57話 ヒロイン登場
あれから1週間が経った。
工房では、すでに過去の従業員の過半数の人達が作業をしている。
そして、なんとエル帝国の帝国軍からお偉いさんが来た。
ロイドさんが、知人に手紙を出していたんだそうだ。
ちなみに、帝国と言うのはこの世界の5分の1の軍事力を有しているバリバリの軍事国家だ。
領土もかなりの広範囲に及んでいてこのモニカの町も帝国領の一部である。
歴史も相当長いらしくて、エルフと盟約を結んだ初代皇帝カリバーンから数えて今年で1218年になるそうだ。
ソーンの製法も盟約を結んだ時にエルフより伝えられた技術だそうで、このカリバーンがエルフと盟約を結べた事こそがその後の長い帝国の歴史を作る事になった要因だと言われている。
その帝国の軍部の総大将になる人が直接来て、特効薬の契約をしていったそうだ。
まさか、トップが自ら交渉に来るとは思っていなかったらしくて、ロイドさんもびっくりしたと言っていた。
しかし、ロイドさんはそんな相手にも物怖じせずに交渉して、なんと年間で何十万個単位で購入する長期契約を取り付けたそうだ。
どうやら、ロイドさんは職人より営業に向いているのかもしれない。
俺の方はと言えば、往復6日で何事もなく特効薬の物資調達を無事に終えていた。
親父から完成していたまきびしを受け取るが、ジッポライターの方はまだできていなかった。
火炎瓶の方はまだお預けだ。
ロイドさんが大量の特効薬の契約をしたので、早急に秘氷の水晶が必要になった。
準備を整えてすぐに秘氷のダンジョンへ出発しよう。
自分よりも速い敵との戦い。
俺にとっては、ここが正念場。
ここを乗り越えられなければ、次は無いんだ!
そう考えて、気合を入れてきたのだが……
道に迷いました。
想定外です。
ここは何処?
秘氷のダンジョンは何処?
おろおろしていると、幸いにも近くに村があったので秘氷のダンジョンの場所を聞きました。
ただ、訛りがひどかった。
何を言ってるのか、ちょっと聞き取れなかったんだよね。
まあ、だいたいの場所はわかった……と思う。
そして、今はダンジョンの中なんだけど……
やっぱり、ここは場所が違うかな?
ダンジョンの中が明るいんだよね。
鉱石があるダンジョンなら暗いはずだからね。
まあ、此処まで進んで来るまでまったく気づかなかったんだけどね。
え? まぬけ?
ふふふ、今さらだろ?
幸いにもまだ魔物と1回も遭遇してないけど、高レベルダンジョンなら危険だ。
早く帰ろう。
そんな事を考えていると背後の方から複数の足音が近づいてきた。
「誰かいるの?」
掛けられた声に振り返ると、以前に冒険者ギルドでパンをくれたセレナとセリアの双子の姉妹だった。
セレナは金髪で腰まであるロングヘアの巨乳の美人で、言葉使いが子供っぽい舌たらずな口調のかわいい子だ。
今も、ニコニコとした笑顔で俺の事を見ている。
確か、装備はレイピアで風魔法を使うんだったな。
セリアは金髪のショートボブが似合っている美人で、クールビューティといった感じの子ですかな。
今も、きりっとした目で俺の事をゴミを見るような目で見ている。
うん? ゴミ?
気のせいだろうか?
まあ、ちょっとセレナさんの巨乳に目がいっちゃったかな? と言う事が無きにしもあらずなんだけど。
確か、装備は槍で雷の魔法を使うんだったな。
「ああ、俺は冒険者で名前は達也だ。以前モニカの冒険者ギルドで、そちらのセレナさんにパンをもらった事があるんだが、覚えてないだろうか?」
なるべく怪しまれないように気を使って話し掛ける。
初めは首を傾げていたセリアは『ああ、あの時の泣いてた人』と俺の事を思い出したようだった。
覚えられ方が情けなかったが、まあ仕方がない。
セレナの方は俺の事をしっかりと覚えていたみたいで、以前のお礼を言うと『困った時はお互い様だよぅ』と舌たらずに言っていた。
「どうして、貴方がこのダンジョンにいるのかしら?」
自己紹介が済むとセリアが聞いてきた。
どうして? と聞かれた理由がわからなかったが、秘氷のダンジョンに秘氷の水晶を採掘に来たと正直に答えた。
「なるほどね、残念だけどここは飛翔のダンジョンよ」
セリアがため息をつきそうな顔で言った。
セリアの言葉にやっぱり違うのかと落胆する。
まあ、予想はしていたけどね。
場所を間違えた事をセリアに話して『それでは失礼します』と挨拶すると、セリア達に背を向ける。
「ちょっと、待ちなさい」
セリアが呼び止めてきた。
「なんですか?」
「飛翔のダンジョンの適正レベルを知っているかしら? 貴方のレベルはいくつなの? 貴方の噂というか……その誹謗中傷を散々聞かされたけど、ゴブリン1匹に慢心相違だったとか」
誰だよ? 俺の誹謗中傷と言うか……まあ、半分くらいは事実なんだけど流したやつは?
やっぱり、ナタリアさんの親衛隊の人達の地道な草の根活動なんだろうな。
親衛隊恐るべし。
はぁ、まあ隠してもしょうがないしな。
「俺のレベルは9、飛翔のダンジョンは名前すら知らないからわからん」
「ふ~ん……貴方のレベルは思っていたより高かったけど、ここのダンジョンの適正レベルは20よ」
やばい、正直かなり危険なダンジョンだ。
俺のステータスだと、適正レベルですらかなり厳しいんだぞ? 自分の倍以上のレベルの敵だと余裕で即死する。
最悪の時は銃を乱射して切り抜けるしかないな。
「どうやってここまで来たのかしら?」
絶句していると、疑問に思ったのかセリアが不思議そうな顔をして聞いてきた。
「ここに来るまで、魔物と遭遇しなかったんだ」
正直に話すとセリアがため息をついていた。
「しょうがないわね、仕方が無いから私達に付いて来なさい」
「え? それはどういう事だ?」
「ここはダンジョンの中間辺りなのよ。だから、さすがに戻ってまでは助けられないわ。でも、見捨てるのは偲びないものね。だから、このまま私達に同行して目的を達成したら戻ると言うことよ」
「おお、それは助かる。よろしくお願いします」
ありがたい申し出に、ぺこりと頭を下げて感謝の言葉を伝える。
そして、セリアとセレナの2人とダンジョンを歩き始めたのだった。




