表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第三章 超えて行く者
159/225

158話 レイチェルの危機

 早朝、帰り支度を整えてティアに挨拶する。


 「なんじゃ? もう帰るのか? もっとゆっくりしていけばよいのに」


 「すまん。俺もゆっくりしたいんだけど、森でずいぶんと彷徨ってたから仲間に心配掛けてると思うんだよね」


 ティアは何事もなかったように振舞っていたが目が赤く腫れていた。

 部下を失ったことで昨夜は泣いていたのだろう。


 西の都までの道を尋ねると、エルフの足なら1日ほどで人の足でも2日と掛からない距離という事だった。


 「本当に案内はよいのか?」


 「ああ、地図も貰ったしエルフも今は大変みたいだしな」


 ティアが名残惜しそうな顔で確認してくるが、現在も重傷の怪我人が次々と運び込まれていてエルフの里はあわただしい様子だった。

 この後、ティアが救助隊の陣頭指揮を執るみたいでこれ以上迷惑は掛けられない。


 ティアに見送られてエルフの里を出ると、受け取った地図に書いてある目印を目指して森の中を東に進んだ。



 2日も歩いていないのだが、ゴブリンと冒険者達の戦闘らしき音が遠くから聞こえてきていた。

 ティアに聞いてはいたのだが、それほどの距離は移動していなかったらしい。


 おそらくは同じ場所をぐるぐると回っていたのだろう。

 戻って来れた事にほっとする。


 それにしても、此処に来るまで戦闘らしい戦闘はなかったな。

 少し前は近づくことさえ困難だったのに、あれだけ居たゴブリン達は何処にいった? 


 そんなことを考えながらレイクウッドの森の入り口付近まで来ると、何やら冒険者らしき人達の言い争う声が聞こえてきた。


 緊迫したような声に思わず耳を傾ける。


 何か聞き覚えのある声だな? 


 喧騒の中に聞き覚えのある声が混ざっていることに気づき、近くの木に身を隠して様子を窺う。


 「うるせえ! お前らさんざん舐めた事しやがって、いまさら助けて貰えると思うなよ?」


 「お願いします。レイチェルの怪我が酷いんです」


 木陰からこっそりと覗くと、銀髪のエルフのアーチェが必死に頭を下げていた。


 アーチェだったか。

 それより、レイチェルが怪我?


 「関係ないね。それに、何の見返りも無しに助けるかよ」


 「助けてくれたら、何でもします」


 アーチェが思いつめたような顔をして男の冒険者達に助けを懇願するも、男の冒険者は傲岸不遜な態度で断っていた。


 アーチェのやつ、何でもするとか簡単に言いやがって!

 どうなるか少しは考えろよ!


 頭にきて思わず飛び出しそうになるが、ぐっと堪える。

 まだ状況がよくわからない。


 「お? 今、なんでもするって言ったな? 助けてやるから服を脱いでみろ」


 卑猥な顔をした冒険者の男が要求していた。


 ほらみろ、こうなるんだ。

 できもしない約束はするなっての。


 「先に特効薬か、ヒールポーションを見せて下さい。それとも貴方がヒールを使えるのですか?」


 「けっ! 持ってねーよ。勝手に野たれ死ね!」


 アーチェが真剣な表情で詰問すると、冒険者は悪態をついて何処かへ行ってしまう。

 アーチェは途方にくれたようにだんまりと下を向いて俯いていた。


 どうやら、レイチェルが特効薬かヒールポーションが必要なくらいの怪我をしたと言う事かな?


 しょうがねえな。

 あの赤毛には腹が立つが命までとなると別の問題だ。


 身を隠していた木陰から飛び出してアーチェに声を掛ける。


 「おい、アーチェ。レイチェルは何処だ?」


 「え!? 達也、さん? あの、達也さん無事だったのですか? 緊急クエストが出ていて、ああ、今はレイチェルが」


 急に声を掛けられて驚いたのか、アーチェはあたふたと状況把握に四苦八苦しているようだった。


 「特効薬だ」


 余計な問答を避けるため黙って特効薬を見せる。

 アーチェの瞳がさらに驚いたように見開かれていた。


 「こ、こっちです」


 状況を飲み込めたのか、アーチェがすぐにレイチェルの居る場所に案内してくれる。


 「レイチェルの身に何があったんだ?」


 「オーガに突然襲われたんです。止血はしたのですが……」


 ゴブリン討伐をしていたら、突然オーガの群れが狂ったように雪崩れ込んできたらしい。

 何とか逃げる事はできたそうだが、その時にレイチェルが大怪我をしてしまったそうだ。


 そして、重症を負ってしまったレイチェルを下手に動かす事ができず、特効薬かヒールポーションを持っている冒険者を探していたらしい。


 オーガか……


 たぶん、ティアが言っていたドラゴン襲撃の時に逃げ出したやつだろうな。

 エルフの魔法兵団が強いらしいから目立たないけど、レベルが30前後でステータスが高いからなかなかの強敵だ。


 レイチェルもアーチェもオーガの集団に突然襲われてよく生き残れたもんだ。


 案内されて着いた場所は大きな木の洞の中で、血塗れのレイチェルが木にもたれ掛かるようにして横になっていた。

 レイチェルが俺の姿を見つけると必死な形相で睨みつけてくるが、相当弱っているのかさすがに声を出す気力まではないようだった。


 「ほら、特効薬を持ってきてやったぞ」


 「う、うう、ごほ、ごほ」


 声を掛けると、レイチェルが苦しそうに咳き込みながら睨んでくる。


 こんな時にまで意地を張るかね?

 まあ、何とか間に合ったようだが急いだ方が良さそうだな。


 ポシェットから特効薬を取り出すと、いまだに親の敵でも見るように睨みつけているレイチェルに使う。

 しばらくすると、荒い息をしていたレイチェルの呼吸が落ち着いていた。


 「達也さん、レイチェルの傷の具合はどうですか?」


 「ちょっと待ってくれよ」


 レイチェルの傷のようすを確認するとしっかりと塞がっていた。

 さすがは特効薬だ。


 ふと気づけば、レイチェルは眠ってしまっているようだった。

 きっと安心したんだろう。


 まったく、口さえ開かなければそこそこ可愛いのにな。


 「傷は塞がってる。もう大丈夫だ」


 「レイチェル、良かった。達也さん、本当にありがとうございました」


 アーチェが本当に嬉しそうな笑顔でお礼を言っていた。


 しかし俺は、なんでもすると言っていた結果を考えないアーチェの無責任な言動にいらついていた。

 知り合いの女の子が酷い目に遭っているのを見るのは、まったくもって気分のいいもんじゃないからな。


 少し懲らしめてやる。

 うへへへ。


 「アーチェ、お前は助けたら何でもすると言ったな」


 「え? ……はい」


 「ならば、服を脱いで裸になってもらおうか」


 アーチェの顔が真剣な表情に変わる。


 これで少しは反省するだろう。


 「いいか? 女の子が簡単に何でも言う事を聞くとか、言っちゃだ、へっ? どぅあああああ」


 アーチェが服を脱いで裸になっていた。

 白磁のように真っ白で透き通るような綺麗な素肌が異様に艶かしい。


 大きな声で叫んだせいか、レイチェルが不機嫌な顔をして目を覚ます。


 「うるさいなあ。アーチェ? なんで裸に? あ! 薄情者! 何やってるのよ!? 変態! 痴漢!」


 「達也さん、私はいつまで裸でいればいいのですか?」


 「アーチェ服を着ろ! 早く!」


 慌てて後ろを向く。


 びっくりしたぜ。

 アーチェのやつ、本当に裸になるんだもんな。


 ああ、もったいねえ。

 しかし、こういうのは駄目なんだよ。

 俺のルールに反するからな。


 「おいアーチェ、服は来たか?」


 「はい」


 アーチェが服を着た頃合を見計らって話し掛ける。


 「まったく、本当に裸になるとは思わなかったぞ」


 「でも、何でもすると約束しました」


 「約束と脅迫は違うんだ。脅迫は守らなくてもいいんだよ。いや、それよりも初めから約束するな」


 振り返ってアーチェを見ると、無垢な子供のような顔できょとんとしていた。


 冗談で言ってるのかと思ったが、どうやら本気みたいだ。


 アーチェは世間ずれしてるのかな?

 こいつは、かなり危ないんじゃないか?


 いつか悪いやつに騙されて不当な約束をさせられそうで怖い。


 そんな事を考えながらレイチェルを見ると黙って俺を睨んでいた。

 最初はぎゃんぎゃん喚いて煩かったのだが、アーチェに特効薬を使って俺に助けられたと説明されると大人しくなっていた。


 「礼は言わないからね。その、ありがとう」


 レイチェルがムスッとした顔をして、恥ずかしそうにお礼を言ってきた。


 おい、言ってる事が矛盾してるぞ?

 

 う~む、レイチェルは嫌なやつというのではないな、おつむが少し足りてないと言うか……


 こいつはあれだ! そう、お馬鹿の子だ。


 「ああ、まあ気にするな。それより、もう悪い事をするんじゃねえぞ? 本当に困った時に誰からも助けてもらえなくなるからな」


 軽く挨拶をして2人と別れる。


 アーチェはぺこりとお辞儀をしていたが、レイチェルはなぜか赤い顔をしてそっぽを向いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ