10話 薬草採集をせよ
朝になったのでギルドへ直行すると、受付にいたナタリアさんに話しかける。
「こんにちは」
「達也さん! 昨日はどうして橋の下なんかで寝ていたのですか? ロドリゲスさんに買取はしてもらえなかったのですか?」
昨日のお礼を言おうとするも、ナタリアさんに詰問するような声で遮られてしまった。
いきなりの詰問に何事かと戸惑ってしまう。
「ちょっと落ち着いて下さい。事情を詳しく話してくれませんか?」
「それは……」
ナタリアさんの話しを聞くと、同僚のエミリーさんと言う人が橋の下で寝ていた俺を見かけたと言うことだった。
慌てて誤解であるとナタリアさんに伝えて、武器屋の親父はしっかりとおまけして買い取ってくれたことを話す。
ちなみに、ロドリゲスさんとは武器屋の親父の名前だ。
そして、宿代の確認を怠って先に必需品の購入をしてしまった所まで話すと、俺を見るナタリアさんの表情がとても険しいものになっていた。
ナタリアさんが真剣な顔をして無言で紙に何かを書き始める。
書いた紙を封筒に入れると俺に渡してきた。
「本当はだめなのですが、採取した薬草を直接薬屋へと持って行って買い取りをしてもらって下さい。紹介状を書いておきました」
おお、それは!
うん、大変ありがたいことなのだが……
そういうことを受付で言ってはいけないんじゃないかと、冷や冷やしながら他のギルド員の様子を窺ってみる。
すると先程からあきらかに聞き耳を立ててこちらをちらちら見ていた、おそらくは件のエミリーさんらしき女性が慌てたように耳を手で塞いで、聞こえない、聞こえない、とわざとらしく首を振り振りしていた。
ここのギルド員はいい人ばかりのようだ。
そして、ナタリアさんが天然だということもわかった。
これからは注意しておこう。
他に出来そうなのはバイトくらいで、それでは宿代にもならないからありがたく厚意に甘えることにする。
ナタリアさんに何度目になるかわからないお礼を言うと、薬草を採取する前に武器屋へと向かった。
ロングソードを受け取らないといけないし、早めに武器屋の親父に謝っとかないとね。
武器屋に入ると、早速親父が俺に文句を言ってきた。
「お前なあ? 宿代は充分あっただろう? ナタリアちゃんに怒られちまったじゃねえかよ」
事情を説明して親父に謝罪する。
「ったく……しょうがねえ餓鬼んちょだな。お前は達也だったか? なら、お前は達坊だ! 達坊でいいな?」
そして親父は『だははは』と豪快な笑い声を上げて許してくれた。
すまねえ親父、恩を仇で返しちまった。
「親父、俺に何かできる事はないか?」
申し訳なさから、少しでも償いができないかと親父に尋ねる。
「うーん、そこまで言うなら……そうだな、殺人兎を仕留めることがあったら腕の部分を売りにきてくれ」
ぽりぽりと頭を搔いて親父が答える。
何でも殺人兎の腕の部分が鉄で出来ているらしくて、鉄鉱石から鉄を精錬した物より純度も高く良い鉄なんだそうだ。
そして、その殺人兎は洞穴の洞窟と言う小さなダンジョンに出現するらしく、この辺の冒険者のルーキーが最初に行く場所なんだとついでに教えてくれた。
これはちょうどいい。
もっとも、殺人兎はレベルが10で洞窟の2階層にいるらしいので、もう少し先の話になりそうなんだが。
ピカピカになったロングソードを親父から受け取る。
渡したのは昨日の夕方だったのに今日には仕上がっているとは仕事が早い。
「親父、ありがとうよ。これから洞穴の洞窟へ行ってみるよ」
「馬鹿やろう! お前は怪我が回復してないだろうが。ソーン(傷薬)で怪我を治してからだろ? それに、せめて鎧くらいは防具を揃えてからにしろ」
親父に怒られてしまった。
鎧は欲しいけど買えないんだよな。
それに、いざとなれば俺には銃があるんだよ。
それより、怪我を回復してから?
何を言っているんだ?
ステータス画面でHPを確認するとHPが7しかなかった。
俺のHPが全快していない。
迂闊だった。
寝ればHPが全快するわけじゃないのね。
それとも宿で寝なかったからか?
いやいや、違うだろ。
普通に考えて、これだけの怪我が1日寝たら治るなんてない。
HPなんて健康状態がわかるから、ついRPGゲームと混同してしまった。
ゲームの様だけど、これはゲームじゃないんだよ。
たぶん、怪我があるとその分は最大HPが下がるんだろう。
そして、怪我を治さないとHPはそれ以上回復しないという認識でいいはずだ。
「わかった。怪我が治ってからにするよ」
「ああ、そうしろ」
親父にお礼を言うと武器屋を後にした。




