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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第三章 超えて行く者
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145話 正義の妖精?

 現在はレイクウッドの森で、ゴブリン討伐の真っ最中である。


 「はっ!」


 裂帛の気合を吐くと、ゴブリンの首が飛ぶ。

 居合い斬りは絶好調だ。


 人を1人斬れば1ヶ月修行したのと同じだと言う。

 対象がゴブリンとてそれは変わらない。


 ゴブリンを葬り去る一刀ごとに、己の剣閃が冴え渡っていくのを感じていた。



 「おい、あっちはやばいみたいだぞ?」


 後ろで戦っていた冒険者達の声が聞こえてきた。


 遠めに他の集団を見てみると、ゴブリンアーチャーの矢に阻まれて上手く食いつけていないようだった。

 それどころか、ゴブリン達に追撃されて逃げ回ってさえいる。


 ちなみに、戦場はここだけではない。

 いくつかの大きな集団があちらこちらで戦っているような状態だ。


 ありゃりゃ。

 ゴブリン達は組織だって戦っているみたいだけど、こっちは冒険者の寄せ集めだからな。

 連携が取れてないのだから、しょうがないか。


 ガサリ!


 何かの物音がしてそちらを向くと、いきなりゴブリンが襲い掛かってきた。


 「はっ!」


 居合いで抜刀すると、即座にゴブリンの首を跳ね飛ばす。


 どうやら、近くの木陰にゴブリンが隠れていたようだ。

 油断も隙もない。


 これだから乱戦は怖いんだよな。


 乱戦になると組織的な行動が難しくなるから、個々の能力の差が勝敗を左右する事になる。

 連携が難しい俺達の寄せ集め冒険者グループにとっては有利なんだけど、その反面で突発的な死亡のリスクが高くなるんだ。


 そして、名将なんかが死ぬ時は大体こういった乱戦の時なんだよね。

 フフフ、俺も気をつけないと。


 え?

 お前は迷将だって?

 うるさい!


 じりじりとした消耗戦が続くと、俺達の集団の場所から戦局がしだいに偏っていった。

 しばらく戦うと、ゴブリンの全軍が退却を始めたようだった。


 追撃するためにゴブリンの集団を追いかけて行く。


 森の奥まで進軍すると、先行していた冒険者の足が止まっていた。


 どうしたのかと立ち止まって様子を見ると、組織的に矢が飛んできていた。

 どうやら、セレナによって切り崩されたゴブリンアーチャーの集団が部隊を再編成してきたようだった。


 これは厄介だが……えーい、ままよ!


 勢いのまま飛び出すと、ゴブリンを居合いで斬り殺す。

 次の瞬間には数十の矢が一斉に飛んできていた。


 これはたまらん。


 たまらんのだが、来るとわかっていれば対処は可能だ。

 飛んできた矢を剣で払いのけて、防げない分は落ち着いて盾で受ける。


 そこに、ゴブリンメイジが放った火炎の魔法が飛んで来た。


 「うわっ!」


 慌てて、横に転がって避ける。

 火炎放射器から噴出されたかのような炎の波が数十センチ鼻先を通り過ぎた。


 「あちちち」


 危なかった。

 そうだよ、これがあったんだ。


 熱さに耐えながら体を急いで起こすと、体勢の崩れた所に追撃の矢を射られる。

 捌ききれず腕に矢傷を負ってしまった。


 転がるように距離を取ると、他の冒険者のいる場所まで後退した。



 木の陰に身を隠すと、腕に刺さっていた矢を抜いてソーンを使って傷を癒す。


 「ぐっ! いってえ。ふう」


 深く息を吐くと周囲を確認する。

 他の冒険者達も攻めあぐねているようで、中途半端に突撃してはたまらずに後退するを繰り返していた。


 ゴブリンとは言え、徒党を組まれると厄介だな。

 遠距離から弓と魔法で援護されると、まったく対処ができん。


 ゴブリンナイトだけならどうにでもなるんだが、アーチャーとメイジは近づくことさえ大変だ。

 やっぱり、遠距離からの攻撃は強いな。


 う~ん、どうするかな?

 セレナはこれを1人で突破したんだよな?


 普段のぽやや~んとしてる姿からは想像できないんだけどね。


 「はあ、俺にもセレナくらいの突破力があればな」


 まあ、無い物ねだりをしても仕方がない。


 ならば、こちらも遠距離から削るだけさ。

 目には目を、弓には弓だ。


 剣を鞘に収めるとボウガンに矢を装填する。


 もっとも、正面からでは数の差で負けるから最低限の作戦は必要だ。


 そして、作戦はこうだ。

 ギリースーツを装着して、匍匐前進でゴブリンの背後に回り込んだ後に何処かに姿を隠して矢を射る。


 単純だろ?

 だが、それでいい。


 フフフ、遠距離攻撃がゴブリンだけの専売特許では無いと言う事を見せてやろう。


 「変身!」


 近くの柴に姿を隠すとギリースーツを装着する。


 「正義の妖精! ギリーマン参上! 森の平和を脅かす、悪のゴブリンどもめ、許さんぞ!」


 藪からガサリと飛び出すと、特撮ヒーローのようなポーズを決める。


 「………………」


 あれ? 

 でも、良く考えてみたら、森で平和に暮らしていたゴブリンを襲ってるのは俺達なんだよな?


 しかも、その扇動をしたのは俺だ!


 ククク、俺は正気に戻ったぞ。

 俺は、悪の妖精ギビルマンだったのだ。

 ふへへへ。


 そうと分かれば遠慮はいらんな。

 世紀末のあの連中みたいに、ヒャッハーすればいいだけだ。


 ゴブリンよ! 死ぬがよい!



 地面を這いずって回り込むと、ゴブリン達の背後にあった藪の中に身を隠した。

 藪を静かに掻き分けてゴブリン達の様子を窺う。

 

 さ~て、どいつから狙おうかな?

 ゴブリンメイジと、ゴブリンアーチャーを集中して狙うべきだよな。


 藪の中からボウガンを静かに突き出すと、不意打ちでゴブリンを狙撃する。


 「不意打ち御免!」


 攻撃を受けたゴブリン達は辺りをキョロキョロと見渡していた。


 その顔には怯えたような表情が見え隠れしている。

 どうやら、何処から攻撃されたのかわからないみたいでパニックになっているようだ。


 「怯えろ! 竦め! 力を発揮できないまま死んで行くがいい!」


 うへへへ。

 気分は完全に悪役である。


 そして、ゴブリン達が混乱して隊列が崩れたならば、その隙を見逃すような冒険者達ではない。

 阿吽の呼吸で雪崩れ込むように突撃していた。


 しばらくすると、ゴブリンとの戦闘が一方的な展開になっていた。


 しかし、俺は藪の中に身を潜めたままで、じっと動かない。

 戦況を静かに見守る。


 ゴブリンメイジだけはここで確実に仕留めておきたい。

 魔法は怖いからな。


 ピシュ! ドサ。


 冒険者の一人が前衛のゴブリンに剣を振り下ろすのと同時に、タイミングを合わせて後方に居たゴブリンメイジを射る。


 後方にいたゴブリンメイジがまた一匹ズルリと力なく倒れる。

 しかし、近くにいた前衛のゴブリン達はまったく気づいていない。


 なぜなら、ゴブリン達の注意は完全に雪崩れ込んでいた前方に居る冒険者達に向いていたからだ。


 「ふぅ、次。……タイミングを合わせて、今だ」


 ピシュ、ドサ。


 雪崩れ込んだ冒険者達の攻撃に己の攻撃の匂いを紛れさせると、安全な場所から狡猾にゴブリンメイジを処理して行く。

 そして、倒せるだけのゴブリンメイジを倒した。


 このスナイパーの存在が戦場では一番怖いんだ。

 スナイパーがたった1人潜んでいただけで、小隊規模の部隊が総崩れになったなんて話しはざらにあるからな。


 残りのゴブリンメイジはこの場所からでは狙えない位置にいたので、接近戦で確実に仕留めるためにゴブリン達の戦力を確認する。


 ナイトが3匹、アーチャーが1匹、メイジが1匹のようだった。

 ギリースーツの偽装を解いて腰のベルトにボウガンを掛けると、投げナイフを手に持ち背後からゴブリンを強襲する。


 5mくらいの距離まで接近すると、ゴブリン達は俺に気づいたのか一斉に迎撃体勢をとってきた。

 ゴブリンナイトがゴブリンアーチャーを庇うように立ち塞がり、さらに後ろにはゴブリンメイジがいて魔法の詠唱を開始していた。


 俺はゴブリンナイトの直前でサイドにステップすると、出来た射線にゴブリンアーチャーに向けてナイフを投げつける。

 ゴブリンアーチャーは大ダメージを受けたようで弓を取り落としていた。

 ナイフは完全に根元まで突き刺さっている。

 致命傷だ。


 その姿を確認すると、間髪入れずにゴブリンメイジに手裏剣を投げて魔法の詠唱を中断させる。

 すると、唖然としていたゴブリンナイトが怒り狂ったように奇声を上げて次々と斬り掛かって来た。


 サイドに素早く移動して、なるべく同時に襲われないように各個撃破して戦う。

 最初に突っ込んできたゴブリンナイトを居合いの一刀で切り伏せると、返す刀で2匹目のゴブリンナイトを切り伏せる。

 回り込んできた最後のゴブリンナイトは、バックステップで一旦距離を取ると落ち着いて居合いで切り伏せた。


 瀕死状態のゴブリンアーチャーの首を切り落とすと、最後に残ったゴブリンメイジは魔法詠唱は無理だとあきらめたのか剣を振り上げて突撃してきた。


 居合い一閃。


 剣の間合いに入った瞬間、ゴブリンメイジの頭部が宙を舞っていた。


 それを皮切りに、ゴブリン達の戦線は完全に崩壊したようだった。

 統制が取れてないようで、すでにばらばらに逃げ出していた。



 「勝ったな」


 逃げ回っているゴブリンを見ながら嘆息する。


 各個撃破している冒険者の様子を見ていると、1人の冒険者が馴れ馴れしく話しかけてきた。


 「兄ちゃん、その妙な剣技は凄かったんだな。それに見てたぜ、ゴブリンの背後の藪から出てきたのをよ。あそこから矢を射ってたんだろ? よく見つからずにゴブリンの背後まで行けたな」


 誰かと思って顔を見ると、船で一緒だった赤鼻の冒険者だった。

 どうやら、ゴブリン討伐に参戦していたみたいだ。


 「フフフ、ギリーマンですから……いや、違った。ククク、今はギビルマンだ」


 得意になって自慢する。


 「え? ぎぎーまん?」


 「違いますよ。ギリーマン、いやギビルマンです」


 「まあ、なんだかよくわからんが、良くやってくれたよ」


 赤鼻の冒険者は少し反応に困ったような顔で自分の赤い鼻の頭を掻いていたが、にやりと笑顔を見せるとゴブリンの背を追いかけて何処かへ行ってしまった。


 いかんいかん。

 居合いの出来が思った以上に上々だったから、どうにも浮かれてしまっているみたいだ。

 こういう時に失敗をやらかすんだよ。


 思わず緩んでしまう顔を引き締めると、赤鼻の冒険者の後に続いてゴブリンを追いかけて行った。

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