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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第一章 特効薬開発
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50話 エミリーさんのとんでも理論

 ギルドに入ると、洞穴のダンジョンに居た2人組の女性がいた。


 「あっ! あの時の薄情物! あんた生きてたの?」


 俺が文句を言う前に赤髪の女性の方が嘲るように話しかけてきた。


 こいつ! まったく悪いと思ってないな?

 俺はお前らの所為で死に掛けたんだぞ?


 エルフの女性の方は、ほっとしたような顔をすると小さな声で『良かった』と呟いていた。


 「アーチェ、早く行こう」


 「待ってください、レイチェル」


 「あ、おい」


 魔物の擦り付けの文句を言おうとするも、赤髪の女性はギルドからさっさと出て行ってしまう。

 アーチェと呼ばれたエルフの女性の方は、俺の前でぺこりとお辞儀をするとレイチェルを追いかけてギルドから出て行った。


 あの赤髪の方がレイチェルで銀髪のエルフがアーチェと言っていたな。

 こいつらには気をつけよう。




 「ナタリアさん、エミリーさん、こんにちは」


 エミリーさんが拗ねないように、エミリーさんにもしっかりと挨拶する。

 やれやれだぜ。


 「こんにちは達也さん」


 「達也君の所為でこの前は怒られたんだからね? 達也君なんか嫌いよ」


 ナタリアさんは笑顔で挨拶を返してくれたのだが、エミリーさんの方は突然とんでもない事を言い出したかと思うと怒って俺に背を向けてしまった。


 俺の所為? エミリーさんが仕事中に居眠りをしていたからだよね?

 どうしてそうなった? 


 相変わらずのエミリーさんに苦笑しつつ、ナタリアさんにレイチェルとアーチェの事を聞いてみる。


 「達也さんも何かされたんですか?」


 「も? って事は他でも被害者がいるんですか?」


 「はい、何件か魔物の横取りなどの報告が来ています」


 他にも被害者がいたのかと驚きながら魔物を擦り付けられた話しをすると、ナタリアさんは深刻そうな顔をしていた。


 魔物の擦り付けは命の危険があるため、最悪の場合は犯罪者として逮捕された上に冒険者資格の剥奪まであるそうだ。

 ただ、あの2人組は西の都の方面に行くと言っていたらしいので、もう出会う事はないだろうとの話しだった。


 とりあえず話す事は話した。

 後は、ナタリアさんに兎肉の話しをするだけだ。



 案の定というか『特に兎肉は高価な肉ですから貰えません』と毅然とした態度で断られた。


 さすがは信頼と信用のナタリアさん。

 まあ、ここまでは想定内だ。


 エミリーさんをちらりと盗み見ると隣で聞き耳を立てているようで、予想通り高価な肉という言葉でぴくりと反応していた。


 よし、ここでエミリーさんを投入だ。


 「まあまあ、娘さんが持って来るわけですし、俺のことを優遇しなければいいだけですよ。難しく考えすぎです。何でしたら、エミリーさんも一緒にお肉を食べますか?」


 さりげなくエミリーさんの目を見て、上手くやれば肉にありつけるぞ? と話しを振る。

 俺のアイコンタクトが通じたのか、エミリーさんは俺に『わかったわ』と親指を立てていた。


 頼むぞ、エミリーさんのとんでも理論。


 そして、エミリーさんがナタリアさんに高らかと宣言した。


 「ナタリア、残念だけど貴方に選択権は無いの。いい? 達也君はね、私にお詫びするために兎肉を持ってきたのよ。ナタリアはただの口実のため。わかった?」


 エミリーさんに意図が伝わったかと思ったが、とんでもなかった。

 エミリーさんの予想の斜め上を行くとんでも理論にどんびきしてしまう。


 ナタリアさんは最初『え? あの?』と戸惑っていたようだが、そういうことでしたらと最後には了承していた。


 ナタリアさん、納得しちゃ駄目でしょう?

 肉を食べてくれるのはいいんだけど、納得しちゃ駄目。


 解せぬと思いつつも、ナタリアさんが食べてくれるならいいかと余計な事は言わないことにした。

 軽く挨拶をしてギルドを後にする。


 ギルドを出る時に『まったく、素直に謝れば許してあげるのに、達也君も素直じゃないわね』とエミリーさんが鼻で笑っていたが聞かなかった事にした。





 ここは、ナタリアの家。


 ミュルリが、達也に頼まれた兎肉を1kg程持ってきた。

 今は、その兎肉を料理している所である。


 「ナタリア早く!」


 エミリーがナタリアに催促する。


 「はいはい、今作りますよ」


 「お母さん、お塩はこんなもんでいい?」


 「う~ん、もう少しかな?」


 ミュルリがナタリアの料理を手伝っていた。

 作っているのは兎肉のシチューとステーキである。


 「ミュルリはホントに食べていかないの?」


 「うん、家にもあるんだよ。それにお爺ちゃんとお兄ちゃんが家で待っているから」


 「ナタリア! 早く」


 「はいはい。さあ、できましたよ。飲み物を用意しますから少しだけ待って下さいね」


 しかし、エミリーはすでに食べ始めていた。


 「めっちゃうまい! 何これ? 何の肉?」


 「もう、エミリーは……兎肉と言ってましたよね? 達也さんのレベルだとホーンラビットでしょうか? ミュルリは聞いていますか?」


 「わかんない、兎肉としか聞いてない」


 「そうですか、でも久しぶりですね。ロイドに連れて行ってもらったレストランでホーンラビットの肉を食べたんですよ」


 ナタリアが遠い目をして思い出を語る。


 「あのね、お爺ちゃんが特効薬をね……」


 そこまで言うと、ミュルリはごにょごにょと口を紡ぐ。


 特効薬を作ったはいいが父親であるロイドが帰ってくる保障はない。

 上手く行かなかった時に、母親のナタリアを悲しませてしまうだけだと考えて今までも言えなかったのだ。

 達也がすでに話しを通しているというのに、それでもミュルリは言い淀んでしまっていた。


 ナタリアは、どうしたの? とミュルリを愛おしげに見た後にステーキを食べる。


 「おいしい! でも、おかしいですね? 前に食べたホーンラビットのお肉はここまでおいしかったでしょうか? それにしても、達也さんもついにホーンラビットを倒せるくらい強くなったのですね」


 「ナタリアおかわり。早く! 無くなっちゃうでしょ! 肉焼いて肉! これいくらでも食べられるんだから」


 「はいはい、今焼きますよ。1kgもありますから、そんなに慌てなくても無くなりませんよ」


 しかし、エミリーによって持ってきた1kgの殺人兎の肉は、その日の内にすべて食べられたのだった。

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