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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第二章 デスゲーム開始
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61話 ノイズの正体

 「親父! 注文した品は出来てるか?」


 いつものように武器屋に入るなり親父に話し掛ける。

 親父は『おうよ!』といつものポージングを決めていた。


 ジッポライターはすでに出来上がっていた。

 さすがに仕事が早い。


 最後の大部屋での死闘でレベルが一気に上がって力も増えていた。

 ここで鉄の矢を30本購入しておく。



 装備の購入が終わると、レベルが一気に上がった事とセリアとセレナという双子とパーティを組むことになった事を伝えた。

 そのうえで、その双子がエンチャント装備といった聞いたことがない装備をしていた事を質問する。


 「おいおい、まさかあの疾風と迅雷かよ……まったく、いつも達坊には驚かされるぜ」


 「そんなに有名なのか?」


 「ああ、達坊は普通のやつよりステータスが低いだろ? じゃあ高いやつもいるわけだ。あとはわかるな?」


 「そりゃあまあ。でも、なんで親父があの2人のステータスを知ってるんだよ?」


 ステータスが見える俺ならいざ知らず、親父が知っている事に疑問を感じて質問する。

 なんせ、セリアのやつはひた隠しにしてからな。


 「ああ、それか。迅雷の方がルーキーの時だったか? 分別のない悪い冒険者にステータスを教えてしまってな。まあ、それで広まってしまったのさ。とは言え、それで有名にもなったんだがな」


 なるほどな。

 それで、セリアのやつがステータスを頑なに見せなかったのか。


 「それより、エンチャントとかの装備について教えてくれ」


 「ああ、エンチャント装備だったな。結論から言うと……達坊、お前には関係ない事だぞ」


 「どういう意味だ? 金ならなんとかするぞ?」


 「そうじゃねえ、あれは魔力のある連中にしか装備できねえんだよ。ナタリアちゃんに聞いてないか? 上級冒険者になるための条件とかよ? 俺も昔はな……」


 親父が言葉の途中で言い淀むと、どこか遠い目をしていた。


 親父も昔は冒険者だったんだろうか?

 魔法が使えないことで限界を感じて、それで武器屋になったとか……そんな感じか?


 「親父も昔は冒険者だったのか? 今はもうあきらめてしまったのか?」


 「何を言ってるんだ達坊? 俺は今も昔も武器屋一筋だぜ?」


 「え? 俺も昔は……とか言い淀んでいたのは何だったんだ?」


 「だはははは、昔は筋肉で魔法を受け止められないと、あきらめてしまったんだよ」


 駄目だこの親父、早く何とかしないと。


 親父の説明だと、エンチャント装備とはベースとなる装備と魔石との組み合わせで付加効果をつけた装備のことなのだそうだ。

 ただ、魔石にも属性があるらしくてその属性の魔法を使える人しか装備できないとのことだ。

 そして、魔石は高レベルダンジョンでしか入手できないので入手が非常に困難で価格も高価なんだそうだ。


 ちなみに魔法の属性は、火、雷、風の3属性しかない。

 あとは回復魔法くらいだ。


 聞くことを聞いて疑問が解消された俺は、今まで渡すタイミングを計っていた殺人兎の鉈を渡した。

 今なら、何の問題もなく渡せるだろう。


 案の定というか、親父も『おお、こいつはありがたいぜ』と何の疑念もないかのように喜んで受け取っていた。


 そして、親父の店の存続のために、武器屋の基幹商品となるアイディアを親父に伝えることにした。

 材料となる大量の鉄を渡したらやろうと思ってたんだよね。


 俺が親父に教えようと思っている技術は、鍛造たんぞうによる武器の生成である。

 この世界の装備は鉄を溶かして型に流し込むだけの鋳造ちゅうぞうしかない。

 金槌で叩いて強度を強くする事をやってないんだよ。

 だから、これを親父に教えれば武器屋も繁盛すると思うんだよね。


 ちなみに、親父は武器屋と鍛冶師を兼用している。

 この世界では普通は武器屋と言えば鍛冶屋の事らしいな。

 販売だけでやっていけるような大きな都市の武器屋は違うみたいだけどね。


 さてと、問題はどうやって伝えるかなんだけど……



 「親父ちょっといいか?」


 「なんだ?」


 「ここに捨ててある、この木の板は使ってもいいか? ちょっと実験をしたいんだけど?」


 「うん? それは廃材だからな、好きなようにしていいぞ」


 親父の了承を得ると、木の板を何枚も持ってきて作業台の上に並べる。


 「親父、この木を見てくれ」


 「お? なんだ? 何の実験だ?」


 俺の実験と言う言葉に興味を示したのか、親父は身を乗り出すように見ていた。


 「ここに同じ厚さの木があるよな? それをこうやって叩く」


 金槌で叩かれた木は当然のようにぺしゃんこに押しつぶされた。

 叩いて潰した木の板を手に持つと、叩かれる前の厚さの部分と潰れた厚さの部分を比較して親父に見せる。


 「親父、この潰れた部分は何処に行ったんだろうな?」


 「何が言いたいんだ? 達坊?」


 次に、木を縦横に組み立てて箱を作る。


 「親父、この木の箱の中には何がある?」


 「何って、何も無いじゃないか」


 「ここに、空間があるじゃないか」


 「さっきから、何が言いたいんだ? 達坊?」


 俺の言葉の意図を測りかねているのか、親父がいらついたように答えていた。


 次に、木で作った箱を潰して上部の蓋の部分と底の部分を合わせる。


 「この木の箱の空間の部分を潰す」


 そして、最初に叩いて潰した木を見せる。


 「つまり、この木の厚みの部分にも空間があったんだよ」


 俺の伝えようとしている事に気づいたのか、親父が『うぅ』と驚いたように唸った。


 もう一度木を縦横に組み立てて木の箱を作る。


 次に、木をその木の箱と同じ高さまで何枚も寝かせて重ねると、重ねた木で木の箱を叩く。


 「親父、どちらが強いと思う?」


 「重ねた方だ。なぜなら、密度が違うからだ」


 さすがは鍛冶師だ。

 何を伝えようとしているのかを理解して、先に理由まで説明してきた。

 なら、もう伝わったも同じだ。


 すると突然、前に感じた時よりも強烈なノイズが俺の頭を襲った。

 そして、俺の手が少しだが確かに透けた。


 何だ? 何が起こってるんだ?


 異常な事態に親父を見ると、手で顔をおおい唸っていた。


 「達坊……お前は何なんだよ? ありえねえだろ? そんな事を知っているわけがないんだ!」


 親父は剥げ頭なのに、無い髪を掻きむしるような仕草をして叫んでいた。


 親父の突然の奇行に身の毛が逆立つ。

 違う意味でも。


 「達坊、俺はお前が恐ろしい……お前を見ていると、俺の人生が、存在が、今まで培ってきたものすべてが否定されているみたいなんだよ。俺は何もできない、何の価値も無い人間なんだと……でも違う。こんなの知ってる方がおかしいんだ。お前はきっと違う世界から来たんだ。だから、なんでも知ってるんだ」


 親父の狂ったように叫ぶ独白にノイズの正体がやっと理解できた。


 あの警告の一文。


 日坂部達也が異世界人だと認識された時、日坂部達也は消滅する。


 そう、あのノイズは警告だったんだ。


 完全になめていた。

 例え自分で『俺は異世界人だ!』なんて言った所で、誰も信じやしないと高をくくっていた。


 くそっ! 完全に失敗した。

 だが、まだだ。

 認識した時だからな。


 内心でがたがたと震えながら、それでも平静を装って親父に話し掛ける。


 「親父、しっかりしろ! 違う世界の住人だなんておかしな事を言って現実から逃げるな」


 本当は大正解なんだけどね。

 嘘も方便だ。


 「た……達坊?」


 「親父は自分が何もできないとか言ってたが、それはむしろ俺の台詞だ! 俺は自分では何も作れないから、親父に頼んですべて作ってもらっていたじゃないか。俺は形にできない。でも、親父にはできる。それが、どれだけ凄い事かわからないのか? 何もできないのはむしろ俺の方だ! 形にできなければ、それは無いのと同じなんだ」


 「形に出来なければ、無いのと同じ? …………そう、か。すまん、取り乱してしまった。おかしな事を言ってすまなかった」


 俺の言葉に親父は落ち着きを取り戻したのか、ノイズの方は今は完全に鳴りを潜めていた。


 危なかった。

 まさか、あんな被害妄想みたいな思い込みからこんな事になるとはな。

 これからは、異世界チートはなるべく控えるようにしよう。


 「親父、大切なのはその知識を活かして利用する事だ。実用化する事ができて初めてそこに価値が生まれるんだからな。だから、その知識を使ってこれから勇者が購入しに来るようなりっぱな武器でも作ってやればいいさ」


 「達坊……そうだな、よっしゃあ! 剣匠ロドリゲスと呼ばれるようになってみせるぜ!」


 「それでこそ親父だぜ」


 「だあはははは」


 どうやら、もう大丈夫そうだ。


 でも、これで親父にあれこれ作ってもらえなくなったのか。

 はあ、少し厳しいな。

 いや、原始的な構造の装備なら問題ないかな? 

 ちょっと構造を説明するだけで何でも作ってくれるからな。


 まったく、親父は自分の凄さがわかってないんだよ。

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