23話 達也は隠れた名人?
この世界では、怪我の回復手段は3つある。
それは、ヒールの魔法、ヒールポーション、ソーンの3つだ。
ヒールは傷を一瞬で治す事ができる魔法で、ヒールポーションは魔法を入れておける使い捨ての媒体にヒールの魔法がは入っている物である。
しかし、ヒールの使い手は世界で100人もおらず、高レベルのヒールの使い手でも1日に2~3回しか使うことができないそうだ。
その為、ヒールポーションは需要に対して供給が困難なことから、1つ500万エルといった馬鹿げた金額で販売されている。
もっとも、その法外な価格でさえ、法律でBランク以上の冒険者しか購入できないようにして、上限の販売価格を500万エルと決められているからなのだそうだ。
当然裏取引もあり、闇の末端価格は数千万~数億エルと言われている。
つまり、実質的にはソーンがこの世界においての傷の回復手段なのだ。
故に、冒険者はこのソーンを持って今日もダンジョンに行く。
「ソーンを下さい」
「ありがとうございます」
いつものように、ミュルリが笑顔で接客をする。
「あの? すいませんソーンを頂けますか?」
今度は女性客がソーンを求めて来客してきた。
次から次へとお客さんが来る。
「信じられるか? この店のソーンはすべて最高品質なんだぞ? すべて理論値の最大の30まで回復するんだ」
「ああ、今までは20~24前後だったのにな。薬師ゼンの匠の技、ここに極まれりといった所だな」
「はは、酷いのになると回復量が5とかあるから以前でも充分すごかったのだがね」
厳つい顔をした戦士とその仲間の騎士が談話に花を咲かせる。
「少し前までは、大概は売り切れていて購入することができなかったんですけど、最近はなぜかあるんですよね」
そこに、先ほどソーンを購入していた女性が戦士と騎士の会話に加わってきた。
話し掛けられた騎士が『ご高齢と聞いていたが、まだまだ若い者には負けんと言った所ですかな?』と話しを弾ませていた。
ミュルリは困った顔で『今は、お爺ちゃんではなくてお兄ちゃんが作っているの』と否定するが『はっはっはっは』と大笑いされて『ミュルリちゃんも冗談が上手になったなあ』とまったく信じてもらえていなかった。
サムソン以外の常連客は達也が作っていることを知らないのである。
そんなこととは露知らず、俺は毎日工房でひたすらソーンを作り続けていた。
パーティを組むと時間の融通が利かなくなるかもしれないので、今日もソーンの在庫をせっせかと作る。
あれから1週間、ダンジョンへは行っていない。
パーティを組んでからにしようと決めていたからだ。
どんなやつらとパーティを組むことになるのだろうな。
今からわくわくが止まらないぜ。
もう少しだけソーンを作ったらギルドへ確認に行く予定だ。
そんな事を考えていると、ミュルリが声を掛けてきた。
「お兄ちゃんちょっといい?」
「うん? かまわないよ」
作業を止めて答える。
少し早いかもしれないが今日はこれで切り上げるとしよう。
「あのね、お兄ちゃんが作ったソーンがね、ものすごく評判がいいの。多くのお客さんが最高だって褒めてるの。でもお爺ちゃんが作った……」
「え? 本当か? その中に女の子はいた? かわいい子? いや~困ったなあ。このすばらしいソーンを作ったのは貴方なのですか? とか突然聞かれちゃって、俺がそうですよと答えて……素敵! 結婚してとか求婚されちゃったりなんかして」
ミュルリが何か言い掛けていたようだが、今はそんな事はどうでもいい。
うへへへ、ついに俺の時代が来たか?
「お兄ちゃん、あんまり調子にのらないでね? あと、晩御飯は抜きだから」
ミュルリが険のある声で答えると、ムスっとした顔をして店のカウンターへと戻ってしまった。
「え? ミュルリさん? 何を子供みたいな事を言って……って子供じゃないかああああああ!」
1人ボケ1人突っ込みをしている間に晩御飯が抜きになってしまった。
ミュルリのやつ、俺がもてるから嫉妬したんだな。
わかる、わかるぞ、その気持ち。
美男美女がみんな持っていってしまうんだよなあ。
でも、おかしいな?
ミュルリは可愛いから嫉妬される側だろ?
今だって天使みたいにかわいいし、大きくなれば美人さん確定してるしな。
この辺の子供は見る目がないのかな?
いや、小さな町だし同年齢の子供があまりいないのかもしれないな。
やれやれと嘆息すると、片付けをしてギルドへと向かった。




