136話 死闘の果てに
「勝ったぞー!」
拳を握り締め、勝利の雄たけびを上げる。
この世界に来てから、初めて心の底から沸き起こってきた歓喜だった。
高ぶる感情を前に、ここまでの記憶が鮮明によみがえって来る。
最初は、髭モグラにすら勝てなかったんだよな。
小細工を弄して、ボウガンを使って逃げ回りながら戦ってきたんだ。
女の子や子供の後ろに隠れてさ……
「ははは」
何とかしようと必死に足掻いたけど、自分が弱くてどうにもならなかった。
だから、今までずっと逃げ回ってきたんだ。
でも、そんな自分が、惨めだった、情けなかった、悔しかった。
何よりも、そんな弱い自分が許せなかった!
毎日のように、弱い自分に怯えて過ごしてきたんだ。
「辛かった、うう、うあああああ!」
込み上げてくる想いに、目からぼろぼろと涙が溢れ出してきた。
誰かに倒してもらったのではない。
銃器に頼ったのでもない。
己の力で成し遂げた。
俺の力だ!
「………………」
いや、違うか。
セリアやセレナに剣を教わって、親父に打ってもらった剣があったから勝てたんだ。
剣を鞘に収めると心を落ち着ける。
それに、防刃ベストにも助けられたからね。
慢心はせんよ。
まあ、ほんのちょっとだけ強くなったかもな。
うへへへ。
それにしても、腕や足が血まみれじゃねえか。
本当に、ギリギリの戦いだったんだな。
特効薬を使うと傷だらけの体を癒した。
戦闘が終わるとキラーパンサーの解体をする。
こいつは毛皮が高値で売れるんだよね。
さっさと終わらせよう。
「フン、フフン、こいつはいくらになるかな?」
鼻歌交じりでキラーパンサーの毛皮を剥ぐ。
おっと、そういえばクエスト褒賞をまだ確認していなかったな。
確か、グロックカスタムが貰えるはずだ。
キラーパンサーの解体を終えると、ステータス画面を開いてガンボックスを見る。
あれ?
何処にも無いぞ?
嫌な予感が体を駆け抜ける。
恐る恐るデスゲームの達成を確認する。
キラーパンサー討伐は達成されていなかった。
どうなっているんだ?
体から魂が抜けたような無気力感に襲われると、その場にへたり込んで空を仰ぐ。
何処からか虫の鳴き声が聞こえてくる。
仰向けになり、目を閉じて必死にざわついた心を落ち着かせる。
何も無い静寂の時間がゆっくりと流れていく。
そして、唐突に沸き起こって来るやるせなさ。
心が潰されそうになる。
もう、何度目の理不尽だろうか?
努力して、努力して、努力して、報われない。
先程の嬉しさとは違う、悔しさから涙を流す。
もう、疲れた。
何をやっても無駄なんだ。
すべてを投げ出して楽になりたい。
それに、今回のデスゲームをクリアしても次のデスゲームが始まるだけだろうからな。
そして、いずれは対処できなくて死ぬんだ。
死?
「うう、ああああ」
自分の存在が消えかけた、あの日の記憶が唐突によみがえる。
死の恐怖に体を丸めると泣きながらがたがたと震える。
もう、嫌だ。
恐怖と絶望で心が折れかけたその時、あの真っ暗な工房でした誓いを思い出した。
あの時の覚悟を。
そうだ、あの日に誓ったんだ。
必ず、出会えて良かったと言って、終わりにしてみせると。
このままでは、終われない。
「うおおおおお!」
腹の底から大声を出して立ち上がる。
負けるものかよ!
心の底から、めらめらと闘志が湧き起こっていた。




