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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第四章 為すべきこと
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163話 セリアの出迎え

 レーベンの街に戻ると、セリアが家の前で出迎えてくれた。


 「達也、用事は済んだのかしら?」


 セリアが戸口に寄りかかるようにして、いつものクールでひょうひょうとしたポーズで聞いてくる。


 「ああ、上手くいった」


 にやりと笑って堂々と答える。


 セリアを見ると驚いたかのように目を見開いていた。

 気のせいか、少し顔が赤いような気がする。


 「ふん! そう! 良かったわね!」


 セリアがなぜか怒ったかのように言うと、逃げるようにして家の中に入って行った。


 なぜ怒る?


 首を傾げつつ、自分の部屋に戻って荷物を降ろす。

 バスルームに向かいシャワーを浴びて部屋に戻ってくると、テーブルの前にあるクッションの上で胡坐あぐらをかいて座る。


 なんだろう?

 久しぶりに、のんびりしたような気がするな。


 リラックスしていると言うか、これは心が落ち着いているんだろう。


 しばらく何もせず、まったりとした時間を過ごす。


 濡れていた髪が乾いた頃、セレナがノックもせず傍若無人に部屋の中に入ってきた。

 どうやら、いままでお昼寝をしていたらしい。


 相変わらずだなと苦笑していると、すぐに背中に覆いかぶさるように抱きついてくる。

 そのまま俺の頭の上に自分の顎を乗せてくると、ごろごろと猫のように甘えてきた。


 出たな、セレにゃん。


 突然やって来ては甘えてきて、しばらくすると何処かへ行っちゃうんだよな。

 たぶんセリアの所に行って、同じように甘えているんだろうけど。

 まさに猫だな。


 顎でぐりぐりとする事に飽きたのか、セレナが胡坐をかいていた俺の膝の上に座ってくる。

 セレナがこちらに体を向けて抱きついてくると、俺の胸板に顔を押し付けて甘えてきた。


 さてと、キラーパンサー討伐で入手したグロックカスタムの性能でも確認するかな。


 俺の胸元でモソモソとしていたセレナの頭を撫でながら、ステータス画面を操作する。


 グロックカスタムはコンペンセイター(銃口制退器)がスライドに内臓されていた。

 さらに延長マガジンにより弾総数は+2発で、スライド後部にはセミオートとフルオートが切り替えられる機構が備わっているカスタムモデルだった。


 コンペンセイターとはマズルブレーキと似たようなもので、撃った時に生じる銃のマズルジャンプ(跳ね上がりの反動)を抑えてくれる機構の事だ。


 仕組みは簡単で、弾を発射した時に発生したガスをスライド上部に作った穴から上に逃がしてやることで銃の跳ね上がりを抑えて、さらに作用反作用の法則で戻ってくるはずの反動を軽減するのである。

 より精密な射撃が可能になるのだが、反面で穴の掃除が大変な事と発射時の音がうるさい事が欠点だ。


 最後に、次のデスゲームが始まるまでの猶予期間を確認する。

 猶予期間は30日だった。


 さて、どうするかな?

 やっぱり、レベル上げをするのがベストなんだろうけど……

 

 だけどなあ、ここしばらくは気を張り詰めてきたから、少しだけのんびりしたいんだよなあ。


 「たっつん! セレナ、ちーちゃんとぉ、でーるんとぉ、きっくんに会いたいよぉ」


 甘えていたセレナが顔を上げると、たどたどしい口調で弟子達3人に会いたいと言ってきた。


 そういえば、魔大陸から戻ってきてからも会ってないな。

 まったく余裕が無かったからなあ。


 魔大陸に行く前に、俺の代わりに特効薬の材料集めをお願いしていたのだがそのお礼もまだ言っていない。


 久しぶりにあいつらとダンジョンにでも行ってみるか?

 日は傾いているけど時間はまだあるから、ギルトに行って弟子達に連絡を取ってもらおう。



 玄関に向かう途中に部屋から出てきたセリアとばったりと遭う。

 セリアと目が合うと、なぜか顔を逸らして慌てたように部屋に戻って行った。


 なんだ?

 何かセリアの様子がおかしい。


 釈然としないものを感じながらギルドへ向かう。

 ギルドに着くと、弟子達3人に連絡を取ってもらうように要請した。


 これでよし!


 後は……

 キラーパンサーを討伐できた事を親父に報告しておかないとな。

 ずたずたになった鎧を見せてしまって、心配を掛けてるだろうからな。


 明日にでも行ってこよう。


 家に戻って自分の部屋のベットに横になると、セリアの奇妙な行動について考えていた。


 う~ん、やっぱり怒ってるのかな?

 俺は何かやらかしたか?

 以前にも褒めたらいきなり怒り出した事があったからな。


 セリアは何が怒りのトリガーになるかわからないんだよな。

 まあ、こういう時はプレゼントをすれば機嫌が直るだろう。


 キッチンで夕飯の支度をしていたセリアに声を掛ける。


 「セリア」


 「な、何?」


 包丁を片手に野菜を刻んでいたセリアが、まるで今にも襲い掛かってきそうな強張った顔でこちらを向いた。


 理由はわからんがやっぱり何か怒っているみたいだ。


 「セリア、実はプレゼントがあるんだ」


 「え? な、何かしら」


 セリアが一瞬驚いたような顔をして、その後に花が咲いたかのような嬉しそうな顔になった。


 どうやら、作戦は成功したようだ。


 「はい、おみやげ」


 密林のダンジョンで見つけた高級品のにんにくを笑顔で渡す。


 途端に、セリアの目が冷ややかな瞳に変わった。

 背筋に悪寒が走る。


 やらかしたか?


 セリアは無言のままにんにくを受け取ると、親の敵でも切り刻むような迫力で野菜を切り始めた。


 何が悪かったんだ?


 がっくりと項垂れてキッチンの出口へ向かう。


 「あ、そうだ! 俺、餃子が食べたいんだけど」


 「うるさい!」


 「うぉ! ごめんなさい」


 セリアの剣幕に思わず謝罪すると逃げるようにして部屋に戻った。


 部屋に篭ってもんもんとしていると、夕飯が出来たとセリアに呼ばれてダイニングルームに重い足を運ぶ。


 恐る恐るセリアの顔色を窺うと、いつものツンとすましているセリアに戻っていた。

 何だかわからないがセリアの機嫌が直ったらしい。



 夕飯を食べ終えるとベットに横になる。

 気を取り直して、弟子達と行くダンジョンの事を考えていた。


 機嫌も直ったみたいだし、セリアも誘って6人パーティでダンジョンに行きたいな。


 そうなると隊列はどうなるんだ?


 まず、前衛が……って、ちょっと待て! 俺まで剣を使ったら全員前衛じゃねえかよ。

 バランスが悪いぞ。


 いや、まてよ? 後衛は弓と回復と魔法使いくらいだよな?

 魔法使いなんて名乗れるのは、膨大なMPを内在している雷帝ミストくらいしかいないからな。


 魔法が使えるやつでも普通は中級魔法を1~2発くらいしか使えないらしい。

 つまり、回復魔法を使えるのは世界に百人もいないわけだから、後衛なんてのは実際のところ弓兵くらいしかいないんだよ。


 なんだ、普通じゃねえかよ。

 じゃあ、気にする必要はないな。


 バランスを考えると俺が弓を使って後衛でセリアが槍のリーチを活かして中衛かな?

 速い魔物はセレナとチップに任せて、キールが盾役をやってセリアとデールがアタッカーかな?

 戦況を見ながら俺が弓で全体を援護する形にすればいい。


 何だか楽しくなってきたぞ。

 よし、先にセリアに話しておこう。


 セリアを探すと、キッチンにあるオーブンを開けて何かを焼いていた。


 「セリア! ダンジョンに一緒に行かないか? 前にレギオンのダンジョンで一緒だったやつらとなんだけどさ」


 「もう、オーブンを使ってるんだから話し掛けないでよね。火加減の調整が大変なんだから。それと、ダンジョンには行けないわよ。残念だけどちょっと用事があるの。セレナと一緒に行ってきなさい」


 なんだよ、せっかく誘ってるのによ。

 まあ、用事があるんじゃ、しょうがねえか。


 セリアが一緒に行けないのは残念だが、デスゲームは一息ついたからな。

 今日はいい夢が見られそうだ。

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