63話 達也の覚悟
「やっと武装が整ってきたけど、ポイントがカツカツだよな」
ライフルの選択が終わった後にステータス画面を眺めていると、ガンボックスのポイント交換欄が点滅していた。
何だ?
まだ、何かあるのか?
点滅していたその他の項目を見る。
NIGHT VISION ATN PS15-3I FOM 1400 (ジャコウゲハ100匹(仲可)NIGHT VISION ATN PS15-3I FOM 1400 100/100 達成)
これは……暗視ゴーグルですな。
何だこれ? 何で持ってるんだ?
ジャコウゲハ? 飛翔のダンジョンであのうじゃうじゃ出てきたやつか?
そういや、マイクエスト(俺だけの討伐クエスト)達成でも貰えるんだったな。
すっかり忘れてたよ。
まあ、ゴブリンの次が殺人兎でレベルが10以上だったから、確認していなかっただけなんだけどな。
クエスト条件で仲間可になってるけど、正式にパーティを組んでなくても相手が了承してればいいみたいだな。
セリア達と正式にパーティを組んだのはダンジョンから出た後だったからな。
さーてと、今後の武器選択での戦略を立てるためにも、倒せそうにない魔物でも確認だけはしておこうかな。
何が貰えるのかを一通り確認したいしね。
そして、デスゲームの表示に気がついた。
なんだよこれ? ふざけるな!
条件を達成できない時、日坂部達也は消滅する?
死ぬ? ううう……
「う、うおぇ」
ほんの少し前、体が透けて死に掛けた事をフラッシュバックしてしまう。
その場でうずくまると、吐きそうになるのを堪えながら恐怖でがたがたと震える。
何で……何で俺ばかりこんな目に遭うんだ?
ちきしょう。
本日2回目の死の恐怖に、さすがに俺の精神は限界だった。
今まで必死に抑え付けてきた不満が爆発する。
何でこんな重要な事がCAUTIONに書いてないんだよ?
デスゲームの表示に気づかなかったら、どうするつもりなんだ?
そのまま死んで終わってたんだぞ?
ステータス画面の時もそうだった。
画面の上にあると気づかなかったら、そこで詰んでたんだぞ?
俺にゲームをやらせたいんじゃないのかよ?
わけがわかんねえ。
ちきしょう!
「はぁ、はぁ……くくく」
叫んで喚き散らしたい所だったが、生憎とここは工房である。
切羽詰ってるくせに変な所で気を使う。
そして、そんな自分に愛想笑いが出た。
おいおい、まだまだ余裕があるじゃないかよ。
「………………」
やけになるな、落ち着け。
自分に語りかけると、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
デスゲーム開始まで猶予期間13日
デスゲーム未達成の時は、日坂部達也は消滅する。
そもそも、このデスゲームの設定は何のためにあるんだ?
目を閉じて意図を考える。
これは、途中でリタイアさせないための時限処置なのではないだろうか?
いつだったか、ナタリアさんから冒険者を辞めればいいと説得された事があったが、俺はその時にそれもありかなと少しは思ったんだ。
元の世界へ戻ることをあきらめれば魔王を倒す必要が無いからな。
意図はわかった。
じゃあ、そのことからどういった事が考えられる?
デスゲームとやらをクリアできた所で、魔王を倒すまでは新たに続くと考えるべきだろう。
終わってしまったら、強制的に魔王を倒しに行かせる枷にならないからな。
つまり、俺が理解しておかなければいけないことは、これはあくまでも延命処置であると認識するべきであって、デスゲームをクリアする事が目的となってはいけないと言う事だ。
魔王討伐を急がなければならない。
どうする?
この猶予期間とやらは、一体どのくらいあったんだ?
この世界は甘くない。
猶予期間がそれだけあったのなら、きっとそれだけの事を要求される。
この世界へ来て、どのくらい日数が過ぎた?
え~と、確かギルドに着くまでに2日くらいか。
そして、ナタリアさんがクエストを1回も達成せずにもうすぐ3ヶ月になると言っていたな。
逆算すると、だいたい90日くらいは猶予期間があったと言う事か。
俺はかなり非効率的に立ち回ってきた。
レベルが9まで実質7日くらいで上がったはずだ。
デスゲームで命を懸けるとわかっていたならどうだ?
いざとなれば銃があるからと、俺ならかなり無茶をしたはずだ。
レベルが20か30くらいになっていてもおかしくはない。
もう手遅れで、間に合わないんじゃないか?
俺はどれだけの時間を無駄に浪費してしまったんだ?
ギルドのクエストと特効薬の材料集め?
そんな事やってる場合じゃないんじゃないか?
不安と焦燥感が徐々に高まってきて、頭を抱えてうずくまる。
いや、ギルドはデスゲームで他国へも行く事になるかもしれないから必要だ。
特効薬だって、1個100万エルもするのを気にせずに使える。
それに、知らなかった事をなぜ知らなかったんだ? というのはナンスセンスだと、ロイドさんに俺が言った事じゃないか。
「………………………………」
そして、なにより皆に出会えた事を無駄な時間だったなんて思いたくない。
それだけは絶対に嫌だ!
だから、決して無駄じゃない。
人間万事塞翁が馬、終わってみなければ何が良かったのかはわからない。
「みんなと出会えて良かったと言って、終わりにしてみせる」
真っ暗な部屋の中、窓辺から差し込む月明かりが俺の顔を照らしていた。




