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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第二章 デスゲーム開始
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82話 ファイアーレスキュー

 そこでは、火炎瓶による大量虐殺が行われていた。


 すでにクレイジーラットを数百匹は焼き殺している。

 戦っている場所は、ダンジョンに入ってすぐ先にある小部屋の前の通路付近である。



 戦術は至ってシンプルだった。

 まきびしを蒔いて作った陣地で待ち構え、まきびしを踏んで怯んだ所を弟子達3人とモグラ叩きのように倒しまくるだけである。


 そして、それでも処理が追いつかず大集団になってしまったクレイジーラットは火炎瓶でまとめて焼き殺す。

 数が多ければその分密集するため、火炎瓶で焼死させる効率が良くなるだけで何の問題も無かった。


 さらに火炎瓶で炎の壁が出来ると、その間に弟子達を休憩させて魔物がこちらに向かってくるまで俺が矢を放ち続ける。

 まさに3段構えの必勝コンボだ。


 そう、これはもはや戦いでは無い。

 ただの大量虐殺と言っていいだろう。


 「お師匠様、この数はさすがに無謀ではありませんか?」


 「師匠! 無理ですよ!」


 「おで、がんばる」


 「え~い! 怯むな! 戦って殲滅するのだ!」


 戦術的な優位性によって数的不利を物ともせずに圧勝している状況なのだが、弟子達は戦況がわかっていないようだ。

 弱音を吐く弟子達を鼓舞する。


 気分はすでに小隊を指揮する先任将校かどこぞの成り上がりの戦国武将である。


 「さすがは、レギオンのダンジョンと呼ばれるだけはあるな」


 圧勝しているとは言いえ、魔物の数が多すぎて通路から前に進む事はできそうになかった。

 戦術を無視して無理に進めば一瞬にして数に飲まれるだろう。


 騒ぎを聞きつけて魔物共が続々と集まってきていた。

 しかも、魔物達の増援はまったく途切れるようすを見せない。

 次から次へと奥の部屋からやって来る。


 だが負けん! 殲滅してやる!


 意地になって魔物を倒し続ける。



 すでにまきびしによる恩恵も無く、連戦による疲労がみえてきた頃になると一方的な虐殺から一進一退の攻防へと戦況は変化していた。

 まるで、魔物が無限に沸いてくるかのような錯覚に囚われる。


 まずいな、弟子達3人が声も出ないくらい疲弊している。

 これは、撤退も視野にいれなければいけないか?


 そんな事を考えながら周囲を確認すると、あれほど溢れかえっていた魔物達の数がいつの間にか減っていて、すでに魔物の増援も来なくなっていた。


 よし! ならこのまま殲滅するべきだ。


 「もう少しだ! 魔物の増援はもう来てないぞ!」


 声を出して3人の弟子を奮起させる。


 弟子達3人は気力が萎えかけていたみたいだったが、え? といった感じで周辺の魔物達に視線を向けると途端に動きが良くなっていた。

 どうやら、元気を取り戻したみたいだ。


 ラスト1本となった火炎瓶を放り投げて少しだけ戦うと、魔物の姿は完全に見えなくなっていた。

 魔物だらけのダンジョンの中になんとか空白地帯を作ることに成功した。


 勝ったぞーと、勝ち鬨を上げて叫ぶ場面なんだが……


 弟子たちを見ると肩で息をしてへたり込んでいた。

 そんな余裕は無さそうだ。


 勝てるとはわかっていたがさすがに厳しい戦いだった。


 うーん。

 本当ならゆっくりと休ませるべきなんだが……


 だが、まだ生きている冒険者がいるかもしれない。

 救助は初動が大切なんだ。


 矢を回収してHPと最低限の体力を回復させると、すぐに救助のための探索を開始した。



 部屋から移動しようとすると、すぐに次の魔物の集団が向かって来た。

 最初の部屋での勢いは無かったとはいえ、うんざりしながらもすぐに応戦する。


 急いでまきびしを前面にばらまき、こちらに来るまでにできるだけ矢を打ち込む。

 すでに火炎瓶は無いのでこちらも必死だ。


 さらに、接敵する前に少しでも魔物を減らそうと考えてデールにファイアの魔法を使用してもらう。

 しかし、効果は1匹の魔物が火達磨になっただけだった。


 はっきり言って、しょぼい。


 デール曰く、ファイアだけでなく初級魔法はどれもあまり使えないとのことだ。


 魔物を蹴散らした後、移動しようとして生き残って逃げ回っていた冒険者を発見する。

 冒険者達は俺達の存在に気がつくと、必死の形相で助けを求めてきた。


 「助かったぜ! 何処もかしこも魔物だらけだったんだ」


 「もしかして魔物が急に引いていったのは、あんた達が倒したのかい?」


 救助を求めてきた冒険者達が、大量に転がっている魔物達の死骸に視線を向けながら尋ねてきた。


 「ああ、まあな」


 軽く手を上げて返事をすると、あいまいな感じで肯定する。

 火炎瓶を使っての派手な大立ち回りのため、あまり大っぴらに吹聴されると困ってしまうからな。


 救助活動は難航した。

 なにせ、少しづつしか前に進めない。


 角を曲がるたびに大量のクレイジーラットが出た。


 「はあ、うんざりだ」


 思わず声に出してしまう。


 こいつらを倒してもレベルが上がらない。

 救助活動などせず他のダンジョンで戦っていれば、今頃はレベルの1つや2つ上がっていてもおかしくは無い。

 少しぐらい愚痴を言っても罰は当たらないだろう。


 何度もダンジョンを行き来しては淡々と見つけた冒険者を救助する。

 全員が五体満足で助かったわけではなく、腕や足を食いちぎられてしまった冒険者もいた。


 まあ、危険と隣合わせなのだから仕方がない。

 緊急の冒険者にはソーンを使って、瀕死の冒険者の場合は迷わず特効薬を使った。


 手持ちのソーンが無くなる頃には大半の冒険者達の救助に成功していた。


 疲れ果てているようすの弟子達とダンジョンから出ると、救助した冒険者の人達に温かく出迎えられる。

 初動が早かったおかげもあっただろうが、かなりの人達が助かったみたいだ。


 さすがにしぶとい。

 腐っても冒険者である。



 それにしても、今日はレベル上げが出来なかったのは痛かったな。

 まあ、人命には代えられないけどね。


 明日はレベル上げに専念したい。

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