122話 それぞれの思惑
ここは、西側の俺のいる戦場だ。
セリアのインパルスカノンの一撃で中級魔族を葬った後に洞窟から出てきた所だ。
危うく死ぬ所だったんだよな。
セリアがいなければ勝てなかっただろう。
セリアにも助けられたし、ヨイショしておくか。
「ああ、なんだ。セリアにも、可愛いい所があったんだな」
「何よ急に?」
セリアが訝しげな顔で俺を見てきた。
「いや、インパルスカノンを放つ時に、貫け! とか叫んじゃってさ」
俺の褒め言葉に、なぜかセリアの顔がみるみる真っ赤になった。
そして、ドコム! と俺の足の甲を槍の柄で突いてきた。
「いぎゃあああ!」
「セリアちゃん、怖いのぅ」
俺は足を抑えて転がりセレナはセリアを見てふるふると怯える。
「何するんだよ? 俺は褒めたんだろ?」
「うるさい! 馬鹿」
セリアは怒っているみたいで顔を背けてしまった。
しかし、セリアの顔は恥じらいなのか紅潮しているようだった。
なんだよ? 恥ずかしかったのか?
てっきり、格好をつけて言ってるのかと思ったぞ。
セリアが誤魔化すようにバッカスのいる中央部隊を見ていた。
そこには、ヒュッケが担当するはずだった南の魔物達が押し寄せていた。
あれは、やばいんじゃねえのか?
セリアもそれに気づいたのか急に顔が険しくなる。
「まずいわね……」
セリアがぼそりと呟く。
「バッカスから依頼された魔族は倒したから、私達の仕事はこれで終わりなんだけどね。なんかピンチみたいだから、私は中央の部隊の支援に行くわ。達也はどうする?」
「うん? 俺達の仕事は終わったんだろ? 俺は用事があるからパスだ」
「そう、じゃあ終わったら宿で落ち合いましょう」
「セレナはたっつんと遊ぶのぅ!」
「駄目よ、セレナは貴重な戦力なんだから」
セリアが嫌がるセレナの手を引くと中央の部隊の支援に向かっていった。
「…………」
はいはい、どうせ俺は戦力外ですよ。
けっ。
さあてと、この騒ぎを利用して安全にレインボーラット討伐でもしましょうかね。
魔族に操られて多くの魔物がここに集結してるから、今がチャンスなんだよね。
俺は、レインボーラット生息地帯へ向けて出発した。
「陛下! レックス様の部隊が魔物達に攻撃を開始したようです」
グルニカ王国の謁見の間に、伝令兵が転がるように飛び込んでくると叫ぶように伝えた。
バッカス達の上げた戦闘開始の狼煙を、つい先程確認したのだった。
「ついに来たか! 鎧を持て出陣するぞ」
「陛下お待ち下さい! 無闇に突撃しても兵の損害が増えるだけです。ここは焦らず、タイミングを見計らってレックス王子の部隊と挟撃するべきです」
逸るグルニカ王にハンニバル将軍が落ち着くように進言する。
「む? ああ、そうじゃな。すまん、わしとした事が血が騒いでしまったわ」
「今まで通り城門から矢を射掛けて、効率よく魔物の数を減らしましょう。今はそれがもっとも効果的です」
「ハンニバルよ、どのタイミングで出陣すれば良い? 機を逸すれば勝機を失うぞ?」
グルニカ王国からバッカス達の戦場まで、見渡す限り魔物達で埋め尽くされていた。
そのため、戦況をリアルタイムで判断する事はできないのである。
「レックス王子の部隊も反対側から魔物を殲滅すれば、潮が引くように魔物の勢いが弱くなるはずです。突撃するタイミングはそこです! その時こそ、全軍を持って突撃しましょう」
グルニカ王バルバトスの問いにハンニバル将軍は自信満々で答える。
そして、ハンニバル将軍の指揮による攻撃重視の防衛戦が展開された。
ここは東側の炎帝エリスのいる戦場である。
すでに東側の魔物を殲滅していたエリスが、バッカスの部隊へ押し寄せている魔物達に気づいて何かしらの異変を感じていた。
「ヒュッケはどうしたのでしょう? このままだとレックス様の身が危険ですわ。すぐに中央の部隊の支援に向かいます」
「姫様! お止め下さい。これ以上の連戦は危険すぎます。我が軍は精鋭なれど、皆疲弊しきっております」
エバンスは何かに耐えるような表情で答えていた。
「そうですか。では、わたくしだけで参りますわ。皆さんは待機していて下さい」
そう命令すると、エリスはバッカスのいる中央の部隊へ向かって走って行った。
「姫様~! それができれば誰も苦労はしませんですじゃ! え~い、仕方がない。全軍姫様に続け!」
叫ぶエバンスの顔には絶望とも諦めとも取れる表情が染み付いていた。
「うおおお! 俺は地獄まで付いていきます!」
「俺だって姫様と一緒なら」
帝国軍の狂信者達によって構成される、通称レミングス隊。
狂気のデスパレードは続くのであった。




