32話 ホーンラビットの脅威
お目当てのホーンラビットを発見した。
ホーンラビットはまだこちらに気づいていない。
先制攻撃のチャンスだ!
ホーンラビットは、兎としては大きいのだが全長が50センチくらいの額に小さな角が生えている兎だ。
恐ろしく速いので攻撃を当てるのが難しいらしい。
しかし、攻撃力が大したことないのと、HPが低いため普通は脅威ではないそうだ。
親父のアドバイスを思い出す。
確か、基本は不意打ち狙いだったか?
慎重に索敵して見つからずに発見して、動いていない時に攻撃しろと言っていた。
そして、最初の1発は絶対に外すなと。
逆に言えば、動き始めたら厄介で大変な事になるってことだよな?
まあ、俺に限ってはなんだろうけど。
狙いを澄ませるとライトボウガンで攻撃した。
ホーンラビット
レベル2
HP10
MP0
力5
魔力0
体力5
速さ60
命中20
的は小さいがそれでも50センチはある。
動いてさえいなければ、当てるのはそれほど難しい事ではない。
ぽかんとしていたホーンラビットの脳天に鉄の矢尻の矢が突き刺さった。
そして、その1発でホーンラビットは動かなくなる。
「あっけない」
まあ、速度特化型は軽量な代わりに装甲は薄いと相場は決まっている。
当たれば終わりだ。
親父から教わった基本戦術は、遅い敵は速さで距離を取って、速い敵は不意打ちで殲滅するだ。
自分が弱くても戦術次第でどうにかなるもんだ。
上々な戦果に意気揚々とホーンラビットに突き刺さった矢を引き抜くと、不意にもしこの矢が外れていたらとネガティブな思考が脳裏をよぎった。
もし、速くて固い敵が出てきたら?
次から次にネガティブな思考が連鎖して溢れてくる。
駄目だ! 今は考えないようにしよう。
次のホーンラビットを探すと5分と掛からずに発見する。
しかし、今度はこちらの存在に気づかれたようで、ライトボウガンを向ける前にこちらへと駆け出してきた。
いつかのゴブリン戦が頭をよぎる。
恐ろしく速い! 小さくて狙い難い。
俺はあの時よりもレベルが上がって強くなっている。
命中も上がって動体視力も上がっている。
なのに、ホーンラビットに狙いを定めることができなかった。
親父の言っていた『最初の1発を外すな』という言葉を思い出す。
ライトボウガンは銃と違って連射はできず、動きの速いホーンラビット相手では矢を再装填している余裕もなくて距離を取る事もできない。
最初の1発も何もこれじゃあ最初の1発も当てられないだろ?
いや、違うか。
不意打ちができなかった時は最初の1発を外したのと同じなんだ。
まごまごしている間に、20mはあった距離をあっという間に10mまで詰められる。
速すぎる……これは当てられない。
次の矢を装填している時間は無い。
一か八かぎりぎりまで引き付けてから撃つ。
距離が5mまで縮まった瞬間に矢を放つと、矢はホーンラビットの頭数cm上を通り過ぎて行った。
眼前に迫るホーンラビットを睨む。
誤って踏みつけてしまわないよう、ライトボウガンは腰に装着しておきたかった所だが……
生憎とそんな時間はない!
躊躇無くライトボウガンを脇に投げ捨てると、代わりに盾とロングソードを装備する。
突っ込んできたホーンラビットの突進をすかさず盾で受け止めた。
ズガンと勢いがついているだけあってなかなかの衝撃が来る。
盾を押しのけるようにして即座に反撃して斬りつけると、刃の部分で斬れはしなかったがホーンラビットに剣が直撃していた。
よし、行ける!
動きは速いがなんとか見える。
ライトボウガンでは難しいが剣なら当てられるぞ。
そう思っていた時期が私にはありました。
ホーンラビットが右へ左へとステップで移動してこちらを翻弄してくると、途端に動きに付いて行けなくなる。
執拗に足もとを移動しては短い角を突き刺してくるホーンラビット相手に、咄嗟に反撃するも攻撃はすべて空振りでこちらの剣を振る動作よりも速かった。
何とか目では追えているのだが肝心の体の方はまったく付いて行けず、少しフェイントを入れられただけで、もうまともに剣を当てられない。
さらに、振り回した剣の所為で体勢が崩れてしまって、ホーンラビットの攻撃も避けられないという悪循環のおまけつきだった。
くそっ! 完全に速度負けしている。
しかし、闇雲に振っていた剣が出会い頭にホーンラビットに直撃する。
「おっ?」
ホーンラビットは何でもないように体勢を立て直して動き回る。
どうやら致命傷には程遠いようだ。
まあ、当たったのが剣の刃の部分ではなかったからしょうがない。
お互いに少し距離を置いてしばし睨み合う。
うーん、正直困ったぞ?
攻撃が当たらないのが問題なんだよな。
タイミングさえ合えば当たるんだが。
しかし、何度か攻撃を受けて改めて認識した。
ホーンラビットは攻撃力が低い。
ならば、回避に使っていた動作を減らして攻撃を重視すればいい。
肉を斬らせて骨を断つ作戦だ。
激戦の末、なんとかホーンラビットを倒す事ができた。
否、完全に足を止めての殴り殴られの無様な泥仕合だ。
普通なら剣の1振りで終わるんだろうけど、倒すまでに3回も斬りつける必要があった。
しかも、その間に受けた攻撃は5回だ。
ステータスの差で負けはしないだろうけど、ずいぶんと酷い戦い方である。
戦えなくは無いがジリ貧になるな。
こんな戦い方じゃあソーンがいくらあっても足りないぜ。
ミュルリからはソーンをいくら持っていっても良いと言われてはいる。
しかし、親しき仲にも礼儀ありであからさまに甘えるわけにはいかない。
普通に購入すればソーンは1個5000エルするのだからな。
もっと慎重に索敵しよう。
HPが回復したのを確認すると、ダンジョンの奥へと歩を進めた。




