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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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177話 気づかぬ恐怖

 レイチェルとアーチェを見送った後、大きな穴の開いてしまった防刃ベストを確認する。


 うーん、けっこう簡単に貫通するもんなんだな。

 斬撃にはめっぽう強いけど衝撃や刺突には弱いんだよな。


 ちなみに、ガンボックスに収納すると装備品の破損部分や消耗した電力などは少しづつだが回復する。



 あれからずっと腕にしがみついているセレナを促して宿屋への帰路に着くと、とぼとぼと歩く道すがら自問自答しながら今日の反省をする。


 何が悪かった?


 運か?

 確かに運は悪かったけど、違うよな。


 しっかりと考えて行動を決めていれば、あれは回避できたはずなんだ。


 じゃあ、何が悪かった?


 まず、あのキノコだ。

 まさか攻撃すると爆発するとはな。


 雑魚だと決め付けて下調べをせずに戦った事が悪かった。

 次からは、雑魚でも戦う相手をしっかりと調べよう。


 それが一つ。


 二つ目は、特効薬を使った後に時間を置かずに戦闘を続行してしまった事だ。


 ソーンも特効薬も1回使用すると1時間は効果が無いから、連続して重傷を負ってしまうと回復できない。

 次からは、使用するタイミングと時間をしっかりと管理しよう。


 これで二つ。


 三つ目は、1人でも戦えるからとパーティメンバーから迂闊に離れて行動してしまった事だ。


 モンスターパニックに巻き込まれたあげくに、目の前にどんどんと魔物が出現してしまう状況になるなんて、そんな確率はゼロのようなものだと甘くみていた。

 次からは、パーティメンバーの傍を迂闊に離れないよう気を配ることにしよう。


 これで三つ。


 最後は、敵に背を向けてはいけない場面で怯えて逃げ出してしまった事だ。


 あの時は、目の前に濃厚な死の可能性がぶら下がっていて、俺は自分の強さを信じる事ができなくて、目の前のセレナという絶対的な安全に縋り付いてしまった。


 俺は、己の弱さから戦いから逃げてセレナに頼ってしまったんだ!


 あそこは逃げてはいけなかった。

 あそこは、恐怖に耐えて踏み止まらなければいけなかったんだ。


 足りなかったのは、覚悟。


 生き死にの戦いに次があるとは考えるな!

 猛省しろ。


 ギリリと下唇を噛むと己の弱さを見つめ直した。



 反省も終わり張り詰めていた心が落ち着いてくると、途端にネガティブな思考が次から次へと湧き出していた。


 「はあ、何であんな馬鹿な事をやっちまったんだ?」


 「たっつん」


 ぼそりと声に出てしまった言葉に、俺の腕にしがみついて隣を歩いていたセレナが心配そうな顔で見つめてきた。

 セレナの頭を撫でて『なんでもない』と答える。


 本当はわかっているんだよ。

 レイチェルとアーチェに格好いい所を見せようとして、見栄を張ったのが原因だとね。


 最初にあいつらと会った時は弱くて逃げ回ってたからな。

 自分が情けなくて、だから強くなった今の自分を見せたかったんだ。


 はあ、ホント駄目駄目だな。


 宿に戻るまで、セレナはずっと俺の腕にしがみついたままだった。


 かなり心配させてしまったみたいだ。

 セレナごめんよ。



 宿に戻ると、セリアが出迎えてくれた。


 「あら、今日は早いのね? ちょっ!? その鎧どうしたの?」


 胸の部分に大きな穴が開いていた鎧に驚いたのか、セリアがギョッとしたような顔で尋ねてきた。


 「モンスターパニックに巻き込まれてな」


 「……そう、それなら仕方ないわね」


 答えたセリアは達観しているというか、なんだか冷たい感じだった。


 なんだよ?

 俺は死を覚悟した時、セリアに逢いたいと思ったんだぜ?


 冷たい対応をされると何か切ないな。


 もう少し、心配してくれてもな。


 「もう少し、心配してくれてもな」


 「フン、冒険者なら覚悟の上でしょ?」


 セリアがムッとしたような顔になると、卑下するような目をして俺を非難してきた。


 やば! 声が出てた。


 「ははは、だよな」


 頭を搔きつつ愛想笑いをして誤魔化す。


 セリアは相変わらず厳しいよな。

 まあ、そこがセリアの魅力でもあるんだけどね。


 だけど、本当に苦しい時はさりげなく優しくて、それでいて安心して背中を任せる事ができる女なんだよ。



 宿の共有スペースのソファにどっかりと腰を下ろすと、何をするでもなく一日中ぼけーと座っていた。


 なんだか、何もやる気が起きないんだよな。


 俺の隣に座って腕にしがみついているセレナを見る。

 宿に戻ってからも、セレナはずっと俺の腕にしがみついていた。


 さすがに、目の前で死に掛けたからなあ。


 「ごめんな」


 謝ってセレナの頭を撫でると、目を細めて気持ち良さそうにしていた。


 それにしても、今日は異世界に来てから最大のピンチだったな。

 死を覚悟した時は、正直あそこまで取り乱すとは思わなかったぜ。


 それなのに、その後はケロッとしてるんだからな。

 俺の精神もタフになったということなのかな?


 夕方になり、宿屋の食堂で夕食を3人で食べる。


 セリアが深い溜息をついていた。

 どうやら、交渉は上手くいっていないみたいだ。


 夕食に出た少し硬いパンを無造作に千切って口に放り込む。

 口の中にほんのりと苦味がある独特の風味が広がって、なかなか俺好みの味だった。


 だが、なぜか味気ない。


 美味しいんだけど……

 なんだか麺類が、ラーメンが食べたいな。


 この世界は魔物の肉が主食みたいな感じで、小麦はあまり重要視されていないのか製粉技術がつたない。

 もみ殻であるふすまや胚芽の苦い部分まで混入されてしまっているみたいで、舌触りが極端に悪くなってしまうような麺類などは存在してないみたいだった。


 ああ、なんだか無性にラーメンが食べたい。

 石臼はあるけど、小麦をひいて麺から自分で作るのはめんどくさいんだよな。


 ラーメンが食べたいと思ったら、なんだか急にいらいらしてきた。

 ああ、くそっ! 何でこんなにいらいらするんだ!


 すでに石臼はあるんだから、誰か使い方に気づけよ!


 いや、石臼は親方が秘密にしてるから世間の人は知らないのか。


 「………………」


 ああ、いらいらするなあ。


 色とりどりの野菜が入ったスープに残りのパンを浸して胃袋に収めると、最後はモンド産のコーヒーをグビリと飲み込んで締めくくった。



 食事も終わり、自分の部屋に戻るために席を立つ。


 「それじゃあ、俺は今日はもう寝るわ」


 「あら、そう? 今日はずいぶんと早いのね。おやすみなさい」


 「あっ!? たっつん!」


 隣に座っていたセレナが慌てたように席を立つと、俺の腕にしがみついてくる。


 「うん? どうした?」


 「セレナもたっつんと一緒に寝るのぅ」


 「へ?」


 頭がフリーズして間抜けな返事をしてしまう。


 「だっ、駄目よ! セレナ!」


 「やだぁ、セレナたっつんと一緒にいるのぅ」


 慌てたようすのセリアに、セレナが泣き出しそうな顔で俺の首筋にしがみついてきた。


 「ほら、達也も早くセレナを止めなさいよ!」


 「え? いや、俺は別にかまわな……うぉ!?」


 セリアが鬼のような形相で睨んでいた。


 「そ、そうだな。まあ、俺も寝ぼけて何をするかわからないもんな」


 「やだやだやだやーだーあああああ!」


 セレナが首をぶんぶんとさせて、いやいやを繰り返していた。


 ああ、駄々っ子モード入った。

 これは、もうどうにもならん。


 俺の胸元でもそもそと顔を擦り付けているセレナの頭を撫でる。


 さすがに、今回のあれはなあ。

 セレナにはかなりショッキングだったろうからなあ。


 困ってセリアの顔色を窺うと、深く深く疲れたように溜息をついていた。



 結局はセレナと一緒に寝る事になった。

 しかし、それだけではなく……


 どうしてこうなった?


 現在は俺の部屋でベッドの中である。


 俺の上にはセレナが覆いかぶさるようにして寝ていて、隣にはセリアがムッとしたような顔で体を丸めるようにして横になっていた。


 セレナはすでに俺の上でくうくうと可愛い寝息を立てている。

 可愛いセレナの寝顔を見てなごむと、さっきから気になっている枕元の壁に立てかけられていた物騒な槍をちらりと見る。


 「それより、何で槍なんか持ってくるんだよ?」


 「ブッ刺すためよ」


 間髪入れずにセリアから恐ろしい答えが返ってきた。


 何をとは怖くて聞けないため、会話がそこで強制終了する。


 「これじゃあ、緊張して眠れねえよ」


 「うるさいわねえ、さっさと寝なさいよ」


 くそっ! セリアのやつ俺をぜんぜん信用してないな?


 どうしよう? これじゃあ眠れないぜ。

 困ったなあ。


 でも……セレナはぽかぽかして温かいな。


 帝都は夏場だが、部屋には秘氷の水晶が設置されていてひんやりと涼しい。

 セレナの人肌がなかなかに心地よい温度だった。


 セレナを抱っこしてると……

 なんだがすごく……安らぐぞ……

 すやー。


 「…………………」


 気が付いたら眠っていた。



 次の日、昨日と同じダンジョンに向かう。

 待ち合わせ場所にはレイチェルとアーチェの2人が待っていた。


 「来たわね! 薄情者!」


 左手を腰に右手の人差し指をビシリと俺に向けて、レイチェルが昨日とまったく同じポーズを取っていた。


 こいつは真性のアホの子だな。


 「こんにちは、達也さん、セレナさん」


 「おす! レイチェル、アーチェ」


 「れいちゃん! あーちゃん!」


 セレナが駆け寄ると2人に嬉しそうに抱きついていた。


 「ちょっ、セレナ! う、嬉しくなんか、ないんだからね?」


 レイチェルの頬が少しにやけている。


 なぜ疑問系なんだよ?


 まったく、レイチェルのやつはあれで喜んでいるんだよな。

 素直じゃないと言うか、ようするにツンデレというやつだな。


 

 ダンジョンに入るとすぐに魔物との戦闘を開始した。


 昨日は調子に乗って失敗したからな。

 まずは、安全に弓で後方から攻撃するんだ。


 戦闘が始まると、隣ではアーチェが弓を引いていた。

 負けじと俺も弓を引く。


 ドス、ドスとリズム良く魔物を射抜く。


 「達也さん! 凄い弓力ですね」


 アーチェが驚いたように弓の腕を褒めてきた。


 「まあ、この弓のおかげなんだけどね」


 アーチェに弓を見せる。


 得意になりそうなんだがエルフィンボウの力だからね。


 「なっ!? た、達也さん! その弓はまさか? エルフィンボウですか?」


 アーチェにエルフィンボウを見せると、こちらが驚いてしまうくらい口をパクパクとさせていた。


 「そうだよ。やっぱり、エルフの中でも有名な弓なのか?」


 「エルフで知らない者はいません。その弓はエルフを代行する者がその所有を許されるものです。何処でその弓を? いえ、その弓を扱えるなら」


 「これはティアに貰ったんだよ」


 「ああ、やはりティア様が…… いえ、しかし、これはどう言う事なのでしょう?」


 アーチェが混乱したように頭を抱えてその場に座り込んでしまった。


 「ちょっとお! 援護が来ないんですけど?」


 アーチェの奇行に首をかしげていると、ぶすっとした顔をしたレイチェルがこちらに振り返って文句を言ってきた。


 「悪い! すぐに援護する」


 魔物を見るとすでにその数は少ない。

 剣で戦うために弓をリュックに掛ける。


 そして、剣に手を掛けて……

 だが、なぜか剣を鞘から抜くことができない。


 なっ!? 抜けない? 何で?


 あれ? 手が震えている? 

 いや、体が震えている……なぜ?


 「くっ! この!」


 剣を必死に抜こうとするが、まるで接着剤で固まっているかのように鞘から抜く事ができない。


 何で? なんでだよぉおおおおおお!


 まごまごしている間に、セレナが無双して倒してしまっていた。

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