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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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221話 為すべき事

 高速哨戒艇で颯爽と海を渡るとエルフの里に足を運ぶ。


 「ティア、久しぶり」


 「うむ、そのようすだと健勝なようじゃな」


 「ああ。それより、ミスリルの方はもう出来てるのか?」


 「ふふ、万事抜かりは無いわ。3日ほど前にミスリルの精錬が終わったとボルツの方から連絡が来ておるでな」


 「はは、仕事が早くて助かる」


 「のう、達也。今日はセレナは来ておらんのか?」


 笑顔でティアと話していると、ティアが俺の後ろをきょろきょろと気にしながら尋ねてきた。


 「え?」


 「わしは嫌われてしまったかのう?」


 「ああ、それなら心配無いよ。ちょっと用事で姉のセリアから5日ほど離れていたから、セレナは寂しくなったみたいで今は姉のセリアに甘えてるよ」


 精錬場に向かう道すがら、少しさみしそうな顔で尋ねてきたティアに笑顔で答える。


 「そうか? それならばよいのじゃ」


 「ティアは心配症だな」


 「ふふ、わらしはかわいいからのぅ。それにセレナはとんでもない才能も持っておるでな。と、着いたぞ。ボルツ! 居るか?」


 嬉しそうな顔で話すティアと会話しながら轟々と燃え盛る炉のある精錬場に入る。

 ティアに呼ばれてボルツが恭しい態度で顔を出すも、俺の顔を見てすぐに嫌のある顔になった。


 「これは親方様、む? 人間か? フン、ミスリルの方なら出来てるぞ。私は忙しい、そこに積んであるからとっとと持っていけ」


 「どうも。あの、それとは別にボルツさんにお願いがあるんですが?」


 「お願いだと? 断る! 貴様ら人間如きの願いなど……はっ!? まさか! いまさらスカイドラゴンの素材で装備を作るのを止めて欲しいと言っても無駄だからな!」


 ヒュッケの装備の製作を依頼しようとすると、何を勘違いしたのかボルツが急に戸惑ったような顔になって大声で威嚇してきた。


 意外と面白い人なのかもしれない。


 「いえ、そうではなくて、他にも装備を作って欲しいんですよ」


 「私は忙しい。他を当たれ」


 勘違いだと気づいて安心したのか、ボルツが途端に素っ気無い態度になって速攻で断ってくる。


 ずいぶんと現金なやつのようだ。


 「はあ、そうですか。せっかく火竜が手に入ったからボルツさんにと思ったのですが仕方ないですね。他にも伝手があるのでそちらに頼んでみます」


 「なっ! なにぃ!? 火竜だと!? お、おい、待て人間! 早まるな」


 「驚いたぞ達也! おぬし火竜まで倒したのか?」


 「ああ、前に倒したやつなんだけどね」


 「火竜を、火竜を私に見せてくれ。私が最高の装備を作ってやるぞ? おい、聞いてるのか?」


 何やら喚いていたボルツを無視してティアに笑顔で答えると、ミスリルのインゴットをミリタリーバックに仕舞って精錬場から外に出る。


 精錬場から出て10mほど移動した所で、慌てて追いかけてきたようすのボルツに後ろから肩を掴まれた。


 「待てと言っているだろ?」


 「え? ボルツさん? なんですか?」


 「くっ、わかった。私が悪かった。謝るから火竜を見せてくれ。この通りだ! 頼む」


 とぼけた顔で返事を返すと、ボルツが苦渋の顔を作りながらぺこりと真摯に頭を下げてきた。


 やっぱり、この人面白いな。

 まあ、素直に謝罪したし、からかうのはこのくらいにしときますか。


 「達也、おぬしは意地悪じゃのぅ。まあ、ボルツが悪いのじゃが」


 ニッコリとした笑顔で苦渋の顔をしたボルツを見ていると、ティアがあきれたような顔をしてぼそりと呟いていた。



 「おい、人間! 火竜は何処だ? 何処にある?」


 「まあ、慌てないで下さい。今シーツを剥がしますから……よっと」


 ミリタリーテントの中で被せてあったシーツを剥がすと、火竜の破壊された顔が見えてくる。


 「……これが火竜」


 「おお! これは紛れも無く本物の火竜じゃ。モンド大陸で交戦した時は散々じゃったからな……よう覚えておるわ」


 「え? ティアは火竜と戦った事があるのか?」


 「うむ。まあ、あれは戦いと呼べるような代物ではなかったがな」


 「へ? どういうこと?」


 「あれは……そう、皇帝ハインツの時代じゃったかのう? 火竜討伐の為に帝国軍の軍団とモンド大陸を行軍しておる時に遥か遠くからとんでもない機動力で一瞬で空を飛んで接近して来おってな、師団クラスがファイヤーブレスの一撃でほぼ壊滅しおったのじゃ」


 「げっ、それは酷いな。それで、火竜は討伐できたのか?」


 「できるわけがなかろう。不意を突かれた所為で総崩れとなり即撤退したわ」


 「まじか?」


 帝国軍が軍団まで動かして倒せなかったのかよ?

 火竜って結構やばかったんだな。


 ティアに答えながら火竜に被せていたシーツをすべて剥がし終えると、ティアとボルツがそれぞれ感慨深そうな顔で火竜を凝視していた。


 「くっくっく、はーはっはっは! いいぞ人間! お前は達也と言ったか? お前は人間だが特別に許してやる」


 「え? そ、それはどうも」


 火竜を見ていたボルツが突然高笑いを始めたかと思うと、急に許すとか、わけのわからない事を言ってきた。


 おい、何か知らんが何かを許されたぞ?

 この人面白いわ。


 ヒュッケの装備の制作を頼んでボルツと別れると、ティアと一緒に里の出口に移動した。



 「達也、少しだけ時間があるか? わしの槍術とはいかんが、少しだけ稽古をつけてやるぞ?」


 「え? まあ、それほど急いでいるわけじゃないけど? 急にどうしたんだ?」


 「以前にセレナと来た時、ちと、おぬしの様子がおかしかったでな」


 「あれは……すまん」


 心配そうな顔で話し掛けてきたティアに心から謝罪して頭を下げる。


 「それで、どうするのじゃ?」


 「是非ともお願いします」


 「うむ。では、早速稽古に入るわけじゃが、先におぬしの腕を見せてもらうかのぅ。おぬしは剣を使うのであろう? 素振りでかまわぬからやってみせるがよい」


 「ええと、俺のは居合いと言って、ちょっと特殊というか……」


 「何でも良い。とにかくやって見せい」


 「わかった」


 剣を腰に溜めると、暇さえあれば何万何十万回と繰り返してきた動作で抜刀する。


 「ほう、これは……。なるほど、最初の一刀にすべてを賭ける剣術か。中々のものじゃが……達也、おぬし魔物の前で剣が抜けなくなったか?」


 「なっ!? なんでそれを?」


 剣が抜けなくなったことをティアには言っていない。

 女の子の前で格好をつけようとして魔物に殺されそうになったなんて、恥ずかしくて言えなかったからだ。


 「ふむ、なるほどな。様子がおかしかったのはそう言う事じゃったか」


 「ティア! 一人で納得してないで説明してくれ! 何で俺が魔物の前で剣が抜けなくなったとわかったんだ?」


 腕を組んで何やら頷いていたティアに詰め寄る。


 「ふむ、まあ戦いを続ける戦士には良くある話しなのじゃが。いや、理由じゃったな。魔物が魔力の塊で出来ておるのは知っておるな?」


 「ああ、それは知ってる。それでダンジョンに溜まって魔物になるんだろ?」


 「そうじゃ。それで魔物を斬ると剣にその魔力の残滓が残るのじゃよ。それで、おぬしの剣には少なくとも3ヶ月……いや半年近くか? 魔力の残滓が付着しておらんかったでな」


 「そんなことまでわかるのか?」


 「まあ、千年も生きておればいろいろな物が見えてくるものじゃ。じゃが、できるのはわしだけではないぞ? 少数じゃが、確か人間にも似たような事ができるものが居るはずじゃ」


 「え? あ、エンチャンターの事か?」


 そういえば、リムルも魔力の残滓でリーフドラゴンの葉の鮮度がわかるとか言っていたな。


 「それで、どのような経緯で剣が抜けなくなったのじゃ? わしに詳しく話して聞かせるがいい」


 「それは……」


 恥を忍んで剣が抜けなくなった経緯と、その後の葛藤を説明する。


 「俺は、どうしたらいいのかわからなくて……いろいろと試してみて、でも全部駄目で」


 俺がドラゴン相手に有利に立ち回れているのは予め準備して備えていたからだが、そのアドバンテージはもうすぐ無くなってしまう。


 そして、この世界は甘くは無いのだ。


 今回のデスゲームの条件は銃器も仲間も可能な条件だった。

 だが、次は間違いなく……


 そして、その時に剣が使えなければ。


 戦いとは、そうとわかってから準備を急いでも大概は手遅れだ。

 だから、戦争なども戦術より戦略の方が重要視される。


 「そうか、大変じゃったな」


 ティアが労わるような優しい顔で慰めてくれる。


 「魔物が居ない時は本当に何でもないんだ。ただ、魔物が目の前にいる時は体が硬直して震えてきて、それでも無理やり動かそうとすると目の前が真っ暗になるんだ」


 「ふむ。過去におぬしと同じような状態になった者が何人も居るな」


 「え!? そいつらはどうなったんだ?」


 「……剣を抜かねば成らぬ時に抜けたと言っておったな」


 驚いてティアに縋りつくように尋ねると、ティアは感慨深そうに空を見上げながら答えた。


 「剣を抜かねば成らぬ時? ……それは、時間が解決してくれるまで待てってことか? じゃあ、俺はそれまで指を咥えてじっとしてろってのか?」


 「さあのぅ。ただ、剣を抜けなくなった者の中で、再びわしがその話しを聞くことができたのは、剣が抜けなくなった後も弛まぬ鍛錬を続けていた者だけじゃったな」


 ティアが話しながら、ちらりと意味有り気な視線を向けてきた。


 ティアの言葉が心の奥にある何かにスーッと溶けてぴたりと収まる。

 心の奥底から不思議な力が噴出ふきだしてきた。


 己のすべき事が見えた。


 ああ、今この瞬間に俺は爆発的に強くなった。


 スッと目が細まるのを感じながらティアに感謝の言葉を伝える。


 「ティア、ありがとう」


 「ほう、これは……なかなかに良い目をする。ふふ、おぬしも男じゃのう……惚れてしまいそうじゃわい」


 ティアが一瞬驚いたような顔を見せると、すぐに冗談交じりでくすくすと笑い始めた。


 俺には本気で頼れるような人は誰も居なかった。

 だから、自分の足で歩けなくなった時が死ぬ時なのだと、そう思って今まで覚悟して生きてきたんだ。


 敬いか……。


 知らなかったぜ、本当に困った時に道を示してくれる存在がこんなにも尊いなんてな。

 ふふ、ティアとの友好は大切にしなければな。

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