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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
168/225

167話 弟子達の成長

今回は1万文字越えです。

2話に分けようと思ったのですが、中途半端になってしまうのでまとめました。

 今日は弟子達3人と、レギオンのダンジョンに探索に行く約束をしていた。


 もちろんセレナも一緒だ。


 あいつらも成長しただろうか?

 会うのが楽しみだ。



 お日様が真上に登る少し前に到着する。


 レギオンのダンジョンの前に着くと、弟子達3人がすでに待っていた。


 「師匠! セレナ先生!」


 こちらに気づいたのか、デールが馬鹿でかい声を出して手を振っていた。


 キールとチップも気づいたようで、3人が凄い勢いでこちらに走ってくる。

 足が速いチップが先頭のようだ。


 「お師匠さま!」


 チップが直前でジャンプして俺に飛びついて来る。

 チップを抱きとめようとするとセレナに横からインターセプトされた。


 「ちーちゃん! 良い子良い子」


 「ふぇ? セレナ先生」


 両手を広げた状態で横目で見ると、チップはセレナに抱きしめられて頭を撫でられていた。

 あこがれのセレナに抱擁されて緊張しているのか、チップは目を白黒させていた。


 チップは変わらないなあ。


 「師匠!」


 「ごふぅ!?」


 両手を広げて油断している所にデールがドスンときた。

 体当たりをするような勢いで抱きついてきたデールの頭が、俺の腹に強烈なボディブロウのように決まる。


 「おじじょうざま!」


 「ぎぃやあああ」


 くの字になって悶絶していると、そこにドスドスと鈍重な足取りで最後にやってきたキールの馬鹿力で抱擁される。


 キールは以前よりひとまわり体が大きくなっているようで、その巨体から醸し出されたパワフルな力で俺の体からはメキメキと骨の軋むような嫌な音が鳴っていた。


 「苦しい止めろ! それに、野郎は抱きつくんじゃねえ! こんなん、嫌じゃああああ!」


 みんなが笑顔で再会を喜び合う中、俺だけが悲痛な叫び声を上げながら絶叫していた。



 ひとしきり再会を懐かしむと、世間話をしながらダンジョンへと向かう。


 「お師匠様、すごい荷物ですね」


 パンパンになっているリュックを見ながらチップが尋ねてくる。


 「うん? これか? こいつはお昼御飯だよ。楽しみにしとけよ? それと、俺が本格的に戦うのは昼を食べて荷物を減らしてからにするからな。それまでの戦闘は頼むな」


 「はい、わかりました」


 「師匠! 僕がどれだけ格好良くなったのかを御見せしますよ」


 「おでに任せてくで」


 「セレナ、お昼楽しみなのぅ」


 俺の左腕にしがみついていたセレナの頭を撫でながら、おかしなことを言っていたデールを溜息まじりで見る。


 デールのやつ、格好良くじゃなくて強くなったかだろ?

 やれやれ、相変わらず判断の基準がずれてるやつだ。


 ダンジョンに足を踏み入れると、向かう先は2階層である。


 2階層と言えばやっぱりあいつか。


 あの、やばいステータスのキラーマンティスを思い出す。


 フフフ、だが、あの時と同じと思うなよ?

 今のセレナはキラーマンティスの1匹ぐらい敵じゃないからな。


 え?

 俺じゃないのかって?


 それは、その、さすがにまだね。

 戦えば勝てるかもしれないけど、生き死にの戦いになるからな。


 リスクを恐れていては強くなれないが、無謀な事をしていれば命がいくつあっても足りない。

 ケースバイケースで、強くなる為の戦いと、生き延びる為の戦いを時と場合で上手く切り替えてやるんだ。


 1階層の雑魚は、小回りの利くセレナとチップの高速コンビが蹴散らしてくれた。

 チップが独楽こまのように回転して、魔物の背後に回りこむようにして器用に倒していた。


 おお、まるで旋風つむじだな。

 それに、チップのやつセレナの動きに付いて行っているぞ。


 セレナが本気ではないと言っても、魔大陸に行く前くらいの速度は出てるんじゃないか?

 これは、レベルも相当アップしているみたいだな。


 チップのステータス画面を見ると、レベルが30を越えていた。

 速度も270と、セレナがレベル30の時と同じくらいだ。


 パリングダガーも2本装備して、2刀流になっていた。

 片方で攻撃をいなして片方で突いて攻撃と、2刀を効率よく使いこなしている。

 しかも、俺と同じ様に投げナイフまで器用に使っていた。


 うんうん、成長してるな。

 自分なりの戦い方を生み出して、いい感じだ。


 チップの成長している姿になんだか嬉しくなってしまう。

 居ても立ってもいられなくなって、戻ってきたチップに駆け寄ると頭を撫でる。


 「チップ! 凄いじゃないか」


 「ふぇ? お、お師匠様ぁ」


 チップが驚いたような顔をした後、真っ赤な顔になって照れていた。


 道中に、顔見知りの冒険者達に軽く会釈して通り過ぎる。


 「あ! 疾風のセレナだ! しばらく見なかったけど戻ってきたんだ」


 「おお、サウザンドフレイムのデールだ!」


 「旋風せんぷうのチップよ! かわいい」


 「あの巨漢は、不動のキールだ! 本当にでかいな」


 何だ? 俺の知らない間に弟子達も異名で呼ばれているぞ?


 それより、俺は何も無いのかよ?

 しくしく。


 まあ、気を取り直して行こう。

 それより、セレナは楽しんでるかな?


 セレナの様子を伺うと、笑いながらキールの後頭部をバシバシ叩いていた。


 「あははは、きっくん面白い」


 「おで、嬉しい」


 何か、前にも同じ事があったような。

 まあ、キールも喜んでるみたいだからいいか。



 2階層に到着するとデールとキールが活躍を始めていた。


 成長してさらに図体がでかくなったキールが、突進してきたアースウォームをパワフルに盾でぶっ飛ばす。


 以前戦った時は完全にパワー負けしていたもんだが、現在のキールは逆に力でアースウォームを押さえつけていた。

 デールの方もスリースネークヘッドの速さに完全に対応できているようで、首を伸ばして噛み付いてきた所を鮮やかに剣で斬り飛ばしていた。


 みんな成長している。

 人が成長する姿を見るのはやっぱり心がおどるものだ。


 思わず、にまにまして顔が緩んでしまう。


 「お師匠様? どうかしたのですか?」


 弟子達の戦いぶりに感心していると、雑魚を片付けて戻ってきたチップが首を傾げて聞いてきた。


 「いや、みんなが成長しているなと思ってな」


 しみじみと言うとチップが嬉しそうに微笑んでいた。


 「お師匠様に頂いた特効薬があったから、私達は恐れずに戦う事ができたんです」


 「チップ、謙遜しなくていいさ。紛れも無くお前達の力だ。俺なんて、特効薬を持っていても魔物を倒せなかったからな。もっとも、今は違うぜ?」


 にこりと自信満々に笑い掛けると、なぜかチップが顔を赤らめて俯いてしまった。


 チップと話しているとデールとキールも戻ってくる。


 「師匠! 僕の技はカッコ良かったですか?」


 「おじじょうさま、俺は頼りになる男だ」


 「ああ、キールは頼りになるぞ。デールはカッコイイ、カッコイイ」


 キールには自信を持てるようにしっかりと褒めて、デールには棒読みで適当に頷いて答える。


 今の俺は戦闘に参加していない。

 火炎瓶を使用しておらず、まきびしはおろか矢の1本すら射っていない。

 セレナと一緒に後方に待機していて、偉そうにふんぞり返っている状態である。


 魔大陸へ行く前は限界ぎりぎりの戦闘をしていたんだよな。

 本当に強くなったよ。


 さてと、そろそろ飯の時間だ。

 1階層に戻りましょう。



 まずは、いつものようにボアの肉を現地調達する。

 みんな手馴れた感じで、あっと言う間に新鮮取れたての肉を確保した。


 これ以上の鮮度を求めるなら、歩いているボアの尻にでもかぶりつくしかないだろう。


 まあ、肉は野菜と違って熟成させた方が美味しいんだけどね。


 「お昼だよ! 全員集合!」


 腹を空かした子供達が昼食に期待しているのか目を輝かせている。


 「今日は、スタンダートに焼肉にします」


 親父に用意してもらったバーベキュー様の金網をリュックから外す。


 そう、俺はリュックに2つ折にした金網を背負った状態なのだ。

 当然ながら、リュックの中には野菜などの食材や食器や燃料の炭などがぎっしりと入っている。


 焼肉のタレも作ってきました。


 醤油がベースで、みりん、砂糖、しょうが、ニンニク、リンゴ、そこに一味唐辛子を入れて、少し辛味をつけた自家製のたれである。

 本当は甘味には桃を使用したかったのだが、さすがに手に入らなかったのであきらめた。


 当然ながら、サニーレタスのようなはっぱも持ってきました。


 こいつに肉を巻いて食べるのだ!


 巻くのはレタスではないのだぜ? 肉がメインだからな。

 とは言え、肉だけじゃなくて野菜もバランス良く食べないとね。


 肉を切って簡易かまどを設置して炭に火を入れたら、さあ楽しいバーベキューの始まりだ!



 金網の上では、ジュウジュウと美味しそうな音が鳴っていた。

 炭火に滴った肉汁と脂がじゅわんとなって、食欲をそそらせる匂いが辺りに一瞬で立ちめる。


 「デールまだ早い! キール! 生のまま食べるんじゃない」


 我慢できなくなったのか、デールとキールがフライングでまだ焼けていない肉を掻っ攫おうとした。

 デールは何とか制止させるがキールの方までは止められなかった。


 キールが生のままガツガツと飲み込むように食べてしまう。


 「うう! 師匠! まだですか?」


 「もぐもぐ、にぐ、うまい。おで、幸せ」


 チップはどんどんと肉を金網の上にのせていて、セレナは野菜にはまったく口を付けずに、焼いた肉をタレにちゃぷちゃぷと浸してはあむあむと可愛らしく食べていた。


 「セレナ先生、今焼きますからね」


 「うー、たっつん、これ、おいしいよぉ」


 「チップ! 肉は少しづつ焼くんだ。網が冷えてしまうから焼き加減にムラが出る。セレナは野菜も食べなさい」


 まったく、なっとらん。

 焼肉とは何なのかを俺がしっかりと教えてやらないとな。


 わかっていない弟子達に、焼肉のプロである俺が食べ方を指導する。


 鍋奉行改め~焼肉奉行~参上!


 え? うざい?

 焼肉くらい好きに食わせろだと?

 うるさい。


 ジュウジュウと肉の焼ける音だけが聞こえていた。

 はふはふ、もぐもぐと、焼けた肉をタレに浸してはみんな一心不乱に食べていた。


 やはり、タレが決め手となったようだな。

 同じ焼いた肉でも、こいつがあると無いではまったくの別物だからな。


 「お師匠様、お肉の方がもうありません」


 「うん、そうか?」


 かなりの量を切っておいたのだがレッドボアの肉が足りなくなる。


 だが、問題無い。

 前回の反省を活かして、肉は余裕を持って確保してあるのだ。


 「セレナ! もう少し肉を切ってくれ。バラ肉が食べたい」


 「もぐもご、ばぉらぁ?」


 リスのように肉を口いっぱいに頬張ったセレナが、もきゅもきゅと咀嚼しながらきょとんと首を傾げる。


 「アバラの部分、ここら辺だ」


 「セレナ先生、私も手伝います」


 チップが一枚一枚丁寧に肉を切っているかたわらでは、セレナが包丁をくるくると回していた。

 まるで曲芸のように包丁を振り回すと、ぱらぱらと肉が薄く均等に切れていた。


 やっぱり、セレナは凄いんだよな。

 何気ない動作でもすべてが洗練されているんだ。


 セレナとチップが切った肉を皿に盛る。


 さて、カルビでも焼いて食べようかな。

 脂が適度にのってるから鍋や焼肉だと美味いんだよね。


 「お師匠様! 私がやります」


 「おっ? すまんな」


 チップが甲斐甲斐しく世話をしてくれる。

 お茶を入れてくれたり、炭を追加したり、肉を焼いてくれたりと大忙しだ。


 「チップ! 僕にも肉焼いて」


 「はあ? 何で私があんたの分まで焼かないといけないのよ? 自分で焼きなさいよ」


 「ちぇ! なんだよ。チップは師匠の前だと猫被ってるよな」


 デールがチップに悪態をついていた。


 確か幼馴染だったよな? 

 いいもんだな。


 食後には、レーションに付属していたチョコレートをデザートとして子供達に配る。

 みんな一口食べると驚いたような顔をして、その後は嬉しそうに食べていた。


 強いと言ってもまだ子供なんだよな。


 この世界にもチョコレートらしき物はあるが、品質が悪いため美味しいと言うレベルではない。

 土のような匂いと雑味がしてざらざらと舌触りも悪いのだ。


 おそらくは、石臼が存在していなかった事から製粉技術がつたないのだろうな。

 そして、製粉技術が拙いのは、ダンジョンから無限に肉が取れる所為で小麦が主食ではないからなんだろう。


 「さてと、それじゃあ俺も戦うかな。背中の荷物も無くなったしね」


 食後に少し休むと探索を開始した。



 レギオンのダンジョンの2階層の雰囲気は、整備されたトンネルの通路の途中が崩れてしまって、そこに土砂が入り込んでしまったような感じだ。

 ただ、その土砂が崩れた場所から本命となる大部屋へと繋がっている。


 そして、大部屋の空間は遮蔽物の無い平地が延々と続いていて、所々で天井が崩落してできたような岩の塊が積み上がってゆるやかな丘陵のようになっている。

 地面には雑草や草木が生い茂っているが、全体的に見ると廃墟のような閑散とした寂れた空間が広がっている感じの場所である。


 レギオンのダンジョンに来た理由は討伐クエストだけではない。

 このダンジョンに出現するスリースネークヘッド300匹で、なんと位置を知る事ができるGPSが入手できるのだ。

 しかも、仲間可である。


 この世界には方位磁石のような便利な物は存在しないから、さすがに何度も迷子になって自分の位置や方角が確認できる物が欲しかった。


 もしも、レイクウッドの森にいた時にGPSを持っていたら、深い森の中を迷わず抜ける事ができて簡単にゴブリンの大軍をやり過ごす事ができたはずなんだよ。

 生き延びるためには単純な武力だけではなくて、性質の違う力も身につけて行かなければならないんだ。


 もっとも、必ずしもそれが本当に悪かったのかはわからないけどな。

 なんせ、迷子になったおかげでティアとの出会いがあったのだから。


 人間万事塞翁が馬だ。


 しかし、そんな便利なGPSには1つだけ気がかりな問題があった。


 それは衛星である。


 GPSとは、打ち上げた衛星から電波を受信して現在の位置を確認する装置だ。

 だから、ここが異世界なら地球を回っているはずの衛星があるわけがないんだよ。


 そう思って、今までは入手を見送っていたんだけど、なら、何でそんな使えない装備があるんだ? と疑問を感じて、じゃあ、とりあえず入手してみようと考えたわけだ。



 そして、長いトンネルのような直線の通路を抜けて2階層の大部屋に入ると、なんと200匹を超える魔物の大群と遭遇してしまった。


 魔物の集団の中には、新しい敵のポイズンスコルピオが数十匹とボーンゴーレム1匹の姿が確認できた。

 しかも、少し距離が離れた位置にキラーマンティスが3匹もいるといったおまけつきだ。


 ポイズンスコルピオは20cmくらいの小さなさそりで、素早い動きと硬い殻、そして、尾の鋏に毒があるのが特徴だ。

 ボーンゴーレムは骨でできた人の形をした5mくらいの巨人で、動きは緩慢だが力は強くてタフネスが高いのが特徴だ。

 ボーンゴーレムは頭を破壊すれば止まるのだが、5mもの巨体の所為で狙うのは困難である。


 キラーマンティスがいなければどうにでもなるんだがな。


 セレナに頼れば簡単なんだが、なるべく自分の力で何とかしたい。

 女の子に頼るのが情けないと言う理由もあるが、いつでも助けてもらえるわけではないのだからな。


 うーん。

 それにしても、キラーマンティスは何で魔物の集団から離れた場所にいるんだ?


 双眼鏡をこっそりと取り出して、キラーマンティスの動向を詳しく観察する。

 キラーマンティスは魔物達の集団の後方で何かを咀嚼しているようだった。


 ぐちゃぐちゃになっていてはっきりとはわからなかったが、何かの足のような部分が見える。

 たぶん、倒した魔物か何かだろう。


 ならば、あの魔物の集団とキラーマンティスは敵対関係で仲間ではないのかもしれない。

 そして、食事の後ならば戦闘をせずに済む可能性は高い。


 距離はどんなもんだ?


 キラーマンティスをレーザーでロックして距離を計ると、数字は800mと表示されていた。

 ちなみに、魔物達の集団は500mである。


 これだけの距離があれば、動き出してからでも対処はできるだろう。


 どうする?


 ここに来るまでに、ちまちまと5匹、8匹と戦っていたが、このままでは今日中にGPSを入手するのは難しいかもしれない。

 何の利益も無いと言うなら避ける戦いだが、スリースネークヘッドが大量にいるため殲滅したい。


 うーん、ここらでガツンと討伐数を稼いでおきたい所だな。

 幸いにも、弟子達が恐ろしいくらいに強くなっていたから戦力的にも問題はない。


 よし、やるか。




 「師匠! さすがにあの数だと危険かと」


 「いや、今の俺達ならやれる」


 弟子達に戦う事を告げると、デールが不安そうな顔で、チップは俺を信じているのか黙ったまま、キールはどちらでもいいみたいでぼけ~としていた。


 こいつら、自分達がどれだけ強いのかわかってないみたいだな。


 過大評価をしていては命がいくらあっても足りないけど、過小評価は勿体無いだけだ。

 稼げる時にはがっつりと稼ぐ。


 それが冒険者ってもんだろ?


 弟子達3人を説得すると、セレナにはキラーマンティスをお願いする。

 あいつは、さすがに怖いからな。


 「セレナはキラーマンティスを頼む。上手くすれば戦わなくて済むかもしれないから、最初は何もせずに待機してくれ。魔物の集団と一緒にこちらに向かって来るようなら、疾風の魔法で空中を移動して迎撃してくれ。残りは俺達で始末する」


 「わかったあ」


 スリースネークヘッド

 レベル21

 HP120

 MP0

 力80

 魔力0

 体力100

 速さ180

 命中150


 アースウォーム

 レベル23

 HP250

 MP0

 力220

 魔力0

 体力200

 速さ50

 命中80


 ポイズンスコルピオ

 レベル28

 HP80

 MP0

 力180

 魔力0

 体力320

 速さ250

 命中220


 ボーンゴーレム

 レベル35

 HP550

 MP0

 力320

 魔力0

 体力350

 速さ50

 命中50


 キラーマンティス

 レベル40

 HP320

 MP0

 力270

 魔力0

 体力330

 速さ380

 命中230


 俺には新兵器があった。


 それは、エルフィンボウである。


 ボウガンの射程距離は20m~30mである。

 実際は50m~60mくらいでも当たれば殺傷能力はあるのだが、空気抵抗によって矢が真っ直ぐに飛んでいかないのだ。

 狙った場所に飛んで行くのは、威力を高くした所で精々が30~40mが限界だ。


 要するに、ボウガンの射出機構では矢を回転させる事ができないので空気抵抗で威力も急激に減衰してしまい、威力が高い=射程距離が長いにはならないのである。


 その点、弓の方は矢羽を付ける事によってライフルで撃った弾のように矢を回転させる事ができる。

 このジャイロ効果によって空気を切り裂くように飛んで行き、空気抵抗を極力遮る事によって長弓による曲射では300m~400mといった長大射程が可能になるのである。


 まあ、実際に人間くらいの的に狙って当てられるのは90mくらいで、そこからは使い手の腕次第なのだそうだが……

 それでも、ボウガンの3倍の射程は充分な脅威である。



 まきびしを撒いて、いつものように入り口の狭い通路までおびきよせて戦う。

 準備が整うと戦闘を開始する。


 魔物から300mほどの距離に崩落したような場所があったため、魔物達に発見されるまではそこに隠れながら矢を射ることにした。


 みんなを入り口付近に待機させて目的のポイントに移動すると、魔物の集団に向けて平射で射る。

 エルフィンボウなら曲射ではなくても300mくらいは余裕で届くのだ。


 当然ながら、曲射による慣性によって落ちてくる点と、平射による直線で当たる線では威力と命中率は極端に変わる。


 「うぉ! 師匠すげえ!」


 エルフィンボウで次々と矢を連射していると、デールのでかい声が後ろから聞こえてきた。

 何事かと双眼鏡を取り出してデールを確認すると、チップに頭を叩かれていた。


 たぶん、デールがエルフィンボウの凄さに驚いて大きな声を出してしまったんだろう。


 まあ、無理もない。

 親父には信じてもらえなかったけど、エルフィンボウはお伽噺で語られるような伝説の弓なんだ。


 着弾点は狙った位置からずいぶんと外れていたが、密集しているためこのぐらいの誤差なら問題はない。

 射れば当たる。


 10射くらい放った頃にやっと魔物達が俺に気づいたようで、凄い勢いでこちらに向かって来た。


 回れ右すると、ダッシュでまきびしを撒いたみんなが待機している入り口のポイントへ撤退する。

 ゴブリン戦で鍛えあげた逃げ足の速さがキラリと光る。


 圧倒的な余力を見せつけて帰還すると、チップがくすくすと笑いながら『お師匠様、ご苦労様です』とねぎらってくれた。


 追ってきた魔物の集団を確認するとキラーマンティスは襲って来てはいなかった。


 なら、セレナは待機だな。


 「セレナ、なるべく俺達の力だけで倒したいから、戦うのはピンチの時だけでいいからな」


 「ほぇ? また、修行なのぅ?」


 「ああ、そうだ。セレナがすべて倒してしまうと、俺達がさらに強くなるための練習にならないからな」


 「わかったのぅ」


 セレナが、のほほーんと間延びしたような緊張感の無い返事をする。


 どうやら、セレナもそれほど危険は無いと判断しているみたいだ。


 弟子達3人の顔を見る。


 「みんな、いいな?」


 「はい!」


 3人が同時に答える。


 よし! いい返事だ。



 まずは、近づいて来る魔物に俺が遠距離から弓で何度も攻撃を繰り返して数を減らす。

 次第に迫ってきた魔物が目の前まで接近すると、チップも投げナイフで応戦を始めた。


 そして、ついに魔物が撒いたまきびしの薄くなっている中央を突破して来た。


 キールがデンと大きな盾を構えて魔物達の突進を待ち構える。

 キールが大きな盾を上手く使って魔物の突進を止めると、後から来た魔物達が次々と群がっていた。


 「師匠! キールが!」


 デールがキールを見て叫んでいた。


 キールがダメージを受けていないのを確認する。


 ふふ、キールのやつはまた強固になったみたいだな。


 「いいから、ここはキールに任せておけ! もう少し魔物が集まったら、一気に火炎瓶で葬ってやる」


 「このぐだい大丈夫だ! おでに任せでくで!」


 「イグニッション! うおおおおお!」


 止める間も無く、気づけばデールが魔物に突っ込んでいた。


 まったく、人の話しを聞かないやつだな。

 デールには後で説教だ。


 魔物が群がった頃合を見て取ると、火炎瓶を魔物の集団の中に放り込んで壁を作る。

 火炎瓶の炎に包まれた魔物達が絶叫を上げながら転げ回る。


 よし、分断した。

 これで一斉には襲い掛かって来れない。


 「ポイズンスコルピオとスリースネークヘッドは、素早くて毒を持ってるからチップが集中して倒してくれ」


 「わかりました。お師匠さま」


 前衛3枚の壁に隠れるようにして、鼻歌まじりで弓を射る。


 やっぱり、エルフィンボウは強化ボウガンとは比較にならないな。

 強化ボウガン並の威力で10秒に1回は攻撃できるなんて反則だぜ。


 ドス、ドス、ドスと連続して攻撃する。


 魔物が溜まってくると、火炎瓶を大判振る舞いで投げつける。


 「そおい!」


 魔物の数が多いから、ここで使わないと駄目だよね。


 そして、弱っている魔物は手裏剣でめざとく狙って止めを刺す。


 まあ、この辺はすでにセオリーだな。


 しかし、ここまで順調に推移していた戦闘に突如亀裂が入る。


 足の遅いボーンゴーレムが戦闘に介入してきたのだ。


 キールが大盾で迎え撃つが、ボーンゴーレムの強烈な一撃の前に片膝をついていた。


 「お師匠様!」


 チップが警戒したような声を上げた。


 肩膝をついたキールの脇をすり抜けて、3匹の魔物が俺の方に向かって来た。

 ポイズンスコルピオが2匹とスリースネークヘッドが1匹だ。


 隣にいたセレナがこちらを見て『ぴんちなのぅ?』と首を傾げて訴えてきたので、問題無いと手で合図をする。


 最初に飛び込んで来たのは2匹のポイズンスコルピオだった。

 20cmほどの小さな体でちょこまかと動き回り、素早い動きで連携しながら近づいてくる。


 2匹同時か。

 あいつは確か表皮の殻が硬いんだよな。

 弓では止められんか。


 エルフィンボウをリュックに掛けると両手に投げナイフを握る。

 精神を集中すると時間がゆっくり流れ始める。


 2mほどの距離まで近づくと、ズドン! と、右手に握ったナイフを投げてポイズンスコルピオを地面に串刺しにして縫い止める。


 「まずは、1匹」


 続けてきた回り込もうとしていたポイズンスコルピオは直前で小刻みに進路を変更するも、何の問題も無く左手に握った残りの投げナイフで串刺しにする。


 「これで、2匹」


 相手が悪かったな。

 俺の反応速度はスペシャルなんだ。


 間髪いれずにスリースネークヘッドが飛び込んでくる。


 「こいつで、最後だ!」


 居合いの間合いに入ると、抜刀して3つの頭を同時に斬り飛ばす。


 親父に鞘を改造してもらったけど、いい感じだ。


 こちらの様子をちらちらと窺っていたチップが『えっ!?』と驚いたような声を出していた。


 成長しているのはお前達だけじゃないぜ?


 呆気に取られたような顔のチップに笑顔で問題ないと伝えると、投げナイフで身動きの取れないポイズンスコルピオに止めを刺す。


 あとは、ボーンゴーレムをどうするかだが、雑魚と戦いながらだと下手をすると苦戦するかもしれない。

 ここはボーンゴーレムに攻撃を集中できるように、雑魚を先に片付けるべきだな。


 「後方の安全は確保した。ボーンゴーレムのタフネスは厄介だから後で集中して倒すぞ。キール! それまでやれるな?」


 「おでに任せてくで!」


 「師匠! 僕がボーンゴーレムを倒します」


 「デール! いいからキールに任せろ」


 「でも、僕がやらないと」


 「デール! お前は3人の中のリーダーだろ? リーダーの役割りは自分が活躍する事じゃないんだよ!」


 「師匠? わ、わかりました」


 俺が指示を出すと、デールは納得がいかないようすだったが目の前のアースウォームに斬りかかっていた。


 今は戦闘中だからな。

 デールには後でしっかりと教えないと。


 キールがボーンゴーレムと一騎打ちをしている間に、残りの魔物の数を効率よく減らす。

 あらかた片付いた所でデールに指示を出す。


 「よし! デール今だ! 全力でボーンゴーレムに攻撃しろ」


 「はい! 師匠! イグニッション! うおおおおお」


 デールが威勢良く答えるとボーンゴーレムに突っ込んで行く。


 キールが盾で攻撃を受けてボーンゴーレムの攻撃を自分に集中させると、完全に無防備となったボーンゴーレムの背後からデールの連続攻撃が何度も決まった。 

 他の魔物はほとんど倒し終えていたため、デールの攻撃を邪魔される事はなかった。


 デールの火力は凄まじく、ブロードソードによる一撃一撃がボーンゴーレムの骨をまるで砕くように削り取る。


 ボーンゴーレムは堪りかねたのか、のっそりと向きを変えて背後にいるデールの方を向いた。


 「キール! 今だ! 足をへし折ってやれ!」


 「うがああ!」


 デールの方を向いて背後を見せたボーンゴーレムの足にキールが咆哮をあげて戦鎚を振り下ろす。

 バキリ! と目を覆いたくなるようなキールの重量級の一撃についにボーンゴーレムの片方の足がへし折れた。


 バランスを崩して倒れたボーンゴーレムは立ち上がれず、肩膝を付いた状態でのそのそと蠢く。

 そこに、デールが最後の残り火を噴出させるかのようにボーンゴーレムの頭部に連撃を浴びせると、格上のはずのボーンゴーレムをそのままの勢いで倒してしまった。



 残りの魔物をチップと殲滅して一休みすると、デールにリーダーの心得を伝授する。


 「いいか、デール。リーダーってのはな、自分が活躍するのが仕事じゃないんだ。いくら自分が頑張っても、人間1人の力など高が知れてるんだ。何のために集団で戦っているんだ?」


 「それは……」


 デールが俯いて口ごもる。


 「烏合の衆というのを知っているか?」


 「騒いでるだけの集まりですか?」


 チップが横からひょっこりと顔を出して答える。


 「そうだ、バラバラに戦っても1+1は2以上にはならない。だが、みんなが力を合わせて、弱点を補い合って得意な分野では力を発揮できるようになると、1+1が5にも10にもなるんだ。つまり、リーダーとは総合力で最大の利益を出せるように、指示を出して立ち回る事が仕事になるんだ。だから、デール、お前は自分で戦うのではなくて、もっと仲間の力を信頼して得意なやつに仕事を任せてやるんだ」


 「はい、師匠! 僕はわかりましたよ!」


 理解できたのか、デールが元気いっぱいに声を張り上げていた。


 やれやれ、上手く伝わったかどうか。

 まあ、実際にやらせて後ろから見てればわかるか。


 「おじじょうさま! おで、役に立つ男か?」


 デールに説教を終えると、待ち構えていたようにキールが真剣な顔をして質問してきた。


 「ああ、良くやったぞ。キールが居ると安心だ」


 キールにとってはとても大切な事なんだろうと、しっかりと心を込めて肯定する。


 「でへへ、おでは役に立つ男だ!」


 キールが嬉しそうに顔を綻ばせると、大きな声で雄たけびを上げていた。


 今回の戦いで、キールが少しでも自分に自信を持ってくれるといいんだがな。

 もっとも、役に立ったかと尋ねているようではまだまだなんだろうけど。


 まあ、一朝一夕で身につくようなものではないからな。

 少しづつやるしかないさ。


 「デールもチップも良くやったぞ」


 「師匠!」


 「お師匠さま」


 デールとチップもしっかりと褒めてねぎらうと、2人は照れくさそうにはにかんでいた。


 「セレナは? セレナも頑張ったぁ! セレナずっとがまんしてたもん」


 「え? ああ、セレナも良くやった。偉いぞ」


 「えへへ。たっつんだいすきなのぅ」


 なぜか張り合ってきたセレナの頭を撫でて褒めると、ニコニコと可愛らしい笑顔を見せていた。


 まあ、セレナは予備戦力で備えていてくれたからね。



 戦闘が終了するまでに、黒金の剣、火炎瓶、手裏剣、投げナイフとすべて使用していたわけだが、腰に装備している矢筒の中身もすべて空だった。

 エルフィンボウの使い勝手は最高だな。


 使った矢の回収をする頃には、キラーマンティスの姿はすでに無かった。

 念のため、セレナに見回りをしてもらって矢を回収するも、矢の多くは矢羽の部分が火炎瓶の炎で燃えてしまっていた。


 修繕は可能だろうが、予備の矢を少し多めに持っていた方がいいかもしれない。

 まあ、剣を使えばいいのだから予備に50本もあれば充分かな。


 弟子達の成長した姿を見る事もできたので、ここからはセレナにも戦闘に参加してもらう。

 我慢していたと言っていたしね。


 セレナが戦闘に加わると、今までの鬱憤を晴らすかのように元気に暴れ回っていた。

 当然ながら、その後の戦いはセレナ無双ですべて圧勝である。

 セレナ抜きでも、あれだけの集団と戦えるのだから当然か。


 GPSも無事に入手できたので、ここらでダンジョンから出る。


 みんなでわいわいとダンジョン探索はやっぱり楽しいよね。

 今度はセリアとも一緒に行きたいな。

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