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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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205話 ドラグーン隊を救出せよ

 「たっつん、あれ買って」


 「うん? どれだ?」


 町外れの海岸から戻って来ると、セレナにいつものようにせがまれて焼き菓子を購入する。


 「セレナさんは、本当に焼き菓子が好きですよね」


 「ひゅっくんも食べるのぅ」


 セレナがヒュッケに、袋に入った小さなカステラのような焼き菓子を分けていた。

 まるで兄弟のような仲むつまじい光景に心が和む。


 「おい、聞いたか? モンド騎士団に新設されたドラグーン隊がグレートドラゴンに襲われたってよ」


 「ああ。ドラゴンバレーで演習している時に襲われたって話しだろ? ドラグーン隊はこっちとは反対方向に逃げるのがやっとだったらしいぜ。まあ、5日も経ってるから生存は絶望的だな」


 グレートドラゴンという言葉に反応して、露店の前を通り過ぎた兵士達の話に思わず聞き耳を立ててしまう。


 セレナからもらった焼き菓子を食べていたヒュッケを見る。


 「なあヒュッケ、ドラグーン隊って知ってるか?」


 「はい、もちろんですよ。なんせ、僕の尊敬するヒックス先生が隊長なんですから」


 「なんだって!?」


 「うわぁ!? 突然大声を出してどうしたんですか?」


 驚いたような顔をしていたヒュッケに、慌てて先程小耳に挟んだ話しを説明する。


 「そんな!? 達也さん、今すぐ救助に向かいましょう」


 「わかった。だけど、俺達にはドラゴンバレーに入る手段が無いぞ?」


 「それは、僕が何とか門番に掛け合ってみます。ただ……」


 「何かあるのか?」


 難しい顔をしたヒュッケに理由を聞くと、ドラゴンバレーのある検問所まで移動した。




 「いくら勇者ヒュッケ様の頼みであろうと、此処をお通しするわけには参りませんな」


 ヒュッケが必死に懇願していたが、門番の男は嘲るような嫌味たらしい顔で拒絶していた。


 ヒュッケの話しだと、この国では竜騎士以外はまともに出世できないそうで、一般の兵士達からは羨望と嫉妬によりあまり快く思われていないとのことだった。


 「ヒックス先生が危険なんです。お願いします」


 「はっ! そのヒックス先生とやらも、ヒュッケ様と同じで公費で養っていたワイバーンを失った能無しですよね? 俺だって生まれた時にワイバーンさえ与えられていればよ……」


 このやろう! ヒュッケがどれだけ努力していると思ってるんだ?


 ヒュッケが死に物狂いで努力している姿を知ってるだけに、門番の男の無神経で自分勝手な言い分に思わずカチンとくる。


 「おい、お前!」


 「やめないか! ヒュッケ様はこの国の勇者様なのだぞ?」


 一言文句を言ってやろうと暴言を吐いた門番に詰め寄ると、駐在所の中から上官らしき衛兵が慌てたように出てきて門番の衛兵を激しく叱責する。


 「申し訳ありませんヒュッケ様。ですが、いくら勇者様と言っても規則は規則。これ以上は軍法会議に掛けることになりますよ?」


 やっと話しが出来る人が来たかと思ったのだが、どうやら通行の許可は下りないようだ。


 「ヒュッケ、ここはあきらめよう」


 「でも、達也さん」


 「大丈夫だ。ドラグーン隊はモンド王国から離れるように退避したと言っていただろ? なら、渓谷を大きく回り込むことになるがグロウラーで移動した方が早いかもしれない」


 「それは……そうかもしれません。達也さん、急ぎましょう」


 ヒュッケを説得すると町外れまで移動してグロウラーに乗り込んだ。




 「ヒュッケ、演習場所の詳しい位置はわかるか?」


 「はい、何度も演習に足を運びましたから。えーと、ここからはもっと南です」


 ヒュッケが地図を広げると南東の方角を指で示す。


 「ドラグーン隊が襲われた地点から、逃げた時の移動時間を計算して大体の距離は予想できるか? できれば、逃げるとしたら何処に向かうか予測できると助かるんだが」


 「それは、すいません。その、僕は兵士として戦うのが専門でしたから。それと、移動する時は飛竜での移動が基本でしたので徒歩での移動距離もわかりません」


 ヒュッケが申し訳無さそうに答える。


 「そうか、方向も行軍速度もわからないか。うーん、グレートドラゴンに襲われたなら無理をしてでも強引に移動するよな? プレートメイルを着用しての全力移動時の行軍速度を平均5kmと仮定して、1日の移動距離が30kmくらいか? いや、プレートメイルを着て30kmもの移動は困難かな?」


 「達也さん、どうするんですか?」


 「そうだな。とりあえず、ドラグーン隊がグレートドラゴンに襲撃された地点に向かおう。そして、痕跡を見つけたら後は追跡して行く形かな……」


 「それは……」


 痕跡と言った時、ヒュッケの顔が苦しそうに歪む。


 「すまん」


 「いえ」


 気まずい雰囲気が車内に起きる。


 まずいな。


 大切な人が危険な状態になっている時なんかは、ただでさえ冷静な判断ができなくて浮き足立ってしまうもんなんだ。

 だから、周りが気をつけてフォローしなければいけないんだが……


 どうにも俺は、こういった時の配慮に欠ける。


 「たっつん、セレナはどうするのぅ?」


 「ああ、セレナは後で空から索敵してもらうから」


 「わかったぁ。ひゅっくん、セレナにまかせるのぅ。だから、泣かないのぅ。よしよし、いいこいいこ」


 「セレナさん、ぐす、あ、ありがとうございます」


 セレナが涙目になっていたヒュッケの頭を撫でていた。




 「たぶん、襲撃された位置はこの辺になるはずだ」


 GPSを起動させると、位置情報を見ながらヒュッケの話していた地形と照らし合わせて確認する。


 「はい、たぶん、ここです」


 「そうか、それよりこの匂いは……。セレナはちょっとここで待ってろ」


 「ほぇ? わかったのぅ」


  セレナを待機させると、ヒュッケと草を掻き分けて50mほど先にある襲撃されたと思われるポイントに進む。

 シダ植物のような草を掻き分けて渓谷へと続く道に差し掛かると、大地は大量の血痕で真っ赤に染まっていて、兵士達の死骸と思われる多数の腐乱死体が転がっていた。


 「うわぁ!? まさかヒックス先生も?」


 ヒュッケが軽くパニックになったような悲鳴を上げると、崩れるようにして地面に膝をついた。


 「ひゅっくん!」


 「セレナはこっちに来るな! くそっ! 予想していたとはいえ……これは酷いな」


 ヒュッケの悲鳴にこちらに来ようとしていたセレナを制止すると、がっくりと項垂れているヒュッケを他所に血痕の跡から逃走経路を確認する。


 「うう、ぐす、ヒックス先生。僕はどうしたら」


 「ヒュッケ、泣いている暇はないぞ? 血痕が南西の方角に続いている。それは、つまり逃げたと言う事だ。そして、逃げたと言う事はまだ生きている可能性があると言う事でもある。なら、ヒュッケ? お前は次に何をするべきだ?」


 「助けに行きます!」


 ヒュッケが涙を腕で拭うとがばりと勢い良く立ち上がった。


 「そうだ。ドラグーン隊の向かった方向はわかった。さっさと行くぞ」


 「はい!」


 ヒュッケの力強い返事を聞くと、セレナと合流して道なき道をグロウラーで疾走した。




 「ふーむ、此処で血の痕跡が途切れている。どうやら、この場所でグレートドラゴンの追跡は振りきれたようだな」


 「本当ですか! それは良かった」


 ヒュッケが心底嬉しそうな顔で答える。


 「ああ。だけど、この後の進行方向がわからないんだよな」


 「達也さん、どうするんですか?」


 「そうだな……」


 レイクウッドの森で迷っていた時に戦地での水の確保に苦労した事を思い出す。


 「ヒュッケ、そのヒックスという人は優秀な指揮官なんだよな?」


 「はい! それは間違いなく」


 「なら、恐らくは飲み水の確保のために水辺に向かって軍を進めるはずだ。確か近くにドラゴンリバーの支流があったな。そっちに進んでみるか」


 グロウラーに再び乗り込むとドラゴンリバーの支流付近まで移動する。


 「セレナさん、どうですか?」


 「うーんとぅ、木が邪魔でよくわからないのぅ」


 セレナに上空から索敵してもらうが、木々が視界を塞いでしまって小さな人間を索敵するのは困難なようだった。


 「消息を絶ってから5日経ってるんだよな。移動距離は大体この辺までだと思うんだが。セレナ! ドラゴンが多く集まっているような場所は無いか?」


 「ほぇ? うーんとぅ、あっ! あっちにいっぱいどらごんがいるのぅ」


 セレナが西の方角を差す。


 「よし、行ってみるか」


 「達也さん、どういうことですか?」


 ヒュッケの質問にどう説明したら良いかと頭を悩ます。


 「うーんとだな、ドラゴンにとって人間は餌だ。それが大勢で移動していたらどうなる?」


 「ぐっ! い、急ぎましょう」


 ヒュッケが苦しそうな顔をして答えていた。


 また、やっちまった。


 どうにも俺はこういった事の説明が下手だな。

 すまんヒュッケ。



 グロウラーを飛ばすとセレナに聞いた場所まで一気に距離を詰める。

 時速300kmの速度で森の木々をすり抜けていると、俺の視界にちらりとドラゴンの集団から逃げ惑っている人影が映った。


 「ヒュッケ! いたぞ!」


 「何処ですか?」


 「右翼前方、2時の方角だ! ちっ、思ったよりもドラゴンの数が多い。一旦数を減らす必要があるな。射線と距離を取るからサイドに回り込むぞ」


 「お願いします!」


 逃げているドラグーン隊と追いかけているドラゴンの間に割り込みたい所だが、それをやればドラゴンの群れに蹂躙されてしまって危険だ。

 ここは慌てずドラゴンをサイドから射撃して、まずは確実にその数を減らすのが有効な手段だ。


 グロウラーのハンドルを急激に切ると進行方向を無理やり変える。

 車体を横滑りさせて強引に急停止させると、ヒュッケが爆発したようにドラゴンに向かって一直線に駆け出して行った。


 「うおおおお!」


 「なっ!? 待てヒュッケ! この馬鹿野郎が! ドラゴンの数を考えやがれ! ……くそっ! セレナ! 急いでヒュッケの援護を!」


 「わかったぁ!」


 いつものヒュッケなら、あれだけの数のドラゴンを前にして無謀な突撃など決してしない。


 完全に油断していた。


 セレナにヒュッケをサポートするように指示を出すと、最低限の安全確認だけで狙撃ポジションをとる。


 まずは、でかいやつを何とかしないと。


 ズシャーン! ズシャーン! ズシャーン!


 対物ライフルのヘカートを取り出すと、危険を承知で連続して狙撃を敢行する。

 1匹、2匹、3匹と射撃音の数だけ、6~7mはありそうな巨大なドラゴンが地に伏せる。


 このサイズになるとさすがのヒュッケでも倒すのは困難で、セレナに至ってはまともなダメージすら与えられない。


 「うあああ!」


 ヒュッケの悲鳴に慌てて覗いていたスコープから顔を上げると、ドラゴンの進路を塞ぐように立ち塞がっていたヒュッケが大小無数のドラゴン達に吹っ飛ばされて転がっている所だった。


 「あの馬鹿」


 慌ててバトルライフルのHK417に持ち変えると、必死にヒュッケを援護していたセレナの救援に向かう。


 くそっ! 木が邪魔で1匹だけ大物グランドドラゴンを仕留め損ねた。


 「うおおお!」


 走りながらフルオートに切り替えると、連射しながら肉薄してセレナに群がっていた小型のドラゴンを殲滅する。

 全弾撃ち終えるとリロードと念じてガンボックスに戻し、代わりにドラゴン戦用にスラグ弾へと装填済みのベネリM3を取り出す。


 こいつで殺れるか?


 ヘカートで撃ちもらしたのは、全長6~7mクラスの大物のグランドドラゴンで距離は10mまで肉薄されていた。


 体に当たった所で大したダメージにはならないだろうから、狙うはヘッドショットオンリーだ。

 どれだけ当てれば倒せるかわからないから全弾ぶち込む。


 「うおおおお!」


 雄叫びをあげながら、1発、2発と連続してスラグ弾をグランドドラゴンの脳天に撃ち込むと、ドラゴンの表皮の鱗が割れて肉片と血飛沫が舞い散る。


 だが、それでもグランドドラゴンの突進は止まらない。


 グルォオオオ!


 巨大な猛禽類が咆哮を上げながら接近してくる恐怖に思わず逃げ出したくなる。


 だが、背後にはセレナとヒュッケが居る。

 ここで逃げるわけにはいかない。


 「止まりやがれ!」


 逃げ出したい気持ちを必死に抑えつけて、5発、6発と連射すると、ハンマーで殴られたかのようにグランドドラゴンの巨体が何度も小刻みに揺すれ、薬室に入っている最後の1発を当てるとよたよたと動きが鈍くなりドザンと横に倒れた。

 5mにも満たない近距離まで接近を許すもなんとか制圧することができた。


 冷や汗を掻きながら、未だ後方の森から襲い掛かってきているドラゴンにリロードが終わったばかりのバトルライフルに持ち替えて応戦する。


 「ふう。セレナ、ヒュッケに特効薬を」


 「わかったぁ」


 ヒュッケの怪我の状態を確認すると手足の骨が折れているようだった。

 意識が戻っても戦闘の継続は不可能で、最低限でも動けるようになるには1時間は必要だろう。


 「セレナ! 援護するからヒュッケを連れて下がれ! このまま西に1kmほど移動すれば身を隠せる岩山があるはずだ。そこで合流する」


 マガジンの交換をしながらセレナに後退するように指示を出す。


 「たっつんは?」


 「俺は後方から襲ってくるドラゴンを此処で食い止める。ドラグーン隊が逃げられる時間を稼がないといけないからな」


 「セレナも一緒に戦うのぅ」


 「駄目だ! どれだけ来るかわからないんだぞ? それに、いざとなっても俺ひとりならいくらでも隠れて逃げられるんだ。くそっ!? また来やがった! この!」


 こちらに向かって来るドラゴンを迎撃しながら答える。


 「でもぉ!」


 「さっさと行け! 動けないヒュッケを守りながらじゃ危険なんだよ!」


 セレナが納得のいかないような顔をしていたが、一度だけ俺の顔を見ると気絶しているヒュッケを脇に抱えてドラグーン隊が逃げた西の方向に走り出した。



 ちきしょう!

 何匹いやがるんだ?


 うつ伏せの射撃状態を維持して、次から次へと顔を出してくるドラゴンをヘカートで遠距離から狙撃していた。

 そろそろ退却したいのだが、後続が散発的に出現していてなかなかタイミングが取れなかった。


 くそっ! こんな危険な状態で狙撃をするなんて御免だってのによ。


 本来の狙撃は、見晴らしの良い高台などで護衛小隊に守られながら観測官にサポートされて行うものなんだ。


 「はあ、やっぱりカッコをつけずにセレナに居てもらえば良かったかな?」


 愚痴を言いながらも狙撃を続ける。


 もう充分時を稼いだし、いっそのことグロウラーで強引に逃げてしまうか?


 そんな事を考えながら、背後から急に襲われやしないかとびくびくしながらスコープを覗いていると、あれだけひっきりなしに襲ってきていたドラゴン達が急に襲って来なくなっていた。


 なんだ?

 あきらめたのか?


 いや、違う。

 あれは……


 視野の広い双眼鏡の方で周辺の様子を確認してみると、狙撃して動かなくなったドラゴンを他のドラゴン達が食べていた。


 うげ。

 あいつらには、同属とかの区別は無いのかよ?


 だが、これは撤退するチャンスだ。


 カールグスタフ無反動砲を取り出すと、SMOKE469弾頭を共食いをしていたドラゴンの群れに向けて発射する。

 すぐにモクモクと煙が立ち昇るとドラゴン達の姿が見えなくなる。


 ここらが潮時だ。

 俺も引かせてもらうぜ。


 ギリースーツに身を包むと、ドラゴン達の注意を引かないようにこっそりと戦場を後にした。

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