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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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198話 ヒュッケの修行

 ヒュッケと約束をした次の日、しっかりとした重装備に身を固めたヒュッケとドラゴンマウンテンに来ていた。


 巨大なシダ植物の影に身を潜めて、全長5mほどの尻尾の長いテイルドラゴンを射程に捉える。


 「ヒュッケ! いいか? 勝てないと思ったら、どんなに無様だろうと必死に逃げろ! 死ななければ、後は俺が何とかしてやる」


 「はい! 達也さん」


 「セレナは、ヒュッケに何かあった時にすぐにフォローに入れるように近くで待機してくれ」


 「わかったぁ」


 セレナの返事を聞くと、対物ライフルのヘカートの銃身をテイルドラゴンに向けてヒュッケに合図を送る。


 「こっちの準備はオッケーだ」


 「ふぅー。では、いきます! うおおおおお」


 ヒュッケが長い深呼吸をした後、雄たけびを上げながら突撃して行った。



 「でりゃあ! うぁ!?」


 交戦するやいなやヒュッケが先制攻撃で突きを放っていたが、テイルドラゴンの堅い鱗に弾かれて槍の刃先が流されていた。


 ヒュッケがよろけて、たたらを踏む。


 「ぐげっ!?」


 次の瞬間、テイルドラゴンの尻尾になぎ払われたヒュッケが木の葉のように吹っ飛ばされていた。


 「セレナ! ヒュッケに特効薬を! こいつは俺に任せろ」


 「わかったぁ!」


 ヒュッケは大丈夫だ。

 尻尾でなぎ払われる瞬間に左腕でガードしていた。


 対物ライフルのヘカートの照準は、すでにテイルドラゴンの頭部にロックオンされている。


 外すなよ?


 「ヒュッ!」


 ズシャーン!


 軽く息を吐きながらトリガーを引くと、何の造作も無く一撃でテイルドラゴンの頭部を粉砕する。


 テイルドラゴンのHPが0になっていることを確認すると、ヘカートをガンボックスに収納してヒュッケが吹っ飛ばされた場所まで急行した。



 「セレナ、特効薬は使ったか?」


 「使ったぁ」


 「おい、ヒュッケ! 意識はあるか? しっかりしろ」


 ぐったりとしているヒュッケの頬をぺしぺしと叩く。


 「う、うぅ……達也さん? はっ!? テイルドラゴンは?」


 「安心しろ。すでに終わっている」


 意識が戻ったようすのヒュッケに、親指の先をくいっと向けて頭部が無くなっていたテイルドラゴンの方向を示す。


 「は、はは。さすがは達也さんです。僕は……正直な所、ドラゴンが相手でも少しぐらいなら戦えると自惚れていました。でも、実際は何もできなかった」


 ヒュッケが呆然としたような顔でテイルドラゴンの死骸に視線を向けた後、自信を喪失してしまったのかその場に胡坐を掻いた状態でがっくりと項垂れてしまった。


 「次はどう動く?」


 「え?」


 俺が唐突に質問すると、俯いていたヒュッケがきょとんとした顔で俺を見る。


 「幸運にも次があったんだ。なら、次に同じ攻撃を受けたのならば、次はどういった動きをするのかと聞いているんだ」


 「そ、それは……。あ、あのくらいの攻撃なら、イグニッションで受け止められるかもしれません!」


 「なら、次はそうしろ。さあ次だ! 行くぞ!」


 「はい! 達也さん!」


 「セレナも行くのぅ!」


 ヒュッケが覇気を取り戻したようでセレナと一緒に元気な返事をして立ち上がる。


 「でも、1時間休憩してからな」


 「ええ!?」


 立ち上がったヒュッケがすっとんきょうな声を出してずっこけた。


 「まあ、急がば回れってな。特効薬は1回使うと1時間は使えないんだよ。俺はそれで痛い目にあってるんだ」


 「たっつん」


 セレナがあの時の事を思い出してしまったのか、切なそうな顔で抱きついてくると俺の胸もとに顔を擦り付けて甘えてきた。


 「ああ、悪い。思い出させてしまったか?」


 セレナを抱き寄せると頭を優しく撫でる。


 「そういえば、教練の時にそんな説明が……失念していました。でも、特効薬はとんでもない貴重品ですよね? 僕なんかに、その、こんなにも簡単に使ってしまって良かったのでしょうか?」


 「前に説明しただろ? 俺はその特効薬を発明した親方の弟子だとさ。だから、いくらでも作れるんだよ。それに道具なんてのはな、使う時に使わなきゃ何の意味もないんだよ」


 不安そうな顔で尋ねてきたヒュッケに、手の平をひらひらとさせて妙な遠慮はするなと伝えた。



 ヒュッケの休憩がてらテイルドラゴンの解体をしていると、あっという間に1時間が過ぎていた。


 「よし、1時間が経ったぞ。セレナ! 双眼鏡を貸すから、空からドラゴンが居る場所を索敵してくれ」


 「そうがんきょう?」


 「ほら、これを覗いてみろ」


 セレナに双眼鏡を渡す。


 「たっつん! これおもしろいのぅ! 遠くが近くに見えるのぅ」


 「ああ、そうだ。そいつで空からドラゴンを索敵してくれ」


 「わかったぁ! セレナに任せるのぅ」


 セレナが嬉しそう顔で双眼鏡を手に持つと、意気揚々と疾風の魔法を使って空高く舞い上がって行った。


 「ヒュッケ、次も同じテイルドラゴンがいいのか?」


 「そうですね。できれば、リベンジといきたいです」


 「よし! セレナ! 近くにテイルドラゴンは居ないか?」


 「たっつん! こっちに何か来た」


 「何だ?」


 セレナが警戒したような声を出しながら空から急降下して来ると、間髪入れずに空からプテラノドンのような大きな鳥が尋常ではない速度で急降下してきた。


 爆風が巻き起こる。


 爆風に飛ばされるように必死に転がって避けると、大きな鳥は地面には着地せずに再びとんでもない速度で空へと急上昇する。

 咄嗟にバトルライフルを取り出して照準を合わせようとするが、すでに射程外へと完全に離脱していた。


 「なんだ? あの速度は……」


 「達也さん! あれはスカイドラゴンですよ。常軌を逸した速度で飛びまわって、空で出会えば部隊が全滅してしまう空の死神と呼ばれているドラゴンです」


 「なるほど。さすがに速いな」


 「いくら達也さんでも、さすがにあれは無理です。あれと交戦して生きて帰ってこれたのは、エースオブドラグーンのヒックス先生くらいしかいないんですから。さあ、早く木の陰に身を隠して逃げましょう」


 「俺には無理? そうでもないさ」


 スティンガーを取り出すとスコープを覗いて、こちらに再度向かって来ていたスカイドラゴンにロックオンする。

 トリガーを押すと、対空ミサイルがスカイドラゴンに向かって一直線に飛んで行った。


 ミサイルがスカイドラゴンの近くまで飛んでいくと、スカイドラゴンは飛来したミサイルに進行方向をひらりと変えて見事に回避していたが、ミサイルもまた即座に方向転換してその後を追尾する。

 ほどなくして上空で爆発が起きると、片翼がもげた状態のスカイドラゴンが錐揉みしながら落ちてきた。


 「まあ、こんなもんだ」


 あっけにとられたようすのヒュッケに伝えるも、呆然としたままで返事は返ってこなかった。


 「たっつん、あっちに落ちたよぉ」


 「うん? そうか。まあ、とりあえず回収だな。スカイドラゴンというくらいだから高値で売れるかもな」


 「高値なんてもんじゃないです! 王族の方々に献上するような代物ですよ! 軽くて丈夫な素材は、竜騎士にとって垂涎の一品なんですから」


 さきほどまで呆然と佇んでいたヒュッケが、突如大声でまくし立てるように解説してきた。


 「お、フリーズから復活したか?」


 「もう、めちゃくちゃですよ。何ですか今のは?」


 半ば切れているようなヒュッケが尋ねてくる。


 「スティンガーと言ってな。空を飛んでる標的を高速で追跡して攻撃するんだ」


 「……達也さん。もしかして、グルニカ王国救援作戦の時に空を飛んで逃げた魔族を倒したのは」


 「ああ、俺だな」


 ヒュッケには隠す必要がないのであっさりと認めると、訝しげな表情をしていたヒュッケが『やっぱり』と納得がいったかのように深く頷いていた。

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