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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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164話 キラーパンサー討伐報告

 親父にキラーパンサー討伐の報告をするためにモニカに来ていた。


 親父にはキラーパンサーにずたずたにされてしまった鎧を見せてるから、心配させてしまっているだろうからな。


 何か手土産でも持っていこう。

 親父は肉が好きだから殺人兎でも狩ってくるか?

 あれなら鉄も役に立つし、一石二鳥だしな。


 自分の成長を確認するためにもちょうどいい。


 行動を決めると、善は急げと洞穴のダンジョンへ向かった。



 意気揚々とダンジョンに踏み入ると、入り口から10mも進まないうちに髭を切られていた髭モグラの死体が転がっていた。

 ダンジョンの奥には装備のつたない冒険者達の姿がちらほらと見える。


 恐らくは、まだ冒険者になって間もないルーキー達だろう。


 俺が探索していた頃は、モニカの人口は3000人ほどの田舎町だったから洞穴のダンジョンは人気の無いマイナーダンジョンだった。

 しかし、現在は人口が100万を超える都市になっている。


 ほえ~。

 結構ルーキー君が来ているな。


 モニカの街もりっぱになったもんだ。


 危なっかしい戦いに巻き込まれないようにして、2階層へと急いで向かう。

 1階層とは違って2階層はあまり人が居ないようだった。


 ふふふ、2階層はあんまりおいしくないんだよね。

 俺の場合は、真珠貝タートル君(ATM)がいたから資金稼ぎのために行ったけどな。


 呑気に観光気分でダンジョンを進んでいると、通路を塞ふようにしてミニテラーバット6匹が天井にぶら下がっていた。

 俺が無造作に歩いて近づくと一斉に襲い掛かってくる。


 ほんの少しだけ精神を集中すると、ミニテラーバットがスローモーションのような動きになる。

 まるで、あらかじめ決められていた殺陣たて(時代劇などの演技で、斬ったり斬られるする演技)のようにばったばったと斬り捨てると、歩みを止める事もなくそのまま通り抜けた。


 足の遅い真珠貝タートルとホールアリゲータは完全に無視して、お目当ての殺人兎を探す。

 8匹程の集団を見つけると無造作に近づいて行く。


 今の俺なら居合いを使うまでもない。


 威嚇から攻撃へと移行してきた殺人兎を正面から迎え撃つ。

 真っ直ぐ突っ込んできた殺人兎を袈裟懸けで斬り捨て、返す刃で連続して突っ込んできた殺人兎を斬り捨てると残りの殺人兎は左右にステップを踏み始めた。


 だが、それは悪手だ。

 タイミングで斬っているやつなら有効なんだろうけど、フェイントを入れた所で俺にはスローモーションのように見えているのだからな。

 これでは、各個撃破して下さいと言っているようなものだ。


 殺人兎は俺の直前で飛び上がると手に付いている鉈を振り上げて攻撃してくる。

 完全に間合いを見切っていた俺は、体を半身に開いてぎりぎりで避けると無防備となった殺人兎の首を落とす。

 わざわざ間隔を置いて攻撃してきてくれるので、残りの殺人兎は余裕で殲滅する事ができた。


 よし、大量大量。


 1匹は親父に持って行って、1匹は家に持って帰ろう。

 残りは肉屋のおばちゃんに売ればいいだろう。


 解体を手早く済ませるとほくほく顔で帰路に着いた。



 洞穴のダンジョンの出口まで戻ってくると、まるでラスボスだとでも言わんばかりに髭モグラが立ち塞がっていた。

 ひゅんひゅんと髭を激しく振り回して威嚇してきていたが、かつての宿敵ライバルの登場に俺は不思議と奇妙な友情のようなものを感じていた。


 今の俺の力なら殺すのは容易たやすい。


 だが……


 しばし、髭モグラと見つめ合うと心が通じ合ったような気がした。

 心が通じていれば言葉はいらない。


 「フッ、そうか……俺も無益な殺生は好まない」


 思えばこいつとは死闘を演じた仲。

 そう、やつとはすでに友なのだ。


 フッと笑って髭モグラの脇をすり抜けると、すれ違いざまピシリと尻をはたかれる。


 「貴様! 許さんぞ!」


 まさかの裏切りに、俺の怒りのボルテージが一瞬でマックスを振り切ると振り向きざま髭モグラを一刀両断した。


 「所詮しょせんは魔物……分かりあえぬ悲しい運命さだめよ」


 また1つ新たな悲しみを背負うと、哀愁漂うダンジョンを後にした。



 モニカの街に入って、肉屋のおばちゃんに肉を卸すと武器屋に向かう。

 お店にはクローズの看板が出て閉まっていたが、勝手知ったるなんとやら裏口から店に入ると鍛冶場にいるだろう親父に話し掛ける。


 「親父居るか?」


 「達坊か? 奥にいるから入って来い」


 ずかずかと店の奥にある鍛冶場に入ると、親父が何かをハンマーで打ち付けて一心不乱に作業をしていた。


 「親父、店の看板がクローズになってたけどいいのか?」


 「ああ、問題ない。ちょっと予約が多すぎてな、これ以上は仕事を請けられないんだ」


 作業場のデスクには、ばらした鎧や数多くの剣や槍が所狭しと並べられている。


 どうやら、商売繁盛のようだな。

 良かった良かった。


 轟々と燃え盛っている炉の前を通り過ぎて、炭の付いた顔を上げた親父に殺人兎の肉と鉄を渡す。


 「はい、おみやげ」


 「おっ! こいつはすまねえな」


 ニコニコ顔で受け取った親父に、さらに家から持ってきたキラーパンサーの毛皮を見せる。


 「おっ、キラーパンサーか? はっ!? まさか、達坊ひとりでやったのか?」


 キラーパンサーの爪でぼろぼろになっていた革の鎧を思い出したのか、親父が興奮したように尋ねてくる。


 「ああ、そうだ。親父の黒金の剣のおかげだけどな」


 にやりと笑って自信満々に答える。


 黒金の剣が無ければ、一撃で斬り捨てるのは難しかったかもしれない。

 感謝の念を込めてお礼を言う。


 喜んでくれるかと思いきや、親父は何か納得のいかないような顔で首を捻っていた。


 「達坊は確かに強くなったが、それでもあれを斬るには剣速が足りないんじゃないのか?」


 さすがは親父だ。

 俺の足りなかった部分を完全に見抜いている。


 親父の前で前傾姿勢になると、剣を居合で抜刀してみせた。


 「うお! なんだそりゃ!?」


 親父は相当驚いたのか馬鹿みたいな大声を出していた。

 その後は急に黙ってしまい、難しい顔をして何かを考えるようにじっとしていた。


 おいおい、まさかまた異世界人とか言い出すんじゃないだろうな?


 若干の不安を抱きながら、黙って経過を見守る。

 ほんの数十秒沈黙した時間が過ぎると、パン! と突然自分の頬を叩いた親父が矢継ぎ早に問題点を指摘してきた。


 「達坊、その剣の使い方だと、両刃の直刀じゃあ駄目だな。ブレーキがかかっちまう。剣を抜く時、円運動で鞘を走らせるために少し反りが必要だ」


 親父の慧眼の凄さの前に思わず絶句してしまう。


 すげぇ、1回見せただけなのに完全に本質を見抜いている。

 毎度、親父には驚かされるぜ。


 居合用の刀は、1.5cm~2cmくらいの反りが必要なんだ。

 今までは、剣の先をひっかけるだけの変則居合いで誤魔化していた。


 「器用と言うか、やりにくかったんじゃないのか?」


 「まあ、確かに大変だったかな」


 「剣を貸してみろ。間に合わせだが、鞘の方を削って何とかしてやる。真打が出来るまではそれで我慢しろ。それより、矢筒はあるみたいだがボウガンはどうした?」


 「俺も剣を使うようになったから、弓に変えたんだよ」


 「弓だと? お前の力だと、それなりに威力があるやつは難しいんじゃねえのか? 魔物が相手だから、ある程度の火力がないと使い物にならないぞ?」


 親父が大丈夫なのかといった心配そうな顔をして聞いてくる。


 「ああ、ちょっとエルフに知り合いができて、いい弓を貰ったんだよ」


 「はあ? エルフだって? それは凄いな。まあ、弓の扱いに長けたエルフなら間違いねえだろ。俺はてっきり、材料を集めてカスタムボウガンを作るのかと思ってたぜ」


 「そういや、強化ボウガンより上は材料を集めて作るとか言ってたな」


 「おうよ、骨組みにドラゴンの骨を使うんだぜ? あれはとてもじゃないが手で引けるような代物しろものじゃないからな。滑車の原理とやらで、ハンドルをくるくる回して装填するんだ。あれを作ったやつは間違いなく天才だな。もっとも、そいつは突然失踪して居なくなっちまったらしいんだけどな」


 嬉しそうに語っていた親父が言った、突然失踪したと言う言葉に心臓がどきりと跳ね上がる。


 そいつは、まず間違いなく異世界人で志半ばにして死んだのだろうな。


 だが、俺は大丈夫だ。

 何が来ようとすべて倒せばいいんだからな。


 己の矜持に身をゆだねて自らに言い聞かせると、さざなみのように粟立あわだった心が嘘のように落ち着いていった。


 「それは……凄そうだな」


 わずかばかり残っていた内心の動揺を噛み殺して、平静を装いながら親父に答える。


 「エルフから貰った弓か……。どんな弓かちょっと見せてくれるか?」


 親父が興味津々と言った感じで聞いてきた。


 「ああ、かまわないよ」


 リュックから取り出して弓を渡す。


 「おい達坊! これは凄い銘品だぞ」


 弓を受け取った親父は、まるでお気に入りのおもちゃを渡された子供のような顔で楽しそうに弓を観察していた。


 親父は本当に武器が好きなんだな。

 まったく、俺の事を達坊とか言って餓鬼扱いしてるけど何だかんだ言って親父も餓鬼なんだよな。


 そんなことを考えながら親父を見ていると、弦に手を掛けていた親父が困惑したような顔をして四苦八苦していた。


 「な、なんだこりゃ? どうなってやがる? この俺がまったく引けないぞ!」


 「え? そんなはずは無いだろう? 俺でも楽勝で引けるんだぞ?」


 親父から弓を受け取ると弦を軽々と引いてみせる。


 「何で達坊に引けるんだ?」


 首を捻る親父をそのままに、矢を番えて店に備え付けてあった的を射る。


 ズダン! と派手な音を立てて矢が的に突き刺さった。


 「うお!? どうなってやがる。矢が半ばまでだと? 弓でこの威力は最強クラスのドラゴンボウくらいしか無いぞ!」


 「やっぱり最強クラスなのか。そのドラゴンボウというのはそんなに凄いのか?」


 「あたぼうよ! あんな化け物弓をまともに扱えるのは、弓聖アルテミスくらいしか居ないぞ? まったくよ、今日は達坊に驚かされてばかりだ」


 親父がペシリと自分の禿げた頭を叩いて唸っていた。


 ティアから貰ったエルフィンボウをじっと眺める。


 俺に引けて親父に引けないのは魔法的なプロテクトでも掛かっているのだろうか?

 そういえば、ティアが俺の事をエルフを代行する者であり、執行する者とか言ってたけどそれが関係しているのかな?


 俺はティアに何も聞いてないぞ?


 なんかティアは大雑把と言うか、結構ずぼらな性格のような気がするんだよな。

 今回の件も、どうせ他人には使えないのだからと説明を省いた可能性が大だな。


 「なんで達坊に引けて俺が引けないんだよ? ぬおおおお! ぷはぁ! こりゃあ駄目だ。うーん、不思議な弓だな。おい達坊、お前エルフに貰ったと言ってたよな? まさか、伝説のエルフィンボウじゃないだろうな?」


 親父はむきになって弦をぐいぐい引っ張ると、冗談めかしたように聞いてきた。


 「え? そうだよ」


 「そうか、やっぱりな。って!? そんなわけあるか! エルフィンボウと言やあ、1000年前に創作された御伽話しだぞ? 伝説だと、初代皇帝カリバーンがハイエルフのティアから授かったと伝えられてるがな」


 「いや、エルフィンボウは作り話じゃないって! 実際にここにあるじゃないか。それに、その伝説のティアに貰ったんだよ」


 「あのなあ……はあ。まあ、いい」


 あきれたような顔をした親父が、やれやれと言った感じで深い溜息を吐いていた。


 親父のやつ、まったく信じてないな?


 くそっ! 何で誰も俺の事を信じてくれないんだ?

 ナタリアさんも、ミュルリも、親方も、セリアも、セレナまで。


 原因はなんだよ?


 そう言えば、みんな俺の事を弱いとか言ってたな。


 「……………………」


 印象って大切だよね。


 言っても無駄と判断して、親父に証明する事を早々にあきらめる。


 剣を親父に預けて、店から出ようと背を向けると親父が引きとめてきた。


 「ちょっと待て、ボウガンから弓に変えたんだろ? なら、矢羽の付いた矢で少しでも真っ直ぐ飛ぶようにした方がいいぞ」


 矢羽を付けると矢が回転して弾道が安定するらしい。

 銃器のライフリングによる効果と同じだ。


 それならばと矢羽付きの矢を購入して交換する。


 「どうするかな? せっかくモニカまで来たんだし、ミュルリに顔でも見せてくるかな?」


 「達坊! ミュルリちゃんなら、今は本店のモニカの工房で支配人をやってるみたいだぞ。ロイドのやつが英才教育を施すんだとさ」


 「え? まじかよ、いくらなんでも早すぎだろ? ミュルリは何歳だっけ? でも、ミュルリなら大丈夫かな」


 親父に軽く挨拶をすると、揚々として店を出た。

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