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超えて行く者(異世界召喚プログラム)  作者: タケルさん
第三章 超えて行く者
122/225

121話 ドラゴンナイトヒュッケ

 時間は少し遡る。


 ここはグルニカ王都より南に位置する戦場である。



 「ヒュッケ様、連携が遅れております!」


 「うるさい! わかってるんだ」


 竜騎士団長ヒックスが見事な指揮を執ると、竜騎士達の連携が鮮やかに決まって魔物達を次々と墜落させていた。

 しかし、ヒュッケだけが反応できずに遅れていた。


 孤立したヒュッケに空を飛ぶ魔物が集中して襲い掛かる。


 ヒックスが手を上げて合図をすると、竜騎士達が見事な連携でヒュッケを攻撃していた魔物を仕留める。

 しかし、それはあきらかに無理な戦い方だった。


 最後尾の竜騎士が魔物の餌食になる。


 さらに、詠唱を終えた魔族が魔法を放つと竜騎士がまた1人墜落する。

 魔族の放つ攻撃魔法はほとんど回避不能で、まともに相手ができるのは魔法を斬れる勇者ヒュッケのみである。


 「ヒックス隊長! このままでは全滅です」


 「陛下より、ヒュッケ様を死んでも守れと仰せつかっている」


 その後も、ヒュッケを庇うたびに竜騎士達はその数を減らしてゆく。


 ただ、ヒュッケもやられていただけではない。

 すでに、任された中級魔族は仕留めて最低限の仕事はしていた。


 誤算だったのは、この空域に中級魔族が3匹も存在していた事である。


 「話しが違うじゃねえかよ。こんなの無理だ」


 「ヒュッケ様、もはやこれまでです。ヒュッケ様だけでもお逃げ下さい」


 しかし、撤退したくても魔族を背にしてそう簡単に逃げられるものではない。

 無防備な背を見せて逃げれば、魔法でワイバーンを狙われて落とされてしまうだけだ。


 仮にヒュッケだけが逃げられてもヒックスは確実に死ぬだろう。

 そしてヒュッケは、自分だけが仲間を見捨てて逃げるといったそんな卑怯者にだけはなりたくなかった。


 詠唱を終えた魔族の1匹がヒックスに魔法を放つ。


 ヒックスは竜騎を旋回させ回転させて、必死に回避行動をとる。


 まず避ける事のできない魔族の攻撃魔法。

 しかし、その不可避のはずの攻撃をヒックスは絶妙なタイミングで回避していた。


 エースオブドラグーン。

 モンド王国で空の死神と恐れられるスカイドラゴンと交戦して、唯一生きて戻って来た竜騎士ヒックスの異名である。



 盾になってくれた竜騎士達もすでにヒックスしかいない。

 ヒュッケは完全にジリ貧だった。


 すでに何度目になるのか魔族がヒュッケに向けて魔法を放つ。

 それをヒュッケは気力だけで突いた槍で魔法を両断する。


 無限かと思われるような魔力を持つ魔族の魔法攻撃が続く。

 そして、勇者と言えど魔法が当たれば死ぬ。


 いつまで続くのかとげんなりする戦いに、さすがのヒュッケも肉体的にも精神的にも疲弊していた。


 だが、先に痺れを切らしたのは魔族の方だった。

 ヒュッケに攻撃しても時間の無駄だと判断したのか、いつの間にか魔族の魔法は地上で戦っていた冒険者達へ向けられていた。


 地上で魔物達と戦っていた冒険者達は成す術もなく魔法で吹き飛ぶ。

 そして、我先にと戦場から逃げ出し始めるとすでに地上の冒険者達は壊滅状態であった。


 意を決したヒュッケが先ほど魔法を放った魔族に強引に迫る。

 しかし、無防備に距離を詰めたヒュッケのワイバーンに向けて、詠唱を終えたばかりの他の魔族が魔法を放った。

 ヒュッケは已む無くワイバーンを急旋回させて魔族から距離をとる。


 「あっ!」


 焦りと疲労でヒュッケの手が滑る。

 自慢の炎槍が地上へ落ちていった。


 一瞬の隙を狙い、3匹目の中級魔族がヒュッケに向けて魔法を放った。


 「ヒュッケ様!」


 ヒックスが魔族とヒュッケとの射線に割り込むようにワイバーンを突撃させた。

 ヒュッケの身代わりにヒックスが魔法の直撃を食らう。


 しかし、ヒュッケのワイバーンもダメージは避けられなかったようで、2人と2匹は錐揉みしながら墜落していった。


 ヒュッケのワイバーンが最後の力を振り絞ったのか、地上すれすれで少しだけ羽ばたいた。

 墜落の勢いが少しだけ弱まるがそのまま地面に叩きつけられる。


 落下の衝撃でヒュッケが地面に投げ出された。


 「うぐぁ」


 ヒュッケは動こうとして身をよじると悲鳴を上げる。

 地面に叩きつけられたヒュッケは手足の骨が折れていた。


 痛みをこらえながらヒュッケが周りを確認すると、そこには地獄が広がっていた。

 先に落ちたドラゴンナイト達が魔物達に食い散らかされていた。


 動く事の出来ないヒュッケは恐怖でがちがちと歯を鳴らす。


 そこに血まみれのヒックスが這いずりながら近づいてきた。

 ヒックスはヒュッケを引きずるようにして、ヒュッケのワイバーンの影に身を隠す。


 「ヒュッケ様、げふ、生きて……らっしゃいますか?」


 「あ、ああ」


 ヒックスは特効薬を取り出すとヒュッケに使う。


 「ヒックスも早く自分に特効薬を使え」


 「すみません。それが最後の1つなのです」


 「なら、ソーンを……うああ!」


 「ヒュッケ様、お静かに……魔物に……気づかれます」


 ヒュッケがヒックスの傷を見て大声で叫びそうになると、息も絶え絶えのヒックスがヒュッケの身を案じて止める。


 「で、でも」


 「だ、大丈夫です。ただ、今はじっとして……静かに魔物をやり過ごすの……です」


 だが、無常にもワイバーンの影に隠れているヒュッケとヒックスに魔物が近づいてくる。


 「きゅああああ!」


 近づいてきた魔物がヒュッケのワイバーンに嚙り付いた。

 ヒュッケのワイバーンのビスケが、ヒュッケとヒックスを覆い隠すようにして守る。


 ヒュッケは心の底から後悔する。


 ヒュッケの事を必死に守ろうとするワイバーンのビスケ。

 そう、ドラゴンではないことなど、どうでも良かったのだ。


 だが、もう遅い。


 「ごめん、ごめんよ、ビスケ……」


 小さな声で呟くと、ヒュッケは食われている自分のワイバーンの下で息を殺して泣いていた。

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