46話 ホールアリゲーターの怖さ
また外した! これで何本目だよ。
すでに、30本の矢を放っていた。
そして、そのうち10本もの矢を外していた。
ホールアリゲーターは、鱗になっている表皮が硬くてダメージが通らず強靭なタフネスまで持っている強敵だ。
しかし、本当に厄介なのはその低い姿勢による狙い難さだった。
戦車の装甲みたいに平べったいため、角度がなければ背中に当たっても矢が刺さらず弾かれて、しかも狙い易い大きな胴体部分は硬い鱗の表皮に守られているおまけつきである。
角度をつけて射れば胴体部分にも刺さりはするが、大してダメージは通らず与えたダメージはたったの1だった。
となると、少しでも柔らかい顔を狙うしかないわけだが……
ただでさえ平べったい顔のため狙える面積が狭すぎた。
くそっ! 退路の確認をしないと。
バクン!
「うおっ!」
びっくりした。
逃げ道の確認のためにほんの少しだけ背後を振り返って、前を見たら目の前にいやがった。
ホールアリゲーターの瞬発力が半端じゃない。
ちょっと目を離したらかぶりとやられる。
俺のステータスだと、このレベルの魔物には1回噛まれただけで終わりなんだ。
結構な距離があったはずなんだけどな。
まだ心臓がどきどきしている。
わざわざ速度の遅い敵を選んで戦っているんだ。
その魔物にやられたんじゃ話しにならない。
もっと丁寧に戦おう。
気持ち多めに距離を取りながら、安全に安全を重ねるように攻撃を繰り返していた。
近づけば命中率は上がるのだが、近づくのが怖い。
ホールアリゲーターの刹那の突進が恐ろしかった。
苦戦してはいたのだが、なんだかんだでホールアリゲーターの残りHPはあと6まで減る。
1発で1~4くらいダメージが入るから、あと2~3発だろう。
しかし、戦っていたホールアリゲーターの東の方から、もう1匹ホールアリゲーターがやってきた。
迂闊だった。
距離を取る時に不必要に恐れて移動しすぎてしまったんだ。
でも、それだけが原因のすべてではない。
倒すまでに時間が掛り過ぎている。
もう、ライトボウガンでは完全に火力不足なんだ。
どうする?
逃げるか?
でも、それだと矢の回収ができないんだよな。
それに、せっかくここまでHPを減らしたんだから経験値だって欲しい。
仕方が無い。
ライトボウガンを腰のベルトにぶら下げると、懐からベレッタをすらりと取り出す。
安全装置をはずして無傷の方のホールアリゲーターに銃口を向けると、ゆっくりとトリガーを引いた。
パン! と小口径銃の軽い音が鳴ると、ホールアリゲーターの頭部から血飛沫が舞う。
いつものように1発で終わりかと思いきや、しかし被弾したホールアリゲーターは未だびくびくと蠢いていた。
お? すごいな1発で死ななかったぞ。
すかさず、2発目を撃ち止めを刺す。
ホールアリゲーターはそのまま沈黙した。
まったく、嫌になっちまうよ。
ホールアリゲーター1匹にあれだけ苦労して立ち回っていたんだぜ?
それをこんなにあっさりとよ……
「ちっ、無駄弾を使わせやがって」
思わず愚痴が出る。
それにしても、1発で死ななかったのは驚いた。
このクラスのタフネスだとベレッタでは火力不足ということか。
まあ、データは取れた。
ベレッタに安全装置を掛けて懐にしまう。
残ったホールアリゲーターは恐怖したのか硬直したように動きを止めていた。
これは好機と、急いで2連装ライトボウガンを装備して止めを刺す。
すると、その瞬間にレベルが上がった。
もう上がったのか?
どうやら、真珠貝タートルを倒しすぎたようだ。
ちなみに、倒す魔物が自分よりもレベルが低いと貰える経験値が激減する。
そのため、自分よりも低いレベルの魔物でレベルを上げるには相当な数を倒さないといけない。
その反対に、自分よりレベルの高い魔物を倒せば多くの経験値を貰える。
しかし、レベルが上がると経験値は切り捨てになるため、強すぎる魔物を倒しても損するだけで1回で2レベル以上は上がらない。
ステータス画面を見ると力がちょうど40になっていた。
予想通りだ。
それにしても、デビュー1日目で2連装ライトボウガンが終了とはな。
親父の言っていた通りだったな。
もっとも、2連装ライトボウガンがなければこんなに早くレベルが上がらなかっただろうけど。
帰ったら、親父に2連装ボウガンの制作を依頼しないとな。
えーと、また改造に2~3日くらいかかるのか?
あれ? そうするとその間はダンジョンに行けなくなるのか?
いや、違う。
それまでは2連想ライトボウガンを使えばいいんだ。
良かった。
デビュー初日で終了なんて、さすがにちょっぴし悲しいもんね。
矢を回収すると銃で仕留めた方の鰐革を回収する。
矢で仕留めた方は穴だらけだったので革はあきらめる。
今日はもう帰るから肉も持って行くか?
だけど、おばちゃんがそれほど人気が無いと言っていたからな。
重くなるから止めておこう。
戦利品の鰐革をリュックに入れると、ダンジョンの出口へ向かった。




