76話 発展していくモニカの町
「親父! 殺人兎を狩ってきたぞ!」
店に入ると鉄を叩いていた親父を尻目に、35個の殺人兎の鉈を作業用の机の上にどかどかと置く。
「おう、達坊か? 早かったな。うぉおお! こりゃあ……すごいな、いったい何匹狩ったんだ?」
「35匹だ。後、これは土産の殺人兎の肉だ。食ってくれ」
「達坊! お前は心の友だ!」
親父は諸手を挙げての大喜びだ。
鉄の方は多すぎたかと心配したのだが鍛造の練習にも大量に必要らしい。
いくらでも持ってきて欲しいとの事だった。
鎧と盾の改造、手裏剣、投げナイフの代金、全部で50万エルを払う。
「達坊、まさかこれだけの鉄を持ってきてくれるとは思わなかったぞ。だが、これなら剣を作れるな。よし! いい機会だ、お前の剣を打ってやる」
「え? 俺は基本的に剣は使わないぞ?」
「わかっている。だがな、後できっと必要になる」
親父は何か意図があるのかにやりと笑う。
「そうか、親父がそう言うならそうなんだろう。いくらだ?」
「金はいらん。これは練習みたいなものだからな。だが、間違いなくお前の腰に差しているナマクラより良い物だから期待していろ。ただ、時間が掛かるから何時になるかわからんからな」
親父に二つ返事で了承する。
親父が『まさか、こんなに命中が伸びるとは思わなかったからなあ。それに危険だから、剣の扱い方を教えてくれるやつがいないと駄目なんだよなあ』と何やらわけのわからない独り言を言っていた。
命中が伸びるって俺の事か? 命中と剣と何の関係があるんだ?
盾と鎧の改造は今日中にやってくれるそうなので、先に渡して工房へと戻った。
工房に戻ると何やら騒音が煩い。
何だろう?
トンカン、トンカンと、あれは工房の隣辺りからか?
見に行ってみると新しい建物を建設しているようだった。
朝にはなかったよな?
近くにロイドさんがいたので聞いてみると、新工場の建設ということだった。
まとまったお金が手に入ったのと、帝国軍の後ろ盾を得ることができたので着工に踏み切ったらしい。
何でも、今まで特効薬の利権に群がろうとする悪質な連中から暴力による脅しや嫌がらせを受けていたそうで、工場の増築や新築などの依頼もそいつらに潰されてできなかったらしい。
工房で働いている職人さんのドワーフみたいな人達が何とか守っていたんだそうだ。
そして、その問題を解決するために、ロイドさんは帝国軍へ売り込みの手紙を送っていたのだそうだ。
ついでに契約まで取ってくるとは、ロイドさんはかなりやり手の経営者でもあるみたいだ。
裏でそんな争いがあったとは知らなかった。
工場建設後は、特効薬の生産は昔からいた仲間だけで行ってソーンの方は従業員を新しく雇って生産するらしい。
宿屋の方にもお金を出して新しい宿の建築を依頼したみたいだ。
工事をする職人さんや急激に増えた冒険者のためらしい。
そういえば、冒険者ギルドも増えた冒険者に対応するためと言って増築工事をやっていたな。
ナタリアさんが言っていたんだが、モニカの町の人口も急激に増えているそうだ。
3000人だった人口が今では1万人を超えているとかで、なんと隣のレーベンの都市からわざわざ移り住む人までいるとのことだ。
特効薬による特需は本当にすごいみたいだな。
次の日、すぐにレベル上げに行くべきか考えた。
投げナイフや手裏剣が出来てからにしたかったのだが、状況からそうも言っていられないからな。
善は急げと考えて、レベル12前後のダンジョンへと行ってみたのだが……
結果は散々なものだった。
まず、魔物を見つけることが大変だった。
なかなか見つからず、やっとの事で発見しても戦えそうにない集団ばかり。
なんとか、戦えそうな数の魔物を探して戦闘してみたのだが、これがまた予想以上に厳しかった。
まきびしを使って足止めして戦おうにも、そうそう都合良く狭い場所での戦闘はできなくて効果のほども薄い。
そのうえ、魔物が予想以上にタフで、矢が刺さって火達磨になってもそう簡単には死んでくれなかった。
どうすることもできず、結局は追い詰められて銃を使用する事態にまで陥ってしまった。
浪費した弾は9mmが5発、ダブルオーバックの弾が2発だ。
あれから2日経った。
レベルはまったく上がらず、戦い方の糸口すら掴めない。
何の成果も無く、無為に時間だけが過ぎてゆく。
結果の出ない現状に焦燥感が高まる。
セリア達と別れたのは間違えたかもしれない。
親父がレベル10くらいまでは簡単に上がると言っていた事を思い出す。
今までの様には行かないみたいだ。
やっぱり、前衛がいないと駄目だ。
前衛が1人で戦うのはできても後衛が1人で戦うのは無理がある。
どうしたものかな?
駄目元で短期間のパーティ募集をしてみるか?
明日、ギルドへ行ってみる事にしよう。




