129話 見えない明日
エリスの顔を見ると血の気が引いていった。
まるで、すべてを知っているかのような瞳に恐怖する。
なんで? どうして?
ただ疑問だけしか、頭に浮かんでこない。
「……也様? どうされたのですか?」
「え? ああ、何でもない」
どうやら、エリスに何度も名前を呼ばれていたらしい。
空返事をして笑って誤魔化す。
ノイズは……止まっていた。
「姫様! 大変ですじゃ! 本国の皇帝陛下から直々に帰還命令が来ております」
「え? どう言う事ですの? なぜお兄様が……わかりました。すぐに戻ると伝えて下さい」
エリスが執事らしき老人と何やら話しをしていた。
「申し訳ありません。急用ができましたので、これで失礼させていただきますわ」
エリスがペコリとお辞儀をすると部屋から出て行った。
「いったい、何だったのかしら?」
「わからん」
セリアの疑問の投げかけに、俺は答える言葉を持ち合わせなかった。
エリスが戻った後、セリアと話しの続きをする。
「……なのよ。やり残した事があるなら、終わらせておきなさいよ? それと、エル大陸に戻る前に魔境のダンジョンに挑戦するから」
「魔大陸に来た時に行ったダンジョンか? 上級冒険者の証なんだっけ? セリアもこだわるんだな」
「うるさいわね。レベルが50になったからと言って上級冒険者なわけじゃないのよ」
セリアの話しだと、あと2~3日程マイセンに滞在するそうだ。
了解したと伝えると自分の部屋に戻る。
とりあえずエリスのことは後で考えるとして、先に魔大陸でやり残した事を確認する。
マイクエストで入手できそうな装備の確認だ。
討伐数や倒せそうな魔物から判断すると、その中に防刃ベストがあった。
うーむ、防刃ベストか。
少し強いが倒せない魔物ではないか。
剣の練習を兼ねて倒すにはちょうど良いだろう。
次の日、ダンジョンに着くと魔物の前で剣を抜いた。
この半年もの間、セリアとセレナという一流の冒険者の指導でずっと剣を振り続けてきた。
そして、すでに実戦でも何百と斬って練習している。
今日はキラーパンサー戦に備えて、その最後の仕上げを行う。
正眼に構えて魔物の動きを待つと、魔物の攻撃は体を少しだけ動かして避ける。
同時に攻撃して急所に剣を突き刺すと、魔物は動かなくなる。
「う~ん、まだまだ無駄な動きが多いんだよな」
今度は同時に2体の魔物を相手にしてみよう。
ボウガンや投げナイフを使って魔物の数を調整する。
1体目の攻撃を最小限の動作で避けると、2体目の攻撃を避けながら攻撃する。
結果、こちらの攻撃は当たるも魔物の追撃を受けてしまった。
剣の振りが遅いんだ。
もっと速く剣を振らないと返す魔物の攻撃が避けられないな。
まだまだ……だよな。
ソーンを8個程使用した頃には防刃ベストを入手していた。
早朝に来たはずなのに時刻はすでに夕方だ。
今日はこれで戻ろう。
ダンジョンから出ると雨が降っていた。
皮のマントを羽織る。
しとしと降る雨に心が憂鬱になる。
宿への帰り道にエリスの事を考えていた。
あのノイズが起きたという事は、俺の事を異世界人だと疑っているという事だ。
しかし、どうしてかわからない。
エリスがどのような経緯で俺が異世界人であると疑ったのか、わからないんだ。
妖精騒ぎを起こしてしまった事はかなり軽率だった。
だけど、そこから俺を突き止めたとしても異世界人とは繋がらないはずなんだよ。
何か、俺の知らないピースがあるみたいだな。
ただ、そうであって欲しくない心当たりが1つだけあるんだよね。
もしも、俺の予想が当たっていたら……
漠然とした不安を抱きながら、宿屋へと戻った。




