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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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203話 高速哨戒艇

 「うーむ、ずいぶんと厄介な場所にいるもんだな」


 モンド王国にある料理店で、ずるずるとうどんを啜りながらドラゴンの図鑑とにらめっこする。

 熱々のうどんなのだが、店内は秘氷の水晶でひんやりと冷えているので何の問題もない。


 「達也さん、食事中くらい本を読むのを止めたらどうです? このうどんでしたか? なかなかに美味しいですよ?」


 「うん? ああ、すまん」


 「たっつん、セレナもっとたべるのぅ」


 「はいはい。すいません! 追加のオーダーいいですか?」


 ウェイターに注文すると、すぐに熱々のうどんが運ばれてくる。



 モンド王国に新しい名物ができていた。


 その名はモンドうどんである。


 連日連夜の行列が出来るほどの人気っぷりで、観光客を中心にして名前がモンド国中に知れ渡り始めていた。

 当然ながら、うどんを卸しているのはアニー商会である。


 なぜうどんの販売を始めたかと言うと、モンド大陸でいきなり醤油の販売をしても馴染みのないモンドの人達には売れないかもしれないと思ったからだ。


 初めは醤油を使ったレシピ本でも配ればいいんじゃないかと考えたのだが、それだとまだまだ敷居が高い。

 醤油を購入してまで作ろうと考える人はきっと少ないだろう。 


 そこで、醤油を使った美味しい料理を自分達で作って提供すればいいんじゃないか? と考えたわけだ。

 後はこの料理に使われている調味料は何だと勝手に噂が広まって行くだろうからな。


 俺としてはラーメンを食べたいのだが、これはこれで美味しいのでグッドだ。


 「おう! 達! 来てたのかよ?」


 店でうどんを啜っていると、店の奥の暖簾から大将がひょこりと顔を出してきた。


 そう、なんとこの店の責任者は大将なのである。


 「あっ! 大将、凄い人気ですね」


 「あたぼうよ。あの使ってる麺だったか? これが醤油と出汁を合わせた汁にこんなに合うなんてな」


 「はは。でも、うどん制作の監修までお願いしてしまってすいません。大将は醤油造りが専門なのに」


 「ばかやろう! 水くせえこと言うんじゃねえ! 醤油の使い方を俺以上に知ってるやつなんざいないんだからな。まあ、工場ができるまで手持ち無沙汰だから、ちょうどいいってもんよ」


 大将が少し照れたように鼻の頭を掻く。


 口と性格は乱暴だが、大将は義理人情に厚い生粋の江戸っ子気質だ。


 「あ、そうだ。大将にお願いがあるんですが?」


 「おうおう、達に頼まれたら断れねえな。何でも言ってくれってんだ!」


 胸をドンと叩いていて任せてくれと言っていた大将に、お好み焼きでも使ったソースを入れた小瓶を渡す。


 「なんだこれは?」


 「これはソースと言って西洋の、いや、違う土地で作られた醤油みたいなものです。それで、作り方がわからないので大将に何とか再現してもらえないかと」


 コンバットレーションに付属していたソースなのだが、使いきってしまえば無くなってしまうのだ。


 「あん? 作ったやつはどうしたんだ?」


 「すでに死んでしまっているので、レシピはわからないんです」


 レシピを作ったのは昔の人だから嘘は言ってない。


 「おう、そうかい。とりあえず味を見させてもらうか」


 「このソースは、油で揚げた肉とかに掛けると旨いですよ」


 「まあ、味を確認するだけだからいらねえよ」


 そう言うと、大将はソースを手の平にちょろりと垂らしてペロリと舐める。


 「うおおおお! なんだこの口の中に広がる芳醇とした香りは! それにこのスパイシーな味! 何だ? 何の香辛料だ? 使われている野菜は? たまねぎ? ニンジン?」


 大将が大声を出して絶叫すると、店の中だというのをすっかりと忘れているのか大きな声で独り言を呟いていた。


 うどんを啜っているお客さん達からの刺すような視線が痛い。


 「ああ、オホン。詳しい事はわからないんですが、各種スパイスを混ぜて多種多様な野菜を熟成させるみたいですよ?」


 「熟成か……。そうか!? わかったぞ! こうしちゃいらんねえ!」


 そう言ったかと思うと、大将はお店のカウンターに片手を付いてひょいっと軽快に飛び越える。

 そのままの勢いで店の奥にある厨房へと慌しく駆けて行った。


 「大将……けっこう歳がいってるはずなのに……まだまだ若いよな」


 呆然としながら大将の後ろ姿を見送った。



 「達也さん、この後の予定はどうするんですか?」


 大将が居なくなると、ヒュッケがタイミングを見計らったように尋ねてきた。


 「そうだな。火竜を討伐したから高速哨戒艇が手に入ったんだよね。だから、その試運転を兼ねて、海に漁にでも出ようかと考えているんだけど」


 「え? こうそくしょうかいてい? 海に漁に出る? また、おかしな事を言い始めましたね? プラチナドラゴンを討伐に行くんじゃなかったんですか?」


 ヒュッケが首を捻りながら尋ねてくる。


 「そのプラチナドラゴンなんだがな、ドラゴンの生息図鑑によると湖に浮いている孤島にいるらしいんだよ。でだ、その湖がこれまたとんでもない大きさなんだよね」


 「あっ!? そう言えばそうでした。確か世界最大の湖で、オーシャンレイクと呼ばれている全長数百キロはある湖ですよ? どうやって渡るんですか?」


 「そっちの問題は任せておけ。逆に聞きたいんだけど昔の人はどうやって渡ったんだ? 湖に孤島があると知られているならどうにかして渡ったということだよな?」


 「ああ、それはですね。ええと、確か湖の近くで帆船を建造して渡ったという話しですよ。湖にはドラゴンも生息してますからほとんど自殺行為なんですが」


 「うげえ……昔の連中は無茶しやがるな。でも、なんで昔の連中はそこまでして湖を渡ろうなんて思ったんだ?」


 「オーシャンレイクの水辺にプラチナドラゴンの鱗が漂着することがあるんですよ。だから、湖のどこかに居るんじゃないかと当時の人は考えたみたいです」


 「ふーん、なるほどな。さて、飯も食ったし、そろそろ海にでも魚を捕りに行くか」


 「え? 達也さん、冗談じゃなかったんですか?」


 「うみぃ? やったぁ! セレナ海行くのぅ!」


 海に漁に行くと伝えると、ヒュッケは戸惑ったような顔をしていたがセレナは無邪気に喜んでいた。



 店を出ると、モンド王国から外れたなるべく人気の無い浜辺まで足を運ぶ。


 「この辺まで来ればいいかな?」


 「たっつん! 波がすごいよぉ! あははは」


 「ほら、セレナ濡れるから」


 波と追いかけっこをして遊んでいたセレナを注意する。


 「達也さん、こんな所まで来てどうするんですか?」


 「まあ、見てろって」


 波打ち際まで移動すると、高速哨戒艇をガンボックスから出現させる。


 ドザン! と大地を揺るがすような轟音がすると、全長50m以上はありそうな巨大な船が目の前に鎮座していた。


 「でかぁ!?」


 「うあああ! た、達也さん」


 「きぃやあああ! すごいのぉ!」


 予想外にでかかった高速哨戒艇にみんな揃って驚きの声を出す。


 普通の高速哨戒艇ならせいぜいが20m前後くらいだ。


 「このサイズで高速哨戒艇だって? どうなってんだ? サイクロン級のミサイル艦じゃねえんだぞ?」


 まだ詳しく調べてはいないが、恐らくはグロウラーと同じでとんでも改造がされていると思われる。


 「達也さん、これは、船なのですか?」


 「ああ、そうだ。でも、こうなるのか。考えが足りなかったな。こりゃあ、港から出港するか沖に出ないと駄目だな」


 高速哨戒艇は完全に座礁して船底が砂浜に乗り上げてしまっていた。


 当然ながら、人目のある港から出航することはできないので小船で沖まで行って乗り換える必要がある。


 「うーん、上陸するためにも、どの道リブボートが必要だな」


 「りぶぼーと? 達也さん、それはなんですか?」


 「うーんとだな、側面をFRP工法(強化プラスチック)による装甲で覆ったゴムボートにエンジンが付いてる船だな。軍で使われるやつは強襲揚陸艇と言って、砂浜なんかにもそのまま乗り上げて上陸できるんだよ」


 「えふあーるぴー? ごむぼーと? 何のことかわからないですけど船で陸地に乗り上げて船底に穴が開かないんですか?」


 「ああ。特殊な合成ゴムを使っていてな、そこらのライフルくらいなら防いでしまうくらい強固なんだよ」


 「ライフルって、あの凄い威力のやつですよね? はあ、相変わらずとんでもないですね。それで、そのリブボートとやらの入手条件は何ですか?」


 「なんだったかな? ちょっと待ってくれよ。えーとだな、お、グレートドラゴンだな」


 「グレートドラゴンですか? だったら、さっさと倒しに行きましょうよ」


 「そうだなって……いつもなら大騒ぎするのに、今回はしないんだな?」


 「そりゃあ、達也さんがあんなにも簡単に火竜を撃破した所を目の当たりにしましたからね。いまさらグレートドラゴンなんて……。あれ? 今、僕はとんでもないことを言っていますよね? ははは」


 ヒュッケが自分で言っておきながら困ったような顔をして笑っていた。

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