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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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216話 戦いに身を置く者

 海を船で移動して陸路を大きくショートカットした後、グロウラーに乗り換えてオーシャンレイクに向かっていた。


 「たっつん、セレナ咽渇いたぁ! 何か飲みたい!」


 「ヒュッケ頼む」


 グロウラーのハンドルを握りながら、後部座席に座っているヒュッケにお願いする。


 「わかりました。セレナさん、コーラでいいですか?」


 「うん、セレナコーラがいいのぅ」


 「達也さんも何か飲みますか?」


 「ああ。コーヒーを頼む」


 「たっつん、セレナお腹もすいたぁ」


 「うーん、一応用意してきたけど、もうすぐオーシャンレイクに到着するから、車を降りてから向こうでのんびりと食べないか?」


 「やだのぅ! セレナ、グロウラーの中で食べたいの!」


 セレナがプンスカと我が侭を言ってくる。


 「しょうがねえな。ヒュッケ、座席を倒した後ろにバスケットの篭があるから取ってくれないか?」


 「わかりました。えーとこれですか?」


 バックミラーをちらりと見て確認する。


 「おう、それだ。中にサンドイッチが入ってるからセレナに渡してやってくれ。ヒュッケも適当に摘んでくれよ?」


 「はい、うわぁ、たくさん種類があるんですね。セレナさんどれにします?」


 「うーんとぅ、たっつん、どれがおいしいのぅ?」


 「どれも旨いぞ? まあ、強いて言うなら、海老フライのタルタルソースサンドかヒレカツサンドがお勧めかな」 


 「セレナ海老が食べたい!」


 「じゃあ、僕はヒレカツサンドをいただきます」


 「うむー! おいしいのぅ!」


 「うはあ、ソースがいい感じに染みていておいしいです」 


 「だろ? 冷めていても美味しいように味を整えているからな」


 「はは、達也さんはまめですよね」


 「まあ、食べる物は美味しいに越したことはないからな」


 和気藹々と車内で食事を楽しむと、オーシャンレイクに到着した。



 「よし、オーシャンレイクに到着したぞ」


 「うわあ~広いですね」


 「海みたいなのぅ」


 オーシャンレイクの湖は地平線まで続いていて対岸は見えなかった。

 本当に海のように広いのだが、湖面は水を打ったように静まりかえっているので間違いなく湖である。


 「ここから高速哨戒艇に乗り換えてオーシャンレイクに浮いている孤島に向かうわけなんだが……どうする? 外の空気でも吸って少し休憩していくか?」


 「僕は別にどちらでも構いませんよ。高速哨戒艇は快適ですから」


 「そうか。セレナはどうだ?」


 セレナを見ると何やら興味深そうにしゃがみこんで湖面を覗いていた。


 「たっつん! 湖のお水からぷくぷくと泡が出てるのぅ」


 「うん? どれどれ? ほんとだ」


 セレナが覗いていた湖面を見ると、水深2~3mくらいの地面からぽこぽこと気泡が湧き出していた。

 何かのガスが沸いているようで、よく見ると透き通っていた湖の底の方にはドラゴンの骨らしき亡骸が大量に転がっている。


 これはひょっとすると。


 「たっつん、何やってるのぅ?」


 「うん? これか? まあ、帰ってからのお楽しみさ」


 ミリタリーテントの中から大きなかめを取り出すと、湖から大量の水を汲み上げて満載にした。



 高速哨戒艇でオーシャンレイクを疾走する。

 目的の孤島までは数百kmほどなので、3時間もあれば到着するだろう。


 孤島に着けば当然戦闘が待っているので、いつものように修練はしない。

 各々でリラックスした自由な時間を過ごす。


 「ふんふふーん」


 カーペットの上におもむろに横になると、鼻歌を歌いながらリビングルームの窓から釣竿を伸ばして釣り糸を垂らす。


 ぐふふ、一度これをやってみたかったんだよね。

 これは釣り船で釣るのとはちょっと趣が違うんだ。


 イメージとしては、屋形船のようなくつろいだ空間で釣りをするみたいな感じかな?


 釣り竿をロッドスタンドに立てかけるとリビングルームの様子を見渡す。


 セレナは相変わらずアニメに夢中のようでポテチをパリパリコーラをゴクゴクしながらテレビに齧りついていて、ヒュッケの方はレンジでチンした冷凍ピザを食べながら、片手で器用に携帯ゲームをプレイしているようだった。

 2人ともすでに何年も繰り返してきたかのような感じで、その仕草にはまったく違和感が無い。


 まったく、2~3日しか経ってないのに子供の適応力の高さには驚くものがあるよな。

 現代の文明の利器を完全に使いこなしているセレナとヒュッケに、あきれるやら感心するやら複雑な心境である。


 釣った魚をキッチンで料理していると、ピーピーピーと目的の孤島に到着する事を知らせるタイマーが作動する。


 「セレナ、ヒュッケ、後30分ほどで目的の孤島に到着する。そろそろ出発の準備をしておけ」


 「わかったぁ」


 「はい、わかりました」


 リビングルームでセレナとヒュッケに伝えると3人で艦橋へと移動した。



 目的地の孤島がはっきりと見えてくると、岸辺付近の空と陸地に数百匹はいるであろう大量のドラゴン達が集まっていた。


 こちらを威嚇でもするかのようにギャアギャアと喚いて合唱している。


 「たっつん! すっごいよぉ」


 「なんですかこれ? 達也さん、さすがにこの状況で上陸するのは無理ですよ」


 「まいったな。どうやらあいつら俺達を上陸させるつもりは無いみたいだな」


 艦橋にあるモニターでドラゴン達の様子を窺っていると、こちらの船影を視認したのか1匹のドラゴンが岸辺から飛び立った。


 もの凄い速度でこちらに飛んで向かって来る。


 「たっつん、空からドラゴンが来たのぅ!」


 「ほう、この私と戦うと言うのかね? よろしい! ならば戦争だ!」


 「戦争なのぅ!」


 セレナが威勢よく手を空へと突き出す。


 「ええ!? あの数のドラゴンと戦うんですか?」


 「ふっ! あの程度の戦力、我が軍の敵では無いわ。総員配置に着け! セレナ、ヒュッケ、機銃の使い方はわかっているな?」


 「らじゃー!」


 「え? はい、それは練習しましたから」


 「セレナは左の機銃、ヒュッケは右の機銃だ」


 「セレナに任せるのぅ!」


 「もう、わかりましたよ。僕だってやってやりますよ」


 セレナはやる気満々な声で、ヒュッケは半分やけっぱちな返事をして機銃の前に座った。


 「射程はわかっているな? 充分ひきつけてから一撃で仕留めろよ?」


 「わかってますって」


 「らじゃーなのぅ!」


 「よーし、ステンバーイ、ステンバーイGO!」


 滑空してきたドラゴンにタイミングを計って射撃命令を出す。


 「うおおお!」


 「そこなのぅ!」


 ヒュッケとセレナが同時に叫んでトリガーを押すと、左右からクロスするように華麗に弾丸が空中で交差した。

 向かって来たドラゴンは一瞬で蜂の巣となって墜落する。


 「ビューティフォー」 


 まるでスナイパーライフルで狙撃したかのような見事な2人の射撃に賞賛の言葉を送る。


 「スピニングドラゴンの撃墜を確認。達也さん! 岸辺から大量のドラゴンがこちらに向かって一斉に飛び立ちました」


 「よ~し! セレナは左舷から、ヒュッケは右舷からの攻撃に集中してくれ」


 「セレナに任せるのぅ」


 「やってみます」


 セレナとヒュッケに指示を出していると、ドゴン! と、突然船体が揺れる。


 「うん? 何だ?」


 「たっつん! 湖の中にもドラゴンがたくさん居るのぅ」


 セレナが艦橋にあるモニターを見て叫ぶ。


 「うわあ! あれはシーサーペントです」


 「ほう、新たな強敵の登場だな。位置は……右舷後方か? ヒュッケ迎撃しろ」


 船体を攻撃したシーサーペントの位置を確認すると、ヒュッケに迎撃の指示を出す。


 ヒュッケの機銃が右舷後方に居たシーサーペントを掃射すると、連続して放たれた弾丸がバシャバシャと派手に湖面を叩いて水飛沫を撒き散らす。

 弾丸の嵐が収まって湖面が静かになると、右舷後方のシーサーペントが潜んでいた周囲には薄っすらとした血溜まりが出来ていて、しばらくするとミンチに変わり果てたシーサーペントがぷっかりと浮いてきた。


 その姿を見て恐れをなしたのか、湖面に姿を現していたシーサーペント達が一斉に潜ってしまう。


 「達也さん、これでは狙えませんよ」


 「大丈夫だ。こっちの処理の方は俺に任せろ。セレナとヒュッケは空から来るやつらに集中してくれ」


 「らじゃー!」


 「ええと、ラジャーです」


 「フフフ、この俺に攻撃を仕掛けておきながらおいそれと逃げられると思うなよ? 対潜魚雷発射!」


 水中に逃げたシーサーペントをアクティブソナーで探知すると、MK48対潜魚雷を連続して発射する。

 水中を走っていった魚雷が逃げていたシーサーペントに命中すると、湖面からは次々と噴水のように水柱が上がっていた。


 「がーはっはっは! 圧倒的ではないか我が軍は! ぬぉ!?」


 高笑いを上げていると再び船体がガツンと振動した。

 何事かと急いで状況を確認すると、右舷から急降下してきたスピニングドラゴンの接近をヒュッケが許してしまったみたいだった。


 船体を一撃こずかれたようで、ヒュッケが焦ったように迎撃していた。


 「弾幕薄いよ! 何やってんの?」


 「すいません」


 「セレナに任せるのぅ!」


 どこぞの名艦長の如くヒュッケを厳しく指導していると、離脱しようと急上昇していたスピニングドラゴンはセレナがすかさず撃墜していた。


 うーん、やはりセレナはセンスの塊だな。

 何をやらせても卒なくこなすからな。



 数分と経たずに戦闘は終息していた。

 もともとの彼我ひがの戦力差が絶大であったこともあって、空と水中から襲ってきていたドラゴン達をあっという間に殲滅することができた。


 「よーし、2人とも良く戦ったぞ。おつかれさん」


 「セレナ、疲れたのぅ」


 「ふう、とりあえず何とかなったみたいですけど……達也さんあれどうするんです?」


 未だに岸辺付近に大量に集まっているドラゴン達をヒュッケが指差す。

 騒ぎを聞きつけて集まって来たのか、最初に見た時よりもずいぶんと多くなっているような気がする。


 「ふっ! 問題無い。ミサイル発射!」


 集まっていたドラゴン達の中心部に照準を設定すると、巡航ミサイルのトマホークを発射する。

 パシュウウウと白煙を撒き散らして一旦天高く上昇したトマホークは、尾翼から翼を広げると弧を描くように目標に向かって飛び立った。


 ほどなくして巨大な爆炎が岸辺に上がる。

 50mほどの範囲で焼け焦げた後が出来ていた爆心地では、今はもうドラゴンの姿は見えない。


 「うわあああ! な、何ですか今のは?」


 「たっつん、すごい!」


 モニターの画面で見ていたセレナとヒュッケは大きな声で大騒ぎだ。


 爆発によって撒きあがっていた粉塵が収まってきて、岸辺のようすがはっきりと見えてくる。

 最初の1発で大半のドラゴン達は蜘蛛の子を散らすように逃げて行ったようだが、未だに無謀にもこちらに唸り声を上げ続けているドラゴンが何匹か残っていた。


 グルルルルウォオオオ!


 ドラゴンがこちらの船体に怒りの表情を向けながら咆哮を上げる。


 「ほう、まだやると言うのかね? よろしい。ならば死ね」


 孤島の岸辺に再び爆炎の狼煙が上がる。

 そして、誰も居なくなった。


 「があーっはっはっは! 我が軍の勝利だ」


 「があはっはっは、勝ったのぅ!」


 「達也さん、僕は何だか弱い者苛めしてるみたいで素直に喜べませんよ」


 セレナと一緒に勝利の余韻に浸っていると、複雑な表情をしたヒュッケがぼそりと呟く。


 「ええ!? たっつん、ドラゴン苛めちゃだめなのぅ」


 「お前等なあ。あっちが問答無用で襲い掛かってきたんだぞ?」


 「それはそうなんですけど……。すいません。ドラゴンの集団といった一国の戦力を超えるような相手だったのに……それがこうも一方的な戦闘で終わってしまったので、何だか戸惑ってしまって」


 「勝てばよろしいのだよ。最後に残った者が勝者だ。難しく考えるな」


 「はあ」


 恐らくヒュッケは無意識に俺に恐れを抱いているのだろうな。

 俺を敵に回して戦わなければならなくなった時のことを想定してしまって、理不尽な戦力と相対することに知らずに恐怖しているんだ。

 そして、さらに仲間である俺に刃を向けることになった時の忌避感にも悩まされて、それで混乱してしまっているのだろう。


 まあ、戦いに身を置く者としては正常な思考だな。

 もっとも、今の関係ではほとんどゼロのような確率だから心配する必要なんて無いんだけどね。


 でも、もしそうなったらのなら……その時はお互いの信念を掛けて戦えばいいのさ。


 そして、残った方が続きをやればいい。


 ただ、それだけだ。

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