表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第一章 特効薬開発
17/225

16話 特効薬!開発開始

 「親方~! ミュルリがね、酷いんですよ? 無理だって言ってるのに5000個もソーンの注文を受けちゃうんですから」


 情けない叫び声を出しながら親方に泣き付く。


 しかし、親方はぼけ~とした顔で何事かを呟いているだけで反応は無かった。


 「あの時わしが……わしが……はぁ~」


 「あの、親方?」


 あれ? コミュニケーションが取れない?

 やばいなこれ、ボケちゃったのかな?


 心配しつつ、呟いている言葉を良く聞いてみる。

 どうやら『すまない息子や』と繰り返しているようだった。


 ま~だ言ってるのか、この親方は。

 済んでしまった事をいつまで後悔していても何も変わらないのに。


 恐らくは、何が悪かったのかが理解できて自責の念に押しつぶされそうになってるのだろう。


 そんな親方の様子にやれやれと思いつつ工房の入り口をちらりと盗み見ると、ミュルリが心配そうな顔でこちらの様子を伺っていた。


 まあ、なんとなくわかっていたけどね。

 あの賢いミュルリが明らかに無理な注文を受けるわけないもんな。


 恐らくは元気の無い親方に発破を掛けて欲しかったんだろう。

 1人では無理な量の注文が入ったから、親方に手伝ってくれ……とね。


 まったく、孫にあんまり心配を掛けるなよな。

 ほんと、手の掛かる親方だぜ。


 やれやれと思いつつ親方に視線を戻すと、またまたはぁ~と盛大に深い溜息を吐いていた。


 まあ、このままだと俺だけでソーン作りをするはめになるしな。

 自分のためにもなんとかするしかないよね。


 よし! と気合を入れると、大きな声で声を掛ける。


 「親方!」


 しかし、何度呼んでも肩を揺すっても親方はうんともすんとも言わなかった。


 こいつは重傷だ……どうするかなあ?


 うーん、やっぱり親方の息子さんの問題を何とかしないと駄目かな?

 でも、居場所がわからないんだよな。


 少し前にナタリアさんにお礼を伝えに行った時に聞いたんだが、ナタリアさんも旦那さんが何処にいるのかはわからないのだそうだ。


 何とか居場所を探せないかな?

 でも、何処を探せばいいのやら。


 ええと、息子さんも薬師だそうだから何処かの工房で働いている可能性が高いんじゃないかな?

 そうだよ、片っ端から工房を探せばいい。


 いや、待て待て、この世界結構広いぞ? 

 すべての工房を探すとなるといったいどれだけの時間が掛かるんだよ。

 それに、自分で出て行ったわけだから戻ってくるとは限らないじゃないか。


 「ああ、せっかく良いアイディアが浮かんだと思ったのに!」


 頭をくしゃくしゃと手で掻く。


 否、逆に考えるんだ!

 息子さんを探すんじゃなくて、息子さんに自分から此処へ来てもらうんだよ。


 でも、どうやって?


 それに、親方を奮起させる何かも必要だぞ?

 このままじゃあ、本当にボケちまうぜ。


 う~ん、どうしたら?


 唸りながらもあれやこれやとアイディアを捻り出す。


 「ええと、あれをこうして、こやって……よし、いけそうだ」


 考えをまとめると、思いついた作戦を早速開始した。



 さて、まずは精神があちらの世界へ行ってしまっている親方をこちらの世界へと呼び戻すか。


 「あっ! 親方の息子さんだ」


 親方の耳元で、ぼそりと嘘をつく。


 「何だと? 何処どこじゃあ? わしが悪かった! 息子や許しておくれ」


 親方は、びくんと跳ね上がるように俯いていた顔を上げるときょろきょろと辺りを見回していた。

 そして、誰もいない事に気づいたのかすぐに俺に文句を言ってきた。


 「達也、やって良い冗談と悪い冗談がわからんのか?」


 親方の怒気を含んだ非難を涼しい顔をして受け流すと、有無を言わせずに説得を開始する。


 「親方、息子さんに対して罪悪感があるのはわかります。しかし、済んでしまったことをいつまで後悔していても何も変わらないんじゃないですか?」


 俺の言葉に意気消沈したのか、親方は『どうしたらいいのか、わからんのじゃ』と力なく呟いて俯いた。


 よし! ここだ!


 すかさず親方に提案する。


 「息子さんも薬師なんですよね? なら、ソーンの何倍も効果があるような特効薬でも発明してやって、親方の名前を薬師の中でとどろかせてやるんですよ。そしたら、何処かで親方の名声を聞いて戻ってくるかもしれませんよ?」


 俺が提案をした瞬間、死んだ魚のような目をしていた親方の目に光が灯る。


 「達也……お前天才か? もっとも、わしの次だがな」


 親方に、いつもの減らず口が戻ってきた。


 「達也! わしはやるぞ! 絶対に特効薬を作ってみせる」


 「親方! その意気ですよ」


 どうやら、上手くいったようだ。

 もっとも、特効薬なんて凄い物がそう簡単にできるとは思えないんだけどね。

 まあ、親方が元気になってくれさえすればいいのだ。


 にやりと笑って笑みを作る。


 ふふふ、計画通り。

 後はソーン作りを手伝って貰うだけだ。


 「親方、実はですね、ミュルリが5000個もソーンの受注を受けてしまいましてね、俺だけじゃあとても無理なんで、手伝って貰っていいですか?」


 元気になった親方に、にっこりと笑顔でソーン作りの手伝いをお願いする。

 しかし、親方は俺の話しをまったく聞いていないように『わしはやるぞ』と言いながら、工房の奥にある研究室へ向かって歩き始めた。


 あれ? 何かおかしいぞ?


 「ちょっと、親方ソーン作りを手伝って下さい」


 「ええい! 邪魔をするな! 今のわしは誰にも止められんのじゃあ」


 慌てて止めるも親方は俺を突き飛ばして研究室に篭ってしまった。


 工房に1人ぽつんと取り残される。


 呆然としたまま、くるりと振り返って工房の入り口を見ると、こちらの状況を伺っていたようすのミュルリがびくりとする。

 ミュルリは『洗濯物をかたずけないと』と白々しい独り言を言った後に何処かへ行ってしまった。


 ミュルリのやつ丸投げして逃げたな。

 どうするんだよ……この状況。


 達也の受難はつづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ