11話 薬師になろう
薬草を探す……
見つからない。
薬草を探す……
見つからない。
薬草を探す…………
見つけた。
薬草を探すのも楽ではない。
「身の危険は無いけどな」
独り言を呟くと額から流れる汗を拭う。
そして、ナタリアさんが教えてくれたことを思い出していた。
まず、この世界は大きく三つの大陸に分かれている。
北に魔大陸と呼ばれるグルニカ大陸。
真ん中に中央大陸と呼ばれるエル大陸。
南にドラゴンの生息地があるモンド大陸の三つだ。
今いる場所は、エル大陸の南の方にある人口3000人程のモニカと呼ばれる町なんだそうだ。
エル大陸で最大規模の大都市ともなると、北に人口が8000万人の帝都、西に人口5000万人の商業都市と呼ばれる西の都があるらしいので、モニカはかなり小規模な部類の田舎町のようである。
そして、この町から東に2~3日も歩くと人口100万人程の湖の都市レーベンがあるらしい。
つまり、最初の棒倒しで道を決めた時に反対方向へ行っていたならこの都市にすぐ着いていたはずなんだよね。
俺は運が無かったということかな?
ちなみに、この世界では、村、町、都市、大都市があり、人口の規模によって呼ばれ方が変わるらしい。
人口が100人未満は村。
100人以上10万人未満が町。
10万人以上1000万人未満が都市。
1000万人以上が大都市。
次にこの世界の文化レベルについてだが、この世界の文明はなんともちぐはぐなようである。
ギルドカードというスマホみたいな技術があるかと思えば、交通機関がなんと馬車なのだ。
あきらかに歪でおかしい。
何者かの文明への介入が感じられる。
最後はダンジョンについてだ。
通常、魔物はダンジョンでしか発生しない。
だが、ゴブリンだけは例外らしく、ここから20日程の距離にあるエルフの居るレイクウッドの森でも発生するそうだ。
そのため、常に討伐クエストが出ているそうなのだが、そのおかげでこの町周辺まで来る頃にはほとんど討伐されるそうで、普通はダンジョン以外ではまず遭遇することはないとのことだ。
俺がここに来る時にゴブリンと遭遇したのは、これも運が悪かったということかな?
そして、ダンジョンではモンスターパニックと呼ばれる不定期で魔物が一斉に沸く現象が起きるらしい。
規模が大きいと発生した魔物がダンジョンから溢れ出てくるそうで、魔物がダンジョンから溢れないように定期的に魔物を狩っているとのことだ。
大きなダンジョンでは、有事の際に備えて入り口近くに兵士まで常駐させているそうである。
ただ、北の魔大陸と呼ばれているグルニカ大陸だけは人類が魔物に負けてしまったそうで、ダンジョンから魔物が完全に溢れてしまっている状態なんだそうだ。
しかし、それでも町はあるそうで、生き残った人達はあきらめずに現在も戦い続けているとのことだ。
お日様が真上へ差し掛かっていた。
半日近く探し続けて、10束見つけるのがやっとだった。
くたくたになって町へ戻ると軽く食事を取る。
もちろん素パンと水のみだ。
ちなみにお味の方はと言うと、水で薄めた牛乳に少しビールを混ぜたような味で美味しくは無い。
食事を終えると、ナタリアさんの紹介状を持って薬屋さんへ向かう。
薬屋さんに到着して店内へ入ると、ナタリアさんをそのまま小さくしたような女の子が店番をしていた。
ポニーテールがかわいらしい7~8歳くらいの女の子だ。
「いらっしゃいませ……ソーンをお求めですか?」
ポニーテールの少女は俺の腫れた顔を見たせいか、一瞬ぎょっとしたような顔を見せたがすぐに商売用の笑顔を見せて声を掛けてくる。
しかも、俺の腫れた顔を見て咄嗟に『ソーンをお求めですか』と対応できるとは、小さいのにずいぶんと聡い子のようだ。
「すいません、ナタリアさんから紹介状を貰っているのですが」
ナタリアさんの妹さん? お子さん? と考えながら紹介状を渡す。
「え? お母さんから?」
どうやらお子さんらしい。
俺から紹介状を受け取ったポニーテールの少女はなんだか嬉しそうに手紙を読んでいた。
ナタリアさん結婚してたんだな。
まあ、気立てが良くて美人だもんな。
「少々お待ち下さい。お爺ちゃん!」
ポニーテールの少女は頭を下げると店の奥へと入って行った。
しばらくすると、店の奥からりっぱな白髭を蓄えたドワーフのようながっしりとした体格の老人が出て来る。
「手紙は読ませてもらった。お前が達也か?」
そうですと頷くと、う~んと唸った後にジロジロとこちらを見てくる。
「まあ、いいだろう。わしはゼンじゃ、達也は手紙の内容は聞いているか?」
「こちらで、薬草を直接買い取ってもらうようにと言われました」
「うむ、薬師の手伝いとして、住み込みで雇用して欲しいと書かれているのじゃが」
ナタリアさんの手紙の内容に驚く。
そこまで頼んでくれるとは思ってもみなかった。
ナタリアさんありがとう。
「ここで働く気はあるのか?」
「お願いします」
願ってもない申し出に、一も二もなく返事をした。
その後はお互いに自己紹介をする。
ポニーテールの少女はミュルリと言う名前らしく『じゃあ、達也お兄ちゃんだね』と快活な笑顔で歓迎してくれた。
ゼンという老人の方は、娘のお願いだから仕方ないという感じだったが『今からわしのことは親方と呼べ』と職人気質なのか、やるからには本気でやるからなとギラリとした瞳を向けていた。
こうして、俺の薬師への道が始まったのである……
いや、違うから少しの間だけだし、冒険者として魔物とも戦うからね。




