22話 特効薬最後の難題
「だめじゃあ! どうにもならんのじゃあ!」
工房に戻ると親方の喚き声が聞こえてきた。
親方の傍では、ミュルリが『お爺ちゃん、落ち着いて』と心配そうになだめている。
あの親方はまた孫に迷惑かけてるのか。
ほんとにしょうがねえな。
あきれながら親方の傍まで近づいて行くと、こちらに気づいたようすのミュルリが『お兄ちゃん助けて』と目で訴えてきた。
軽く手を上げて『俺にまかせろ』と伝えると、ミュルリが安心したような顔になる。
「親方、何がどう駄目なんですか?」
興奮しているようすの親方に、少しでも落ち着くようにゆっくりとした口調で話しかける。
こういった時は問題の解決にならなくてもいいから理由を聞くことが大切だ。
人に話す事で自分の考えがまとまって落ち着くからである。
「石臼のおかげで水晶の粉は混ざったのじゃ、だからそっちの問題は何とかなった。じゃが、ソーンを濃縮したものを、濃縮することができんのじゃあ。焦げ付いてしまうのじゃあ」
親方が血走った目をぎらぎらとさせながら叫ぶ。
どうやら親方は相当参っているようすだ。
要領を得ない親方の説明をまとめてみる。
まず、特効薬を作るために繋ぎとなる薬品を精製しなければいけないそうなのだが、今までは水晶のきめ細かさが足りなくてソーンが上手く混ざらなかったのが、石臼のおかげで解決してソーン同士の繋ぎの薬品ができたんだそうだ。
そこまではいい、しかし繋ぎの薬品とソーンを濃縮する行程で焦げ付いてしまって上手く作ることができないとのことだった。
要は、ソーンは薬草を濃縮した物なので、ソーンをさらに濃縮しようとすると焦げ付いてしまって濃縮ができないとの事だ。
要点はわかった。
ならあれだ、濃縮還元の考え方を応用すればいいだけだ。
「親方、ソーンと薬品を混ぜてから、1回水で薄めてまた濃縮したらいいんじゃないですかね?」
「何をそんな……ば、馬鹿な?」
親方が狐に頬を抓られたような間抜けな顔になると、突然怒りだして俺の襟首をつかんできた。
「達也! 貴様はわしに、達也の方がわしより天才だと認めろというのか?」
「知りませんよそんなの」
俺が答えると、親方は俺の襟首をつかんだままがくがくと揺すってくる。
「濃縮した物をまた薄めるとか、そんな発想ができるかボケェー」
「それより親方、早く試してみなくていいんですか?」
目的を忘れて暴走してしまっている親方に目的を思い出させる。
親方は俺を突き飛ばすと『今いくぞ! 息子よ』と叫びながら研究室へ走って行った。
工房にへたり込んでいると、ミュルリが近づいてきてニッコリと笑顔で『ご苦労様でした』と労ってくれた。
とんだ骨折り損かと思っていたが、この笑顔が貰えるなら報酬として悪くはないな。
それより、特効薬の開発は親方のボケ防止のために方便で言っただけだったんだがな。
なんか、本当に特効薬が完成しそうな勢いだ。
本当にできたら、すごい事になるんじゃないのか?




