201話 火山地帯
「達也さん、ここはさすがに暑いですね」
「そうだな。気温が50度を超えているからな」
モンド大陸にある火山地帯は、モンド王国から優に500kmは離れた南方に位置している。
溶岩が溶けて固まったような地面はぼろぼろとしていて歩き難く、暑さとあいまって急速に俺達の体力を奪っていた。
「でも、僕達は運がいいですよ。ここまではこの地で出現する凶悪なドラゴンとの遭遇は避けられているんですから」
「ヒュッケ、運じゃないぞ? ティアに比較的安全なルートを聞いているからな」
「そうなんですか?」
「ああ。だだ、何百年も前の話らしいから気だけは抜くんじゃないぞ?」
「はい、わかりました」
ヒュッケがビシリと敬礼するようにして返事をする。
それにしても、こいつはキツイ。
「もう少し斜面が緩やかなら、グロウラーで強引に登れるんだがな」
呟きながら斜面を見上げると顎からぽたぽたと汗が滴り落ちる。
「達也さん、どこかで休憩しませんか? セレナさんが限界みたいですが?」
セレナを見るとずっと黙ったまま、水を掛けられた猫のようにぐんにゃりと項垂れながら歩いていた。
セレナは体力が無いからな。
少し休むか。
GPSを起動させると、グロウラーが出せるくらいの広さがある場所を検索する。
「セレナ、ヒュッケ、あの斜面を登った先に平面な場所がありそうだ。そこでグロウラーを出すから少し休憩しよう」
「ほんとですか?」
「セレナぐろうらあ乗るのぅ!」
途端に元気になったセレナががばりと顔を上げると、疾風の魔法を使って斜面の向こうまで一直線に飛んで行った。
「あれ? 体力の限界じゃなかったのかよ?」
「セレナさん待って下さいよー!」
ヒュッケがセレナの後を走るように追いかけて行った。
「ぜえぜえ、き、きつい。飛んで行くなんて、セレナだけずるいぞ」
「たっつん、おそいのぅ」
「達也さん、早くグロウラーを出して下さいよー」
「うるさい、この体力馬鹿が」
やっとの思いで斜面を登ると、ケロッとした顔で待っていたセレナとヒュッケに悪態をつく。
肩で息をしながらグロウラーを出すと、駆け込むように車内に入ってエアコンの冷房を全快にする。
「あ~あ~涼しい。地獄に仏とはこのことだな」
セレナとヒュッケを見ると、作ってきたアイスキャンディーに夢中のようでクーラーボックスをごそごそとやっては嬉しそうに食べていた。
勇者と言ってもまだまだお子様だな。
「セレナもヒュッケも食べ過ぎて腹を壊すなよ?」
「はい、気をつけます」
「わかったのぅ」
セレナとヒュッケに注意するように伝えると、作ってきたアイスコーヒーをボトルに注いでごくごくと咽を鳴らして飲む。
「くぅ~。うめええええ。やっぱり暑い時はこれだよな!」
この地獄のような暑さの中を延々と歩いてきた身としては、この秘氷の水晶できんきんに冷えたアイスコーヒーはまさに格別な旨さだ。
天国に昇るかのような爽快感と同時に、火照った体が一瞬でひんやりと冷やされた。
「セレナ、ヒュッケ、そろそろ外に出て体を外気温に慣らしておくぞ」
30分ほど休憩すると2人に声を掛ける。
冷房の効いた車内でしばらく休んでいると、体に篭っていた熱も治まってずいぶんと楽になっていた。
「え? もうですか? わかりました」
「セレナ、降りたくないのぅ」
「ほら、セレナ。この温度差だと体温を慣らさないと体がおかしくなるから」
また、車降りたくない病が発病していたセレナを何とか説得する。
「達也さん、目的地まであとどのくらいの時間が掛かりそうですか?」
「う~ん、そうだな……距離的には2~3kmほどなんだが、道が真っ直ぐじゃないし斜面にもなってるからな。1時間、2時間くらいは見といた方がいいな」
太陽の光が当たらない岩影に腰を下ろして、外気温に体を慣らしながらヒュッケと今後の道程について話す。
「さて、じゃあそろそろ行くか」
「はい」
「セレナ、行くのぅ!」
外気温に体が慣れたのを確認すると、再び登山を開始した。
「たっつん!」
再び傾斜を歩き始めてから30分くらい経った頃、隣を歩いていたセレナが唐突に緊張したような声を出した。
「セレナ、何か居るのか?」
こくりとセレナが首を縦に振る。
俺にはわからない。
だが、セレナは危機に対して直感が鋭い。
「ヒュッケ?」
「僕には、わかりません」
「なんだかわからんが、とりあえずあそこの岩陰に身を潜めるぞ!」
セレナが警告を発してから3秒と経たず、近くにあった大きめの岩陰に急いで身を隠す。
岩陰に身を隠すと同時に、からんと小石が斜面の上の方から転がってきた。
次の瞬間、今まで歩いていた斜面辺りを巨大なドラゴンが凄い勢いで転がり落ちて行く。
「達也さん、あれはグレートドラゴンです!」
ヒュッケが叫ぶ。
数瞬遅れて巨大な翼を広げた真っ赤なドラゴンが、落ちて行ったグレートドラゴンを追いかけるようにして飛んで行った。
「あれはまさか!」
咄嗟にステータス画面を確認すると火竜と表示される。
スティンガーで迎撃しようとするが、あの巨体では弾の無駄だとあきらめる。
翼を広げれば全長10mは優にあっただろう。
あっという間に視界から遠ざかって行った火竜を呆然と眺める。
「う、ああ。はあ、た、助かった」
ヒュッケが力無くへなへなと地面にしゃがむ。
「あれは、まさかグレートドラゴンを捕食しているのか?」
「どうみてもそうじゃないですか! 達也さん、やっぱり火竜は洒落にならないですよ」
グレートドラゴンは中々の強さだと聞いている。
討伐しようとするならば、一般の兵士なら3000くらいの犠牲は覚悟しないと倒せないらしい。
火竜はそれを捕食するだと?
久々に緊張した戦いができそうだ。
「達也さん、何を笑っているんですか?」
「うん? 俺は笑っていたか?」
「たっつん、怖いのぅ」
俺の腕にずっとしがみついていたセレナが、俺の顔を見上げるように言う。
「悪い悪い。とは言え、近くに火竜の巣がありそうだな。燃焼剤を採掘したら火竜を見つけ出して討伐するぞ」
「うあああ。やっぱり、やるんですか?」
「当たり前だ」
げんなりとした顔のヒュッケに、絶対にやるからなと念を押すと再び登山を開始した。
その後は、何事も無くティアに教わった採掘場所に到着する。
「たっつん、まっくらなのぅ」
「達也さん、前に使ったフラッシュライトで照らして下さい」
「ちょっと待ってろよ? 前に使ってたやつより強力なやつを手に入れたんだ」
13000ルーメンの軍用フラッシュライトで坑道内を照らす。
ちなみに、通常の懐中電灯が10~80ルーメンで日常で使用するだけなら100ルーメンもあれば充分な性能である事を鑑みれば、軍用ライトがどれだけ凄いかわかるだろう。
具体的に言えば、手で持てるサイズの光源で車のヘッドライトよりも明るいのだ。
「うわああ! 達也さんやばいですよ、それ。坑道内が全部真昼のようになってますよ!」
「きぃやあああ! たっつん凄い! セレナにも貸してぇ!」
「ほれ、壊すなよ」
「ああ! セレナさんばかりずるいですよ。僕にもやらせて下さい」
セレナにハンディタイプのフラッシュライトを手渡すと、ヒュッケも一緒になってカチカチとライトを点けたり消したりして真っ暗な坑道内を照らして遊んでいた。
やれやれ、強いとは言ってもヒュッケもまだまだお子様だからな。
「まったく、俺は保育士じゃないっての」
愚痴を言いながらSUREFIRE製のフラッシュライトのアタッチメントを取り出すと、バトルライフルのHK417に装着する。
これで良し。
緊急時は、こっちに持ち替えて光源を維持しながら戦う。
「いいか? ここは昨日のミスリル鉱の採掘場と違って魔物が強い。推奨レベルが50と高いから気をつけろよ? まあ、いざとなったら俺が銃で片付けるから安心して戦ってくれ」
「はい、わかりました。戦闘は僕に任せて下さい」
「セレナに任せるのぅ」
セレナとヒュッケの頼もしい言葉を聞くと、3人で並んで名も無きダンジョンと化した坑道内に足を踏み入れた。
フラッシュライトの強力な光源に照らされると、落盤防止のために打たれていた木の板が通路の先の方まで延々と続いているのが見えていた。
坑道内の道幅は10mほどだったので、このフラッシュライトの光源ならばダンジョンの数百メートル先まで完全に丸見えだ。
これなら、魔物達が遠くから襲ってくるのを余裕を持って待ち構える事ができる。
まさに、科学の勝利ってやつだな。
「セレナ、ヒュッケ、何かこっちに向かって来るぞ」
「達也さん、セレナさん、相手は1匹のようです。僕にひとりでやらせて下さい」
「わかった。任せる」
「ひゅっくん頑張るのぅ」
早速向かって来た魔物は、2mほどの巨大なムカデのような魔物だった。
グレイクリーパー
レベル45
HP550
MP0
力410
魔力0
体力620
速さ320
命中120
両脇から何本も生えている足を素早く動かして地面を這うように迫ってくる。
ヒュッケの直前までくると突然グレイクリーパーが立ち上がった。
「ずありゃあ!」
ヒュッケが立ち上がったグレイクリーパーの顔面辺りを槍で突くと、そのまま力まかせに下に引き裂く。
顔から下を両断されたグレイクリーパーはそのまま絶命していた。
「一瞬だったな」
「ひゅっくん、凄いのぅ」
「はは、ドラゴンに比べたらゴミみたいなもんですから」
ヒュッケはあんな事を言っているが、決してこのダンジョンに出る魔物が弱いわけではない。
一昨日とは別人のようにヒュッケが強くなっているんだ。
男児3日会わずば刮目して見よとは言うが、素質と才能を併せ持った者が努力するとここまで成長する。
ほんと、ずるいよな。
「達也さん、こいつはどうしますか?」
そんな俺の葛藤など何処吹く風で、ヒュッケが槍の先で倒したグレイクリーパーを差していた。
「セレナ、ちょっとライトを持っててくれ」
「わかったぁ」
戦闘が終わると、図鑑を開いて出現したグレイクリーパーについて調べる。
グレイクリーパーは強靭な剛皮を持っているため、その剛皮は盾や鎧の材料として重宝されると書かれていた。
正直な所、ドラゴンの値段に比べるとゴミみたいな価値だ。
坑道は道が狭いから大きく広げてしまっているミリタリーテントを出す幅は無いうえに、燃焼剤を採掘した後は火竜の巣を探さないといけないので時間も無い。
「売っても大した金額にはならないみたいだな。解体している時間がもったいない。時間も押してるから無視するぞ」
「わかりました」
少し進むとまたグレイクリーパーが現れる。
しかし、今度は3匹同時だった。
セレナが疾風の如く左端にいた1匹に向かうと、ヒュッケが右にいた2匹を同時に相手する。
セレナが一瞬で左にいた1匹を片付けるのを確認すると、右にいた2匹のグレイクリーパーの目の辺りにライトの光を集中させて援護する。
目がくらんだようすのグレイクリーパーをヒュッケが楽々と倒していた。
「達也さん。その、あれでは僕が強くなるための練習になりませんから」
「おいおい、ここの魔物は強いからかなり危険だぞ?」
「お願いします」
「……そうか、わかった」
「我が侭を言ってすいません」
「いや、正々堂々とやるのは、自分が今よりもさらに強くなるためだからな。卑怯な手を使って一時の勝利を得ていた所で、それが通用しないような本当に強い相手と当たった時にどうすることもできなくなる。ヒュッケの目指すべきはもっと高みにあるんだろう?」
「はい、僕を守るために大切な飛竜を失ってしまったヒックス先生のためにも、僕を守るために死んでいった仲間の償いのためにも……僕が魔王を倒さなければいけないんです。お前が守ったあいつが魔王を倒したんだと、胸を張ってもらえるように」
ヒュッケが燃えるようなギラギラとした瞳で自分が戦う理由を答える。
贖罪か。
その道は辛いぞ。
死人に口無しで、死者は決して許してはくれないからな。
苦しんで苦しんで、そして最後に自分で許さないといけないんだと気づくんだ。
しかも、厄介な事に自分で答えに行きついて納得しないと自分を許すことができないときている。
下手に伝えると反発して逆効果なんだよな。
やれやれ。
死なないように見守るしかないか。
「……そうか。だが、あまり思い詰めて無茶だけはするなよ?」
「はい!」
ヒュッケの覚悟を聞くと再び進行を開始した。
「ヒュッケ、さすがにグレイクリーパー3匹同時は」
「達也さん、お願いします」
「ああ、もうわかったよ。セレナ! すぐに助けに入れるように備えておいてくれ」
「わかったのぅ」
あきらかに無理目の戦いに、セレナの返事を確認すると即座にヒュッケを援護できるようにバトルライフルのフラッシュライトに光源を切り替える。
くそっ! これは弾を使うことになるな。
「イグニッション! ブラストランサー!」
一直線に向かって来たグレイクリーパーにヒュッケは初めからスキル全開で突っ込んで行くと、最初に突っ込んできたグレイクリーパー目掛けて必殺のブラストランサーを放って即死させる。
最強の技を先制攻撃で使って即座に1匹減らす。
それは良い判断だ。
これで3対1が2対1になった。
だが、その後はどうする?
必殺の一撃を放って体勢が崩れていたヒュッケに、残り2匹のグレイクリーパーが間を置かずに飛び掛る。
連続して飛び掛ってきたグレイクリーパーの1匹を、ヒュッケは槍の柄の部分を使って何とかいなしていたが、もう1匹のグレイクリーパーに押し倒されてしまった。
ここまでだな。
ズァーオン!
ヒュッケがいなして距離が開いていたグリムリーパーを、即座にバトルライフルで撃ち抜いて片付ける。
ヒュッケに追撃はさせない。
だが、ヒュッケに覆いかぶさっているグレイクリーパーには攻撃できない。
援護をしようにも、これではヒュッケにも当たってしまう。
セレナに助けるように指示を出していると、ヒュッケが圧し掛かっていたグレイクリーパーを足で蹴り飛ばして跳ね除けた。
セレナが即座にソニックブレードでグレイクリーパーを切り裂いて倒す。
戦闘が終わると、ヒュッケがびっくりしたなあといった程度の顔をして立ち上がる。
「はあ、危なかった」
「ヒュッケ! 強くなりたいのはわかるが、もう少し安全のマージンを取れ」
「ひゅっくん、あぶないのぅ」
危機感の薄いヒュッケにセレナと2人して警告する。
「すいません。でも、それくらいじゃないと僕の求めている強さには到達できませんから」
あれだけ危険な目に遭ったというのに、答えたヒュッケの目に迷いは微塵も感じられない。
どうやらヒュッケの決意は固いようだ。
「はあ、言っても無駄か。まあ、最大限のサポートはしてやると約束しちまったからな。しゃあない、死んだら骨は拾ってやる。こうなったらとことんやれ」
「はい、お願いします」
危なっかしいヒュッケを見て、せめて全力でサポートしようと誓った俺だった。
「ここが採掘場ですか? 結構広いですね」
「ああ、ここならミリタリーテントも出せる。それよりも、俺は精神的に疲れちまったぜ。おっと、念のため入り口にも有刺鉄線を張っておくか」
ヒュッケの大活躍のおかげで採掘場まで無地に辿り着いた。
初めは危なっかしい戦いを繰り広げていたヒュッケだったが、戦うたびにどんどん強くなっていき、ミスリルの鉱石の場所と同じように後半の道程では危なげなく戦っていた。
どうやら、今回の戦いでもヒュッケは爆発的に成長したようだった。
俺とは違って、戦えば戦った分だけ強くなる。
ヒュッケの著しい成長を目の当たりにしていると、地道に努力している俺が馬鹿みたいで嫌になってくる。
「そういえば、ミスリル鉱石のダンジョンでもやってましたね。速攻で倒してきましたから、そんなにすぐには沸きませんよ」
「まあな。わかってはいるんだが、用心に越した事はないだろ? まあ、気持ちの問題だな」
目の前に沸く可能性は限りなくゼロだが、長い坑道内ならその可能性はあるんだ。
セレナやヒュッケと違って、俺は此処に出るクラスの魔物は即死圏内なんだよ。
お前ら天才組みと俺のような凡人を一緒にするなっての。
「そうですか。それより、今回採掘するのはどんな物なんですか?」
「ちょっと待ってくれよ。えーと、燃焼剤はこんな白い粒だ」
心の中で愚痴りながらミリタリーポーチに入れていた燃焼剤の見本を取り出す。
「ええ? こんなのそこらの石と区別できませんよ」
「セレナもわからないのぅ」
「まあ、ここで採掘できるらしいから、似たような鉱石を大量に持っていけば問題ないだろ」
ミリタリーテントからピッケルを取り出して渡すと、3人でカッチン、コッチンと根気強く採掘を始める。
「達也さん、いったいどのくらい採掘すればいいんですか?」
「うーん、鎧一つ作るのに一握りくらいあればいいと言ってたからな……外れも考えて、一斗樽くらいあればいいか?」
「じゃあ、もう充分じゃないですかね?」
気づけば、燃焼剤と思われる鉱石が山のように積み上がっていた。
「そうだな。これだけあれば、多少外れが混ざっていても問題ないだろう」
木箱に詰めるとミリタリーテントに運ぶ。
「これで良しと」
「たっつん、セレナお腹すいたのぅ」
「そうですね、僕もお腹が空きました」
「おっと、もうそんな時間か。どうする? 外は暑いからここで食べてくか?」
火山地帯のはずなのに、なぜかこのダンジョンはひんやりと涼しい。
「賛成です!」
「さんせいなのぅ」
「おっけー! では、今日は暑さに負けないようにと、うなぎの蒲焼にします」
「うなぎの蒲焼? うなぎって、この前ドラゴンリバーで捕ってたやつですか?」
「ああ、そうだ。一昨日ドラゴンリバーに罠を仕掛けていただろ? なかなか大きいのが捕れたんだよね。俺が知ってる料理の中でも1位、2位を争う旨さだから楽しみにしとけよ?」
「ええ!? 本当ですか?」
「セレナ楽しみなのぅ!」
食い入るように聞いてきたセレナとヒュッケに、昼食の支度の手伝いをお願いした。
「さてと、それじゃあ、うなぎを捌きましょうかね」
基本は魚の三枚卸しと同じだ。
しかし、美味しいうなぎが食べられるかは、中骨の部分を綺麗に削ぎ取れるかで変わってしまうので注意が必要だ。
ここの処理が下手だと、食感が小骨のせいで台無しになってしまうのだ。
うなぎの頭をまな板に叩きつけて気絶させると、アイスピックでうなぎの目を串刺しにしてまな板に縫い付ける。
エラの部分から包丁をいれて背中をなぞるように捌くと、中骨を綺麗に切ってから串を刺して軽く蒸す。
下準備を終えると、簡易かまどを設置してミリタリーテントに常備している炭に火をいれた。
本当は洞窟なんかで火を使ったら一酸化炭素中毒になるから駄目なんだ。
でも、この世界のダンジョンは呼吸でもしているのか常に空気が循環されているみたいで、よほど大量にでもやらなければ問題はないんだよね。
かまどに鉄の棒を2本並べるとその上に串に刺した蒲焼を乗せる。
うちわを仰いでぱたぱたとやっていると、フツフツとうなぎの表面から脂が滲み出ていた。
ぽたぽたと滴る脂の所為で火力が高くなりすぎないように、うちわでぱたぱた扇いで滴る脂を飛ばす。
「おっ! こいつは脂が乗っていやがる。大当たりだな」
うなぎのタレの入った壷にたっぷりと浸すと、再び鉄の棒の上に乗せて炭火で焼く。
うちわでぱたぱたと煽っていると、セレナとヒュッケが鼻をくんくんとさせてもどかしそうに体を捩り始めた。
「うわ~、凄く美味しそうな匂いですよ」
「たっつん、まだなのぅ?」
「まだだ。タレをしっかりとうなぎに染み込ませるには、何回も浸さないといけないからな」
皮の部分を焼く時はしっかりと弱火を維持する。
弱火でじっくりと焼かないと、皮が縮んでゴムのような食感になってしまうからだ。
片面20分で計40分ほど焼いてしっかりと火を通すと、熱々の御飯の上にのせて軽くうなぎのたれを掛ける。
「さあ、できたぞ」
「うおお! 待ちくたびれましたよ! 早く食べましょう」
「たっつん、早く! セレナお腹すいたのぅ!」
セレナとヒュッケが、今か今かと待ちわびていたかのように催促する。
まあ、時間掛かったからね。
鰻は血に毒があるから、しっかりと火を通さないと危険なんだよ。
「わかったわかった。それじゃあ食べるか」
「セレナ、たべるのぅ」
「はい、いただきます」
イスに座ってお茶を淹れると、3人でがっつくようにして食べ始めた。
うなぎを御飯と一緒にばくりとやると、蒸して柔らかくなった鰻の白身が口の中でほろりと溶けて、そこに噛み締めた米とうなぎの香ばしいたれが旨さを引き立ててくれる。
会心の出来に思わず笑みが零れる。
本当に美味しいものを食べている時は言葉が出ないもので、セレナもヒュッケも夢中になって食べていた。
米粒ひとつも残さずに完食する。
「達也さん、僕は世の中にこんな美味しい料理があるなんて知りませんでしたよ」
「セレナ、たつたあげも、さかなのうにえるも、おこのみやきも、みんなすきなのぅ」
「うにえるじゃなくて、ムニエルな。まあ、好評なようで良かったよ」
幸せそうな顔のセレナとヒュッケに満足して笑顔で答えた。




