68話 3人は幼馴染
達也が出て行ってから、どれだけの時間が経ったのか。
傷は治ったが体力が回復していないため、デールとチップの2人は体を休めていた。
「どうすればいいんだよ……今の俺達の力じゃ、ここに出る魔物に勝てないよ。生きて戻ることができない。せっかく助けてもらったのに意味がないじゃないか」
デールが悔しそうに歯噛みする。
「ねえ、デール? じゃあガンマンさんはどうやってここまで来たの? どうやって帰るの?」
チップが溜息をつきそうな顔をしてデールに質問する。
「ガンマンさん? って誰? あっ! そうか、このダンジョンは1本道だった……うう」
そう、道はすでに開かれていた。
デールは自分の愚かさに気づいて歯噛みする。
そして、モンスターパニックの直後はしばらく魔物は沸かないのである。
「とにかく、ここを出てみましょうよ」
そう言うと、チップはデールを置いてさっさと採掘場から出て行ってしまう。
その後を慌てたようにデールが追いかける。
デールとチップは大部屋を恐る恐るといった感じで入り口から顔だけを出して覗く。
そして、そこに広がっていた凄まじいまでの惨状に悲鳴を上げる。
「うわぁぁぁあああ!」
そこら中に大量のゴブリンの死体が転がっていた。
辺りにはゴムが焼けるような嫌な匂いが立ち込めて、大部屋の入り口付近には50体近くのゴブリンの焼死体が折り重なって転がっている。
眉間に穴があいているゴブリンもいれば、顔の部分がくしゃくしゃに踏み潰されているゴブリンもいた。
大部屋のあまりの惨状に、デールとチップはしばらくのあいだ呆然としたように立ち尽くす。
「おーい、デール~! チップ~! ……うわぁあ! びっぐりじだ」
そこにキールが大部屋に入ってきて、入り口付近に折り重なっていたゴブリンの死体の山を見て悲鳴を上げた。
「ああ、2人共無事だった。よがっだあ、おで、おで、ひっく」
キールはデールとチップの無事を確認すると泣きながら2人に駆け寄る。
「キールこそ無事で良かった」
「うん、うん」
3人は肩を抱いてお互いの無事を喜び合う。
「それより、これは何があっだんだ?」
「たぶん、ガンマンさんがやったんだと思うわ」
落ち着きを取り戻したキールが大部屋の惨状を見て呟くとチップが答える。
「さっきから言ってるけど、ガンマンさんて? あの助けてくれた人?」
「そうよ」
デールがチップに尋ねると『おでも助けられた』とキールも答える。
そして、キールが此処に来るまでにいた魔物がすべて死んでいた事をデールとチップの2人に伝える。
「やっぱりね」
「すごい」
デールとチップは魔物がすべて倒されているだろうと予想はしていた。
しかし、改めてキールから事実を聞かされると押し黙ってしまう。
「……それよりも、早く戦利品を回収しましょう」
「え? 戦利品って、これはガンマンさんが倒した魔物だろ?」
チップの突然の提案にデールが間抜けな顔をして聞き返す。
「デール、あなたってほんとに馬鹿ね。ガンマンさんが言った事を忘れたの? このダンジョンに落ちている物をお前達がどうしようと俺の知った事じゃない。これはどういう意味なの?」
チップの言葉にキールは疑問顔だったが、デールの方は『あああ!』と悲鳴に近い声を上げる。
「少し時間が経ってしまっているけど、お肉を優先して先に血抜きからやっちゃいましょう」
「え? でも他の戦利品も回収していたら、肉はさすがに腐るんじゃないか?」
「まったく、幼馴染じゃなかったら……パーティを組むのを考え直そうかしら? このダンジョンは何のダンジョンなの?」
「あっ! 血抜きが終了したら、秘氷の水晶を持ってきます!」
チップのパーティ解散するわよ宣言にデールが焦ったように敬礼して答えていた。




