126話 エミルの森の妖精伝説
魔族をスティンガーで仕留めた後、俺はマイセンの宿屋に戻っていた。
宿屋にあった、共有スペースのソファーにどっかりと腰掛ける。
ふ~む、スティンガーを村人に見られたのに消えなかったな。
条件はなんだったか?
えーと、確か異世界人に兵器を認識された時だったな。
兵器を認識?
つまり、相手が兵器と認識できなければセーフなのか?
あ!? よく考えたらセリア達にギリースーツも見られてるじゃねえか。
弟子達3人の前でアーミーナイフも使ってたしな。
○カリも飲んだよな?
ガバガバじゃねえかよ。
「たっつん、ただいまぁー」
「ふう、疲れたわね」
「お? おかえり」
セリアとセレナが帰ってきた。
ソファーに座っていた俺にセレナが勢いよく抱きついて来る。
セレナの頭を撫でながら元気の無さそうなセリアを見る。
「なんかあったのか?」
「うん? まあね。特効薬を……なんでもないわ」
心配になって話しかけると、セリアは何かを言いかけたが途中でやめてしまった。
「今日は疲れたから、もう寝るわ」
それだけ言うとセリアが自分の部屋へ戻って行く。
何だったんだろう?
セレナを見ると、俺の膝の上でスウスウと寝息を立てて寝ていた。
よっぽど疲れたんだろうな。
それにしてもあどけない寝顔だよな。
ぷにぷにしたほっぺたを指で突くと、むにゃむにゃと何か寝言を言っていた。
心が和むなあ。
セレナをベッドまで運び寝かしつけると、自分の部屋に戻って眠った。
翌朝のマイセンの町はお祭り騒ぎだった。
飲めや歌えの大騒ぎである。
路地にはずらっと露天が立ち並び、食べ物や飲み物が無料で振舞われているようだった。
通路の到る所には酒ダルらしきものまで置いてあり、テーブルに並べられた料理は鳥の串焼きや、焼き魚、焼きそばのような麺類? のようなものまであった。
町民は熱狂しているみたいで大声を張り上げては歓声を上げていた。
耳を澄ませば、そこかしこから木のコップのぶつかる音や笑い声が聞こえてくる。
本当に嬉しそうだ。
俺達もお祭りに加わる。
「いいものだな」
「な~に、自分がやったみたいな、得意そうな顔してんのよ?」
町民を見て感慨にふけっていると、セリアが悪戯っぽい瞳をして茶化してきた。
「いいじゃないか。俺だって活躍したんだからさ」
「たっつん! これ美味しいよぅ?」
セリアに反論していると、セレナが鳥の串焼きを問答無用で俺の口に突っ込んできた。
「うぐ、もごぉ! ちょっと、ま、ぼほ…… 旨いな」
むせながら、もぐもぐと租借して飲み込む。
そんなこんなで、俺達がお祭り騒ぎを楽しんでいるとそいつは突然やって来た。
「いよう! セリア! 楽しんでいるか?」
「バッカス! あんた何でこんな所に居るのよ? グルニカ王国に居なくていいの?」
「まあな。ちょっと、昨日の魔族の事でな。マイセンの町に目撃者がいたらしくてよ、それで寄ったんだよ」
セリアの問いに、バッカスが惚けたような顔でひょうひょうと答えていた。
あれが勇者バッカスか?
山賊みたいなやつだな。
バッカスを見ていると、向こうも俺を訝しげな視線で見ていた。
「お、おい、あれ勇者バッカスじゃねえか?」
「え? ほんとだ」
「おーい、みんな勇者様がいるぞ~」
しばらくすると、マイセンの住民がバッカスの存在に気づいて大騒ぎになる。
「うおお! 勇者だ! 勇者バッカスがいるぞ!」
「勇者様ばんざーい! グルニカ王国ばんざーい!」
「やっべえ。おい、セリア! 何処か静かな場所に行かねえか?」
「はあ? 何で私があんたとそんな場所に行かないといけないわけ?」
「つれねえ事言うなよ。俺とお前の仲だろ? まあ、特効薬を使わせちまったからその見返りの話しだ」
バッカスが肩を竦めておどけたように言うと、セリアは深く溜息を吐いて渋々といった感じで了承していた。
「達也! セレナを見ていてくれる?」
「うん? ああ、わかった」
俺にセレナを預けると、セリアはバッカスと何処かへ行ってしまった。
「おい! セリア! あの野郎は誰だ?」
人通りがまばらな場所で、バッカスがセリアに掴みかからんばかりに詰め寄り詰問していた。
「あんたには関係ないでしょ? まあ、達也とはパーティを組んでるだけよ」
セリアが毅然としたようすで答えると、バッカスは困惑したような顔をしていた。
「それより、早く特効薬の代わりとやらが何なのか、教えてもらえるかしら?」
「あ、ああ。こいつをやろうと思ってな」
バッカスは1枚の羊皮紙をセリアに渡す。
「これは……ちょっと! これ大丈夫なの?」
セリアがそれを見て驚いたような声を出す。
「ははは、びっくりしただろう? 本物だぜ。ちゃんと許可は貰ってるから安心して使え。なんせ、グルニカ王の直筆の物だから大抵の無茶は通るぜ」
セリアとバッカスが話をしていると、突然村人の興奮したような声が聞こえてくる。
「おら、見ただ。あれはエミルの森の妖精様だ! 妖精様は怒り狂っていただ!」
「え? 妖精?」
村人の妖精という言葉に反応してセリアがすっとんきょうな声を出す。
「何だ? セリア、お前何か知ってるのか?」
険しい表情になったバッカスが何かを気に留めているような顔のセリアに尋ねる。
「いえ、何でもないのよ。それより知ってるとは何のこと?」
セリアは、はぐらかすように手を振るとバッカスに事情を聞く。
「うーんとな。昨日、エミルの森に妖精が現れたらしくてな。まあ、口から炎を吹いて魔族を倒したらしいんだ。わけがわからん」
バッカスは途方にくれたような顔をすると、首を振りながら答えた。
「まさか……ね」
セリアは悩ましげな表情をすると、ぼそりと呟いていた。




