19話 初任給の使い道
この工房で働きはじめて、1ヶ月が経過しようとしていた。
そして、ミュルリから初任給が渡される。
なんと100万エルです。
これはかなりの大金ですよ?
確かパンが1個100エルだったかな?
他に比較できそうなものは……宿に泊まった時の代金はいくらだっけ?
あれ? そういえば宿に泊まった記憶が無いぞ?
一体何時から宿屋に泊まったと錯覚していた?
しくしく。
石臼ができた後もいろんな事がありました。
ある日、鼻歌交じりでゴリゴリやってるとそこに突然親方がやってきたのです。
そして『お前の物はわしの物、わしの物はわしの物じゃあ!』と何処かのガキ大将みたいなことを言い始めたかと思うと『世のため息子のため』と俺を足蹴にして石臼を持っていってしまったのです。
『この子だけは止めて!』と石臼に必死にしがみついて必死に抵抗したのですが力及ばず。
まあ、結局はその後にミュルリに頼んで新しい石臼を購入してもらいましたけどね。
でだ、いつの間にか薬師伝説達也になってたけど魔王を倒すことが俺の目的なんだよね。
だから、とりあえず仕事も目処がたったので、午前中は近場のダンジョンにでも行く事にしたんだ。
まとまったお金も手に入ったことだし、まずは装備を整える事からかな。
100万エルを手に、親父のいる武器屋へ鎧を購入しに向かう。
東の都市にあるレーベンの方が品揃えがいいんだろうけど、なるべく親父の所で購入してあげよう。
店に入ると、相変わらず客は誰もいない。
がらーんとした店内では、親父がいつものように上半身裸でポージングを決めていた。
気にせず声を掛ける。
「親父! 鎧を購入しに来たぞ?」
「はっ、鎧がいくらすると思ってるんだ?」
開口一番、親父は俺の言葉を冷やかしだと決め付けているようで、やれやれと言いたげな顔で投げやりに答える。
「100万エルある」
ビシャリと札束をカウンターに叩きつけると『達坊! 俺はお前のことを信じてたぜ?』と途端に手の平をクルリと返して白々しい台詞を吐いてきた。
まったく調子のいい親父だ。
嘆息していると『これで今月は乗り切れる』とさらりとやばげな事を呟いていた。
おいおい、やばい状況じゃないの?
呑気にポージングしている場合ではないでしょうが?
親父は相変わらず『だはははは』と呑気に笑っている。
う~ん、あれは何も考えてないな。
俺が何とかしないとまずいかもしれない。
とりあえず、装備を購入する時は絶対に親父の店で買うことにして時間を稼いで、その間にこの店にとって基幹商品となるような何かを考えておこう。
親父には世話になってるからな。
そんな事を考えていると親父が鎧を何着か持ってきた。
どれを選べばいいか迷っていると、親父が鎧を選ぶ時の基準を説明してくれる。
判断する箇所は、防御力、重さ、動きやすさ、耐久性、値段のトータルバランスだそうだ。
ちなみに、鎧の価格は基本的に毛皮、革、金属といった順に高価になるらしい。
俺の場合は、力と体力が無いから特に軽さを重視したい。
その条件を満たしたうえで、なるべく防御力の高い鎧がいい。
「うーん、ホーンラビットの毛皮の鎧は動きやすいけど、鎧というより服に近いな」
「毛皮より多少動き難くなるが、軽さと防御力を重視するなら革鎧一択だぞ」
「そうなのか?」
「ああ、なめした皮を蝋で煮詰めてあるから、衝撃による防御力は段違いだ。手が掛ってる分価格は張るが、毛皮と比較するならすべての面において勝る」
何着か革の鎧を試着してみると、最終的にはかなり軽めの革の鎧になっていた。
80万エル支払って革の鎧を購入する。
親父に礼を言って店を出ると、以前に聞いていた洞穴のダンジョンへと向かった。




