75話 転がる殺人兎
俺は今日、親父に新兵器の注文をするために武器屋に来ていた。
それは投げナイフと手裏剣である。
異世界チートは命取りなので凄いのは駄目だけど、こういった原始的な物なら問題無いだろう。
ゴブリン戦では、まきびしで押さえてもボウガンを装填して攻撃している時間まではなかった。
レベルも上がって低いとはいえ力も上がってきたから、ゴブリン程度なら手裏剣を投げつけてやれば充分倒せると思うんだよね。
近距離は投げナイフ、中距離は手裏剣、遠距離はボウガンで戦うってのが俺の考えた戦闘スタイルだ。
剣を使っての接近戦は危険だから極力やりたくない。
魔物の初撃は盾を使えば凌げるんだが、速度がないから返す攻撃が避けられなくて俺の防御力の低さから下手すると死ぬ。
だから、接近戦は最後の最後にしたいんだ。
「親父いるか?」
いつものように店に入ると親父にいきなり話し掛ける。
しかし、今日の親父はいつもとは違っていた。
いつもの親父なら上半身裸でポージングを決めているのだが、カーン、カーンと一心不乱に鉄を叩いていた。
早速やってるようだな。
「おお達坊か、今日はどうした?」
答えた親父を見て、思わずおっ? となる。
何やら親父から厳かな風格ようなものが滲み出ていた。
「作ってもらいたい物がある」
「ふふ、何だ? 言ってみろ」
親父はすでに吹っ切れたのだろう。
俺が新武器の説明をしても何も動じる事も無く、自信に満ち溢れたような顔をしていた。
まあ、新武器と言ってもこの世界にもあるような原始的な武器だけど。
親父が言うには、制作するのに2週間くらいかかるという話しだった。
「え? 何でそんなに時間が掛かるんだ? いつもなら1日で作ってくれるじゃないか?」
「すまんな達坊、なんか知らんがここ最近急に客が増えてな。先客に使ってしまって必要な鉄が店に無いんだ。だから、レーベンから取り寄せるのにちょっと時間が掛かる。まだ、叩いて強化した装備を出しているわけでもないんだが……不思議な事もあるもんだ」
親父が首を傾げて、不思議そうに言っていた。
確かに今の親父からは、達人が発するオーラみたいな不思議な風格が出ている。
だけど、一番の原因はポージングをしてない事だよな?
入店してすぐに上半身裸であんなポーズしてたら、普通のお客さんは帰ってしまうからな。
言わぬが花か……
言っても無駄とも言う。
「それに、型に流し込んだだけの物と違うからな。叩いて鉄を鍛えるんだ。あれは時間が掛かるんだぞ? う~む、鉄さえあれば5~6日くらいで作れるか? 少しなら3~4日あれば作れるぞ? もちろん叩いて強化した手裏剣だからな」
「おお、それはすごい。ついでに手裏剣をラウンドシールドの裏に収納する様にできるか? 投げナイフも使いたいんだけどそっちは威力を重視した物がいいな」
「ああ、盾の改造の方は簡単に出来るぞ。ナイフは威力を重視するのか……なら、投げナイフの方は革の鎧を改造すればいい。大振りのナイフにするなら装甲まで上げられるぞ?」
「装甲が上がる? そんな使い方もできるのか」
「本来なら指くらいの小さいナイフを投げるんだがな。そっちは手裏剣だったか? そっちを使うんだろ?」
親父が言うには、革の鎧を改造して胸元に投げナイフを収納できるようにするらしい。
但し、中に入れる専用のナイフも作らないといけないらしいが。
そして、投げナイフは威力重視だと大振りのククリナイフのようなものになるとのことだ。
盾に手裏剣を10個、鎧に投げナイフを3本装備できるそうだ。
当然ながら、少し重くなるが盾も鎧も防御力が上がる。
以前よりも力も体力も上がっているので、その程度の重量は何の支障もないだろう。
注文された装備に鉄を使用しているため、隣の都市のレーベンから取り寄せるのに1週間かかるらしい。
そういえば、前にも鉄を取り寄せるのに1週間掛かるとか言っていたな。
鉄と言えばあいつか?
親父も『鉄さえあれば』とか、遠まわしに殺人兎を狩ってきてくれと頼んでるんだよな?
あいつらは確かレベル10だったから今の俺ならやれるか?
あいつら集団で襲ってくるからレベル10でも怖いんだけどな。
しょうがない、やってみるか。
親父に殺人兎を狩って来ると伝えると洞穴のダンジョンへ向かった。
久しぶりの洞穴のダンジョンだ。
今の俺だと出会った敵は簡単に処理できる。
1階層も2階層も楽々だ。
2階層に到着すると、資金稼ぎでついでに真珠貝タートルを15匹ほど狩る。
ほとんど絶滅させてしまったようだが、また時間が経てば沸くでしょう。
さて、問題は……
早速見つけたのだが殺人兎の数が思ったより多い。
20匹くらいの集団でさすがにこれは無理である。
その後も、15匹や12匹といった集団を見つけた。
数が多いんだよ。
こう、2~3匹くらいの集団は都合良く居ないかな?
結局、一番少ない集団で5匹だった。
こいつらを殺るしかないか。
周りを見渡すと、何百mもある広い空間が広がっていて草木も無い荒れ果てた赤土がてらてらと光っている。
障害物が何も無くてこれだけ周囲が広いとまきびしの効果も薄い。
どうするかなあ。
まきびしは狭い通路なんかで効果を発揮するんだよな。
今回は逃げながら自分の逃走ルートにまきびしを蒔く作戦でやってみる。
追いかけてきた殺人兎がまきびしを踏みつけて転がった所で倒す事にするのだ。
まあ、踏みつけやすいようにジグザクになる様に蒔くのがコツだな。
最終チェックで逃走経路を確認する。
逃走経路、問題無し。
最悪の場合はショットガンを使う。
了解した。
準備はいいか?
よし、準備OKだ。
殺人兎
レベル10
HP50
MP0
力40
魔力0
体力40
速さ90
命中40
こいつは速さはすごいがHPは少ない。
ボウガンの威力と鉄の矢なら上手く当たれば1発でいけるはずだ。
殺人兎にはすでに見つかっていて威嚇されている。
狙いを定めてボウガンの矢を射る。
2発連続で2匹の殺人兎にそれぞれ1発づつ当てると、殺人兎の1匹は仕留めたが1匹は瀕死状態でまだ生きていた。
しかし、弱っているため実質は仕留めたと同じだ。
次の瞬間、残り3匹の殺人兎がもうぜんとこちらに突撃して来る。
次の矢を装填してボウガンを向けると、殺人兎は左右にステップをしてこちらを翻弄してきた。
だが、今の俺には動きがわかる。
昔とは違うんだ。
狙いを定めて矢を射る。
「見える! 私にも見えるぞぉ! そこぉ!」
しかし、矢はスカッと殺人兎の横を通り過ぎていった。
「………………」
見えるとは言ったが当てられるとは言ってない。
後方へダッシュで下がって距離を取る。
逃げるんだよ。
距離があって横に動いていると当てるのは難しいんだ。
外した言い訳を考えながら、後ろを振り返らずまきびしをジグザクに蒔きながら全力でダッシュする。
「きゅゃあああああ!」
何かの悲鳴のような声が聞こえると、殺人兎が凄まじい勢いできりもみしながら転がっていた。
背後を振り返って確認すると、こけた殺人兎は立ち上がれずにぴくぴく痙攣していた。
残り2匹の殺人兎も、まきびしを踏みつけるとアクションスタントが失敗したかのようにダイナミックに転がって動かなくなる。
すかさず、瀕死状態の殺人兎の息の根を止めた。
速度が速い分こけると悲惨だな。
よし! この戦術をダイナミックスッテンコロリンと命名しよう。
「がはははは」
思った以上にうまくいったことに高笑いする。
そうだ! これなら労せずに大量の殺人兎を倒せるんじゃないか?
確か、殺人兎40匹でスタングレネードが貰えたはず。
にやりとほくそ笑む。
その後、30匹ほどの殺人兎を転がした。
今回の戦果
髭モグラ3匹 ホーンラビット1匹 殺人兎35匹
殺人兎の毛皮は、4匹以外はだめだった。
肉は1匹は親父に、1匹は家に、10匹は工房の職人におすそわけした。
在庫として、真珠を15個売らずに持っておく。
大きな街に持って行けば高値で売れるようだからな。
今回の収益
412700エル




