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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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197話 グラン王とゾンダーク将軍

 「陛下、次代のグルニカ王はいかがでしたか?」


 「フン、気に入らんな」


 「なんと! 驚きました。陛下にそこまで言わせるとは。レックス王太子とはそれほどの人物ですか」


 「フン、あれはバルバトスの阿呆とは物が違うな。もっとも、あの阿呆もあれはあれでなかなかの王なのだが」


 グラン王が白くなった髭を撫でながら、言葉とは裏腹に楽しそうな顔で答える。


 「して、ゾンダーク将軍。貴公が待っていたのはそのような世間話をするためではあるまい」


 「はっ! 僭越せんえつながら申し開きたいがございます」 


 ゾンダークと呼ばれた、重厚な甲冑に身を包んだ巨漢の男が片膝をついて答える。


 「用件は何だ? さっさと申せ」


 「では、飛竜を失った将兵達の扱いについてでございます。彼らは飛竜に騎乗しての戦いなれば一騎当千の働きを致しますが、地に降りたならば戦い方を知らず塵芥の如くで御座います。それまでがエリートであったがゆえか、プライドも高くて部隊に編入しても孤立していて扱いに少々困っている所存です」


 「うむ。で、如何様いかようにせよと?」


 「翼を失った者達を一箇所に集めて、新しい部隊を新設するべきだと進言いたします」


 「ほう、なるほどのう。わかった許可する」


 「はっ! ありがたき幸せに御座います。部隊の名はドラグーン隊です。隊長には元竜騎士団1番隊団長、エースオブドラグーンのヒックス准将を起用しようと考えております」


 「ヒックス? ……あやつか」


 グラン王が苦虫を噛み潰したような顔をする。


 「陛下、准将は有能な指揮官で御座います。遊ばせておくのはモンド王国にとって損失かと」


 「わかっておる。あれは完全に我の失策だったわ。フッ、特効薬なんぞという馬鹿げた発明のせいで少々焦っておったのやもしれん」


 グラン王がどこか自虐的な顔で答える。


 「陛下は……その、財政が逼迫ひっぱくするほど特効薬を買い集めていると聞き及んでおりますが」


 「其の方も、われが気が狂ったとでも思っておるのか?」


 「いいえ、特効薬の効果を鑑みれば当然の処置かと。ただ、なぜそこまで性急に行うのかと」


 ゾンダークが言葉を選ぶようにしてグラン王に質問すると、グラン王がしばらく考える素振りを見せる。


 「……ナインスだ。あれは、自分が平等に世界を統治することが正しい事だと思い込んでいる。故に、やつは皆の為とほざきながら侵略行為を開始する。近いうちに必ずな」


 「帝国が攻めて来ると? 陛下は、皇帝ナインスが不可侵条約を無視してまで侵略行為を行うとお考えなのですか? 私にはあの聡明な男がそのような暴挙に出るとはどうしても考えられません。ここに来て急に侵略を開始するとは、どのような根拠があるのかお聞かせ願いますでしょうか?」


 ゾンダークが眉根を寄せるとグラン王の考えに異を唱えて質問する。


 「……すべては特効薬が発明された事だ。特効薬の発明がこの世界の軍事バランスをすべて狂わせた。あれは薬などではないわ! 見方を少し変えればとんでもない兵器になる悪魔の発明。あのナインスがそれに気づかないわけがない」


 グラン王が少し考えるような顔をした後、ナインスに苛立ったように答える。


 「見方を変えれば?」


 「ゾンダークよ、考えてもみるがいい。訓練を積んだ屈強な兵士の数はそう簡単に増やせはせんが、特効薬は怪我をした屈強な兵士を瞬時に癒せるのだぞ? それこそ何十万、何百万とな。今までの数百も定数を揃えることができなかったヒールポーションとは規模が違う。それがどういう意味かわかるか?」


 「それは……数十万、数百万の屈強な兵士が増えることに」


 表情の変わらなかったゾンダークの目が鋭くつりあがる。


 「ドラグーン隊の新設であったか? 急がせろ」


 「御意!」


 ゾンダーク将軍が軍靴をカツンと鳴らして敬礼すると、足早にグラン王の前から姿を消した。




 「陛下、お耳に入れたき事が」


 ゾンダーク将軍と入れ違いになるように、卑屈そうな顔をした男がグラン王の前に現れる。


 「なんだ? さっさと申せ」


 グラン王が卑屈そうな男を見て鬱陶うっとうしそうに答える。


 「御意、陛下に無礼を働きましたあのミーシャという小娘の件でございます」


 「それがどうした?」


 「はい、それが1人でうろうろと城内を移動しておりまして、これはチャンスかと」


 卑屈そうな顔をした男が、にやにやと卑しい顔をしてグラン王に進言する。


 「そうか。其の方に任せる」


 「はっ! ただ、あのレックスという若造はあなどれません。罠ではないかと、その」


 「ああ、間違いなく罠だな」


 「なっ!? では私めは如何様にすれば」


 「そのままやればいい」


 「それは、どういった意味でしょうか?」


 「ただでくれるというのだから、貰っておけと言っておるのだ。フン! レックスと言ったか? あの若造め……本当に気に食わん」


 悪態の言葉とは裏腹に、グラン王の顔はどこか嬉しそうで楽しげだった。

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