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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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218話 決戦プラチナドラゴン

 「お外は寒いのぅ。セレナお布団から出たくないのぅ」


 「セレナ、いい加減起きろって」


 「やだのぅ!」


 充分な休息を取ったのでそろそろ出発したかったのだが、セレナが寝袋の中に丸まってなかなか出て来なかった。



 「まいったな。ヒュッケの方は準備はいいのか?」


 「はい、僕の方はいつでも行けますよ」


 ヒュッケを一瞥すると、未だ寝袋の中で篭城を続けているセレナを見る。


 どうするかな?

 急ぎの旅というわけではないが、いつまでもこんな所に居てもしょうがないんだけど。


 うーんと……


 よし、作戦名は北風と太陽だ。


 テント内に設置していたファンヒーターの温度の設定を最大にすると、いい香りのする温かいコーンポタージュが入ったマグカップをセレナの寝袋の前に置く。

 セレナが鼻をひくひくとさせると、巣穴から顔を出すフェレットのように寝袋からひょっこりと顔を出した。


 「たっつん、これなあにぃ?」


 「コーンポタージュだ。温かくて美味しいぞ?」


 「ほんとぅ?」


 「ああ。ほれ、熱いから気をつけろよ」


 「わかったのぅ。ふーふー、んくんく、おいしいのぅ。温かくて体がぽかぽかになったのぅ」


 セレナがコーンポタージュの入ったマグカップを手に持つと、寝袋に入ったまま美味しそうにこくこくと飲む。


 しばらくするとさすがに暑くなったのか、うーうーと唸りながら寝袋から這い出してきた。


 「セレナ、あつくなったのぅ」


 「そうか」


 かわいい。



 ミリタリーテントと有刺鉄線をガンボックスに収納すると、いよいよプラチナドラゴンの生息域に足を踏み入れる。


 洞窟のかなり奥の方まで探索を進めると、地面にキラキラとした砂のような欠片が散らばっているのを発見した。


 「達也さん、これがきっと本に書いてあったプラチナサンドです。プラチナドラゴンが近くに居ますよ」


 「これがプラチナサンドか?」


 「たっつん!」


 片膝を地面についてキラキラとした砂を摘んでいると、セレナが小さい声で警告するような声を出す。


 「来たか」


 ドシャーン、ドシャーンとまるで地面が揺れているかのような重厚な足音を響かせて、洞窟の奥の方から巨大な白銀色のドラゴンがゆっくりと近づいて来た。


 大きさは10mくらいとかなりのビックサイズで、グレートドラゴンを一回りも二回りも大きくしたような外見だった。


 「お、おい!? 図鑑の説明よりかなりでかい大物みたいだぞ? さすがにこの個体と戦うのはやばいんじゃないのか?」


 「そのようですね。確か図鑑では6~7mくらいでしたか? でも、予想より大きくても関係ありませんよ」


 初めから何が来ようが戦うつもりだとヒュッケが堂々と答える。


 ヒュッケには悪いが、はっきり言わせてもらうと絶対に勝てない。

 ある程度の重量差を越えるとダメージを物理的に与えられなくなるからだ。


 蟻は象には勝てないのである。


 「行きます」


 ヒュッケが勇ましく正面からプラチナドラゴンに突進する。

 幸いにもプラチナドラゴンの動きは緩慢で、ヒュッケの動きについて来れていないようだった。


 ヒュッケの先制攻撃の突きがプラチナドラゴンの右足に当たる。

 ガキッ! とまるで分厚い岩を突いたかのような鈍い音が鳴ってヒュッケの槍があっけなく弾かれていた。


 ヒュッケが驚愕したような顔をしてプラチナドラゴンを見上げる。


 おいおい、ウエイトが違いすぎて勝負になってねえぞ。

 くそっ! すぐに援護ができるように備えておかないと。


 どうする?


 あのサイズになると、さすがにカールグスタフ無反動砲のRHA400mmでは火力が足りないかもしれない。


 ここは、ドラゴン100匹討伐報酬でもらったRPG7の使いどころか?

 あれなら貫徹力が600mmはあるからな。


 「でも、5発しか無いんだよな」


 うーん、あれは俺の切り札だから、いざという時のために温存しておきたいんだが……


 「イグニッション! うおおおお!」


 そんなことを考えていると、呆然としていたヒュッケが意を決したかのように攻撃を再開した。


 ヒュッケは槍で突いたり叩き付けたりと、我武者羅にプラチナドラゴンに無謀な攻撃を繰り返す。

 しかし、その形振なりふりかまわぬ猛襲は、無残にもプラチナドラゴンの剛健な鱗にことごとく跳ね返されていた。


 一旦距離を取ったヒュッケが大きく息を吸い込むと、素早く踏み込んで渾身の力を込めたような強烈な突きを入れる。


 瞬間、パキリとヒュッケの槍の穂先が欠けて槍の柄の部分がボキリと折れた。


 「なあっ!? 僕のバーニングランスがあああ!」


 ヒュッケが悲鳴のような声を上げると、情けない顔をして自分の折れた槍を見つめる。


 「馬鹿! 棒立ちになるんじゃない!」


 「ひゅっくん! あぶないのぅ!」


 「え? ぐはぁ!?」


 次の瞬間、大木のようなプラチナドラゴンの太い腕がヒュッケをなぎ払う。


 ヒュッケはバネ仕掛けの人形のように10mほど吹っ飛ばされて地面に墜落した後、さらにそのままの勢いで10m以上は地面を滑るようにして転がった。


 慌ててヒュッケのHPを確認する。

 重傷のようだがしっかりと生きているようだった。


 「セレナ! ヒュッケは無事だ。急いで特効薬を! あれは俺が相手をする」


 「わかったのぅ」


 セレナに指示を出すと、カールグスタフ無反動砲を担いで砲身をプラチナドラゴンに向ける。


 やれやれ、不幸中の幸いってやつかな?

 ヒュッケが吹っ飛ばされてくれたおかげで、幸いにも爆発に巻き込むことはなさそうだ。


 距離が離れているうちに片をつける。


 狙いを定めてトリガーを引くと、ヒュッケに向かって移動していたプラチナドラゴンの頭部から爆炎が上がった。


 「……やったか?」


 ぐるぉおおおお!


 洞窟内に怒り狂ったようなプラチナドラゴンの咆哮が響き渡ると、もうもうと煙っていた白煙の中から確かな足取りでプラチナドラゴンが顔を出した。


 憤怒の形相でこちらを睨みつけてくる。


 くそっ、やはり火力が足りないか。

 でも……さすがに無傷とはいかなかったみたいだな。


 プラチナドラゴンは片目が完全に潰れて、傷口からは赤い血がビュービューと噴出していた。

 さすがはヒート弾といったところだ。


 「距離が近いな……次弾の装填は間に合わねえか」


 切り札を使わせてもらう。


 ガンボックスにカールグスタフ無反動砲を収納すると、代わりにRPG7を取り出して担ぐ。

 こちらが戦闘態勢に入ると同時に、まるでそれに反応するかのようにプラチナドラゴンが咆哮を上げながら突進してきた。


 狙いを定めてRPG7のトリガーを引くと、ロケットブースターに点火した弾頭が白煙を撒き散らしながら飛んで行きプラチナドラゴンの頭部にもの凄い勢いで直撃する。

 ぶわっと紅蓮の爆炎が燃え広がると、一瞬完全に炎で視界が塞がった。


 炎のカーテンが消えて視界が確保されると、そこには頭部を完全に失って物を言わなくなったプラチナドラゴンが静かに佇んでいた。


 10mくらいあるプラチナドラゴンの巨体がゆっくりと傾ぐと、ズシーンと大きな地響きを鳴らして横たわる。

 HPを確認すると0になっていた。


 「ふう、同じヒート弾でも威力が段違いだな」


 安全を確認すると、ヒュッケの吹っ飛ばされた場所に急いで向かう。


 到着すると、気絶しているようすのヒュッケをセレナが介抱しているようだった。


 「セレナ、ヒュッケに特効薬は使ったか?」


 「使ったよぉ」


 「そうか、ご苦労さん。ヒュッケの怪我の具合はどんな感じだ? ……うわっ!? これは……鎧が砕けてるのか? これでよく生きてたな」


 ヒュッケの鎧には細かく砕けたようなひび割れが何本も走っていた。


 その衝撃の凄さを想像して思わず眉を寄せてしまう。


 「う、うう。僕は? 達也さん? プラチナドラゴンはどうなりました?」


 「お、気が付いたか? 安心しろ。すでに倒した」


 「はは、さすが達也さんです。やっぱり凄いです。僕は何もできませんでした」


 ヒュッケが己を卑下するような顔で力無く俯く。


 「違う! 俺のは……。凄いのはお前だ」


 俺はただ、安全な遠距離からトリガーを引いただけ。

 誰にでもできることだ。


 だが、ヒュッケはあれに正面から立ち向かった。


 お前は勇敢なんだ!


 俯いていたヒュッケの頭に手を置くと『お前は凄いのだから自分を信じろ』と、がしがしと力を込めて撫でる。


 「え? うわああ。ちょっと達也さん」


 「ああ! ひゅっくんばっかりずるのぅ! セレナも頑張った!」


 「そうだな。セレナもよくやったぞ」


 「えへへ。セレナたっつん大好きなのぅ」


 抱きついてきたセレナの頭も撫でる。

 セレナの頭を撫でながらヒュッケのようすを確認していると、ヒュッケが目をぎらぎらとさせながら何やら独り言を呟いていた。


 「うーん、攻撃がまったく通らなかったんだよな。次にやる時は攻撃が通るような武器を用意すれば行けるかな?」


 ふっ、どうやら心配する必要はなかったみたいだな。


 ヒュッケはもう自分の足で歩き始めている。

 ここまでくれば、後は無限に成長して行けるだろう。


 「武器? ああっ!? そうだ! 僕のバーニングランスが! うっ、いたたた」


 ヒュッケが急に立ち上がろうとして腹を押さえてうずくまった。


 「ヒュッケ、まだ無理をするな。鎧が砕けるほどの衝撃だったんだからな」


 「うう、僕のバーニングランス」


 「ひゅっくん、元気だすのぅ」


 地面に這いつくばってなげいていたヒュッケの頭をセレナが優しく撫でる。


 「ヒュッケ、あの槍はそんなに大切なものだったのか?」


 「はい、あれは僕の家に代々伝わる家宝の槍でしたから」


 「そっか。それは残念だったな。でも、また代わりになるような新しい槍を手に入れればいいさ」


 「もうあれほどの槍を入手するのは不可能ですよ。なんせ、あのエルフの名工ボルツの傑作ですからね」


 「うん? エルフの名工……ボルツ?」


 「知らないんですか? あの世界一の伝説の鍛冶師ですよ。最近は剣匠ロドリゲスが有名ですけどね。今までの実績から鑑みれば、間違いなくエルフの名工ボルツが世界一ですよ」


 ヒュッケが少しだけ自慢げに答える。


 「エルフってことは、やっぱりあのボルツさんの事だよな?」


 「たっつん、あの意地悪なおじちゃんだよねぇ」


 「え? え? まさか知り合いなんですか?」


 「まあな。今もセレナの武器と防具を作ってもらう約束をしているからな。……そうだ! ヒュッケの壊れた槍と鎧の代わりも作ってもらうか?」


 「ええ!? ほ、本当ですか? それは是非とも。あ、でも、祖父から聞いた話しだとエルフの中でも大変気難しい人らしいんですが? 滅多な事では武器を作ってくれないと言っていたんですけど……大丈夫ですかね?」


 「うーん、確かにボルツさんは偏屈な人だからな。でも、あの人なら貴重な素材を持っていけば喜んで装備を作ってくれると思うんだよね。火山地帯に行った時に狩った火竜でも持っていけば問題ないだろ」


 「へ? 火竜? 僕の装備の話しですよね?」


 「そうだけど、火竜じゃ駄目か?」


 「いえ、そうじゃなくてあの火竜ですよ? 貴重な火竜の素材を僕の装備を作るために使っていいんですか?」


 「何を言ってるんだ。俺達はお互いに魔王を倒そうと誓い合った仲間だろ? その仲間が強くなるってんだ、惜しい事なんて何も無いさ」


 「仲間なのぅ!」


 にやりとヒュッケに笑い掛けると、セレナも俺の真似をしてにやりと笑う。

 ヒュッケが感動したような顔で涙ぐんでいた。


 「うう、達也さん、セレナさん……僕、期待に答えられるよう頑張ります」


 「なあに、気にするな。まあ、餞別せんべつみたいなもんだ」


 「たっつん、せんべつってなあにぃ?」


 「お別れする時に渡すプレゼントのことだ」


 「ええ!? ひゅっくんとお別れなのぅ?」


 セレナが驚いたような顔をして素っ頓狂な声を出す。


 「ああ。ヒュッケがドラグーン隊に編入される事が決まったからな」


 「セレナ、ひゅっくんとお別れするの嫌なのぅ。ぐすっ」


 「セレナさん、すぐにお別れといったわけではありませんから泣かないで下さい。それにグルニカに行くんですよね? でしたら、僕もグルニカ王国の支援のためにきっと向かう事になると思いますから、きっと向こうでまたすぐに会えますよ。まあ、軍に所属している身としてはあまり自由は利かないと思いますが」


 ヒュッケが頭を掻きながら、涙ぐんでいたセレナを慰めるように優しく諭す。


 「ひゅっくん、ほんとぅ?」


 「はい。約束します」


 「だってさ、セレナ。だから、あまりヒュッケを困らせるな」


 「うん、わかったのぅ」


 セレナがにっこりと笑うと、ヒュッケに溢れんばかりの満面の笑顔を見せていた。

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