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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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184話 エンチャンターリムル

 リュカの説得も無事に終わり、現在は帝都でセレナとショッピングをしていた。


 セリアの方は、バッカスに結果の報告とモンド大陸での打ち合わせとやらで別行動だ。



 「あっと、この図鑑も買っとかないとな」


 帝都にある本屋で魔物や植物などの図鑑を購入する。


 ステータス画面をみれば名前の区別はできるから、図鑑があれば食べられる魔物や価値のある植物がわかるんだ。

 荷物になる図鑑や辞書を持ち運べるようになったのはかなりのアドバンテージだな。


 「たっつん、セレナおなかすいたぁ」


 セレナが俺の腕にぶら下がるようにしがみついて、ぶーぶーと文句を言っていた。


 「もう少し待ってくれ。はは、まさかトローリング用の釣竿まであるとはな。釣り糸は……蜘蛛の魔物の糸で出来てるのか? この辺は異世界だな。ええと、後やることはなんだっけ? セレナの魔法の追加と、帝都で販売している醤油を大量にゲットするだけか?」


 「たっつん!」


 「ああ、もうわかった。じゃあ飯を食いに行くか」


 ステータス画面の時計を確認すると13時30分を表示していた。


 あれ? もうこんな時間だったのか?

 セレナが怒るわけだ。


 「セレナ、お昼は何が食べたい?」


 「うーん、美味しいものぉ!」


 「それじゃあわからん。まあ、帝都の飯屋ならどこでも美味いだろ」


 セレナといつもの漫才をしながら近くにあった飲食店に入った。



 店に入ると、まず派手な色をした赤い柱が目に止まる。

 店内は赤を基調とした中華料理店を思い起こさせる雰囲気で、何だか麺類が無性に食べたくなってきてしまった。


 うーん、この世界には麺類が無いんだよなあ。

 ラーメン食いたいなあ。


 店員に案内されると、丸いテーブルの前にセレナと向かい合わせで座る。

 店員が持ってきた水を飲んでいると、セレナがメニューとにらめっこして『うーうー』と唸っていた。


 「セレナはどれが食べたい?」


 「うーんとぅ、これとぉ、これぇ!」


 セレナがアップルパイのようなケーキと、生クリームの乗ったパンケーキの絵を指で差していた。


 「それはどっちもデザートだから最後にな」


 やっぱり麺類は無いよな。

 せめて、伊勢えびとか少し豪華な飯を食いたいなあ。


 ぺらぺらとメニューをめくる。


 うーん、さすがに帝都は内陸だけあって海鮮類は厳しいか。


 しゃあない。

 今日は無難なものにしとくか。


 メニューの絵を見て適当に注文する。


 主食は乾燥した海老の入ったチャーハン。

 おかずは、何かを焼いた肉と秋刀魚のような川魚の塩焼き。

 スープにはオニオン風味の野菜を煮込んだポトフを注文した。


 供え付きの水を飲んでいるとすぐに料理が運ばれてくる。

 さすがは大衆食堂だけあって早い。


 早速、スプーンを使って最初に運ばれてきたチャーハンをばくりと食べる。


 「うまっ!?」


 これは……鶏がらの出汁で飯に下味を付けてるのか?

 うん、帝都にお店を構えるだけはある。


 川魚もあっさりとした淡白な白身にしっかりと塩が利いていて、スープもオニオン風味の出汁が野菜の味を引き立たせて申し分のない味だった。

 箸が止まることなく最後まで完食する。


 御飯の一粒まで残さず食べると、食後のデザートでコーヒーゼリーを注文する。

 セレナは生クリームがたっぷりのパンケーキを注文していた。


 そして、すぐに運ばれてくるコーヒーゼリー。

 それは、生クリームが乗っているだけのシンプルなものだった。


 だが、あなどるなかれ。

 ゼリーの方はモンド産コーヒー独特の酸味のある苦味がしっかりと利いていて、上に乗っていた生クリームは甘すぎない程度の程よい甘み。

 苦味と酸味と甘みが見事に調和した絶妙の一品だったのである。


 旨い!

 この店は当たりだ。


 いやあ、これだよね?

 シンプル、イズ、ベスト!


 喫茶店にあるコーヒーゼリーは、どれもバナナとかアイスクリームとかミックスされている紛い物ばかりでうんざりだったからな。


 あれは邪道だ!

 普通に味だけで勝負しろっての!


 モンド産のコーヒーを使った一品に満足すると、生クリームを鼻に付けていたセレナの顔を布巾で拭く。

 コーヒーゼリーに気分を良くした俺は、ちょうど近くを通り掛かったウェイターに追加でコーヒーを注文した。


 「すいません。コーヒーを追加で注文したいのですが」


 「はい、ご注文は以上でよろしいですか?」


 「あっ! たっつんだけずるい! セレナもオレンジジュース飲むぅ」


 「じゃあ、オレンジジュースも追加で」


 「はい、かしこまりました」


 コーヒーが運ばれてくると、その豊かな風味に舌鼓を打ちながら食後のまったりとした時間を楽しむ。


 セレナを見ると、コクコクと咽を鳴らしてオレンジジュースを一生懸命飲んでいた。

 その可愛らしい姿に心が癒される。


 ぼーっと眺めていると、セレナの背後にある中華風の赤い柱が再び目に止まる。


 ラーメンかあ。

 自分で作るのは大変なんだよなあ。


 いっその事、誰かに作り方を教えるか?


 いや、駄目だ。

 ただでさえナインスにマークされてるのにそれは危険すぎる。


 何かいい方法はないかな。


 店を出ると、セレナの新魔法追加のため帝都にある魔法ショップに向かった。




 「えーと、確かこの辺だよな」


 魔法ショップの看板を探しながらセリアに言われていた事を思い出す。


 魔法は初期魔法だけは生まれた時から使えるらしい。

 だが、それ以外は魔法ショップで購入して魔法付与師エンチャンターに付与してもらうのだそうだ。


 もっとも、お金があれば全部覚えられるわけではなくて、その人の魔力の大きさで覚えられる許容量は変わる。

 付け外しは自由にできるそうだが、そのたびに莫大なお金が掛かるため頻繁にはできないということだ。


 セレナが今日覚える魔法は、エアハンマーという詠唱が短い近接用の打撃系魔法だ。

 俺達のパーティは斬撃系と突き系しかないため、容量の余っているセレナにサブ魔法として覚えさせるそうだ。



 杖と本の絵がトレードマークになっている魔法ショップの看板を見つけると、さっそく扉を開けて入店する。


 お店の中には大きな棚が所狭しと整列していて、黄色や赤色や緑色といった色とりどりの本がずらりと並べて置いてある。

 カウンターの上にはガラスのショーケースが飾ってあって、中には小さなガラス玉が綺麗に並べられて展示されていた。


 恐らくはこれが噂に聞いていたポーションだろう、値札は安くて500万エルで高いのは優に1億エルを越えている。


 「聞いてはいたけど、やっぱ高いよなあ。ええと、こっちが魔法書か? 俺にも使えないかな?」


 近くにあった緑色の本を手に取るとぱらぱらとめくる。


 中を確認すると何も書いてない白紙だった。


 「なんだこれ? セレナはわかるか?」


 「ほえ? うーんとぅ。ストームブレス?」


 セレナが何も書いてないはずの表紙を見て答える。


 「文字が書いてあるのか? どうなってるんだ?」


 あぶりだしの絵みたいに仕掛けでもあるのかな?


 「それは、魔法が使える者しか読めない」


 「おわっ!? びっくりした! お前は誰だ?」


 本を光に透かしていると、俺の視界の下に何時の間にかショートカットの小柄な女の子がいた。


 小柄と言うよりかなり小さい。

 セレナの身長は150センチくらいの小柄だが、女の子の身長はさらに小さい140センチくらいで、だぶだぶの白衣のような服をずるずると地面に引きずっていた。


 「ごめんなさい。私はこの魔法ショップの店主のリムル」


 「おお、店主か? そいつはちょうどいい。エアハンマーと言う魔法を覚えたいんだが」


 「貴方には無理」


 リムルが表情を変えないまま、ぶっきらぼうに答える。


 「いや、俺じゃなくてこっちのセレナだ」


 「うー、ちっちゃいね」


 「む、貴方に言われたくない」


 セレナの言葉にリムルは怒っていたようだが、相変わらず表情には変化は見られない。

 その表情から感情の変化を察するのは難しいだろう。


 「よしよし、いいこいいこ」


 「む、止める」


 セレナがリムルの頭を撫でると、リムルがすぐにセレナの手をぺしりと払っていた。


 「うー、リムちゃんいじわる」


 「む、私の名前はリムル。リムちゃんじゃない。いじわるでもない」


 「ああ、すまん。ちょっとお子様なだけで、セレナに悪気はないんだ。許してやってくれ」


 思わずほっこりとしていつまでも見ていたくなるが、話しが進まないので強制介入する。


 「む、わかった」


 どうやら、リムルは感情の起伏があった時に、む、と口癖が出るみたいだ。

 顔からは読み取れないから、それで判断することにしよう。


 「それで、エアハンマーなんだが」


 「わかりました。では、セレナですか? こっちに来てください」


 「わかったのぅ」


 リムルに案内されると、テーブルの上に置いてあった水晶のような玉にセレナが手をかざす。

 玉がほんのりと淡い光を放っていた。


 「問題ない。では、エアハンマーは8000万エルになる」


 ふへー、セリアに聞いてたけどホント高いよなあ。

 これじゃあ、気軽にぽんぽんと魔法の変更はできないぜ。


 「金貨でいいか?」


 「問題ない」


 セリアにもらっていたお金を払う。


 「確かに、ではこれよりエアハンマーの付与を行う」


 リムルが左手に緑色をした本を持つと、魔石を握り締めた右手をセレナに向けて何かの呪文を唱えていた。


 セレナの体がほんのりと輝いて、その光がしだいに収まる。


 あれで終わったのかな?


 セレナのステータスを確認すると、エアハンマーの魔法がしっかりと加わっていた。


 「これで、魔法の付与は終わった。念のため冒険者カードを確認する」


 リムルが言うと、セレナが自分の冒険者カードを見る。


 「たっつん、セレナ覚えたよぉ」


 「よし、それじゃあ醤油を買いに行くか」


 リムルに軽く挨拶して帰ろうとすると、誰かが店の扉を激しく蹴り飛ばして入ってきた。


 「おらあ! 何時までここで商売をやってるんじゃあ!」


 「うぉっ!? びっくりした! 何だ?」


 「む、また来たのか……面倒な。貴方たちは早く帰る」


 リムルが早く店から出るようにと促してくる。


 危なそうなやつが来たなあ。


 それより、また来たと言ったか?

 ならば、逃げても問題ないか。


 どうみても個人のクレイマーというよりギャングっぽいもんな。

 下手に手を出して事を荒げるよりも、店からさっさと出てこの国の官憲にでも知らせた方がいい。


 リムルには悪いが、セレナも居るから面倒ごとは御免だからな。

 巻き込まれる前に退散することにしよう。


 店の出口へ向かうと、店に入ってきた厳つい男が前に立ち塞がってきた。


 「おおっと! 兄ちゃん待ちな。この店で買い物はしない方が身のためだぜ?」


 「もう購入は終わった。どいてくれ」


 「おいおいおい。それは駄目だろ? この店を潰すのが遅れちまうじゃねえかよ! どうしてくれるんだ? ああ?」


 厳つい男が扉を蹴飛ばすと、ガンを飛ばして因縁をつけてきた。


 ちっ! めんどくせえな。


 男のステータス画面を確認する。


 当然ながら、こういった輩のプライバシーまで守ってやるつもりはない。


 ギラン 年齢25

 冒険者レベル38

 HP330

 MP45

 力198

 魔力85

 体力201

 速さ188

 命中110


 装備 バタフライナイフ×2


 魔法

 ファイアー MP10(初級)

 バースト MP15(中級)


 スキル

 イグニッション MP10(体に炎を迸らせ一定時間己の力を爆発的に高める)


 日坂部達也 年齢19

 冒険者レベル35

 HP180

 MP0

 力160

 魔力0

 体力160

 速さ175

 命中500


 ほう、ギランという名前か。

 レベル38? 俺より高いのか?


 それだけじゃない。

 魔法が使えるうえに、魔力、MPはもちろん、HP、力、体力、速さと、命中以外はすべて相手が上だ。


 だが、序盤にあった一般の冒険者達とのステータスの差は、すでに誤差の範囲まで縮まってきているようだ。


 「邪魔だ、どいてくれ」


 「ああん? なめてんのか!」


 「む、止める。その人達は関係ない」


 「ああ? 元はと言えば、お前がヒールポーション作りを協力しないのが悪いんだろうが! おらあ!」


 完全に切れたようすのギランが、懐からナイフを取り出してリムルに突き出した。

 ナイフを持ったギランの腕を咄嗟に掴んで捻りあげる。


 ナイフを叩き落してリムルの安否を確認すると、2mほど離れた位置でセレナがお姫様抱っこで抱えていた。


 「いててて、おい、離せ! 離しやがれ」


 「黙れ!」


 関節さえ決めてしまえば、相当な力の差がないかぎり力でどうこうする事はできない。

 ギランの腕を捻ったまま店の外まで移動する。


 「たっつん」


 「セレナはそこでリムルと待っていろ」


 付いて来ようとしたセレナを制止すると、ギランを店の裏まで連れて行く。


 「いてて、くそがぁ! なめんな! イグニッション!」


 ギランの力が急激に高まると、決めていた関節が力づくで外された。


 すぐに懐から2本目のナイフを取り出すと、こちらにきれたようすで向かってくる。


 だが、ギランの動きは何の冗談かと思うほど直線的でゆっくりだった。


 なんだこれは?

 ステータスの大半が俺より上のはずだろ?


 突き出してきたナイフを余裕で避ける。


 駄目だな。

 動きが直線的すぎて予測しやすいから避けるのは簡単だし、身体能力に頼った戦い方で無駄な動きが多すぎだ。


 それに武器の選択も間違っている。


 街中での利便性を考えて安易にナイフにしたのだろうが、それではせっかくの長所である力を活かすことができない。

 そんなおもちゃではなくて、最低でも肉厚の軍用ナイフを用意するべきだ。


 めちゃくちゃに振り回していたナイフを避けながら、冷めた視線でギランの素人のような動きを観察する。


 「…………」


 こいつ、自分よりも弱いやつとしか戦って来なかったな?

 大方、自分よりも弱いやつらを食い物にして楽をして生きてきたんだろう。


 もったいねえ。

 せっかく魔法まで使えるのに……


 これじゃあ持って生まれた素質も台無しだぜ。


 「はあ……」


 「くっ! なめんなあ!」


 思わず出てしまった溜息にギランが額に青筋を立てて喚いていた。


 ギランに殺気混じりの怒気を向けられるが、こんなものは魔物の発する生き死にの掛かった本物の殺気に比べれば児戯にも等しい。

 涼しい顔で軽く受け流す。


 さて、実力差がこれだけあるようだし……どう片をつけるのがベストだろうか?

 ただ叩き潰したところで、すぐに仲間を連れてやってくるだけだろうしな。


 傲慢な態度を崩さないギランを見る。


 でも、それにしちゃあレベルは高いよな?

 このざまじゃあ、レベル30どころか20レベルの魔物ですら倒せるか怪しいもんだが?


 「くそっ! なんで当たらねえんだ。こんなはずはねえ。俺はあいつら雑魚どもとは違うんだ」


 無様に醜態をさらしているギランの卑屈に歪んだ顔を見る。


 なるほど。

 あいつらとやらに倒させてもらったのか。


 突き出されたナイフの刃先を指で摘んで動きを止めると、唖然としたようすのギランの腹を蹴り飛ばす。

 ギランは受身を取れず無様に仰向けにひっくり返っていた。


 受身すら取れないとは……


 仰向けに倒れていたギランの前に取り上げたナイフを転がす。


 「な、なめんなごらぁ!」


 ガバリと勢い良く起き上がったギランは、ナイフを慌てたように拾うと顔を真っ赤にして再び向かって来た。


 同じようにナイフの刃先を指で掴んで動きを止めると、今度は骨が折れないギリギリの強さで腹を蹴り飛ばす。

 ギランが再び仰向けにひっくり返った。


 なるべく殺さずに事を収めたい所だが……


 次に向かってきたら殺して処理する。

 死体はミリタリーテントで運んで、魔物にでも処理させればいい。


 苦悶の表情で地面を転がっていたギランの前に、無言のまま先程と同じようにナイフを転がす。

 這いつくばっていたギランが、腹を押さえながら怒りの形相でナイフの柄を握った。


 その姿を確認すると淡々と呟くように声を出す。


 「次は殺す」


 殺気を込めた視線で睨みつけると、俺の本気に気づいたのかギランがびくんと体を硬直させた。


 ギランは下を向いてがたがたと体を震わせる。


 「あ、が……ぐぅ」


 しばらく声にならない呻き声を出すと、俺と視線を合わせずにこそこそと逃げて行った。


 弱い。

 魔物達との戦闘に比べたらまるでお遊戯だ。


 逃げて行くギランを眺めていると、ゴミ箱につまづいて通行人にぶつかっていた。

 どうやら相当怯えているようだ。


 まあ、あれだけ脅しておけば、あいつの代わりが用意されるまで少しは時間を稼げるだろうよ。


 それにしても、俺は接近戦ができないわけではないみたいだな。

 魔物が原因か? それとも剣が抜けないだけなんだろうか?


 ギランが完全に逃げたことを確認すると、トラウマの原因を考えながら魔法ショップに戻った。



 「たっつん」


 「む、迷惑を掛けた。すまない。それと助かった。感謝する」


 店に入るとすぐにセレナとリムルが駆け寄ってきた。

 リムルがすぐに謝罪とお礼を言ってくる。


 「ああ、気にするな。それより、あいつはもう来ないだろうけど、たぶん他のやつがまた来るぞ?」


 抱きついてきたセレナの頭を撫でながらリムルに忠告する。


 「む、わかっている」


 リムルの表情を窺うが変化は無い。

 ずっと無表情で、助けが必要なのかは判断できない。


 「ヒールポーションとか言ってたな? 何者なんだ?」


 レイチェルの件からおおよその見当は付いていたが、念のため聞いてみる。


 「あいつらは、ヒールの使い手をさらってヒールポーションを密造している悪いやつらだ。協力を拒んだら嫌がらせをしてきた。なぜか警吏の役人に訴えても助けてくれない」


 官憲が助けない?

 癒着か?


 おいおい、ここは帝都で皇帝ナインスのお膝元だろ?


 あの抜け目の無さそうなナインスがそんな事を許すわけがない。


 となると……意図的? でも、なぜ?

 助けないと、ナインスにどんな得がある?


 あいつらは、ヒールの使い手をさらっていると言っていたな。


 「…………」


 ああ、わかった。


 ナインスの目的は、ずばりヒールの使い手だな。

 救出したついでに今度は帝国で囲うんだろう。


 ならば、捕まえても末端だから泳がせているという所か?


 最悪だ。


 超法規的措置とやらでリムルは見て見ぬ振りをされる。



 考えがまとまると、リムルに現在おかれている状況をかいつまんで説明する。


 「む、そうか。困った」


 リムルが表情を変えないまま、いきなりぼろぼろと涙を零し始めた。


 「お、おい」


 「リムちゃん。泣かないのぅ」


 セレナがリムルの頭を撫でる。

 声も無く泣いているリムルは大人しくセレナに頭を撫でられていた。


 「あくまでも憶測や推測であって、何の確証もないんだぞ?」


 「恐らく間違いない。言われてみればその通りだからな。それに、いずれにせよ限界だった」


 リムルが何もかもあきらめたかのようにぼそりと言う。


 「どうするつもりだ?」


 「む、店をたたむ。他の土地で店をやる」


 「当てはあるのか?」


 「無い。でも、エル大陸からは出なければいけないと思う」


 「そうか、ならグルニカ大陸でもモンド大陸でも知り合いの商人を紹介できるぞ」


 「む、それなら頼みたい」


 「グルニカとモンド、どっちがいいんだ?」


 「モンド大陸がいい。ドラゴンの材料からいろいろなポーションを作れるから面白そうだ」


 「わかった。俺もちょうどモンド大陸に行くから、その時にアニーを紹介してやるよ」


 「お願いする。む、そういえば貴方の名前を聞いていない。教えてほしい」


 「俺の名は、達也だ」


 にっこりと笑って名前を名乗ると、表情にほとんど変化の感じられないリムルの顔が、ほんの1mmほどだったが笑ったような気がした。

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