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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第三章 超えて行く者
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161話 セリアの激励

 「達也、エリス様とどんな関係なの?」


 「え? い、いや、俺はワカラナイ」


 いぶかしげな視線を向けて尋ねてきたセリアに、答えに急して焦ってしまう。

 ぎこちなくなってしまったが、何も知らない風を装いながら答える。


 まずいな。

 セリアには魔境のダンジョンの事もある。


 信じるとは言ってくれたけど、今でもやっぱり疑ってるだろうからな。

 何とか話しを逸らして誤魔化さないと。


 「そ、それより、何でエリスが西の都にいるんだよ」


 「え? ええと、何だったかしら? 確かエリス様が……お兄様、皇帝陛下に会いに西の都に来たと言っていたわよ。それより、帝国軍第一軍団まで動かして達也の捜索に協力してくれたんだから、エリス様に感謝しなさいよね」


 話しを逸らすためにエリスの事を聞くと、セリアが偉そうに腕を組んで迷子になった俺を非難するように伝えてきた。

 いつまでもしつこいなと我慢しながら聞いていると、エリスが俺の事を助ける為にお抱えのレミングス隊を動かしたとセリアから聞いてはいなかった情報が飛び出してきた。


 「なんだって!? どうして教えてくれなかったんだ? 一言も言ってなかったじゃないか」


 「そ、そうだったかしら?」


 口が滑ったのか、セリアが余計な事まで話してしまったといった顔で頬を搔いていた。


 セリアのやつ何だ?

 何か話せない理由でもあるのか?


 それより、エリスだけじゃなくて帝国軍第一軍団と言っていたな?


 ここは帝国領ではないし、西の都との関係はかなり険悪な状態のはずだ。

 帝国の軍隊が西の都の国境を越えるとか、普通は考えられないぞ?


 「ここは帝国領じゃないだろ? どうやって帝国軍を西の都に進軍させたんだ?」


 「そ、それは、その、何でもないわよ!」


 何気なく疑問に思った事を尋ねると、セリアがびくりと体を硬直させて大きな声で怒鳴るように答えをはぐらかしていた。


 あやしい。

 普通なら知らないと答えるよな?


 セリアが何かをしたのか?


 セリアのやつ、何か悪い事でもやったんじゃないだろうな?


 じと目でセリアを見ていると、完全にそっぽを向いて顔を逸らされてしまった。


 やれやれと思いながらさっきから静かなセレナの様子を確認すると、いつの間にか追加で注文したらしいパンケーキを美味しそうに黙々と食べていた。

 来た当時はおどおどしていたセレナも、西の都の雰囲気に慣れたのか今では笑顔すら見せている。


 セレナのほのぼのとした姿を見てほんわかした気持ちになる。


 それにしても、エリスにはまいったよなあ。

 セリアの前で、べらべら余計な事を話しやがってよ。

 これじゃあ、命がいくらあっても足りやしねえぜ。

 

 まあ、セレナ探知機の感じだとエリスに悪意はなさそうなんだけど……


 う~ん、悪意が無いって事は、エリスは異世界人の事は知っているけど俺が異世界人だと認識されたら存在が消えてしまう事は知らないのかな?

 

 だとすると性質が悪いな。

 セリアにぼろりと言ってしまうとか、洒落にならんぞ。


 それに、俺の事を探したとか言ってたからこの後も付きまとわれて一緒に戦う可能性は高い。


 エリスが近くにいると、下手に銃が使えないんだよな。

 銃が消えるだけならどうにかなるけど、エリスが確信してしまって俺が死んでしまったらそれで終わりなんだ。

 

 なるべく、近づかないようにしよう。



 そして、現在は帰りの船の上で剣の修練をしていた。


 帰り際に小耳に挟んだ情報によると、西の都ではゴリガンが代表の座を追われたと言う話しだ。


 決定的だったのは、エリスがフレイムノヴァをレイクウッドの森で放った事だったらしい。

 これにより、エルフを盾にする事で身を守ろうとしていたゴリガン派の連中が、帝国の武力の影に怯えて逃げてしまったのだそうだ。

 こういった連中は自分の身に危険が迫ると逃げ出すのが早い。


 まあ、これで西の都で戦争になる可能性は飛躍的に下がっただろう。

 俺には直接関係ないとは言え、戦争にでもなっていたらやっぱり気持ちが良いものではないからな。


 そして、サバイバルナイフは結局取得できなかった。

 どうしても欲しいというわけではないから、機会があったらにすればいいだろう。



 前傾姿勢でうつむくと剣を抜刀する。


 シュンと風を斬る心地よい音が鳴る。


 よし! いい感じだ。


 だけど、この領域までは誰でも簡単に来れるんだよね。

 達人と呼ばれる連中はここからさらに削っていくんだ。


 キラーパンサーと戦う前の最後の仕上げも終わり、レーベンの南にあるレトアの港に到着する。

 船から降りるとセレナが涙目でしがみついてきた。


 「ど、どうした?」


 「どうしたの?」


 セリアと2人で驚いてセレナを見る。


 「セレナ、たっつんとお別れするの嫌なのぅ」


 セレナが涙をぼろぼろと零しながら訴えてきた。


 セリアと顔を見合わせる。


 「ああ、そういえば前回もここの港だったな」


 一緒に住む事になったのにと、セレナの勘違いにセリアと顔を合わせて大笑いした。



 レーベンに到着すると日はだいぶ傾いていた。

 2時間もすれば太陽は完全に落ちるだろう。


 決戦は明日だな。


 逸る気持ちを落ち着けて家に入る。


 「達也はこの部屋を使って。私は夕飯の買い物に行って来るから」


 「俺も行こうか?」


 「ううん、大丈夫よ。達也、なんだか疲れているみたいだしね。部屋でゆっくりしていて」


 案内してくれたセリアが軽く首を振ると部屋から出て行った。


 案内された部屋はすでに掃除がされていて綺麗だった。

 留守の間は、ホームヘルパーの人に定期的に掃除を頼んでいるそうで、部屋の中には、ソファ、机、ベッドと一通りの家具は揃っている。


 荷物を簡単に片付けるとソファに座ってのんびりとする。


 今日からここに住むんだよな。

 今までも一緒の宿に泊まっていたから大して変わらないのだけど、何だかどきどきしてしまうよな。


 「たっつん、遊ぼぅ」


 ソファに座ってまったりしていると、ニコニコとした笑顔のセレナが早速遊びにきた。


 手にはボードゲームのような物を持っている。

 どうやら、セレナのお気に入りらしい。


 時間を忘れてセレナと遊ぶ。


 「達也、セレナ、夕飯ができたわよ」


 セレナと遊んでいるとセリアが呼んできた。


 そういえば、セリアの手料理は初めてだな。

 今までは宿だったから、食事は作っていないんだよな。


 手料理かあ……楽しみだな。


 「今日は時間が無かったから、簡単な物なんだからね」


 ダイニングルームに行くと、セリアの簡単なと言う言葉とは裏腹に手間隙てまひまかけた料理が所狭しと並んでいた。


 パエリア、魚の香草焼き、かぼちゃのスープ、サラダとぜんぜん簡単ではない。

 ずらりと並んだ食事に、思わずくぅーとお腹が悲鳴を上げて催促をする。


 「いただきまーす」


 まずはかぼちゃのスープで咽を潤す。

 トロトロに溶けたかぼちゃのまろやかな甘みが口の中に広がる。


 旨い!


 次にパエリアと魚の香草焼きと、美味しい料理をがっつくようにバクバクと食べる。

 パエリアは海産物の出汁がしっかりと利いていて、具の味をしっかりと引き立たせている。

 魚の香草焼きの方は、香草の良い香りと使っている香辛料のスパイスのハーモニーが絶妙である。


 どうやら、セリアは料理が得意らしい。


 「旨い!」


 「本当?」


 思わず声に出ていた言葉にセリアが本当に嬉しそうに聞いてきた。


 セリアの可愛らしい笑顔に思わず呆けてしまう。


 やばい! セリアのやつ、めちゃくちゃ可愛いぞ。

 普段はキリッと寡黙な顔をしているから、たまに笑うとグッとくるんだよな。


 「たっつん、これ食べてぇ」


 「うぼ、ごほっ、もぐもぐ」


 セリアの笑顔に見惚れていると、隣に座っていたセレナがフォークに刺したニンジンを俺の口に突っ込んできた。


 むせながらも、なんとか咀嚼して飲み込む。


 「こら、セレナ。ニンジンも食べなさい」


 セリアが叱ると、セレナは叱られた猫のようにしゅんと項垂れていた。


 食後のデザートでセリアがケーキを出してくると、焼き菓子好きのセレナが途端に笑顔を取り戻す。


 単純なセレナにセリアと一緒になって笑う。


 なんだかんだで楽しい夕食の時間は過ぎていった。



 夕食も終わり自分の部屋に戻ると、気持ちを落ち着けるため座禅をして瞑想する。


 駄目だ!

 明日の決戦の事を考えると、どうにも落ち着かない。


 もし、これで勝てなかったら?


 もう、時間が無い。


 考えても仕方が無いのに、次から次へとネガティブが思考が沸き起こってくる。


 結局、どうしても逸る気持ちを抑える事ができずに落ち着く事はできなかった。

 あきらめてベットに潜るも、つい明日の事を考えてしまう。


 やるべき事はやったんだ。

 少しでもベストの状態にするためにも何とか眠らないと。


 高ぶる気持ちを無理やり抑えて目を閉じていると、気づけば浅い眠りに就いていた。



 早朝、不安な気持ちをひきずったまま玄関までやって来ると、セリアが戸口により掛かるようにして待ち構えていた。


 「何処へ出かけるのかしら?」


 「うん? ああ、ちょっとな」


 「はっきりと答えて! 帰ってきてからも、ずっと何か思いつめたような顔をして……」


 セリアの強い口調に少しだけ驚くと、その真剣な眼差しの前にはぐらかすことなく真面目に答える。


 「以前に、上手く行かなかった用事を片付けてくるんだ」


 「……ちゃんと帰ってくるんでしょうね?」


 「ああ」


 それだけ言うと、セリアの脇を抜けて玄関から出ようと扉に手を掛ける。

 絶対に戻ってくる、と答える事が出来ない自分がもどかしい。


 「待って! 帰りは何時ごろになるの?」


 セリアが心配そうな顔で尋ねてきた。


 「そうだな、早ければ夕方くらいか? 遅くても夜までには帰ってこれると思う」


 「そう、なら待ってるから……行ってっらっしゃい」


 「ああ、行ってくる」


 セリアに笑顔で見送られると、不思議と不安な気持ちが薄らいで代わりに闘志が湧き起こっていた。

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