


 倒れたキールが体を丸めて苦しそうに唸っていた。

 そこに、間髪射れずに戦場に到着したクレイジーラットの集団が殺到する。


 「うがぁああああ!」


 キールが顔や腕を齧られて悲鳴を上げて転げ回る。


 それを見たデールが完全に切れた。


 「うわあああ! イグニッション!」


 デールが叫び声を上げながら力任せに斬りつけまくる。

 1匹、2匹、3匹と上半身を両断されたクレイジーラットが、次々と吹っ飛ばされるように転がっていた。


 だが、それでも間に合わない。

 クレイジーラットが狂ったように次から次へとキールに群がる。


 「キール!」


 叫んで、キールを助けに飛び出しそうになるのを必死に抑える。


 キールを助けに飛び込もうにも、あれだけの数の攻撃にさらされれば俺が死んでしまうだけだ。

 ぐっと踏み止まる。


 まきびしを回収する手間を惜しまなければ……


 後悔の念に潰されそうになる。


 くそっ! 反省は後なんだよ。


 焦りながらもチップに視線を向けると、フライングスネークと対峙しながらクレイジーラットまで挑発して自分に攻撃を向けさせていた。

 どうやら、この状況でもチップだけは冷静なようだ。


 チップの方がしっかりしている。

 落ち着け、俺も冷静に物事を判断するんだ。


 どうする?

 順番は?


 混乱する思考を何とか整理する。


 火炎瓶はキールまで巻き込んでしまうから駄目だ。

 矢を装填している時間は無い。


 まずは、投げナイフや手裏剣を使って数を減らして、タイミングを見計らって飛び込んだら俺がキールの盾になるべきだ。

 そして、残りはデールに任せて毒消しをキールに飲ませる。


 簡潔に行動方針を決めると、すぐに行動を開始する。


 素早くキールとの距離を詰めると、クレイジーラットにナイフを投げつけて数を減らす。

 すぐにでも飛び込んで助けたい気持ちに駆られるも、タイミングを見計らって踏み止まる。


 まだだ、焦るな……むやみに突撃したら死んでしまう。

 あと1匹……あと1匹減ったら突っ込む。


 デールがクレイジーラットを斬り飛ばすと同時に突貫した。


 残りはデールに任せる。


 クレイジーラットの噛み付きや体当たりを受けるが強引にキールの傍に駆け寄る。


 「キール! 大丈夫か?」


 「ぐぅうう。お、おで、ぐるじぃ」


 「今助ける。もう少しだけ我慢してくれ」


 盾で払いのけて必死にクレイジーラットの猛攻からキールを守る。


 これ以上キールに攻撃させるかよ。


 クレイジーラットは狂ったように攻撃を繰り返していて、毒消しを取り出す余裕すら無かった。


 ほんの少しでいい、キールに毒消しを飲ませる時間を。


 クレイジーラットの猛攻に耐えながらちらりとデールを見ると、一度は収束していた炎の闘気が再び噴出していた。

 デールのやつは全開のようでイグニッションのスキルを連発しているようだった。


 デールの猛攻のおかげで、ほんの一瞬だけクレイジーラットの攻撃に空白の時間ができる。


 ここぞとばかりに、ポシェットから毒消しを取り出して素早くキールに飲ませる。

 しばらくすると、キールの青白かった顔に心なしか赤みが差していた。

 隙を見計らって特効薬も使ってHPも回復させる。


 そして、俺としても攻撃されてばかりでは無い。

 キールを盾で守りつつも、HPの減ったクレイジーラットを目聡く捕捉しては手裏剣でその数を確実に減らしていた。


 しばらく凌いでいると、クレイジーラットをあらかた片付けたデールが駆けつけてきた。

 どうやら急場は凌ぐ事ができたようだ。


 キールの護衛をデールに任せると、ボウガンに矢を装填してチップに攻撃していたフライングスネークを射る。

 フライングスネークはチップに注意が向かっていたようで簡単に仕留める事ができた。

 チップが残りのクレイジーラットを始末する。


 残っているのは、未だ遠くで足を引きずっているライジングホースだけだ。


 キールの安否を確認するとすでに立ち上がっていた。

 どうやら、毒消しが効いたようだ。


 キールに駆け寄って顔をしっかりと確認する。

 顔を噛まれていたようだったが眼球などにも怪我は無い。

 ほっと一息つく。


 あとは任せて装備の回収をしておこう。



 「いやぁあああ! 助けて!」


 回収したナイフを革鎧に装着していると、何処か遠くから悲鳴が聞こえてきた。


 大部屋の方からか?


 その声は、何処かで聞いたような声だった。

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