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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第三章 超えて行く者
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148話 サバイバルコンバット

 パキリ!


 枯れ木を踏みしめる音で、びくりと目を覚ます。

 周辺に撒いていた、簡易トラップの枝が発動したようだった。


 装填済みのボウガンにそっと手を掛け、近くにいた斥候らしきゴブリンをすみやかに始末する。

 安全を確認すると、もそもそと落ち葉の中から這い出した。


 「ふう、ゆっくり眠ることもできない」


 この場所は危険だと判断して、急いで場所を移す。


 あれから、出口がある森の東へ何度か向かったのだが、集結しているらしいゴブリン達と何度も鉢合わせてしまっていた。

 出口に集結しているゴブリン達を突破するのは、現状では難しいだろう。


 帰還するには何か手段を考えなければいけない。


 たび重なるゴブリン達の襲撃で、現在の方向感覚はかなり怪しい状態になってしまっている。

 現在はかなり危険な状況だ。



 これで何匹目だ?


 追撃してきたゴブリンを殲滅する。

 迂闊に斥候を倒してしまったせいで、位置がばれてしまったみたいだ。


 「まったく、ゆっくり飯を食う時間すらない」


 ゴブリンロードの策略なのか、何処へ逃げても斥候がいた。

 気づかないうちに、追い詰められているのかもしれない。


 「くそっ!」


 焦燥感と不安から、ついつい愚痴が零れてしまう。

 歩きながら簡易糧食のクラッカーをかじると、水筒に口をつける。


 「なっ!」


 傾けた時の異様な軽さに驚き、慌てて水筒を左右に振る。

 ちょぽちょぽと、心許ない音が鳴っていた。


 まずい、水が残り少ない。

 こんな状況で水まで無くなったら……


 「うぐっ!」


 最悪の事態を想定して吐きそうになり、口を手で押さえる。


 四六時中緊張状態が続いていて、満足に睡眠を取る事もできず食事も戦闘糧食だけ。

 これでは、体調がおかしくならない方が異常だろう。


 これは、精神的にも堪えるな。

 まったく、次から次へと問題が発生しやがってよ。


 「はあ、なんとか水場を探さないと」


 川でもあればな。


 でも、この辺の森には無いんだよね。

 何でも、エルフの魔法の力が作用しているとか。


 これだけの森を維持するには、本来なら豊富な水源が必要なはずなんだが……


 「まったく、ふざけてやがる」


 ジャングルのような草木をかきわけると、何処とも知れない水場を求めて彷徨い歩いた。



 現在は、迷子になって4日目である。


 ゴブリンの斥候に気づかれないように、牛歩の歩みの如く慎重に移動していた。


 倒すのは簡単なんだが、その後に仲間を呼ばれて面倒な事になる。

 前回は寝起きに迂闊に斥候を倒してしまい、そのせいで追撃を振り切るのに苦労したんだ。


 なんとか安全そうな木のうろを見つけて身を隠すと、腕を組んで対策を考える。


 これでは脱出はおろか水場の探索すら満足にできない。

 森から脱出するにせよ、水場を探すにせよ、ゴブリン達が邪魔だ。


 あいつらを何とかするしかない。


 でも、レイクウッドの森に生息してるゴブリンの数は何百万匹とも言われているんだよな。


 う~ん、どうやったら1人で何とかできるだろう?


 「はあ」


 何も手段が思いつかず、深い溜息を吐く。


 状況は酷いものだが絶望的と言うわけではない。

 いつでも、手段と方法は用意されている。


 現在は、5日目の夜である。


 ゴブリンの集団を少し離れた真っ暗な丘陵から眺めていた。

 夜も松明を手に山狩りを行っているようで、見えているだけの明かりでも数千は居ると思われる。


 おいおい、今日はついに旅団クラスがお出ましか?

 まさか、俺1人を相手にするためじゃないよな?


 まったく、予想外に大部隊だぜ。


 「ははは」


 あまりの数の多さに変な笑いが出てしまう。


 だが、夜は俺の時間だ。

 まさか、俺が反撃してくるとは思うまい。

 うへへへ。


 馬鹿なゴブリン達は、松明を手に自分達の居場所を教えてくれる。

 これじゃあいい的だぜ。


 萎えそうになる気持ちを叱咤するとナイトビジョンのズーム機能を使う。

 本隊らしき部隊の位置を確認すると、早速移動を開始した。


 あれから、敵を知り己を知ればこそ百戦して危うからずの兵法の基本に立ち返って考えてみた。


 ゴブリン達の最大の弱点とは何か? 


 それは頭が悪いこと。

 生物としては致命的な弱点である。


 先日のゴブリン達の戦い方から、指揮官がいないかまたは極少数なのではないかと当たりをつけていた。

 だから、それを集中して狙ってやれば、たとえそれが少数でも組織的行動が困難になるような、致命的な損害を与える事ができるのではないかと考えたのだ。


 まあ、少なくとも混乱させる事ぐらいはできるだろう。

 後は、その間隙を縫って脱出するなり水場を確保するなりすればいい。


 誰が指揮官なのかはわからないが、偉そうにしているやつを狙う。


 力で殲滅できたら格好良かったんだけど、あいにく俺にはできないからな。

 弱いのなら、戦略と戦術を駆使して頭を使って戦えばいいんだ。


 フフフ、我ながら完璧な作戦だ。

 私の事を孔明と呼んでくれてもいいのだよ?


 え? なんだって? THE孔明?


 雑魚め?

 うるさい!



 真っ暗な夜の森の中を、明かりも無しでこそこそと移動する。


 ゴブリンの集団の近くまで来ると、藪の中に姿を隠してこっそりと様子を窺う。

 ゴブリン達のキャンプには、木と草だけで作ったようなテントらしきものが立ち並んでいた。


 双眼鏡を手にしてキャンプの中を注意深く偵察すると、焚き火を中央にしてゴブリン達が何やら話をしているようだった。

 その中で、一際偉そうに何かの指示を出していたゴブリンが目に止まる。


 ゴブリンの分際で生意気な。

 成敗!


 即座にボウガンを向けると、感情の赴くまま条件反射でトリガーを引く。

 ミリオタのトリガーは軽いのだ。


 偉そうに指示を出していたゴブリンの頭には見事に貫通した矢が刺さっていた。


 しかし、当たり所が良かったのか悪かったのか即死はせず、それどころか矢が刺さった事にすら気づいていないみたいで、そのまま指示を続けていた。

 近くにいたゴブリン達が慌てたように大声で喚いている。


 なんか、ものすごくシュールだな。


 ぽりぽりと頬を搔くと、続けて2発目を打ち込んで今度こそ仕留めた。

 偉そうに指示を出していたゴブリンがパタリと倒れると、途端にてんやわんやの大騒ぎになった。


 ゴブリン達が右往左往して走り回る。

 ぎゃあぎゃあと何かを叫んでいるみたいだが、何を言っているのかわからない。

 おそらくは、突然襲われて恐怖しているのだろうが数千匹だからとんでもなく騒々しい。


 そして、なぜかゴブリン達は右往左往しているだけで俺には襲い掛かっては来なかった。


 偉そうなやつらは、銃器を使ってすべて一掃するつもりだったのだがな。

 これでは必要ないか。


 「ぎゃわ、ぎゃわ、ぎゃわわわあああ!」


 うるさい! 黙れ!

 強制睡眠!


 ボウガンの矢で眠らせる。


 「ぎゃわ!」


 悲鳴を上げてゴブリンが倒れる。


 ああ、うるさい!

 静かにしろ!

 説得! 説得! 説得!


 何度もボウガンの矢を打ち込むと、言葉の通じないゴブリン達に根気強く説得を繰り返した。


 「ふう、やっぱり物理で説得するのが一番だな」


 太陽の光が差し込んでくる頃には、森には静かになったゴブリン達でいっぱいになっていた。


 結局、最後まで反撃してこなかったな。


 なんでだ?

 ゴブリンはよくわからんな。


 銃で無双したら、闇に紛れて逃げようと思ってたのに拍子抜けだった。

 残りは逃げてしまったみたいだけど、まあ、こんなもんだろ。


 ああ、疲れた。

 こんなのは今日だけでたくさんだ。



 現在は6日目の夕方である。

 仮眠を取ると水場を求めて探索していた。


 探索をすれば、どうしてもゴブリンとの突発的な遭遇戦は避けられないわけだが、今日のゴブリン達は何か動きがおかしかった。

 いつもなら、狙い済ましたかのように逃げた場所に待ち伏せしていたのに、まったく姿を見せないのだ。


 最初は何かの罠かと、いつもより警戒を深めて退路を意識しながら戦っていたのだが特に何もなかった。


 これは、昨日の夜襲に効果があったと考えていいのだろうか?


 今日は7日目である。


 日中は木の葉の中に隠れて体を休め、日没になると探索のため動き出す。

 すでに、ゴブリンの1個連隊は殲滅しているかもしれない。


 ゴブリン達は混乱の極みに達しているのか、連携はまるで取れておらず行動は完全にばらばらだった。

 あれでは、すでに集団の意味を成していない。


 どうやら、夜襲は予想以上に効果があったと考えていいだろう。


 今日は8日目である。

 たび重なるゴブリンとの連戦で、すでに方向感覚は完全に失われていた。

 何処ともしれない森の中を彷徨い歩く。


 当ても無く歩いていると、森の切れ目から煙が立ち上っている事に気がついた。

 背の高い木に登ると藁にも縋る思いで確認する。


 森が真っ赤に燃えていた。


 以前何処かで見たような風景に、ぼんやりと既視感を覚えながら眺める。


 「ただの山火事なのか? それとも」


 ゴブリンと冒険者達の戦いだろうか?


 もしそうなら方向がわかるんだけど、ただの山火事なら近づくのは自殺行為だ。


 何か確認する方法はないだろうか?

 う~ん、そうだ!


 急いでステータス画面を開いて確認すると、今日中にも10万匹を超えそうな勢いで討伐数が増えていた。


 どうやら、戦闘で間違いなさそうだ。


 ならば、あちらが東か?

 だとすると、かなり西の方に移動してしまっているみたいだな。


 9日目を過ぎると、ゴブリンの追撃が嘘のように収まっていた。


 もしかして、また勝ってしまったのか?

 勝利してしまったのか?


 まあ、昨日の大規模な戦闘らしきものが原因だろうけどな。

 これなら、日中に行動しても問題ないだろう。


 それより水がもう完全に無い。

 ゴブリンよりもこっちの方が切実な問題だ。


 今日までの間、寝る前に木の根を掘り出してナイフで切り傷をつけては、ぽたぽたと垂れるわずかばかりの水滴を溜めて飲み。

 朝になると、葉についた露をむさぼるようにして喉の渇きを潤して凌いでいた。


 森を彷徨う事10日が過ぎていた。

 東の方へ向けて歩いていたはずなのだが、目印だった煙はすぐに消えてしまってすでに目指している方向はあやふやだった。


 「み、水が飲みたい」


 もう、限界だ。

 このまま、森の中で野たれ死んでしまうのだろうか?


 指で唇に触れるとかさかさで、強烈な咽の乾きと耳鳴りでふらふらになっていた。

 失われる水分量に比べて、補給する水分があきらかに足りていないのだろう。


 「はあ、はあ、完全に脱水症状だ」


 だが、救助は期待できない。

 ふらつく体に鞭を打って、水場を探し彷徨い歩いた。


 今日は11日目である。

 次第に絶望の色が濃くなり始めていた。


 手足の痺れと目眩で意識が朦朧としている。

 今日中に水場が見つからなければ、おそらくは動けなくなるだろう。

 わずかばかりの可能性を信じて探索を続ける。


 そして、もう駄目かと諦めかけた時、やっとのことで伝説に登場するようなキラキラと光る池を発見した。


 いや、あきらかに濁っている溜まり水だったのだけど、俺にはキラキラと光って見えたんだ。

 それは、まるで蜃気楼のように近づけば消えてしまうのではないかと、そんな不安な心が見せていたのかもしれない。


 「ぐすっ、助かっだぁ」


 辛かった。

 まさか、何日も森を彷徨う事になるなんて思いもしなかったんだ。

 最初の日に水を浪費してしまったのは、本当に失敗だった。


 涙目になりながら、SEYCHELLEの浄水ボトルに水を汲む。


 池の水に顔を突っ込んでがぶ飲みしたい所だが、それをやれば高い確率で腹痛になるだろう。

 こんな場所で動けなくなれば死ぬしかない。

 溜まり水は細菌がうようよしていて危険なんだ。


 たび重なる疲労と脱水症状で、思考能力は著しく低下していたがまだ最低限の判断力は残っているらしい。

 我ながら大した精神力だ。


 「うああ、早くしてくれ! もう限界なんだ!」


 ボトルのキャップを締める手がぶるぶると震えていた。

 焦るようにボトルを逆さにして握り締めると、ろ過した水を顔からあびるようにがぶ飲みする。


 「うぐうぐ、ぷはぁ! はあ、はあ、死ぬかと思った」


 安心したのか、力が抜けたようにへなへなとその場に座り込んでしまった。


 戦地での水の確保がここまで過酷で困難だとは思わなかった。

 ゴブリンなんかより、こっちの方がよっぽど強敵だ。


 ははは、水がこんなに美味しいなんてな。


 何回も汲み直しては飲み腹がちゃぽちゃぽになるまで飲んだ。

 しばらくして満足すると、ハイドレーションパックと水筒にも補給する。


 水の大切さを思い知った。

 次からは、なるべく水の節約をするようにしないとな。



 安全確認のため周辺を索敵する。

 しかし、ゴブリンの姿はまったく見当たらなかった。


 ゴブリンの勢力圏から抜けたのだろうか?


 そういえば、9日目くらいから急にゴブリンがいなくなったけど関係あるのかな?


 「まあ、いいか」


 それより、ここなら火を使っても問題なさそうだし、昼食は久しぶりに豪華に食べるかな。

 今までずっとクラッカーやビスケットだったからな。


 森に落ちている木を積み重ねてかまどを作る。

 大きめの石があれば良かったのだが、森の中にはあいにく見当たらなかった。


 木だから燃えてしまうわけだけど、生木で厚みがあると結構燃えないんだよね。

 簡易かまどだしこれで充分だ。


 固形燃料にジッポライターで火を点けると、拾ってきた乾いた木をばんばん入れる。


 なんだか、キャンプしているみたいだよな。

 いや、キャンプだな。


 「ははは」


 ここに、セリアとセレナがいればもっと楽しかっただろうな。


 焚き火を見て感慨にふける。

 キャンティーンカップで水を沸かしてコーヒーを淹れる。


 飲んだコーヒーは格別な旨さだった。


 水を節約していた事もあっただろうけど、焚き火で水を沸かして飲むといった情緒が美味しく感じさせてくれるんだろうな。


 ふあ~、この一杯のために今日も生きてます。

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