125話 勝利の時
バッカスは見ていた。
呆然と見送るだけだった魔族に何かが飛んで行くのを。
そして、その何かは一撃で魔族を消滅させたのだ。
「なっ! 何が起きた?」
バッカスは驚き叫ぶ。
「勝った……のか?」
実感の湧かない勝利にバッカスは質問するように皆の顔を見る。
「みたいさね」
それに楽観的なアルテミスが答える。
皆も、それぞれ勝利の喜びに沸いていた。
セリアは憮然としつつも勝利した事に安堵し、セレナは、すごい! すごい! とはしゃいでいた。
しかし、エリスだけは爪を噛んで何かを考えているようだった。
しばらくすると何処からともなく歓声が上がる。
気づけば、すでに魔物達は散り散りになり戦場で逃げ回っていた。
バルバトスが率いていた部隊がレックスの傍へと近づいてくる。
「父上! よくぞご無事で」
「うむ、レックスもよく救援に駆けつけてくれた」
レックスが笑顔でバルバトスに駆け寄り、親子の感動の再会を果たすと周りからさらに大きな歓声があがる。
「うおおおお! やったぞおおお!」
「勝ったんだ! 俺達は勝ったんだ!」
「「「「「「グルニカ王国ばんざーい!」」」」」」
それは、皆が長年夢にまで見た勝利の瞬間だった。
戦闘に勝利した後、すぐに怪我人の救助が行われていた。
「大変です! ヒュッケ様が……」
「ヒュッケは無事だったのか?」
救護班がヒュッケを発見したと報告すると、バッカスが驚きと喜びが混ざったような顔で答える。
「それが、こちらに来て下さい」
救護班の煮え切らない答えに、バッカスは疑問を感じながらも付いていく。
現場に到着するとヒュッケが泣きながら何かを叫んでいた。
「頼む! 誰かヒックスを助けてくれ!」
ヒュッケの傍には血まみれのヒックスが横たわっていた。
「竜騎士団長のヒックスか? この傷は……。まずい、誰か特効薬を持ってないか?」
傷口からソーンでは無理だと判断したバッカスが叫ぶ。
バッカスは戦闘で特効薬を使いきってしまっていた。
「ソニア! ヒールを……あっ! そうか」
ソニアはすでに限界までヒールを使ってしまっている。
誰も特効薬を持っていない事がわかると、ヒュッケが子供の様に大声で泣きじゃくる。
そこに、騒ぎを聞きつけたセリアが来た。
「何事なの? ヒュッケは無事だったみたいね」
「セリア! お前、特効薬は余っていないか?」
バッカスがセリアに切羽詰ったように尋ねる。
セリアはヒックスの容態を見て事情を察すると、残り1つとなった特効薬を迷わずヒックスに使っていた。
特効薬の効果は凄まじくヒックスの傷は嘘のように消えていた。
「ありがとう。ひっく、うぁあああ。ヒックス良かったよぉ」
ヒュッケが泣きながらセリアにお礼を言うと、ヒックスにしがみついて泣いていた。
もはや、勇者としての威厳など微塵も無い。
そこに居たのは、身を挺して守ってくれたヒックスの無事を喜ぶ歳相応の1人の少年だった。
「実際に見ても信じられないわね。この特効薬の回復効果は尋常じゃないわ」
セリアは自分も使用しているのだが、他人の傷が回復していくのを見るのは初めてだった。
「だろ? すげえよな」
なぜかバッカスがセリアに自慢するように言っていた。
怪我人の搬送を完了すると、バッカス達は王都グルニカへと凱旋した。




