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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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206話 勇者ヒュッケここに見惨!

 西に1kmほど移動すると、岩影に隠れるようにして待っていたセレナとヒュッケの2人と合流する。


 ヒュッケはまだ気絶しているようで岩の上に仰向けで寝かされていた。


 「たっつん!」


 「おう、お互い無事だったようだな。ヒュッケも無事なようだし、良くやったぞ」


 抱きついてきたセレナの頭を撫でながら褒める。



 「おい、ヒュッケ! 起きろ」


 ヒュッケの肩を強引に揺すって起こす。


 「う、うーん。え? 達也さん?」


 「何処まで覚えている?」


 「え? えーと、はっ!? ドラゴンは? ヒックス先生は? ドラグーン隊の人達はどうなったんですか?」


 「おちつけ! ドラゴンの追撃は何とか食い止めた。あの後1匹も通してないから、ドラグーン隊の連中は何とか逃げおおせたはずだ」


 「そうですか。良かった。あいた」


 安心したような顔をしていたヒュッケの頭を拳骨でゴチンと軽く殴る。


 「この馬鹿! 俺の指示を無視して勝手に突っ込みやがって! お前は危うく死ぬ所だったんだぞ? それだけじゃない! 俺とセレナまでどれだけ危険だったかわかってるのか!」


 「すいません」


 「意気込みだけで状況が好転するわけでは無い。状況に応じてベストな戦術で戦うんだ」


 「はい、わかりました」


 叱りつけると、ヒュッケが申し訳無さそうに俯いていた。


 とは言え、大切な人が窮地に陥っていたら我を忘れてしまうのは仕方が無いんだよな。

 それがわかっていながら、俺は目の前の問題を解決する手段の模索だけで頭が一杯になってしまって、ヒュッケの心情にまで心を配る事ができなかった。


 いくら強いと言ってもヒュッケはまだ子供なんだぞ?

 俺の方がそれを前提にして注意しておかなければいけなかったんだ。


 俺もまだまだだな。

 反省しよう。


 ヒュッケに説教をすると、ドラグーン隊の逃げた方向にドラゴンを招き寄せないように徒歩で移動を開始した。



 森林地帯をひたすら早足で進んでいると、前方の藪の向こうで誰かが戦っているような声が聞こえてきた。

 視界を塞いでいた大きなシダ植物の葉を払いのけると、りっぱな鎧に身を包んだ指揮官らしき男の姿が見えてきて、どうやら1人だけ最後尾に残って兵士達に逃げるよう指示を出している所のようだった。


 ちらりと視線を動かして全体の戦場の様子を観察する。

 ドラゴン達に襲われて阿鼻叫喚の戦場では、生存をすでにあきらめてしまっているようすの兵士がちらほら散見されて、中には虚ろな表情で地面に座り込んでしまっている者まで居た。


 まずいな。

 あれでは助かる命も助からないかもしれない。


 この後は、モンド王国に帰還するために過酷な強行軍が待ってるんだ。

 ここで兵の士気を上げておく必要がある。


 「達也さん! ヒックス先生が!」


 「ああ、見えている。それより、兵士達が戦意を喪失しているのがまずい。ヒュッケ! お前が1人でドラゴンを倒して見せて兵士達の戦意を高揚させる必要がある。できるか?」


 「はい! 任せて下さい!」


 走りながら指示を出すとヒュッケが威勢良く返事をする。


 「セレナはどうするのぅ?」


 「セレナは俺と待機だ」


 「ほぇ? セレナは戦わないのぅ?」


 「ああ。今回はヒュッケに任せておけ。ヒュッケ! 兵士達を鼓舞するために名乗りを上げろ! そして、今まで培ってきたお前の力を存分に見せつけてやれ!」


 「はい。勇者ヒュッケ! 行きます!」


 ヒュッケが大声で叫ぶように名乗りを上げるとドラゴンに向かって一直線に突っ込んで行った。




 「なっ!? ヒュッケ様がなぜここに?」


 ドラゴンの注意を引いていたヒックスさんらしき男が驚いたような声を出してヒュッケを見る。


 「へ? ヒュッケ様が? みんな! ヒュッケ様が助けにきてくれたぞ!」


 「うおおお! 救援が来たぞ!」


 すでにあきらめたような顔をして座り込んでいた兵士が顔を上げて大声で叫ぶと、怯えて戦意を喪失していたようすの兵士達がにわかに活気付いていた。


 「ヒュッケ様! 危険です! お下がり下さい」


 「うおおおお! ブラストランサー!」


 ヒックスさんが慌てたように制止をしていたが、ヒュッケはかまわずに突進してドラゴンの眉間に槍を突き立てる。

 根元まで深く突き刺さった槍の刃先から爆発が起きると、頭部を失ったドラゴンがドタリと横にくずおれた。


 「ヒックス先生、御無事ですか?」


 「なっ!? ヒュ、ヒュッケさ、ま」


 唖然としたようすのヒックスさんに、尋常ならざる強さを見せ付けたヒュッケがにっこりと笑顔で尋ねる。


 「うおおおお! ヒュッケ様がドラゴンを倒したぞ!」


 「すげー! 本物のドラゴンスレイヤーだ!」


 「ヒュッケ様はあんなに強かったのか……」


 逃げていた兵士達が続々と集まってくるとヒュッケを本当の勇者だと称えて騒ぎ始めた。


 「ヒュッケ様、まさかドラゴンを一蹴してしまわれるとは……。最近は変わられたと薄々は感じておりましたが、本当にりっぱになられて」


 ヒックスさんも感極まったかのように涙目でヒュッケを称える。


 「ヒックス先生の教えがあったからですよ。それと達也さんやセレナさんのおかげです」


 「ヒュッケ様、こちらの方ですか?」


 ヒックスさんが俺とセレナに視線を向ける。


 「はじめまして、俺は達也と言います。こっちがセレナです」


 「はじめましてなのぅ」


 セレナと軽くお辞儀をしてヒックスさんと挨拶を交わした。


 「ヒックスさん。兵士達も疲れていると思いますが、少し休憩したらすぐにでも安全な場所に移動した方が良いと思うのですが」


 「そうですな。ですが、恥ずかしながら安全な場所と言われましても現在地すら定かではないのです。飲み水の確保のためにドラゴンリバーに進軍して何とか水は確保する事が出来たのですが、案の定水を飲みに来たドラゴンに遭遇してしまいまして。その後は逃げるだけで精一杯だったものですから」


 地面にへたり込んでいた兵士達を見ながらヒックスさんが困ったような顔をして答える。


 GPSを起動させて近場の地形を検索する。


 「そうですか。なら、ここから北西に5kmほど移動すれば大きな岩山があります。そこならば岩しかないため、ドラゴンが居ないので兵士達を安全に休ませることが出来ると思います」


 「おお! そのような場所があるのですか!? 兵達をゆっくりと休ませたい所だったので助かります。……ですが、まだ問題が」


 一瞬だけ喜んだような顔をしたヒックスさんだったが、すぐに落胆したような顔になる。


 「問題?」


 「はい、生き残っている数百もの兵士達の食料が無いのですよ。すでに携帯していた糧食も尽きて、川の水を飲んで空腹を紛らわせていた次第であります。ですから、とてもではありませんがモンド王国に帰還するまでは」


 「達也さん、ミリタリーテントから食料を取り出すわけにはいかないですか?」


 俺とヒックスさんの会話を黙って聞いていたヒュッケが小声で耳打ちしてくる。


 「馬鹿、そんなことをしたらその食料はどうしたんだと、俺の身が危険になるだろ?」


 「今は、そんな事を言ってる場合ではありませんよ」


 「あのなあ、人事だと思って……あっ! そうだ!」


 ちらりとヒュッケが倒したドラゴンを見る。


 「ヒックスさん、こいつらを食料にしながらでは?」


 「ドラゴンを? 食料に? お、思いつきもしませんでした。ドラゴンからは逃げるものとばかり。ですが、今のヒュッケ様ならドラゴンを倒せる。いけるかもしれません」


 「だってさ、良かったなヒュッケ」


 「はい! ありがとうございます」


 「では、ヒュッケ様が倒されたドラゴンを急いで解体して兵達に配りましょう。皆、空腹で限界でしょうから」


 ヒックスさんがまだ動けそうな兵士を招集すると、ヒュッケが倒したドラゴンを手際よく解体させていた。




 「さてと、じゃあ行くかな」


 「え? 何処にです?」


 焼いた肉を涙を流しながら齧り付いている兵士達を見ながら呟くと、ヒュッケが間の抜けたような顔で尋ねてくる。


 「先回りして目的地の岩場付近に居るドラゴンを殲滅するんだよ。兵士達が飯を食ってる間にな」


 「え? そこは安全なんじゃないんですか?」


 「すまんな。あれは嘘だ」


 「ええ!?」


 ヒュッケが驚いたような声を出す。


 「よく考えてみろよ? こんな場所にそうそう都合よく安全地帯なんてあるわけないだろ? 確かに、岩しか無ければ餌が無いからドラゴンが居ない可能性は高いだろうさ。だが、居ないなんて保障は何処にも無いだろ?」


 「ど、どうしてそんな嘘を?」


 ヒュッケが戸惑ったような顔で詰問してくる。


 「兵士達のずたぼろの姿を見ただろ? あいつら、すでに心身ともに疲れ果てて限界だ。今は、何も考えずに眠れるしっかりとした休息の時間が必要なんだよ」


 「でも、それじゃあ危険なんじゃ?」


 「だから、安全にするんだろ?」


 「…………達也さんは、時々悪魔みたいで怖いですよ」


 にやりと笑って答える、ヒュッケが少しだけ怯えたような顔をして俺を見ていた。

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