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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第一章 特効薬開発
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26話 頼れる親父

 時間の無駄だったか。


 ため息をついて店の出口へ向かうと、落ち着きを取り戻したようすの親父が引き止めてきた。


 「まあ、待て。とりあえず、達坊のステータスがどんなもんか見せてくれ」


 いつもの雰囲気とは違う厳かな親父の声に振り返ると、親父が真剣な顔をしていた。

 親父の顔をまじまじと見る。


 冒険者にとってステータスは成績表のようなものだ。

 当然、数値が低ければそれがそのまま弱みになるわけで、俺がボッチなのはそれが原因みたいなものだからな。

 だから、あいまいならまだしも、正確な数値となるとそうそう教えられるようなものじゃない。


 親父もそれは理解しているだろうから、そのうえで聞いてきたわけだ。


 やれやれ……

 さすがにここで見せたくないとは言えないよね?


 親父に冒険者カードのステータスを見せる。


 ちなみに、冒険者カードの方はステータスの数値だけで装備は表示されない。


 日坂部達也 年齢18

 冒険者レベル2

 HP15

 MP0

 力7

 魔力0

 体力7

 速さ10

 命中20


 「達坊……おめえ、髭モグラに苦戦するくらいだから弱いだろうと思っていたが……これ程とはな」


 親父がどうしたもんかと苦笑していた。


 ちなみに、一般の冒険者のステータスの初期値は低くても20前後はあるそうで、魔力やMPが0なのは普通だから問題ないとしても力と体力が2桁行ってないのはまずいのだそうだ。

 そして、俺みたいな村人レベルというステータスの人は普通は冒険者に成らないとのこと。


 『ナタリアちゃんに冒険者になるのを止められなかったのか?』と聞かれ、言われたと肯定する。

 親父は『だよな』と短く答えて目をつむった。


 やっぱり無理なんだろうか?

 

 ずっとだんまりの親父に焦燥感がつのっていく。


 「それでも……やるんだろ?」


 親父がゆっくりと俺に意思を尋ねてくる。

 黙って頷く。


 「俺は、お前が無謀だとわかったうえでやっている、という認識でいいな?」


 「ああ」


 親父が俺に再度覚悟を尋ねてくる。

 わかっていると力強く頷く。


 仮にそれで死んだとしても親父の所為せいにはしないさ。


 「よっしゃ! 俺に任せとけ」


 親父が自身の厚い胸板をドシンと叩いて心強い返事をしてくれた。



 「まず、達坊は力も体力も速さもないから接近戦は駄目だな。重いが頑丈な防具で身を固めることも早さで避ける事もできねえ。つまり、攻撃されたらもう駄目。となると、魔物の攻撃の届かない遠距離から攻撃するくらいしか方法は無いんだが……。パーティメンバーがいれば盾になってもらう事ができるんだが、それも無理なんだろ?」


 黙ったままこくりと頷く。


 親父の的確な分析によって、自分の問題点と無謀と言われた理由が明確めいかくになる。

 本当にどうしようもないな。


 「まあ、そっちの方は俺に考えがあるからいいとして、それよりも力が無い事が問題なんだ」


 「力?」


 「そうだ。遠距離から弓で攻撃したくても、肝心の弓が引けないんだよ」


 親父はそう言うと『こいつが魔物の表皮を貫けるぎりぎりのやつだ』と弓を手渡してきた。


 受け取った弓を引こうとして、だが弦が強くて引く事ができなかった。

 まるでピンと張った針金のような、あまりの弦の強さに驚愕してしまう。


 どうしようもない現状に不安になって親父を見る。


 すると親父は、にやりと頼もしい笑みを浮かべ『こいつを使え』と言ってライトボウガンを渡してきた。


 「お前にはこいつが最適というか……クロスボウしか道はない」


 「クロスボウ?」


 「ああ、そうだ。クロスボウなら腕力が低くても使う事ができるからな。それに使い手の力の強弱で威力も変わらない。求められるのは矢を装填できて当てる事ができるかだけだ」


 ライトボウガンの使い方を親父から教わる。

 足を引っ掛けて後背筋を使って引いて弦を装填すると、親父が『何とか引けたか』と少し安堵したような声で呟いていた。


 おいおい、ライトボウガンですら怪しかったって俺ってどんだけ弱いの?


 ちなみに、親父の筋肉講座によると、後背筋は腕の5倍~6倍くらいの力があるから腕力の低い人でも強力な弦を引く事が可能になるとのことだった。

 そして、ライトボウガンは引けたのだが、親父に試しに引いてみろと渡された標準のボウガンの方は引く事ができなった。

 まあ、ライトボウガンは20万エルで購入できたが、ボウガンは120万エルと高額でどっちにしろ購入できなかったけど。


 当然ながらライトボウガンとボウガンでは威力がまるで違うわけで、ライトボウガンでは小型の魔物を相手にするのがやっとなのだそうだ。

 しかし『レベルが上がって、力のステータスが40くらいまで上がればボウガンも引けるようになるだろうよ』とのことだったのでその辺は問題ないだろう。


 その後は、親父の戦術講座でいろいろな事を教えてもらった。



 ライトボウガンの20万エルを払い、親父に礼を言って店を出ようとすると、親父が『矢は購入しないのか?』と笑いながら聞いてきた。


 矢の事をすっかりと忘れていた。

 そして、もう金が無い事に気づく。


 工房に急いで戻ると、前に倒したゴブリン戦での残りの金を持ってくる。

 そのお金で木の矢を10本だけ購入すると、親父が矢筒はおまけだと無料でくれた。

 矢にも種類があって、安いやつだと1本500エル、高価な物になると1本が数十万エルなんてのもあるみたいだ。


 弓は威力が低いため、魔物によっては何十発と攻撃しないと倒せないらしく、本来は最低でも50本単位で矢筒に入れておくんだそうだ。

 矢の切れ目が命の切れ目なので早めに定数の50本は揃えておきたい。


 さらに、他にも必要な物がある。

 弦が台座にこすれて寿命が短くなるため、本来ならワックスと弦の予備が必要なのだそうだ。

 結構な頻度で弦が切れるらしいので、お金ができたら予備の弦だけでも早めに購入しておきたい。


 親父はただの筋肉馬鹿ではなかった。

 相談して良かったと感謝しながら『もう自分の体で刃を受けるなんて馬鹿な真似は止めろよ』と言って店を出る。

 親父は『わかってる、これからは右側だけでやるよ』と答えた。


 どうやら、親父の脳みその半分は筋肉でできているらしい。

 これは、死んでも治らないなと苦笑しつつ、洞穴のダンジョンへ向かった。


 さあ、髭モグラにリベンジだ!

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