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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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175話 達也の過去

 日坂部達也の幼少期は酷いものだった。


 見せない、聞かせない、言わせない、やらせない、教えない。


 いわゆる、毒親。


 あれは見てはいけない。

 あれは聞いてはいけない。


 偏見で物事を決め付けて、子供に判断力を養わせないようにする。


 文句も一切いっさい言わせない。


 あなたは兄なのだから、知っていなければいけない。

 あなたは男なのだから我慢しないといけない。


 自らの道理の通らない頓珍漢な考えを強要して、子供に考える事を放棄させて人生の選択をあきらめさせる。

 少しでも文句を言おうものなら、力で殴りつけられて黙らされた。


 自分でやろうとすると、危険だと言ってしゃしゃり出てきて判断力を養う大切な機会の邪魔をしたあげく、私がやってあげたと恩着せがましく言って自己満足のために子供の成長の阻害となる。

 そのくせに、自分がやってあげるからと物事は何も教えない。


 何も知らず何もできない。

 そんな状態で社会へと出て行けば、当然ながら悲惨な目にあう。


 学べる機会など何処にも無い。

 何が悪いのかもわからない。


 しかし、社会では甘やかされて生きてきたお前が悪いのだと一方的に罵られるのだ。


 生まれたばかりの野性の獣を拾ってきて、餌の取り方や何が危険かを教えずに、大きくなったら野生の世界へと帰してあげる。

 その野生の獣はどうなるのだろう?


 酷いものだ。

 だが、達也は決してあきらめなかった。


 学べない環境で必死に物事を学び、情報の入手を封じられた状態で必死に情報を分析する。


 それでも現実は過酷で残酷だ。

 運など欠片も味方はしない。


 何ひとつ守られる事は無く、一度として誰からも助けられる事は無かった。


 しかし、それでも達也はあきらめない。

 腐って他者に当たる事も無く、最後には地獄の底から己の力のみで這い上がっていた。



 そして、時は過ぎて子供だった達也も大人になった。

 勉強して何が悪いのかを考えられるようになると、自分が何も知らなかったのは両親が原因だったのだとすぐに理解する。


 達也は怒り狂い、両親を憎み恨むがすぐに気づく。

 自分がどうしようもなかったように、親もまた学べる機会に恵まれなかったのだと。

 行き場をうしなってしまった怒りと憎しみが、達也の中でぐるぐると回って自分の心を傷つけ続ける。


 達也は思考を巡らせる。


 誰が悪い? 誰を憎めばいい?

 両親に物を教える事ができなかった祖父や祖母か?

 だが、それでは祖父や祖母の両親が教えられなかった事になる。

 誰を憎めばいい? 誰を恨めばいいんだ? これでは切りが無い。


 そして、仮に報復した所で今が変わるわけではない。


 悩み苦しんだ末、達也が最後に行き着いた答えは許すだった。

 もし、自分がそこに生まれていたら自分が同じ事をやっていただろう。

 だから、罪を憎んで人を憎まずと言うのだと考えが至ったのだ。


 とは言え、人間である。

 どうしても恨んでしまう。


 そこで達也は、恨まないようにと両親のことは完全に忘れる事にした。

 自立して以来、両親には会っていない。


 達也は恐怖と絶望を糧にしていろいろな事を学んでいた。

 親兄弟というものが、もっとも身近な赤の他人なのだと。

 自分の力だけでやれなければ生きられないのだと。


 達也は思った、この世には生まれて来ない方が良いのだと。

 達也は思った、この世に生まれてきたら生まれてきた子供が可哀想だと。


 だから、達也は独りで生きて独りで死のうと覚悟を決めていた。



 日坂部達也の生い立ち。


 それはとても切なくて哀しい事のはずなのに、その愚直な考えには何処か愛おしさすら感じる部分があって、だが、それでいて何処か歪んでしまっている。

 それは、妄執にも似た哀しい過去の教訓から来ていたのだ。


 どうして、達也はこんな哀しい考えに至ってしまったのだろうか?

 否、それはそうしなければ達也はその世界で生きられなかったからだ。


 その世界は達也を虐げ過ぎてしまった。


 だが、故に、時としてそんな場所から化け物が生まれてくる。



 それはいつの世も絶望の中から生まれてくる。

 

 踏みにじられ虐げられて、それでも死なない人間がいる。

 

 死の直前まで追い詰められて、それは突然現れる。


 達也は悪魔となるのか、それとも……

 いずれにせよ、まだ足りない。


 審判の時は近い。

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