87話 デールはあの病気
「デール! 前に出すぎだ下がれ」
「はい! すみません師匠」
「キール! 前線を押し上げろ」
「わがっだ! 任せでくで!」
「チップはキールを援護してくれ」
「わかりました、お師匠様」
デールが下がるのを矢を射って援護すると、キールは戦鎚で魔物をなぎ払い盾を突き出して前進する。
キールの背後に回り込もうとしたクレイジーラットは、チップが軽やかに戦場を動き回って始末していた。
そして、キールに押し出された魔物が密集した所に火炎瓶を投げる。
ボン! と派手な音が鳴ると同時に、大量のクレイジーラットが火達磨になってのたうち回った。
よーし、いいぞ。
雑魚はまとめて燃やしてしまえばいい。
火炎瓶は残り1本。
最後の火炎瓶も連続して投げ込むと、火炎が収まった頃にはマッドボアもレッドボアも戦わずにして壊滅状態になっていた。
残党狩りで、まだ生きていた弱った魔物に止めを刺してまわる。
やれやれ、ローストポークになっちまったか。
まあ、戦利品さえ気にしなければこんなもんだ。
さてと、最後の火炎瓶も使ってしまったしな。
レベルも上がったし今日はこれで終わりにしよう。
ダンジョンから出ると、外は夕焼け雲で真っ赤に染まっていた。
もう、こんな時間か。
遅くならないように急いで家路に着く。
町への帰り道にデールとチップに疑問に思っていた事を質問する。
「そういえば、デールとチップは盾を使わないのか?」
「私は重くなるので使いません。速さを高めた方が回避力が高くなりますから」
「僕は剣士になりたいんです。剣で軽やかにすべて捌いてみせます。だから盾は使いませんよ」
うん? チップの理由は理解できるんだがデールの理由が意味不明で理解できん。
「デールの理由がよくわからんのだが? 盾は非常に有効だぞ? 盾を使うと剣士じゃないのか?」
「え? 何を言ってるんですか? 剣ですべて捌けばカッコいいじゃありませんか。あっ! 盾を使っている師匠の事を悪く言ってるわけじゃないですよ?」
え? 何? カッコいい?
は? デールはいったい何を言っているんだ?
「デールは確か12歳だったな?」
「そうですけど。……何かあるんですか?」
これはひょっとすると、このぐらいの年齢の子供が掛かるというあの病か?
ちょっと確認してみよう。
「そういえば、デールはスキルを使う時に声に出すよな? あれって声に出さないと使えないのか?」
「何を言ってるんですか師匠? そりゃあ声に出さなくても使えますけど、声に出した方がカッコいいじゃないですか」
ああ、やっぱりそうだったか。
セリア達はスキルを使用する時に叫んでいなかったもんな。
デールは間違いなく中二病だ。
しかも、リアルでやれてしまうだけにかなり重症なやつだ。
俺の隣を歩いていたチップが小さい声で『子供ね』と蔑むように呟いていた。
それにしてもスキルか……
デールが炎を纏っていきなり強くなるんだよな。
ただでさえ強いのに、セリアやセレナもそこからドカンと強くなるんだよ。
「…………」
あいつらスキルだけじゃなくて魔法まで使えるんだよな。
しかも、エンチャントなんたらとかチート装備までしてよ。
なんだよこの差は?
俺なんてステータスが低いからまともに戦う事さえ困難なんだぞ?
考えたら腹が立ってきた。
スキルかあ……
俺にも使えたらなあ。
こう、体から炎や雷とかバリバリ出すんだよ。
そして、お前は俺を怒らせた! それがお前の敗因だ! とか言っちゃうわけよ。
別に羨ましくなんかないんだからね?
「………………」
くやしいのう、くやしいのう、くやしいのう。
俺は、くやしやを噛み締めながら町へと戻ったのだった。




