202話 火竜討伐
燃焼剤の採掘が終わってダンジョンから出ると、セレナに上空から火竜の巣の探索をしてもらっていた。
「セレナ! どうだ? 火竜が戻って行った方向から、巣を作れそうな岩山はそこら辺しかないはずなんだが」
「うーんとぅ……あっ!? たっつん! あっちの岩山に大きな穴があいてるのぅ!」
「それだ! セレナ下りて来い」
「わかったぁ」
火竜の飛んで行った方角と巣穴になりそうな地形から住処になりそうな場所を索敵すると、何とか火竜の巣らしき穴を発見することができた。
セレナの発見した西の方角にある洞穴に向けて移動を開始した。
「ブラストランサー!」
ヒュッケの必殺の一撃が決まると、首の長いネックドラゴンが絶命する。
「おつかれ」
「おつかれなのぅ」
「ふう、なんとかなりましたか」
西の方角にある洞穴に向かうと、すぐにドラゴンの襲撃を受けていた。
さすがは禁止区域に指定されてるだけある。
「たっつん、なんか飛んで来た」
「うん?」
戦闘が終わって一息ついていると、さらに南の空から10~20cmくらいの蜂が5匹飛んで来た。
「達也さん、あれは軍隊蜂です」
「軍隊蜂? 確か仲間を呼んで数百と襲ってくるやつだったか?」
「そうです」
「くそっ! ドラゴンの血の匂いに誘われてやってきたのか? とりあえず逃げよう」
「わかりました」
「わかったのぅ」
戦利品のドラゴンはあきらめて洞穴のある西の方角へ移動する。
だが、ドラゴンの死骸に向かうと思いきや軍隊蜂がこちらに向かって来た。
「くっそ、セレナ、ヒュッケ応戦するぞ」
「はい」
「わかったぁ」
エルフィンボウを取り出すと、向かって来た軍隊蜂に100mは離れている距離から矢を射る。
矢は大きく外れて当たらなかった。
ですよねえ。
正直、軍隊蜂の動きは完全に見えているのだが、10cmほどの小さな的に矢を当てられないのだ。
せっかくの長射程なのに当てられないんじゃ意味が無いぜ。
迎撃はセレナとヒュッケに任せることにして、増援に備えてショットガンの弾をバードショットに換装しておく。
そうこうしている間にも、軍隊蜂はギチギチと歯を鳴らしながらこちらに向かって来た。
「たっつん、セレナがお空飛んで倒す?」
「いや、待て。ヒュッケと2人で迎え撃って一気に片をつけろ。その方が早い」
セレナとヒュッケが軍隊蜂と接敵すると、お互いに1振り2突きして反撃すら許さずに一瞬で殲滅する。
「良し、逃げるぞ!」
「達也さん、あれを!」
ヒュッケが叫んで指を差した南の方角を見ると、かなり遠くから黒い霧のようなものが近づいてきていた。
軍隊蜂の集団のようで、すでにこちらを標的として完全にロックオンしているようだった。
遅かったか。
「たっつん、こっちからも来た」
「なにぃ!?」
セレナが指さした西の方を見ると100匹近くの軍隊蜂が迫ってくる。
これは逃げるのは無理そうだ。
「セレナ、ヒュッケ戦うぞ」
「わかったあ」
「はい、でも多勢に無勢ですよ? どうするんですか?」
「まずは西から来るやつらを殲滅する。その後はセレナはサイクロンの魔法を、ヒュッケは火魔法で強力なやつを詠唱してくれ。それで、軍隊蜂の集団を一網打尽にする」
「サイクロンの魔法を使うのぅ?」
「なるほど、サイクロンの魔法で一箇所に集めてその後はまとめて火炙りにするんですね? でも、僕は魔法の方はあんまり得意では無いので、あの数を焼き殺すだけの火力は出せないと思うんですけど?」
「わかってる。俺の方で火力を増幅してやるから、少しでも火力を上げてくれればそれでいい」
「そんなこともできるんですか? はい、わかりました」
「よし! 行くぞ!」
ヒュッケの返事を聞くと、西の方から向かって来た100匹ほどの集団に向けて駆け出す。
南から来る本隊らしき集団と合流される前に殲滅する。
先頭集団が100mほどの距離まで近づくと、先制攻撃でバードショットの弾丸を食らわせてやる。
7発すべて連射すると、100匹ほど居た軍隊蜂の集団は打ち漏らした8匹だけになっていた。
「セレナ、ヒュッケと足並みを揃えろ」
「ほぇ? わかったぁ」
セレナが疾風の如く飛び出そうとしたのを寸前で止める。
こいつらは蜂の習性というか、やられてもやられても全滅するまで馬鹿のように向かって来る。
ならば、わざわざセレナが単騎で突っ込んで集中攻撃を受けてやる必要はないのだ。
接敵した瞬間、セレナとヒュッケが一瞬で6匹仕留める。
残り2匹は集団から少し遅れて向かって来ていた。
あの2匹を待ってたら詠唱している時間が無いかもしれん。
あいつは俺が仕留める。
「残りは俺に任せて詠唱を開始してくれ」
「わかったぁ」
「はい」
バードショットをリロードしてショットガンを仕舞うと、代わりにベレッタの安全装置を解除して手に握る。
「ふぅ~」
パン、パン
軽く息を吐きながら相棒のベレッタで狙撃して、集団から遅れていた2匹の軍隊蜂を連続して仕留める。
うーん、なんという安定性だ。
それにこの小回りの良さ、使い勝手が良すぎる。
集団から遅れていた2匹を手際良くベレッタで仕留めると、安全装置を掛けてホルスターに収めた。
「セレナ、ヒュッケ! 来たぞ? 準備は出来てるか?」
「いつでも行けるのぅ」
「こっちも問題ありません」
「よ~し……今だ!」
タイミングを見計らってセレナに指示を出すと、軍隊蜂の集団がサイクロンの巨大な渦に吸い込まれるように巻き込まれていた。
「ヒュッケ!」
「はい、フレイム!」
ヒュッケの中級魔法の炎がサイクロンの渦と重なると、小さなファイヤーストームと化す。
そこにコルクを抜いた火炎瓶を次々と投げ込むと、見る見るうちに巨大な炎の竜巻となっていた。
「こいつはおまけだ!」
M67破裂手榴弾を竜巻に投げ込む。
バン! と竜巻の中で手榴弾が破裂すると、撒き散らかされた鉄の破片が竜巻の渦の力で凶悪な兵器と化していた。
サイクロンの魔法が収まると、そこには炭化してばらばらに切り刻まれた軍隊蜂の死骸が積み上がっていた。
「はは、相変わらずめちゃくちゃですね」
ヒュッケが渇いた笑いを上げる。
「なあに、こいつら蜂が考え無しに突っ込んでくるからさ」
「たっつん!」
ヒュッケと勝利の余韻に浸っていると、セレナが警戒したような声を出す。
軍隊蜂が生きてるのかと警戒するも、HPは0になっている。
周囲を警戒するが何も無い。
なんだ?
「ヒュッケ?」
「わかりません」
しばらくすると、近くの足場の石がごぱりと持ち上げられて、石の下から体長30cmほどのイグアナのような魔物が次々と顔を出していた。
「達也さん、サラマンダーです!」
サラマンダー?
確か、火炎のブレスを吐くレベルも50を超えてるやばいやつだ。
当然ながら、本家本物のドラゴンのファイヤーブレスは届く範囲も威力も桁違いだ。
くそっ! 次から次へと……少し安全な経路を外れただけでこれかよ。
前方8、後方に8、ざっと見て16匹ほどか?
まずい、囲まれてる。
身を隠せるような大きな岩も無いし、足場が悪くて一気に駆け抜けるのは難しい。
こんな場所で一斉にファイヤーブレスを吐かれたら逃げ場が無い。
「セレナ、ヒュッケ! 前方のやつらは俺がまとめて倒す。後方はお前ら2人に任せるぞ?」
「わかったぁ!」
「はい!」
「ブレスを吐かれる前に片をつける。今回は時間との勝負だ。守ったら死ぬ! 連携は気にせず突っ込め」
バトルライフルのHK417をフルオートにすると、トリガーを2~3発刻みで離してリズミカルに連射する。
石の下からのっそりと出てきたばかりのサラマンダーに問答無用で弾丸を浴びせると、相手の迎撃の体制が整う前に一瞬で殲滅して制圧した。
反撃を許す前に俺の方は片付けた。
セレナとヒュッケは?
背後を振り返ると、セレナが足場の悪い岩場の上空を疾風の魔法で飛び回ったみたいで、すでにサラマンダーの死骸が2つ転がっていた。
セレナが3匹目に斬り付ける。
瞬間、セレナの4~5mほど側面に居たサラマンダーが大きく息を吸い込んだ。
まずい! ファイヤーブレスが来る。
だが次の瞬間には、大きく息を吸い込んでいたサラマンダーの体がまるでハンマーで殴られたように吹っ飛んだ。
恐らくは、セレナが新しく覚えたエアハンマーの魔法だろう。
援護射撃の為に構えていたライフルの銃口を下ろしてほっと一息つく。
ヒュッケの方に視線を向けると、やっと1匹目のサラマンダーと対峙した所のようで即座に必殺の槍を繰り出して仕留めていた。
ヒュッケから10mほど離れた位置に居たサラマンダーが大きく息を吸い込む。
ファイヤーブレスが来る!
しかし、なぜかヒュッケはそちらにちらりと視線を向けるが鼻で笑うような顔で微動だにしない。
やばいと感じて、バトルライフルを向けるが間に合わない。
ヒュッケの余裕そうな顔に反応が遅れてしまった。
「ヒュッケー!」
ヒュッケに向けてファイヤーブレスが放たれた。
向かって来たファイヤーブレスに、ヒュッケは切り裂くように槍を振り上げた。
すると、真っ赤なファイヤーブレスが真っ二つに分かれてヒュッケを避けるように通り過ぎた。
え? ファイヤーブレスって……魔法じゃないのに斬れるの?
いや、魔法なのか?
唖然としていると、ヒュッケがファイヤーブレスを放ったサラマンダーに肉薄して息の根を止めていた。
「ふう、何とか終わりました」
「こっちも終わったのぅ」
戦闘が終了すると、セレナとヒュッケが疲れた疲れたといった感じでこちらに歩いてきた。
「セレナ、ファイヤーブレスは斬れないよな?」
「ほえ? 斬れないよぉ」
「おい、ヒュッケ! 勇者はファイヤーブレスを斬れるのか?」
「え? はい、そうですけど」
「魔法しか斬れないんじゃないのか? それともファイヤーブレスは魔法なのか?」
「さあ、僕も詳しい事はわかりませんが、学者の見解では魔物が発する力は大半が魔法によるものだそうですよ」
何だって?
それじゃあ、ほとんどの攻撃を無力化できるって事じゃないか。
やっぱり勇者は半端じゃねえ。
絶対にヒュッケの協力は必要だな。
戦利品の回収をすると、西にある洞穴へと歩を進めた。
「達也さんどうするんです? 迂闊に洞穴に入ると毒ガスが噴出しているかもしれませんよ?」
「それは考えてきた。問題は巣穴に火竜が居るかなんだけど……まあ、それは撃ってみればわかるさ」
火竜の巣穴らしき洞穴から10km前後離れた場所に陣取ると、ガンボックスから120mm迫撃砲を取り出して設置する。
「方位角5060、射角0910、装填準備良し」
クランクを回して照準を決めると、発射方式は留縄式にして紐を握る。
「ファイヤー!」
ズッダン!
掛け声と同時に思い切り紐を引っ張ると、強烈な爆音を鳴らして迫撃砲弾が岩山にあった洞穴に飛んでいった。
数瞬後、岩山にあった洞穴の上部に着弾の爆炎が上がる。
岩山が軽く振動すると、パラパラと洞穴から崩れた小石が転げ落ちていた。
「うーん、方位角はいいけどもうちょい下かな? 射角を修正しよう」
「ど、洞窟が!? すごい威力ですね」
「たっつん! すごい! セレナもやるのぅ!」
「はいはい、そう言うだろうと思って留縄式にしといたからな。いいか? この紐を引っ張れば発射するからな?」
目をキラキラさせていたセレナに手綱を握らせる。
ちなみに、迫撃砲の発射方式は2種類ある。
墜発式弾を砲身に落とすと発射する。
留縄式撃鉄に止め縄を付けて縄を引く事で発射する。
「達也さん! いったい何をしようとしてるんですか?」
「うん? ああ、毒ガスのせいで近づけないならドラゴンの方を巣穴から叩き出してやろうと思ってな。ふふ、虎穴にいらずんば虎子を得ずなんてのは遠い昔の話さ。出て来ないのなら、安全な遠くから攻撃して虎穴ごと破壊してやればいいんだ。あれ? 虎じゃなくて竜だったか? がーはははは!」
「巣穴ごと潰してしまったら虎の子供を捕れないじゃないですか。もう、めちゃくちゃですね」
「がははは、たっつん、おもしろいのぅ」
気分良く高笑いしていると、セレナは愉快そうな顔で俺の真似をしてヒュッケはあきれたような顔をして俺を見ていた。
「セレナさん、次は僕の番ですよ」
「やー、セレナがやるのぅ」
「ほら、喧嘩するな。セレナは順番を守れ」
ヒュッケもやりたいと言い出して、セレナとヒュッケが順番に迫撃砲を撃っていた。
ドッカン、ドッカンと、4発、5発とぶっ放して洞穴が崩れそうになっていた頃、ついに火竜が巣穴から顔を出した。
グゥウウウ~グワオオオオオ!
「達也さん、なんかめちゃくちゃ怒ってるみたいですよ?」
「まあ、気にするな。でも、この距離だとヒート弾が届かないんだよね」
俺の兵装の中で火竜を倒せる火力があるのは、カールグスタフ無反動砲のヒート弾しかないだろう。
だが、俺の持っているHERT551弾頭は最大射程でも700mと、それほど遠距離から狙う事はできないのだ。
「どうするんですか?」
「なあに、手は考えてあるさ。それより、お前らは危険だから岩陰にでも隠れてろ」
「は、はい」
「わかったのぅ」
セレナとヒュッケが近くの岩陰に身を潜めるのを確認すると、カールグスタフ無反動砲にILLUM545照明弾を装填する。
俺の考えた作戦は、適当な場所に撃った照明弾に食らいつかせてヒート弾の射程内におびき寄せるというものだ。
通常なら照明弾に食らいつかないかもしれないが、巣穴をさんざん突いて火竜を怒らせているので目に入れば高い確率で飛び掛ってくるだろう。
フフフ、火竜を怒らせるのもすべて作戦の内だぜ。
岩山が邪魔だな。
あそこに誘き出すか。
現在地から300mほど先、開けた場所の上空に向けて照明弾を発射する。
空高く飛んでいった照明弾がパンと上空で破裂すると、パラシュートが開いてゆらりゆらりと落下して、昼間だというのにこれでもかというくらい派手な火花をちらちらと飛ばしていた。
次の瞬間、矢のように巣穴から飛び立った火竜が凄い勢いで照明弾に食らいついた。
よし、食いついた!
すでに照明弾の発射と同時にリロードと念じている。
装填したのはHERT551弾頭だ。
外したら、リロードしている時間は無いかもな……
リロード完了まで、2秒、1秒。
「ファイヤー!」
シュパーン!
音速で飛んで行った火の弾が照明弾に喰らい付いていた火竜の頭部に衝突すると、上空で派手な爆炎が撒き散らかされた。
火竜の頭部に拳大の穴が空いて洪水のように血の雨が噴出すると、推進力を失った戦闘機のように失速してそのまま地面に墜落した。
墜落時の轟音をBGMにしながらステータス画面のクエストを確認する。
火竜討伐はクリアになっていた。
「終わったな」
「か、火竜がこんなにもあっさりと……」
「たっつん、すごいのぅ」
火竜を倒すとセレナは笑顔で駆け寄ってきたが、ヒュッケは『これは歴史に名前が残るような偉業ですよ』と何やら呆然としたように呟いていた。




