40話 特効薬のお値段は?
「なぜ売れんのじゃあ!」
親方の叫び声が閑散としている工房に鳴り響いていた。
特効薬を商品として並べてから、すでに5日が経過している。
だが、まだ1つも売れてはいなかった。
正直、特効薬が売れようが売れまいが俺にとってはどうでもいい事なのだが、しかし、特効薬の作成には1つ大きな問題があった。
それは、特効薬はソーン10個を濃縮して作るため、特効薬を1つ作るとソーンの在庫が10個減る事である。
つまり……
「お兄ちゃん、ソーンの在庫が足りないから追加でお願いね」
「う、わかった」
と、まあ、ミュルリからソーンも作ってとお願いされて、午前中は特効薬作りをして午後はソーン作りとまったくダンジョンへ行く事ができない状態になっていたのだ。
すでに親父からは2連装ライトボウガンを受け取っていたので、早くダンジョンへと行きたいってのにな。
やれやれだぜ。
それはそうとして、特効薬が売れない原因はあきらかである。
なぜなら、特効薬の販売価格が1つ100万エルといったぶっ飛び価格だったからだ。
親方曰く、ヒールポーションの価格を考えれば完全に破格であるとのことなのだが。
しかし、考えてみて欲しい。
このお店に来る客は1つ5000エルで売られているソーンを買いに来るのだ。
そのお客さんが、1つ100万エルで売られている特効薬を買うだろうか?
否、あきらかに客層が違う。
ただでさえ、公の場で効果を実証して証明していないんだ。
いくら親方が有名な薬師と言っても、ちょっと試してみようと言える価格じゃないよね。
まあ、ヒールポーションを買い占めるような連中の場所へ持っていけば売れるかもしれないけど、そんな闇の販売ルートに伝手なんてないだろうからな。
しかし、どうするかな?
このままだと、いつまで経ってもダンジョンへ行けないぞ?
作戦を考えねば。
腕を組んで目を閉じると瞑想する。
むにゃ、むにゃ、むにゃ……チン!
ひらめいた!
そして、俺は思いついた作戦を実行する。
作戦1
まずは、俺まで特効薬を作っている現状を止めさせるのだ。
現在、特効薬の在庫は無意味に永遠と増えていて、その分ソーンの在庫は確実に減っている。
そして、その分のソーンを俺が追加で作らないといけないとは、これでは不毛なうえにジリ貧ではないか。
つまり、これは悪。
悪は滅しなければ成らん。
そう、人として止めねばならんのだ!
だから決して、俺が作るのが大変だからとかではない。
ホントダヨ。
自らの行動に論理的な正当性を持たせると、早速作戦を開始する。
「親方! お話があるんですが?」
「ふん! なんじゃあ?」
親方に話しかける。
親方はいらいらしているのか、とても不機嫌そうだ。
「あのですね、特効薬は息子さんのために親方だけが作るべきだと思うんですよ。あくまでも親方の力によって、息子さんが戻ってくるべきだと思うんですよね、俺は」
「達也……お前」
親方は目を見開いて、驚愕しているようだった。
そして、俺の肩に手を乗せると感動に打ち震えたように瞳をうるうるとさせていた。
親方は『特効薬作りはわしにまかせろ』と言うと、はりきったように特効薬を作り始めた。
親方の後ろ姿を見つつ、にやりと笑う。
フフフ、計画通り。
しかし、ものすごい罪悪感だよ。
すまねえ、親方!
だが、背に腹は変えられないのだ。
作戦1クリア、これより作戦2に移行する。
作戦2
ソーンの需要数を合法的に減らすのだ。
何をするかと言うと、サムソンさんが予約しているソーンの個数を交渉して減らすのである。
そうすれば、その分のソーンを作らなくて済むからだ。
もちろん、正式な契約書があるため両者合意でなければいけない。
どうするのかというと、現在売れずに余っている特効薬をサムソンさんに売るのである。
ソーンではなく特効薬の方を購入してもらって、その分必要無くなった予約分のソーンの数を減らすよう交渉するのだ。
もちろん、これは決して悪いことではない。
サムソンさんは、激戦区と噂される魔大陸から来ていると言っていた。
ならば、サムソンさんが買ったソーンを使う人達はきっとHPの多い上級冒険者のはずだからだ。
だから、サムソンさんにも必ず喜ばれる。
そう、これはWIN、WINの取引なのだよ。
早速ミュルリに話して、サムソンさんに連絡を取ってもらった。
作戦を実行する。




