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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第三章 超えて行く者
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144話 マネーイズパワー

 宿屋に着くとセリアの姿を探す。


 セリアは2階にある共有スペースでソファに座っていた。

 どうやら、セレナの遊び相手をしているようだ。


 「セリア、俺はゴブリン討伐に行ってくるぞ」


 話しかけると、セリアがソファに座ったまま顔をこちらに向けてきた。


 セレナの方は俺の顔を見ると凄い勢いですっ飛んできて、俺の首筋に噛り付かんばかりに抱きついてきた。

 顔を見るとむすっとしている。


 どうやら、セレナさんはおかんむりのようだ。


 競売場に行くために置いていってしまったからな。

 でも、あんな場所にセレナを連れて行くわけにはいかなかったんだよ。


 抱きついてきたセレナに、ごめんと謝りながらセリアと話しをする。


 「もう、いきなりね。まあ、ゴブリン討伐をするとは聞いていたけど」


 「はっはっは、こっちの準備が整ったということさ。ぐえっ、くるじぃ」


 抱きついていたセレナが、うーうーと唸りながらぎゅうぎゅうと絞めつけてきた。


 「セレナおいてっちゃ、だめぇ!」


 「わ、悪かった。ぐ、ぐるじぃから止めてくれ」


 セレナに謝ると、まだほっぺたをぷっくりと膨らませていたが文句を言いながらも解放してくれる。


 「今日は遅いから、明日にしなさいよ」


 「そういえば、そんな時間か。それに、まだ人は集まっていないだろうしな。……少し疲れたから寝る」


 軽くおやすみの挨拶をすると自分の部屋に戻った。



 部屋のベットに横になると皇帝ナインスの事を思い出していた。


 次から次に問題が発生しやがって……

 どう動けばいいんだよ?


 現状では答えの出ないと思われる問いに、それでもなんとかしようと苦悩する。

 そして、何も思いつかず部屋の天井をぼんやりと眺める。


 人生とは、ままならないもんだな。

 毎回何らかの根拠に基づいて行動を決定できたのなら良いのだけど、必ずしもその根拠を発見できるとは限らないんだからな。


 あるいは、それは初めから無いのかもしれない。

 いや、きっとあるのだろう。

 ただ、俺が愚かで気づけないだけなんだ。


 だけど、気づかなければ、それは無いのと同じ事なんだよな。


 腕を枕にして目を閉じると、何処からかリーンと虫の鳴き声が聞こえてきた。

 ずっと鳴いていたはずなのに、今の今までその存在にまったく気づかなかった。


 「…………」


 それでも明日はやってくる。

 決断はしなけばいけないんだ。


 「はあ、考えてもわからんか」


 深い溜息を吐いて布団を被ると、眠りについた。



 次の日、朝早くにセリア達とギルドへ向かった。


 俺の方はギルドに用事は無かったのだが、セリアからするとゴブリン退治など金にならないためクエストを物色に来たのだ。

 なんでも、最初の方に少しだけ手伝ってくれるらしい。


 まあ、何もしなくてもクリアできるだろうから別に手伝ってくれなくてもいいんだけどね。

 俺がゴブリンと戦うのは、あくまでも居合い斬りの練習のためだからな。


 受付に行くと、セリアが緊急クエストに気づいたみたいだった。


 「ちょっと、達也聞いた? ゴブリン討伐で緊急クエストが発令されてるわよ」


 フフフ、それは俺が発令したんだぞ?


 セリアの言葉に鼻を高くする。


 「参加するには、マネーイズパワーとか、頭の悪そうな復唱をしなければいけないらしいわ。大金を払ってこんな事をするのは、一体何処の馬鹿なのかしらね」


 え? 頭悪そうなのか?


 依頼したのが俺だと感づいてるのか、セリアは目を細めると嘲るような顔をして俺を見ていた。


 「あははは、そうだな。何処のば、馬鹿なんだろうね」


 頭を掻きながらセリアの顔をちらりと見ると、こちらを見てクスクスと笑っている。


 ちくしょう、セリアのやつ絶対に気づいてるよな?


 完全にばればれなのだが、俺が発令させたクエストではないと言うポーズのためにゴブリン討伐の緊急クエストを受ける。

 セリアをちらりと盗み見るとまだ笑っているようで、隣にいたセレナがセリアを不思議そうな顔で見ていた。


 憮然としつつも、自分で出した緊急クエストを自分で受ける。


 何か変な気分だな。


 ふと見ると、昨日受付をしてくれたギルド員が対応していた。


 セリアとのやり取りを見ていたのか、何も言わずに手続きをしてくれる。

 さりげなく目を逸らして、気づかない振りをしてくれているようなのがとても辛い。


 その心遣いが、逆に俺の自尊心を深く傷つけるのだよ。

 はっはっは、すご~く気まずいぞ!


 クエストを受領するとレイクウッドの森へと向かった。



 そういえば、ちゃんとデスゲームの討伐数はカウントされてるんだろうな?


 念のため確認してみると、凄い勢いでゴブリンの討伐数が増えていた。

 どうやら、問題ないようだ。


 レイクウッドの森に到着すると、周辺には大勢の冒険者達が集まっていた。


 すれ違う冒険者達から、まるでお祭りでも楽しんでいるかのように大きな笑い声が聞こえてくる。

 どうやら、彼らは嬉々としてゴブリン達と戦っているようだ。


 まあ、彼らからすればボーナスみたいなもんだからな。


 さらに森の中を進んで行くと、木々の向こうから多くの怒声と剣戟の音が聞こえてきた。

 だんだんと近づいてくる戦場の匂いに、否が応にも緊張が高まってくる。


 これからあれに加わるんだよな? 居合いはちゃんと通用するだろうか?

 もし駄目だったらキラーパンサー戦は……


 ちょっと、不安になってきた。


 「ふう」


 大丈夫、ちゃんと練習はしてきたんだ。

 後は、実戦で試すだけなんだ。


 武者震いなのか、不安によるものなのか体が少しだけ震えていた。


 戦場まで後少しの所で、荒い息をした2人組みの冒険者がこちらに走ってきた。


 「やったぞ、これで3匹殺した」


 「俺なんて5匹だぞ? それにしても、まさかお前と一緒に戦う事になるとはな」


 「そうだよな。まったく、緊急クエストさまさまだよな」


 「ちがいねえ。はははは」


 その冒険者達は大声で笑いながら通り過ぎていった。


 大勢集まっている冒険者達が共闘して戦っている事を確認できると、にやりと笑みを浮かべる。


 フフフ、計算通り。

 無理をしてでも、ゴブリン討伐を1匹2000エルにした甲斐があったと言うものだ。


 ゴブリン討伐で一番の稼ぎ場所は、このレイクウッドの森に住んでいるゴブリン達だ。

 しかし、組織的に統率されているらしくて普通の冒険者が単独で討伐するのは危険なんだそうだ。


 何百年前だかに、ゴブリンロードと呼ばれる最上級ゴブリンが突然出現して、それ以来はそいつが指揮をして集団で襲ってくるようになったらしい。

 かなり狡猾なやつらしくて、上級冒険者が討伐しようとしてもすぐにゴブリンの群れに隠れてしまうそうだ。


 だから、こちらも同時に多くの冒険者で戦えるように戦略面で人数を集める必要があったんだ。


 よ~し! 俺も参戦するぞ。

 いつもはセリア達に見せ場を持っていかれていたからなあ。


 ゴブリンが相手なら俺だって負けないぞ!


 「おらおら! 俺様が倒してやるから、セリアとセレナはそこで見ていろよ」


 「たっつん、かっこいい」


 「はいはい、見てるからさっさとして」


 キラキラとした瞳を向けてくるセレナと、まるでゴミを見るような冷たい視線を向けてくるセリアを背にすると、ゴブリンに向かって真っ直ぐに突撃した。


 居合いの試し斬りにはちょうどいい。

 キャベツの千切りのようにザクザクと斬りまくってやる。


 うへへ、あいつら緑色をしてるからキャベツの親戚みたいなもんだ。


 森の木々を抜けて一気に接近すると、ゴブリンが一斉に矢を放ってきた。


 「なんだと!? ゴブリンが弓を使う?」


 危険が危ない!

 予想外の事態にパニックになりかけながら、飛んでくる矢を必死に避ける。


 しかし、驚いている暇はなかった。

 なんと、ゴブリンが炎の魔法まで放ってきたのだ。


 転がって避けると、たまらず背を向けて逃げ出す。


 こりゃ駄目だ。


 何度か後ろを確認しながら、必死にセリア達のいる場所まで走る。

 逃げる背後からは、ゴブリンが追撃の矢を放ってきていた。


 「うぎゃあ!」


 その内の1本が尻に命中した。

 尻に矢傷を負いながらも、這う這うの体でセリア達の居る場所まで逃げ戻った。


 「おかえりなさい」


 セリアから冷ややかな視線が向けられる。


 「いや、あいつら弓を使ったりして卑怯なんだよ。魔法まで使うなんて聞いてないよ」


 「たっつん、かっこ悪い」


 必死になって言い訳をするも、セレナの幻滅したような顔とセリアのゴミを見るような視線が痛い。


 「どうしたの? 俺様が倒すのではなかったのかしら? ほら、さっさと行って倒してきなさいよ?」


 セリアがいつものポーズをすると、蔑んだような瞳で見下してきた。


 「え? ……あ、いや、倒したいのはやまやまなんだが、尻に矢を受けてしまってな。この矢傷が無ければ! ああ、戦いたい。戦いたいんだが仕方がない」


 神妙な表情を作ると、尻に刺さった矢を見せて自らの正当性をアピールする。


 「それじゃあ、しょうがないよぉ。うん、しょうがない」


 セレナが納得がいったとうんうんと頷いていた。


 「まったく、口だけは達者なんだから。セレナ、行くわよ?」


 「わかったぁ」


 あきれたような顔をして俺を見ていたセリアが号令を掛けると、セレナが元気良く返事をして疾風の如く駆け抜けて行った。



 セレナが疾風の如く木々の合間を駆け抜けて行く。

 セレナの常識外れの速度はゴブリン達の予測を遥かに上回ったようで、ゴブリン達が矢を放つ前にはすでに斬り抜けていた。


 ゴブリンの集団は完全にパニックになったのか、すでに戦わずに逃げ回っている。


 その後ろから、セリアが悠々とした感じで乗り込んでいた。

 一突きごとにゴブリンが即死していく。


 「やや!? 我が軍が優勢か? こうしては居れん! 俺も参戦するのだ」


 さすがにこんな戦況を目の当たりにしては、尻に矢傷を負っている俺でもじっとしているわけにはいかない。


 尻に刺さった矢を抜くと贅沢に特効薬を使う。


 「景気付けに特効薬を使ったんだ! 一気に行くぜ!」


 気合を入れると、セレナによってズタズタになっていたゴブリンの戦線に威勢良く突撃した。


 ゴブリンのステータス画面を見てみる。

 ゴブリンナイト、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジと普通のゴブリンではなかった。

 レベルも最高20と普通のゴブリンとは比較にならない。


 魔物も人間と同じように強くなるとは聞いていたが、ここまで変わるとは完全に想定外だった。

 所詮はゴブリンだと侮っていたみたいだな。

 反省しよう。


 剣を振り回していたゴブリンナイトに居合い抜きで斬り付ける。

 ゴブリンナイトの顔の上半分が一瞬で消えると、剣を振り上げたままドサリと崩れるように倒れた。

 予想以上の手応えに思わず笑みがこぼれる。


 「よし! 行けるぞ!」


 ゴブリンナイトを切り伏せると、即座に近くに居たゴブリンアーチャーに斬り付ける。

 すでにセレナによって陣形はずたずたになっているため斬りたい放題だった。



 「達也、そろそろ採集クエストをするから、ここで別れるわね」


 「うん? ああ、わかった」


 戦っていたゴブリン達の姿が見えなくなると、セリアが採集クエストに向かうと伝えてきた。


 「大丈夫だと思うけど、念のため西の方角に行っては駄目よ。あっちにはオーガのダンジョンがあるらしいから危険よ。モンスターパニックが頻繁に発生するらしくて、ダンジョンの外に出てくるみたいなのよ」


 「オーガ?」


 「そうよ。エルフ達が定期的に討伐してるらしいから、大丈夫だとは思うんだけどね。あと、いくらゴブリンとは言っても深追いはするんじゃないわよ?」


 「わかってる。オーガは西だな、了解」


 「セレナは、たっつんと一緒にいるのぅ」


 「駄目よ、セレナには採集している間の護衛をしてもらうんだから」


 セリアが嫌がるセレナを連れて行った。


 さあて、居合いの練習の再開と行きますか。

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